希望に潜む死神達   作:マロニエ19号

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とある出会い

「やばいな……これ思ってた以上にハードだ……」

 

放課後。喪服のように真っ黒な制服に身を包んだ創は深い溜息を吐いた。入学してから早くも二ヶ月以上が経ったが、この計画は創が考えていた五倍は激務だった。なにせ、この学園の敷地は馬鹿みたいに広い。そして、霊道もそれだけ多く、大量の霊が迷い込んでくるのだ。

 

そして、何よりも厄介なのはこの学園そのものが、霊を悪霊化させやすい環境になっているという点だ。入学してからの退屈極まりないカリキュラムやら、異常とも言える学費のことを考えれば、この予備学科という制度そのものが搾取態勢であることが創にはすぐに分かった。

 

そして、創だけでなく、他の生徒達もそれを薄々察している。不満の声を上げる者も中にはいるが、大半はそれを受け入れている。いや、受け入れているというよりは諦めていると言った方が正しいか。自分達ではどうにもならない。このまま現状を受け入れた方が楽だと、ただ自分に言い聞かせているのだ。

 

だが、だからと言って、彼らも何も感じていない訳ではない。持たざる自分にも、持って生まれた本科生徒にも、怒りや嫉妬や憎悪といった負の感情を少なからず抱いていた。この学園にいる限り、自分ではどうにもならない存在が近くにいるのだ。意識するなという方が無理だろう。

 

しかし、そんな大量の負の感情は、迷い込んで来た霊達にとっては悪影響になる。その負の感情に当てられて悪霊化してしまうのだ。そうなれば、この学園にいる者達がどんな被害を受けるか分からない。ただでさえ、これ程の負の感情は生きている普通の人間でも大なり小なり影響を及ぼすのだ。このまま放置し続ければ、いずれ大惨事になることは間違いなかった。

 

そんな事態にならないよう上手く立ち回らなければいけない。しかも、ワンオペで。とんでもない激務だ。

 

「創様、どうぞ」

 

枝垂が、身長と同じくらいの大きさの鎌を創に差し出す。創の死神の鎌だ。死神の鎌は、死神にとって大事な武器だが、この学園でそんな物を持ち歩いていると非常に目立つため、有事の際以外では枝垂に持っていてもらう形にしていた。枝垂から自分の鎌を受け取った創は、制服のネクタイに着けていたネクタイピンを外してポケットにしまう。

 

通常、死神の姿は人間には見ることが出来ない。そのため、人間に見えるようにするには特殊な装備で実体化する必要がある。創の場合は、それがネクタイピンである。ネクタイピンを外すことによって、通常の人間には姿が見えなくなるのだ。

 

「それじゃあ除霊の時間だ。行くぞ、枝垂」

「はい、創様」

 

――――――――――

七海千秋は、今年度に入学した本科生徒だ。「超高校級のゲーマー」の才能を見出されて、この学園に通うことになった。そんな彼女には誰にも言っていない秘密がある。

 

それは………………

 

霊が見えることだ。

 

小さい頃に交通事故に遭った彼女は、それ以来霊が見えるようになってしまった。最初は周囲の霊に驚いていた彼女だったが、やがて霊が見えることに慣れると同時に、自分が普通じゃないことを知っていく。そのせいか、周囲からどこか浮くようになってしまい、七海自身もどこか諦めの感情を抱くようになった。そんな現実から逃避するためというのもあって、七海はゲームに熱中していった。最初はただ逃避のためだったが、気が付いたら「超高校級のゲーマー」として希望ヶ峰学園に入学することになったのだから世の中不思議なものである。

 

「はぁ……」

 

七海は一人溜息を吐く。今日も中庭の噴水前で一人ゲームに興じる。この学園に来れば、何かが変わるかもと思っていた。だが、結局のところ今までと何も変わらない。クラスメイトや教師で、自分のように霊が見える人は一人もいなかった。少しは期待していただけ、失望感が大きかった。

 

そんな七海の周りには悪霊が浮かんでいた。悪霊は七海を見るなり、怒声を上げる。服装からして、この悪霊は教師のようだ。

 

『ぎざまぁっ! 何をじでいる!!』

(……うるさいなぁ)

 

霊が見えると言っても、七海に出来ることなんてない。ただただ無視を貫く。それが、七海が幼い頃に身につけた霊に対する処世術だ。ゲームにひたすら集中する。

 

ガキンッ!

