希望に潜む死神達   作:マロニエ19号

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車の九十九神

「職員駐車場での怪奇現象?」

「うん、ソニアさん……クラスメイトが言ってたんだけどね……」

 

オカルトマニアなクラスメイトが言うには、希望ヶ峰学園敷地内にある職員駐車場で最近、おかしな現象が起きているらしい。具体的には、車に乗り込もうとすると突然体調不良になったり、ドラレコに変な影のようなものが写ったりするそうだ。そのせいで、教職員達も気味悪がって職員駐車場を使わなくなってしまったらしい。

 

七海から聞いた話に興味を持ったので、創は早速その駐車場に向かってみることにした。教職員達が使わなくなったというのは本当のようで、この時間帯であれば数台はあるはずの車がたった一台しか停まっていない。

 

「どうやら、あの車が原因みたいだな」

「みたいだね。何か嫌なオーラみたいなのがしてるもん」

「なるほどな。それなら……」

 

駐車場の端に停まっている車から何か負のオーラのようなものが漂っているのが見える。十中八九、車の九十九神だろう。九十九神というのは、長い年月をかけて物に宿って生まれた魂のようなもののことだ。九十九神なら話は早いと創はあるものを取り出した。顔の形をしたシールを見て、七海は尋ねた。

 

「それは?」

「九十九神シール。直接この車から理由を聞いた方が早いからな」

 

そう言って創は車のフロントガラス部分にシールを貼り付けた。すると、シールの目がカッと見開く。そして、滂沱の涙を流し始め、自棄になった様子で叫んだ。

 

『チクショー! もうおしまいだーー! オレはもうお払い箱かよ!? 二十年もやってきたのに、こんなのあんまりだ!』

 

どこか哀愁が漂う悲痛な叫びだった。七海が創に耳打ちする。

 

「……なんか、リストラされたサラリーマンみたいだね」

「ああ、それだ。どこか既視感があると思ったが……」

『確かにエンジンの掛かりも悪くなってたけどよぉ、それでもオレじゃないと運転するのが怖いって言ってたじゃねえかよ! なのにあっさりオレを捨てるのか!?』

 

引いている創と七海を余所に、クドクドと涙ながらに愚痴を零し続ける車。

 

長年使われるものが九十九神化することは稀にある。更に、霊が大量に集まる希望ヶ峰学園での霊力も影響して、九十九神化したのだろう。このまま放置していても良いことはない。

 

「この場合、さっさと車の怒りや悲しみを鎮めてやれば問題解決なんだけど……」

『うぉおおおおおおお! 誰か、オレを修理してくれぇぃ! オレがちゃんと動くって分かったら戻ってきてくれるはずなんだーー!!』

「あ、クラスメイトに『超高校級のメカニック』がいるけど」

『なんだとぉ!? マジか!? なんて幸運だ! じゃあ嬢ちゃん、早くそいつを連れて来て、オレを修理してくれ!』

「え!? あ、うん……」

 

車に押し切られるまま、七海はそのクラスメイトをここに連れて来ることになった。創としては、この車の持ち主を探し出して連れて来た方が手っ取り早いのではないかと思ったのだが、その持ち主を聞き出すのも相当な労力を使うことになりそうだったので黙った。それから待つこと数分。ツナギの様な学生服にピンク髪の男子を引きずりながら、七海が戻って来た。

 

「お願いだよ、左右田君。君の助けが必要なんだよ」

「やだやだやだ、絶対に嫌だ! ここってアレだろ!? 最近噂になってるオカルトスポットだろうが! そんなのにオレを巻き込むんじゃねえよ!」

 

左右田は半泣きで嫌がっていた。そんな左右田をスルーして七海が紹介する。

 

「えっと……日向君、彼は左右田和一君。『超高校級のメカニック』。多分、車の修理が出来ると思う」

「多分って……」

『おぉ! こいつがオレを修理してくれるのか!?』

 

興奮した様子で車が会話に入ってきた。創が車を止めようとするが、間に合わず……

 

「ぎにゃああああっ!? 喋ったあぁぁぁ!?」

 

ひとりでに喋り出した車を見て、左右田は絶叫した。

 

――――――――――

「な、なるほどな。それで、オレが呼ばれたと」

 

何とか左右田を落ち着かせて事情を説明すると、チラチラ車に視線を向けつつも頷いた。話を最後まで聞き、左右田はスゥッと息を吸うと、ドンと自分の胸を拳で叩いた。

 

「よし! そういうことだったら、協力するぜ! っと、その前にまず色々調べないといけねえな!」

 

