個性:奇跡を起こす程度の能力   作:弱小妖怪

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一章:祀られる風の人間の話
私たちの戦いはこれからだ! な話


 夕方頃に帰還してから一日空けてしまった分の風祝としての仕事をし、去年よりも多忙なせいで進捗が芳しくない春祭りの準備にも取り組んだ翌日。

 

 寝坊し、黎明に起きてしまった私は遅刻ギリギリで教室に飛び込んだ。ぎりぎりセーフ。

 すると、私を見た男子たちが口々に「元気そうで良かった」とか、「USJじゃかっこよかったぞ」とか声を掛けてくれた。女子に話を聞いた限り、彼等も心配してくれていたようだが病院の邪魔になることを慮って面会を控えたらしい。

 

 そうやって言葉を頂けるのはありがたいことだが、果たして彼等には見えているのだろうか。汗だくで息を切らしてる私の姿が。

 

「ありがと、ございます……っ。ただ、今は……ちょっと、待ってくれると……」

 

 駅から全力疾走してきたから、真面に話す体力も残っていない。

 なんとか席に着くと、背凭れに体を預けて大きく深呼吸を繰り返した。

 

 教室の涼しさが体に効く……。

 

 さして間を置かずチャイムも鳴り響き、ゆっくりと教室の扉が開いた。

 

「お早う」

 

「「「相澤先生復帰早えええ!!!」」」

 

 教室に入ってきたのは両腕にギプスをつけて首に吊り下げた上に顔まで包帯でぐるぐる巻きになっている、まるでミイラのような様相の相澤先生だった。

 教卓までよろよろふらふらと歩んでいく姿は危なっかしくて堪らない。

 

「先生、無事だったのですね!!」

 

「無事言うんかなぁ、アレ……」

 

 天哉さんが右腕を真っ直ぐ挙げながら反応しているけれど、お茶子さんの言う通り、あれは無事ではないと思う。

 

「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ」

 

 はて? と首を傾げる。

 逃げたヴィラン二人から何らかの行動があったのかと思ったが、そんな様子ではないし。

 私は迫り来る春祭りと絶賛格闘中だが、それを示しているわけもあるまいし。

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

 

「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」

 

 はあ、なる程。ただの体育祭ね。

 戦いだなんて大袈裟な言い回しをするものだと思ったけれど、どうしてか周囲の熱が高まっているのを感じる。

 

 続く言葉も奇妙だ。

 

 雄英の体育祭は最大のチャンスだとか、ヴィランごときで中止していい催しじゃないとか、警備を五倍に強化してでも開催するとか。

 

「あの、雄英体育祭って普通の体育祭とは違うんですか?」

 

「なっ……!」

 

 あんまりにも不思議なものだから隣の席の天哉さんに問い掛け──呆けたように開いた口を見て失敗したことに気付いた。

 天哉さんはこのクラスの委員長であり、聖職と表現する程にその役割を重んじている。先生が話している途中に会話をしようとすることに、彼は一体何を考えるだろうか。

 

 だから小言が飛んでくるかもしれないと身構え。

 

「嘘だろう!? 君は雄英体育祭を見たことないのか!?」

 

「え? いや、え?」

 

 先生の話を掻き消し、教室中に木霊するような絶叫が目の前からあがったことに、目を白黒させた。

 同時に、天哉さんがらしくない奇行をしたにも関わらず誰もリアクションをせず、静まり返ってしまった教室に困惑を抱く。

 

 見渡せば、無数の瞳が私に向けられている。しかも、それらの視線はUMAかツチノコか地中人でも見るような色を帯びていて。

 

「怖いですホラーです何事ですか!?」

 

 耐えきれず叫んでしまったけれど、私は絶対に悪くないと思う。

 

「東風谷ちゃん、本当に知らんの……?」

 

 そう問い掛けてきたのは、右斜め後ろの席のお茶子さん。

 

「な、名前くらいは聞いたことありますけど、一般的な体育祭では……あっはい、ないのね。これ、常識な感じですか……?」

 

「むしろ、知らずに生きる方が難しいだろう。それこそ、社会から隔──」

 

「……説明中だ」

 

「はっ。申し訳ありません!」

 

「ひえっ。すみません……」

 

 天哉さんが何か言いかけたところで、相澤先生が低く一言だけ呟いた。包帯の間から覗く眼光は常に増して鋭く、鬼のように恐ろしい。

 僅かに騒めきは残りつつも、落ち着きを取り戻した教室で相澤先生は説明を再開した。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「タスクが大量に発生して死にそうです……、過労死する……」

 

 四限目が終了すると同時に、私は顔面から机に突っ伏した。

 

「日の出より早くに起きて境内の清掃をして御神前にお供え物して朝食と弁当を作って軽く家事もして二、三時間くらいかけて登校して授業を受けて神社に帰ったら七時でそれから夕食を作って神社の御仕事をして春祭りの準備に奔走して体育祭のための訓練もして宿題もして……いつ寝れるの……? 電車の中……? 無理……死ぬ、うぼあ……」

 

「わー! 早苗ちゃん! 気をしっかり持って!」

 

 駆け寄ってきた透さんに体をがくがくと揺さぶられるが、私はもう限界無理無理なのです。

 

「ああ、そうです……透さん、近い内にサポート科に行きましょう……」

 

「こわい! 目が完全に死んでるって! 死んだ魚みたいになってるよ!」

 

