「音楽祭?」
「うん、今度澪田さんや西園寺さんと出ることになってね」
「へぇ、意外だな。七海ってそういうのに興味なさそうなのに……それで、七海は何の楽器をやるんだ?」
七海は少しだけ考えるように間を置いてから、いつもの調子で答えた。
「私? 私はトライアングルだよ」
「ト、トライアングル……?」
「澪田さんはいつも通りギターとボーカルで、西園寺さんは舞踊、それで私はトライアングル」
「そ、そうか……」
随分と変わったグループになりそうだな。創はそう思ったが、これ以上何か言うのはやめておいた。そんな創とは他所に、七海が少し申し訳なさそうに言った。
「だから、しばらく放課後は練習で忙しくなるかも」
「なるほどな。そういうことなら、気にするなよ。俺も音楽祭とか見に行けるのかな?」
「行けるはずだよ。予備学科の人も対象になってたはずだから」
「そっか」
その時の創は、七海が出場するというだけで、そこまで音楽祭について気に留めていなかった。まさか、自分も出場することになるとは夢にも思っていなかった。
――――――――――
それから数日後の放課後。
「ねぇねぇ! このイベントにさ、皆で出てみない!?」
楓が一枚のチラシと一緒にそんな提案をしてきたのだ。終一がチラシを覗き込む。
「なになに……『ホープ・ザ・ライヴ』、音楽祭みたいだね」
終一の言葉を聞いて、創もチラシの内容に目を通す。『ホープ・ザ・ライヴ』。学園内で隔年で開催される音楽祭のようで、音楽に長けた超高校級の才能の持ち主や、音楽に興味を持つ生徒が演奏を披露する場らしい。創も七海の言葉を思い出して、ポンと手を叩く。
「ああ、そういえば七海が出るとか言ってたな。これのことだったのか」
「クラスでも桑田君が騒いでたっけ。『オレの実力を見せてやる』とか何とか」
「そうそう!」
楓が楽しそうに頷く。
「それでね、私達もバンドを作って出てみない?」
「ええ? 僕達も?」
「うん!」
楓はチラシを指差しながら続ける。
「せっかくの音楽祭なんだし、私も出てみたいなって思ってたの。それに――」
楓は三人を見渡す。そして、にっこり笑った。
「一人で出るより、皆で出た方が絶対に楽しいと思うんだ!」
創達はお互いに顔を見合わせた。
「だけど、僕達は楽器とか演奏したこと……」
「大丈夫だよ! 私は、ピアノ以外の演奏も教えられるし!」
「でもなぁ……」
苗木は少し言い淀むが、楓は退く様子はない。終一は溜息を吐いた。
「苗木君、こういう時の楓さんは引かないよ」
「……やっぱり?」
苗木が苦笑する。正直、そんな気は薄らとしていたのだ。
「うん。だから、もう諦めて付き合った方が良いと思う」
「なーんか、失礼じゃない?」
終一の言葉に楓はジト目を向ける。
「でも、終一君は参加してくれるんだよね?」
「まあね。僕はやってみてもいいと思うよ」
「本当!?」
「うん、せっかく誘ってもらったんだし。それに、皆で一つのものを作るっていうのも面白そうだから」
「やった! ありがとう!」
楓が嬉しそうに笑う。続いて、苗木もチラシへと目を落とした。
「……そうだね」
少し考えてから、苗木も頷く。
「僕もやってみようかな」
「苗木君も!?」
「うん。こういうのって、青春って感じがするし。せっかく学園にいるんだから、こういう思い出を作るのも悪くないと思う。でも、僕は楽器とか初心者だからあまり期待しないでね」
「うんうん! 大丈夫だよ! しっかり教えるから! 苗木君もありがとね!」
楓はますます嬉しそうに笑った。そして、最後に創へ視線を向けた。
「あの、創先輩は?」
「……俺は」
創はすぐには答えなかった。数日前に七海から聞いた時には、自分には関係のないものだと思っていた。死神としての仕事を疎かにしてまでやるべきかと少し悩んでいた。
「……俺としては……」