怪奇現象への恐怖心もあったが、それ以上にメカニックとして故障の原因を調べたい欲求が高まっているようだった。そして何より……

 

七海から言われた、「怪奇現象の解決に携われば、ソニアさんと話すキッカケになると思うよ」の一言が大きかった。左右田はやる気満々で、それでいてどこか楽しそうに車のボンネットを開けてエンジンを調べ始めた。車の言葉を基に故障の原因を探ること数分。左右田は原因を探し当てた。

 

「……どうやらこの部品が壊れてるのが、故障の原因みてえだな」

 

左右田が言うには、このエンジンの部品はもう製造されておらず、市場には出回っていないそうだ。ジャンクショップでも売っているかどうか分からないらしい。この部品が無ければ、どうしようもない。

 

『そんな……じゃあ、やっぱりオレはこのままスクラップになる運命ってことなのか……』

 

呆然とした様子で呟く車に、左右田は元気づけるように言った。

 

「いーや、心配は無用だぜ! 無いんだったら一から部品を造りゃあ良い!」

「造るって……そんな簡単に出来るのか?」

 

自信を持ってそう言う左右田に、創は思わず尋ねた。そんな創の質問に答えるように左右田は自身の携帯を取り出した。

 

「さっき軽く調べてみたんだが、この部品はもう特許期限が切れて、設計図とかも一般公開されているんだ。構造もそこまで複雑って程じゃねえし、これなら加工センターでも造れそうだな」

 

加工センターとは、学園の敷地内にある建物の一つだ。中には様々な工具や資機材がひと通り揃っており、物作りに長けた才能を持つ本科生が主に使っている施設である。勿論、左右田もよく出入りしている。

 

「こうなったら乗りかかった船だ。オレがこの手で部品を造ってやる! っつーことで、お前らもちょっと手伝え!」

「「……え?」」

 

こうして、創と七海は左右田の部品造りを手伝わされることとなった。もっとも、二人ともこのまま左右田に任せっぱなしにするのも悪いとは思ってはいたので、無理矢理巻き込まれたという訳ではないが。

 

ちなみに、この加工センターは本科生のための施設なため、予備学科生である創は入ることが出来ないのだが、左右田から借りた予備のツナギを着ることで何とか誤魔化すことが出来た。加工センターの警備が本科校舎ほど厳重でないことが幸いした。

 

――――――――――

「そういやさ、日向は七海とはどういう関係なんだ?」

 

もうすっかり日が暮れているため、この加工センターには創達しかいない。七海は左右田から言われた機材を取りに行ってしまったので、今この場にいるのは左右田と創の二人だけである。頼んだ機材がないと作業が出来ないため、一旦休憩にすることにした。ふと左右田は、七海と創の関係が気になったので尋ねてみる。

 

創は少し考える素振りを見せつつも、答えた。

 

「……どうって、ただのゲーム友達……だな」

「ただの友達って、おいおいホントかよ?」

 

揶揄うような左右田の言葉に、創は僅かに顔を顰めた。

 

「別にそっちが考えてるようなことは何もないよ。俺とあいつはただの友達、それだけだ」

「そうかぁ? お前ら二人、なんか良い感じに見えたんだけどな」

 

創は内心溜息を吐く。男女二人ってだけでそういう風に見る輩はどこの世界にも必ずいるが、鬱陶しいことこの上なかった。創としては、それ以上に大事なことがある。恋愛にかまけてる暇はない。それに……

 

「俺と七海じゃ住む世界も違うしな。友達以上の関係になることはないだろうさ」

 

創がそう言うと、左右田はどこか気の毒そうな目で見てきた。

 

「住む世界が違うって、もしかして自分が予備学科なのを気にしてんのか?」

 

正確には種族的な問題なのだが、創は曖昧に笑った。それを見て左右田は肯定と受け取った。

 

「別に気にすることなんてないだろ。七海はそういうのを気にしなさそうだし」

「うん、日向君は大事な友達だよ」

 

機材を抱えて七海が戻って来た。左右田はこっそり創に耳打ちした。

 

「おい、日向。あんまり奥手すぎるのもアレだぞ。あいつ、ゲーム以外はてんで鈍いからな。距離を縮めてぇならガツンといった方が良い。オレもソニアさんと……」

「えっと、左右田君。頼まれてた機材ってこれで合ってる?」

「ん? おう、合ってるぜ。ありがとな」

 

機材を置いて、ふぅと一息吐く七海は左右田に言った。

 