「うるさい裸コスチューム」

 

「手袋とブーツ!」

 

 普段着と全裸、どちらもコスチュームとしては問題おおありだから危険を遠ざけるためにも相談に行かなければならないのよ。防御力の低さが仇になって貴方に死なれたら嫌なんです。

 

 一瞬だけ上げた頭が、また重力に引かれて落ちる。

 額が天板にぶつかって痛みを発するけれど、そんなのはどうでもいい。

 

「はぁ…………」

 

 

 一週間後の春祭りは絶対に外せない行事だ。

 けれど、二週間後の体育祭だって同じくらい重要なイベントだった。

 

 日本中が熱狂し、注目を集めるのが雄英体育祭。

 テレビもこの時期になるとそれ一色になり、雑談の話題も総て搔っ攫うらしい。

 

 間違いなく大勢の人間に見られ、記録も残されることになる。であれば、私は守矢神社の風祝として相応しい結果を残さなければならない。

 まあ一位は確定しているようなものだけれど、「守矢神社? 無名の神社なんてそんなもんか」とか、「やっば~ご利益なさそ~」とか、「巫女があれなら神様もたかが知れてんな」とか、そんなことは万が一にも言わせてはならない。むしろ私を見て神様方への信仰に目覚めるくらいの活躍をせねば……!

 

 そのために一昨日の戦闘で発覚した弱点を是正したいのに、猶予はたったの二週間で、費やせる時間に至ってはどれだけあるのだろう……? 無理だ……死ぬ……また不登校する……? でも高校は楽しいし、留年も嫌だ……。

 

「んー。そっか、分かったよ早苗ちゃん。ついに約束を果たす時が来たんだね」

 

「約束、ですか……?」

 

「うん。私()準備も手伝うって言ったからね。ずばり、お泊り会だよ!」

 

「お、お泊り会!? いや提案は素敵ですけれど、私の家は遠いですし……あっ、だからお泊り会……いやでも、流石にハードルが高過ぎると言いますか……そもそも真面に時間を確保できる日もないような……」

 

 そうやって悩んでいたら、急に突飛なことを言い出した透さんに吃驚する。

 いやお泊り会に憧れはあったから吝かでもないし、月曜日から土曜日までみっしり授業が詰まっている中で準備を手伝おうとするならお泊り会が現実的な案になるのも分かるけれど、流石にこれは……

 

「次の日曜日と、その前後ならいける!」

 

「次の日曜日……って今日明日明後日じゃないですか! 透さんの家もかなり遠かったですよね? 用意してたら深夜になりますよ!」

 

「ちっちっち。直行だよ! 意外となるようになるから!」

 

「お、おにょい…………。そこまでいうなら、はい……分かりました」

 

「やったー!」

 

「でも! 泣き言とかは言わないでくださいね!」

 

 意地を張るようにもごもごと言葉を吐き出すけれど、透明な体は小言を素通りさせてしまうのだろうか、透さんは機嫌良さげに弁当箱を取りに自分の机に戻ってしまった。

 なんだか適当に丸め込まれてしまった気がしないでもないけれど、まあ約束を果たすためだもの。仕方がない。針千本飲ますような手荒な真似はしたくないしね。

 とりあえず、放課後を待ち遠しく思いながら私も鞄から弁当を取り出した。

 

 

 

 

 

 そして訪れた放課後。

 A組の教室の前は人ごみで溢れ返っていた。

 

 扉の前で屯しているせいで、ただ下校するにも難儀しそうだ。

 

「出れねーじゃん! 何しに来たんだよ」

 

「敵情視察だろ、ザコ。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ときてえんだろ」

 

 実さんの不満がありありと混じった疑問に、普段通り口癖の悪い勝巳さんが端的に答える。彼は我が道を行くところはあるものの、しっかり説明してくれるところに優しさが垣間見える。

 

 口は悪いけども。本当に悪いけども。

 

 そうこうしている内に普通科の人が大胆不敵に宣戦布告をし、B組の人まで騒動に介入し出した。けれども彼等を煽った勝巳さんは「上に上がりゃ関係ねえ」とストイックな言葉を残し、人の壁を押し退けて帰ってしまった。

 

「はえー、皆張り切ってますねー」

 

「当然ですわ。ヒーローとしての将来にも関わってくるんですもの」

 

「やっぱ目指すは一位ってね、東風谷もそうでしょ」

 

「ええ、はい。何としてでも勝ち抜くつもりです」

 

 私も彼等と同じように全力で一位を獲るつもりでいる。

 ただ、どこかもやもやとする部分が湧いてくるのだ。普通科の人も、B組の人も、クラスメイトも、皆ヒーローになる未来を見据えて体育祭に挑もうとしている。

 けれど、いつだって私の根底にあるのは神奈子様と諏訪子様に対する信仰心だ。ヒーローに実利は見ているが、憧れとかは一切ない。皆無も皆無な空っぽだ。

 

 それが悪いとは微塵も思わないし、恥じろとか言われたら逆に説教を飛ばすくらいの気概でいる。

 体育祭も守矢神社の風祝として手加減も手心も加えず、優雅かつ華麗に圧倒して勝利するつもりでいる。

 

 ただ、それはそれとして何だか微妙にもやもやするのである。

 




早苗さんはこの日の休み時間に相澤先生からお礼の言葉を貰った。
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