個性:奇跡を起こす程度の能力   作:弱小妖怪

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委員長投票

 私の朝は早い。

 太陽が朝を告げるより先に起床し、巫女服に着替える。

 

 山に位置していることもあって、人工の光が届かない外は酷く暗くて、ただ鳥や獣の声が闇の奥から聞こえるばかり。

 寝ぼけ眼を擦りながら境内に出て、物置から竹箒を取り出す。

 

「うぅ、寒い寒い」

 

 暦は四月の初旬。とうに春も到来し、あちらこちらで桜も芽吹いているけれど、まだまだ長い夜に冷やされた空気ばかりはどうにもならない。

 夏の到来を待ち遠しく思いながらも、秋の落葉や冬の積雪に比べれば断然マシだと割り切って境内の掃除に取り掛かる。

 

 とは言えど、ここはただの分社。面積もそう広いものではないから、今の時期であれば半刻も要さない。

 

 それが終われば御神前に向かい、朝のご挨拶をし、昨日の夜にスーパーで安く売っていたホタルイカを奉納する。本来はもっと良いものをすすめるべきなのだろうが、遥か昔に何を捧げればよいのでしょうかと問うてみたら「酒や銘菓も有難いけど、海産物か現代ならではのものだと嬉しいね。ああ、勿論負担のない範囲でね。無理はするなよ?」とお告げがくだされたのだ。

 だから後半部分を無視して捧げものに精を出していたら叱られてしまったから、以降は庶民的なものばかりを奉納するようになった。

 

 ちなみに神様はコンビニスイーツもお気に召しているらしい。

 

 

 挨拶も終われば、風祝としての仕事はひと段落だ。

 代わりに、学校の支度がやってくる。

 

 まずは制服への着替えからだ。態々巫女服を挟んでいるのは二度手間かもしれないけれど、外せない拘りである。

 

 次に朝餉と弁当の準備。

 まずはお米を洗って炊飯器にセットする。

 

 炊けるまでの間は暇だから、余暇を埋めるのに丁度いい程度に残しておいた宿題に取り組む。

 二十分くらいが経過したら、朝食作りの続きだ。

 

 冷蔵庫で保管しておいた合わせ出汁と豆腐でぱぱっと味噌汁を作り、栄養を偏らせないためのささやかな抵抗として甘めのだし巻き卵を焼いておく。

 米が炊き終わったら漬物や昨日の夕飯の焼き魚の残りを再加熱したものを具におむすびをせっせと握り、竹皮で包んで紐で括る。

 

 神様直伝の弁当の作り方だ。

 

「いただきます」

 

 残りは朝食として私の胃袋行きである。

 ここまで来たら、朝の支度の大半は終わっている。

 

 歯を磨いたり鞄に必要なものを詰め込んだり、そういった諸々の雑多な準備をし。

 

「いってきます」

 

 木々の間から曙光が差し込む中、家を出る。

 山の麓までは飛んで移動し、そこから駅までは自転車のお仕事だ。

 

 少々距離が離れているからバスに頼りたいところだが、悲しきかな、始発まで待っていると一限に間に合わなくなってしまう。

 本音を言うと駅どころか学校まで飛んでいきたいけれど、これも残念なことに違法だ。取り締まりも緩いものではあるけれど、もしかすると守矢の神様方の名まで穢すことになりかねないから免許を取得するまで辛抱強く我慢するのが吉だろう。

 

 時折参拝しに来てくれる、朝早くから活動している人たちとすれ違いざまに挨拶を交わしつつ自転車をぎこぎこ漕ぎ──

 

 

 

──それから云々かんぬんありつつも、八時を幾分か過ぎた頃に雄英高校の校舎が見えてきた。見えてきたのだが……

 

「うへえ」

 

 つい、辟易とした声が漏れてしまった。

 入学から三日。波乱万丈には及ばずとも、毎日並々ではない出来事に遭遇していると嫌気も差してくるというもの。たまには何にもない平坦な日が訪れて欲しい。

 

 何故か、途轍もない人数のマスコミが校門の前に屯しているのだ。

 いや、理由は分かる。現代史にも名を刻み、未来永劫語り継がれるだろうトップヒーローが突然教職についたのだ。

 

 どんな角度から見ても、文屋が出張る理由としては余りある。

 

 それでも、撮影器具とマイクを構えた人間の群れが道を塞ぎ、通りがかる生徒全員に突っ込んでいく様は圧が凄まじい。

 田舎者としては、皆よく足を踏み入れることができるものだと感心するが……ここで立往生していても仕方がない。

 

 聞かれたら何と答えようかと想像を膨らませながら歩を進めた。

 

「教師としてのオールマイトについてどう思っています?」

 

「ごめんなさい! まだ良い感じのネタは思い浮かんでないんです!」

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

「あれ、大喜利っぽくないですか? 何故か大喜利するイメージがあるんです……」

「そうなんよ! 何かおもろいこと言わなあかんって気になって、私も筋骨隆々!! って答えてしまって……。なんやろ筋骨隆々って」

「いえ、私よりはマシでしょう……」

「「はあ……」

 

 途中でお茶子さんに遭遇したから、そんなこんな駄弁りながら教室に向かい──やがって始まったHRで、開口一番、相澤先生は重々しく口を開いた。

 

「急で悪いが今日は君らに……学級委員長を決めてもらう」

「「「学校っぽいの来た───!!!」

 

 なるほど、委員長。ただの委員長。

 緊張して損したと思いながらも肩の力を抜こうとしたら、皆して一斉に主張を始めるものだから、また方向性の違う困惑が襲い掛かってきた。

 

 え? いや、もしかして私の委員長の認識がおかしいの?