「でも意外だよ。左右田君がここまで手伝ってくれるとは思わなかった」

「おいおい、オレだってやる時はやるんだぜ。このオレの勇姿をしっかりソニアさんに伝えてくれよな!」

「はいはい」

「マジで頼むぞ!」

 

異性のためにここまでやるとはと、創が呆れ半分、感心半分で左右田を見ていると、左右田は真面目な顔をした。

 

「……まぁ、それだけじゃなくてさ。あの車、相当長く大事に使い込まれてたみたいだからな。つい助けてやりたくなっちまったんだ」

 

確かに、あの車は持ち主を恨んでいる様子はなかった。

 

「確かにな。一生懸命造ったら、一生懸命使ってくれる奴がいるってことなんだろう」

「うん、名作ゲーはいつになっても、変わらない。それと同じだね」

「そういうこった。よし! この部品だけじゃなくて、古くなってた部品もいくつかあったから、ついでにそいつも造ってやるか! こいつを使えば、あと十年、いや二十年は使えるようになるぜ!」

 

 

そうして、創と七海と左右田の三人は夜通し、部品造りの作業を進めることとなった。

 

そして、翌朝。休日なので人は少ない。創達は職員駐車場に向かう。

 

「ふわぁ、眠い……」

「まさか夜通しかかるとはな……」

 

七海は大欠伸をし、創も眠そうに目を擦る。一方で左右田はまだ元気そうだ。夜通し作製した部品と工具が入った箱を抱えながら、職員駐車場に着くと、車が待ちわびた様子で話しかけてきた。

 

『おぉ、来たか! これでやっとオレを修理してくれるのか!?』

「おう! オレに任せとけよ! この『超高校級のメカニック』にな!」

 

左右田は得意げに箱から部品と工具を取り出すと、作業に入っていく。『超高校級のメカニック』の肩書を持つだけあって、左右田はあっという間に故障の原因となっていた部品を外し、代わりに新しく作製した部品を取り付けていく。更に、他の部品も取り付けていく。ものの十数分で車の修理を終えた。

 

「よし、完成だ。これで動けるようになんだろ」

『おぉっ! こいつはすげえぞ! 力が、力が漲ってくる……!!』

 

車の未練のようなものが薄れたことで、フロントガラスに貼られていた九十九神シールが剥がれた。そんな時、誰かの気配が近付くのを感じた。

 

「っ!? 誰か来る!」

「……え?」

「ここで鉢合わせたら面倒なことになりそうだな! 急いで隠れっぞ!」

 

左右田はこの状況のマズさにすぐ気付いて、物陰に隠れる。創も七海を引っ張って同様に物陰に隠れる。この状況では車に悪戯しているようにしか見えない。左右田はそれが分かっていたから真っ先に隠れたのだ。三人が隠れた直後に駐車場へやって来たのは、一人の中年男性だった。端に止められた一台の車に向かって、男性はひとりごちる。

 

「いやはや、ここ数日入院する羽目になるとはな……おかげで家に帰れんかった」

 

どうやらこの男性が車の持ち主だったようだ。しかも、彼は仕事の途中で倒れ、入院することになっていたらしい。車を放置していたのも、そうせざるを得なかったからのようだ。男性はドアを開けてふと思い出したかのように呟いた。

 

「そういえば、この車、最近エンジンのかかりが悪くなっていたんだよな。もう随分長く使っているし、そろそろ寿命かな……」

「へへ、今にあのおっさん驚くぜ」

 

左右田は得意そうに笑った。男性が鍵を回してエンジンをかけると、首を傾げた。

 

「おや、随分調子が良いな」

 

男性は車に乗り込んでドアを閉めると、車は勢いよく進んで駐車場を出て行った。とても二十年は使われていた車とは思えないスピードだ。

 

車が出て行ったのを見送ると、創達は物陰から出てきた。

 

「……あれ、事故とか起こらないかな」

「うーん……大丈夫、だと思うよ」

「まぁ、ちょっとスピードが出るように調整しちまったからな。すぐに慣れるだろ」

 

 

こうして、職員駐車場の怪奇現象はこれ以降すっかり鳴りを潜めたのだった。すっかり調子が良くなった車は、どこか生き生きとした様子で今日も走っている。

 

そして、この怪奇現象を解決した立役者は、片思いの相手にその話を意気揚々と話したのだが、全く信じてもらえなかった上に、本人は既に別のオカルト話に夢中になっていたという散々な結果に終わった。




なんか男キャラとばかり仲良くなっていくな……
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