 

何か金属の叩きつけられるような音が聞こえ、少しだけ顔を上げる。そこには一人の少年が大きな鎌を使って、悪霊を斬り捨てている光景が見えた。一瞬スプラッターな光景のように見えるが、血が飛び散ったりする様子はない。寧ろ、先程まで憤怒の表情を浮かべていた霊がどこか安らいだ表情に変わっていた。

 

「先生、ここは校外。それに今は放課後です。ゲームをしていても問題はありませんよ」

 

鎌を持った少年が口を開いた。少し顔を上げた七海と目が合った。だが、七海の視線はすぐに手元のゲームに戻る。

 

『……そうか。私はとんだ勘違いを。失礼しました。そうだ、私は死んだのだったな』

 

霊はペコリと頭を下げて、姿が光と共に消えていく。成仏したのだ。謝罪の言葉を受けた七海は何も返さず、ただゲームを続ける。

 

 

――――――――――

霊が成仏したのを見届けた創はふぅと息を吐く。

 

「……よし。これで今日発生した悪霊は全員除霊出来たな」

 

創はチラリとゲームに熱中している少女に視線を向ける。見えていないから仕方がないとはいえ、自分が必死に除霊をしている中、後ろで呑気にゲームに熱中されていると、少しだけイラッとくる。だが、見えないのでは仕方ないとすぐに意識を切り替えた。

 

(一瞬、目が合ったような気がしたけど、やっぱ気のせいだよな。俺の姿が見える訳ないし。もうここには用もないし、帰るか)

 

後ろでゲームに熱中している少女に背を向けて去ろうとする途中、聞き覚えのあるBGMが聞こえてきたのでポツリと零す。

 

「……ギャラオメガか」

「えっ?」

「え?」

 

後ろから声が聞こえて、思わず創が振り返ると、先程までゲームに熱中していた少女がどこか驚いた様子で自分を凝視していた。少女は、創が唖然としているのもお構いなしに、グイグイ迫ってくる。

 

「知ってるの? こんな古いゲーム?」

「あ、ああ。昔やったことがあって。レトロゲーだけど、結構やり込み要素が……」

「そう! 名作だよね! 超・名作だよね!!」

「あ、ああ……ところで、なんで見えてるの? 俺のこと」

「へっ?」

 

創の問いに、少女は目をぱちくりとさせる。そして、少女は自分が霊と会話していたことに気が付いた。あれだけ霊とは話をせずに無視を貫くことを決めていたはずなのに。

 

「やっちゃった……私、霊と会話しちゃった……憑き纏われちゃう……」

 

少女は顔を青ざめ、頭を抱え始めた。そんな少女に呆れつつも、創が声を掛ける。

 

「別に取り憑いたりしないよ。第一、俺は霊じゃないし」

「……え?」

 

創の言葉に顔を上げる少女。

 

「俺は現世に未練を残して留まる者達をあの世に導いて転生を促す……死神だよ」

「死神……ってことは私をあの世に連れて行っちゃうの?」

「そんな堕魔死神のような真似なんてするか。俺は生きている人間に危害を加えることはしない」

「ほへ〜」

 

そんなことを言いながら、創は考えていた。少女は少し安心したのか、またゲームを始めた。どこまでもゲームが好きなようだ。

 

(この子、霊が見える体質みたいだな。それに、制服から見るに本科の生徒か。これはひょっとしたら……)

「あぁ、いたいた! おーい! 七海さ〜ん! 七海千秋さ〜ん!!」

 

少し離れたところから声が聞こえた。声のした方に視線を向けると、水色のスーツに白いエプロンが特徴的な女性がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。

 

仕方ないので、創はこの場を離れることにした。自分の姿が見えないとはいえ、面倒ごとに巻き込まれるのは御免だ。

 

「それじゃあ、俺は行くよ。じゃあな」

「……」

 

七海は答えない。どうやら完全に熱中してしまっているようだ。創はそんな七海に苦笑しつつ、中庭を離れた。

 

「七海千秋……か。霊が見える本科生徒……計画の助けになるかもしれないな……」

 

帰り道、創はそう呟いた。

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