希望に潜む死神達   作:マロニエ19号

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鎌の買い替え

「こいつぁ酷えな。はっきり言って、ここまでいくと修理は無理や。大人しく買い換えた方が良え」

「やっぱりそうですか……」

 

創はモノクマに壊された鎌の修理のため、いつも利用している鎌打ちの店、三日月堂を訪れていた。創の目の前で鎌を弄る人物には、凄まじい威圧感があった。筋骨隆々な体格に鋭い眼光。だが、頭のてっぺんにあるウサ耳がピコピコ動く様はどこか愛嬌が感じられた。

 

この三日月堂は、三代にも渡って続いている鎌打ちの老舗で、鎌職人・三日月斎の打ち上げた鎌は評判が良く、創以外にも固定客が多い。三日月斎は、壊された創の鎌を確認し、完全に壊れていることを告げる。創も肩を落としつつも、動揺はない。ある程度予想できていたからだ。

 

一応お金は持ってきているので、今ある手持ちで買える鎌がないか尋ねると、三日月斎は工房に向かって鎌を幾つか見繕うよう指示を飛ばした。

 

しばらくすると、工房から黒ウサギの少年が鎌を何本か運んできた。

 

「親父、頼まれた鎌持ってきたで」

「おう、ご苦労さん」

 

黒ウサギの少年は、壊れた創の鎌をジロジロ見てフッと鼻で笑った。

 

「随分派手に壊されたな。身の丈に合わん相手と戦ったんか。そんなアホに付き合わされる鎌が哀れやな」

 

カチンとくる言い方だが、事実なだけに言い返し辛かった。そんな黒ウサギの頭を三日月斎がボカッと小突いた。

 

「いてっ、何すんじゃ!? ホントのことやんか!」

「このボケが! お客さんになんて口利くんや! それに相手の事情も考えんと知った風な口を叩くなボケカス!」

「うぐっ……す、すんませんでした……」

 

三日月斎がそう一喝すると、黒ウサギは渋々といった様子で創に頭を下げる。そんな黒ウサギを見た三日月斎は大きな溜息を零した。

 

「まったく……来年の春からワシは輪廻の輪に乗るってのに、大丈夫なんか……」

「え? 親父さん、引退するの?」

 

それを聞いた創が驚きの声を上げた。輪廻の輪に乗るということは、引退して次の命に生まれ変わるということだからだ。

 

「ああ、もう年やしな。そんで、これからはこの零不兎が後を継ぐことになるんやが……」

「えぇ……」

 

創は何とも言えない顔をした。少し話しただけだが、この黒ウサギこと零不兎は、愛想が悪い上に非常に口が悪い。後を継いだら、すぐに客とトラブルを起こすのが目に見えていた。

 

「一応、こいつの姉の来兎もおるから、大丈夫やと思うけど、少し心配でな。ああ、腕に関しては問題ない。そこは三代目・三日月斎たるワシが保証する。だからワシが引退した後も、どうぞ三日月堂を御贔屓に」

 

そう言って、三日月斎は頭を下げた。隣の零不兎も同様に頭を下げる。流石にそこまでされては創も断れなかった。

 

「……わ、分かった。じゃあ、一回様子を見させてもらいます」

「ああ、それで構へん」

 

最初の一回で駄目だったら、店を変えるという意味で言ったのだが、三日月斎もそれを理解しており、それで構わないと頷いた。死神にとって、鎌は命にあたるものだ。だからこそ、鎌職人に失敗は許されない。失敗すればたちまち信用を失ってしまう。職人というのはそういうものである。最初の一回チャンスがあるだけ十分温情がある方なのだ。

 

創はいくつか鎌を試し振りしてみて、ようやくしっくりくる鎌を見つけた。赤みがかった怪鳥の骨をあしらった武骨なデザインだが、使い勝手の良い鎌だ。何度か振り回してみて、創は満足そうに頷いた。

 

「うん、よし決めた。この鎌にするよ」

「おおきに、ありがとさん」

 

