希望に潜む死神達   作:マロニエ19号

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少し短めです。


詫び

「おい。テメェが日向創だな? ちょいとツラ貸せや」

 

ある日、創はとある人物に声を掛けられた。小柄で童顔だが、かなりの威圧感がある。その場にいた予備学科生達のヒソヒソ声が聞こえてきた。

 

「おい、あれ……九頭龍冬彦だ。怖……」

「あの人、『超高校級の極道』でしょ? あいつ、一体彼に何したのよ?」

「妹絡みじゃないか? ほら、前に退学になったろ?」

「それでお礼参りってか? うわぁ……」

 

ギロリと九頭龍が周囲を睨み付けると、その場にいた予備学科生達は顔を青くさせて、そそくさとその場を離れていく。それから舌打ちを一つすると、九頭龍は改めて創に声を掛ける。

 

「……チッ。まぁ、良い。おら、黙って付いてこい」

 

仕方がないので、創は付いて行くことにした。このまま逃げても逃げ切れない何かが感じられたからだ。通された部屋は、会議室の一室だった。九頭龍は音を立てて適当な椅子に腰掛けると、創にも座るよう促す。創も椅子に腰掛けたのを確認すると、九頭龍は口を開いた。

 

「自己紹介が遅れたな。俺は九頭龍冬彦、『超高校級の極道』と呼ばれてる」

「えっと、俺は……」

「日向創。予備学科一年B組。出席番号は34番。……だろ?」

「あ、ああ」

 

創は顔を引き攣らせながら、返事を返した。創の様子を見て、九頭龍は苦笑い気味に言った。

 

「別にさっきの奴らが言ってたような、お礼参りとかするつもりはさらさらねえよ。ビビらなくて良い。ちょいと妹のことで迷惑を掛けちまったみてえだから、詫びを入れようと思っただけだ」

「……詫び?」

 

どうやら、命の危険は無さそうだとホッと安堵の息を零す。九頭龍はスッと頭を下げた。

 

「……菜摘がすまなかった。あいつ結構無茶苦茶だからな。迷惑を掛けた」

「いや、俺は大丈夫だけど、どちらかというと俺より……」

「もちろん、小泉の奴にも詫びは入れてある。それから佐藤って奴にもな。お前だけ中々捕まらなくて詫びが遅れちまった。すまねえな」

 

既に他の人には謝罪済みだったようだ。九頭龍は決まり悪そうに頬を掻く。創はポツリと零した。

 

「妹さん、随分本科に執着してたからな」

「ああ。あいつはどうしても本科に入りたいがために、小泉に色々嫌がらせをしてたみたいでな。俺も目を光らせていたつもりだったんだが……気付けなかった。極道である以上、目的のためなら手段を選ばないこともあるが、それでも限度ってものがある……」

 

そう呟く九頭龍はどこか気落ちしているようだった。兄の目から見ても、妹がやった小泉への嫌がらせは相当悪質だったのだろう。一応、彼女は悪霊に憑かれていたという事情があるが、それを言っても信じては貰えまい。なので、妹がどういう思いを抱いていたのかを話すことにした。

 

「そういえば、妹さんが言ってたっけ。『兄の隣に並び立つ存在になりたい』って」

「ああ。俺も菜摘から聞いた。馬鹿な奴だ。んなことしなくても、あいつはあいつだってのによぉ」

 

 

それから創は九頭龍としばらく雑談した。そして、気が付いたら一時間くらい経っていたので、そろそろお暇させてもらうことにした。

 

「なぁ、そろそろ……」

「ん? ああ、もうこんな時間か。悪かったな、長話に付き合わせちまって」

「いや、俺も面白かったよ。極道の世界とか全然関わりがないから新鮮だったし」

「へぇ、そうかい。ああ、会議室は俺が片付けておく。お前はさっさと帰りな」

「え? でも……」

「良いって。俺が誘ったんだから。おら、とっとと行け」

「あ、ああ。それじゃあな」

「おう」

 

創は九頭龍の見送りのもと、会議室から出て行った。会議室の中で、一人残った九頭龍はふぅと息を吐くと、一言呟いた。

 

「……ペコ」

 

会議室の備品倉庫の扉が開き、一人の女子生徒が姿を現した。グレーの髪を三つ編みで束ね、背中には竹刀袋を背負っている背の高い女子生徒だ。

 

彼女の名は辺古山ペコ。『超高校級の剣道家』の肩書きを持つ彼女は、九頭龍のクラスメイトであり、彼の実家の九頭龍組に所属するヒットマンでもある。組の跡取りである九頭龍の護衛役も担っている彼女は、ずっと会議室内の備品倉庫に隠れて見張っていたのだ。九頭龍は肩を竦めて言った。

 

「ペコ。お前の目から見て、日向創はどう映った?」

「……少なくとも、裏社会の人間……という訳ではないかと」

「だよな。三か月も捕まらなかったから少し警戒していたんだが、杞憂だったか」

 

正直、九頭龍は創のことを警戒していた。あの事件以降、九頭龍は創と何度か接触を図ろうとしたのだが、全く捕まらなかったからだ。

 

本科と予備学科とではカリキュラムなどが異なるとはいえ、学園を欠席している訳ではない創と全く接触出来ずにいたことに九頭龍は内心驚き、同時に警戒していた。気が付くと勝手に姿が消えていたという辺古山の証言から、彼が堅気ではない可能性も考慮していたのだが、実際に会って話してみたところ、普通の高校生だったことが分かり安堵したのだ。

 

「それにしても……随分長く話をされていましたね」

 

会議室に備え付けられている時計を眺めながら、辺古山は言った。

 

「まあな。あいつ、なかなか聞き上手でよ。ついつい話し込んじまった。最初はどこか俺にビビってる感じだったが、最後らへんは普通に話してたし。胆力があるのか図太ぇのか……ああいうコミュニケーション能力の高さもある種の才能だと思うんだがなぁ」

 

九頭龍と辺古山がそんなことを話しているとは知らずに、創は浄霊作業に明け暮れていた。

 

 

「すまないねぇ、あたしゃそろそろ帰らないといけないからさ」

「だったら俺が案内しますよ。一人じゃ大変でしょう。道中、家族のこととか色々聞かせてください」

「おや、嬉しいねぇ。それじゃあお願いしようか。実を言うと、ちょっと不安だったんだ。ありがとうよ」

「いえいえ、お気になさらずに」

「それじゃあ行こうかね」

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