「でも、これだけのイベント……人も多く集まれば、当然、霊達も大量にやってきますよね。場合によっては悪霊化する可能性だって……」
終一がポツリと呟いた言葉に、楓も便乗した。
「そうですよ! 音楽の力は本当に偉大なんだから! 音楽祭を楽しむついでに霊の浄霊もできます!」
「ついでって……」
創は思わず苦笑する。
「でもまあ、確かに音楽祭なら、普段よりたくさんの人が集まる。そして、人が集まれば、それだけ霊も集まるか」
「はい! それに、音楽には人の心を動かす力がありますから」
楓はそう言って、自分の胸元に手を当てた。
「だから、私達が演奏することで、霊達の気持ちを落ち着かせたり、成仏させたりすることもできると思うんです」
「……なるほどな」
創はもう一度、手元のチラシへ目を落とした。確かに、音楽祭に参加することが、そのまま死神としての仕事にも繋がるのなら話は変わってくる。創自身も興味がないわけではない。
「……一応聞くけど、仕事を疎かにするわけじゃないんだな」
「もちろんです!!」
楓は即答した。
「死神としての仕事はちゃんとやる。だけど、それはそれとして普通の学生みたいに音楽祭も楽しむ! メリハリですよ!」
「普通の学生、か……」
創は小さく呟いた。元々この学園には遊びに来たわけではない。だが、学校に通って、友達と過ごして、行事に参加する。そんな当たり前のことが、少しだけ新鮮に思えた。
「……分かったよ」
「え?」
「俺もやる」
「本当ですか!?」
楓の顔が一気に明るくなる。
「ああ。ただし、何かやばいことが起きたら、死神としての仕事を優先する。それでも良いならな」
「もちろんですよ! やった! これで全員出てくれるんだね!」
楓は本当に嬉しそうだ。
「よかったね、楓さん」
終一も微笑む。
「うん!」
こうして、四人で音楽祭に出場することが決まった。それから、四人はそれぞれどの楽器を担当するかを話し合った。ギター、ベース、ドラム、キーボード、そしてボーカル。
楓は当然キーボードだが、他の三人はどの楽器も未経験だ。だが、それでも比較的あっさり決まった。
「えっと、僕、折角だからギターをやってみようかな」
苗木がそう言ったことで、ギターが最初に決まった。
「じゃあ、俺はドラムかな」
「では僕はベースで」
こうして、担当はあっさりと決まったのだった。
「……あれ?」
楓が何かに気付いたように首を傾げる。
「そういえば、ボーカルはどうするの?」
「「「……あ」」」
三人が顔を見合わせる。
「……そういえば忘れてた。えっと、誰が歌うんだ?」
創の一言で、再び沈黙が訪れた。
「大体こういうのってギターがボーカルもやるんだよね……」
終一の言葉で、三人の視線が苗木へ集まった。
「……え?」
苗木は嫌な予感を覚える。楓がパンッと手を合わせて頼み込む。
「お願い! 苗木君、歌ってよ!」
「ええっ!?」
突然のことに苗木は目を白黒させる。
「この間の交流会のカラオケ、すごく上手だったじゃん! 苗木君がボーカルやってくれたら成功間違いなしだよ!」
「いや、でも……」
「確かに、あの時は俺達の中で一番上手かったよな。九十五点も叩き出してたし。俺、あんな点数初めて見たよ」
創も頷く。
「僕もそう思う」
終一まで同意する。
「ちょっと三人とも……」
苗木は困ったように三人を見る。
「お願い!」
「頼むよ!」
「君が一番適任なんだ!」
「……わ、分かったよ」
三人に頼み込まれ、苗木は渋々頷いた。
「でも僕なんかがボーカルでいいのかな……」
「大丈夫だよ!」
苗木の不安を楓が笑い飛ばす。
「苗木君なら絶対にできるって!」
「他人事だと思って……」
苗木は溜息を吐きつつも、了承した。そんなこんなで四人の担当が決まった。楓はキーボード。苗木はギター&ボーカル。創はドラム。終一はベース。
こうして、音楽祭『ホープ・ザ・ライヴ』に向けて、四人の即席バンドが誕生したのだった。