創はお金を払って鎌を購入すると、三日月斎達にお礼を言って店を後にする。

 

「それにしても、親父さんが引退かぁ……」

 

見知った人物がいなくなることに多少の寂しさを覚えるが、これもまた仕方のないことだ。どんなものでもいつかは別れがあるものだ。

 

「親父さんが転生する前にもう一度顔を出しに行こうかな」

 

創はそう呟いて、春前にもう一度、三日月堂に訪れることを決めるのだった。

 

後に、三日月斎の心配が的中するように、零不兎が跡を継いでからの三日月堂は寂れ、閑古鳥が鳴くことになる。そして、どうにかそれを打開しようと色々と騒動が起こることになるのだが、それはまた別の話である。

 

――――――――――

「いや~鎌が新しくなって、浄霊がスムーズになったな」

 

買い換えた鎌を使って、希望ヶ峰学園に潜む霊達の浄霊を進める創。今まで使っていた鎌と微妙に勝手が違う部分もあるが、主な性能は変わっていないので問題はない。むしろ、いつもよりスムーズに浄霊が出来るので助かっている。少し高くついたが、買い換えて正解だった。

 

「よし、今日の分はこれで良いだろう」

 

最後に悪霊化した霊を除霊すると、創はふぅと息を吐くと、下の方から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。視線を向けると、七海がこちらに手を振っているのが見えた。創は七海の側まで下りて、挨拶する。

 

「よーす、七海」

「やっほー。この後、暇? 一緒にゲームしよ」

「おう、良いぞ」

 

創は鎌をベンチに立てかけると、七海からゲーム機を受け取った。七海はベンチに立てかけられた鎌を見て首を傾げる。

 

「あれ? 日向君、鎌替えたの?」

「ん? ああ、前のやつが壊れてな。買い換えた方が早いってことで買い換えたんだ。ちょっと厄介なことがあって」

「……厄介?」

 

創は、休日にあったことを話した。モノクマが自分を狙ってきたことを考えれば、念のために話しておいた方が良いと判断したからだ。

 

襲われた当初は、モノクマが自分を襲ってきた理由に皆目見当もつかなかったが、おそらく希望ヶ峰学園浄霊計画に参加しているからではないかと創は当たりをつけていた。自分で言うのも悲しいが、創は死神としては普通寄りだ。それでもあんな異常者がわざわざ創を始末しに向かうとしたら、それしか理由がなかった。

 

だからこそ、七海にも注意しておくよう教えておくことにしたのだ。ゲーム機を弄りながら、七海は難しい顔を浮かべた。

 

「うーん……確かに厄介だね。途中まで中ボスばかりだったのに、いきなりラスボス出現なんて。ゲームなら負けイベ確定だよ」

「そう言われるとなんか緊張感が薄れるな……でも冗談抜きに堕魔死神モノクマは危険だ。正直俺達が生きて帰ってこれたのも運が良かったからだしな。七海も気をつけてくれ。いや、気をつけろって言われても、難しいのは分かってるけどさ」

 

そう言うと、創のゲームがゲームオーバーの画面に変わった。だが、レコード更新だ。一方の七海は、まだゲームオーバーになっておらず、創の倍以上の記録を獲得していた。それからしばらくして、七海は満足げな表情で「レコード更新」と小さく呟き、電源を切った。もちろんデータ保存も忘れない。そこでようやく七海は顔を上げた。

 

「分かった。私も一応気をつけるよ」

「ああ、頼むよ。それから、これがモノクマだ」

 

創はモノクマの手配書を見せる。七海はそれを見て、呟いた。

 

「なんかデスゲームのマスコットみたいだね」

「……あながち間違ってないな」

 

面白半分で命を弄ぶという意味では同じだろう。希望ヶ峰学園浄霊計画だけでなく、そんな悪辣な存在まで考えないといけないなんてと、創は内心溜息を吐いた。

 

この希望ヶ峰学園が改めて禍々しい魔境のように見えてきた。




境界のRINNEでも登場した三日月堂です。まだ先代が存命なので、普通に客は来ています。
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