 

 人を率いることに一切興味のなさそうな勝巳さんや、内気そうな人たちも鼻息荒く手を突き出している。葡萄は馬鹿げたマニフェストまで掲げているし、本当に私の認識がおかしいのであって、ヒーロー科という場所では特別な意味や価値が付加されているのかもしれない。

 

「静粛にしたまえ!!」

 

 と、そんな混沌とした状況下で、ひと際大きな声が教室に木霊した。

 発信源は丁度隣の席の天哉さん。

 

「多を牽引する責任重大な仕事だぞ……! 「やりたい者」がやれるモノではないだろう!! 周囲からの信頼があってこそ務まる聖務……! 民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!!」

 

「そびえ立ってんじゃねーか!! 何故発案した!!!」

 

 飾り立てる言葉こそ仰々しいものの、内容は実に道理に適ったものだ。

 中学校では立候補者が少なかったから手を挙げた人がストレートで任命されていたけれども、これと似たような場面では多数決がじゃんけん大会を開催していた記憶がある。

 

 日も浅いから信頼もクソもないとか多少のツッコミも入るけれど、時間内に決まるなら何でもいいと先生からの承認も降りた。

 

 結果、自選ありでの投票が行われ──。

 

「僕三票───!!!?」

 

 出久さん三票、百さん二票、あとは私とお茶子さん、焦凍さん以外が一票という形で幕を閉じた。

 個人的には天哉くんが相応しいと思ったけれど、自選しなかったようね。折角の眼鏡なのに。

 

「一票……わかってはいた!! さすがに聖職といったところか……!! 入れてくれた誰か……申し訳ない!!」

 

「おまえもやりたがってたのに……何がしたいんだ飯田……」

 

「生真面目ですねえ」

 

 こうして委員長は出久さん、副委員長は百さんに決定し──迎えた昼。

 

 

 

「早苗ちゃん! お昼一緒に食べよーっ」

 

 透さんから食事の誘いを頂戴した。

 当然頷いて、鞄から弁当を取り出す。

 

「おお! 竹皮だ!」

 

「ふふふ。自作です!」

 

「すげー!」

 

「どやあ」

 

 頭空っぽな会話な気がしないでもないが、気分がいい。

 実際にやってみたら簡単なことだし、管理もそう難しくないけれど、褒められたら嬉しいものだ。

 

「んー、でも。私も購買に寄らないといけないみたい」

 

「およ? 食堂派でしたか。それなら私に合わせなくてもいいですよ」

 

「ううん。今日は早苗ちゃんと食べるって決めたから!」

 

「またもや嬉しいことを言ってくれますね! では、お礼におむすびを進呈しましょう。おすすめは今が旬の葉わさびを刻んで醤油に漬け込んだものを混ぜ込んだこれです! しゃきしゃきした食感とつーんとした辛さが癖になる一品です!」

 

「これは葉っぱごと食べるの?」

 

「ええ、はい。ぱくりと」

 

「それじゃあ、いただきます。……お? おお!? 美味しいこれ! めっちゃうまい! 好きなおにぎりの具材ランキングが更新されそう……っ!」

 

「そうでしょうそうでしょう美味しいでしょう! 他のも食べます? これは桜の葉の塩漬けを混ぜたものでー、そちらは筍、これは野蒜味噌、それは鰆……今なら友達割引で全品百パーセントオフです!」

 

「太っ腹だ!?」

 

 顔は見えないけれど、反応が良いからいっぱい食べて欲しくなる。豊作祈願のお礼を理由に近所のお婆ちゃんお爺ちゃんがお野菜を持ってきてくれるのも、同じような気持ちが故だったのだろうか。

 いや、違うか。

 

 そうして餌付けをしていると、和やかな空気を切り裂くように、けたたましいサイレンが鳴り響いた。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外に避難してください』

 

「え? なになに? セキュリティ3?」

「3だとたしか……誰かが侵入したんですかね」

 

 食堂に出払っているせいで殆ど人のいない教室内にも騒然とした空気が広がるが、だからとて積極的に動こうとする人はいない。

 未だに雄英高校に入学してから三日だ。避難訓練も受けておらず、この広すぎる校舎のどこに逃げればいいのかも判然としない。

 

 一概に屋外と言われても、避難先として目星をつけれる場所もなかった。

 

 当然、この警報の原因も不明なままだ。にも関わらず無暗に行動を起こすのは、むしろ危険を招くリスクさえも孕んでいる。下手に動くよりも教室で待機している方が安全だろう、多分。

 

 何か情報を得られないものかと窓の外を覗いてみたら、明確な原因が眼下を蠢いていた。

 

「なんだ原因はただのマスコミか。オールマイトも罪深いわねー」

 

 不法侵入はれっきとした犯罪行為だ。それをヒーローの総本山たる雄英高校にやらかすなんて、とても真面じゃないだろう。

 月は時に狂気の象徴として描かれるけれど、その大元は太陽。オールマイトは平和の父として、あんまりにも偉大過ぎるようだ。

 

「それじゃあ透さん。続きを食べましょうか?」

 

「え? あ、うん。そうだね!」

 

 結局、警察がすぐに到着してマスコミは撤退していった。

 それからは特に何事もなく、HRで天哉さんが食堂での騒動を治めるのに一役買ったとかで出久さんから委員長の座を譲られて、三日目も終わった。

 

 あっ、私の人を見る目も保証されたようだ。むふー。

 




東風谷さん家にテレビはない。
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