リハーサルもつつがなく終わり、翌日。ついに音楽祭『ホープ・ザ・ライヴ』本番の日がやってきた。
会場である体育館には、既に大勢の生徒達が集まっている。本科の生徒はもちろん、予備学科の生徒達の姿も少なくない。
だが、その両者が入り混じっているかと言えばそうではなかった。予備学科の生徒達はどこか遠慮するように本科生から距離を取り、自然と別々の集団を形成していた。
創達四人は、今日のステージ衣装に身を包んでいた。といっても、黒いフード付きのロングコートに黒ズボンという、全身を黒で統一した死神風の装いである。自分達は死神ではあるが、たまにはこういうオーソドックスな死神の恰好も良いだろうということでこの衣装になったのだ。
開始時間となり、ステージ中央へ二人の生徒が現れた。一人は派手な服装をした女子生徒で、もう一人はきちんと制服を着こなした男子生徒だ。女子生徒がマイクを手に取った瞬間、それまで続いていたざわめきが不思議と収まっていく。
まるで会場全体の視線と意識が、自然と彼女へ引き寄せられていくかのようだった。
「みんなー! 今日は来てくれてありがとう!!」
透き通るようによく通る声が体育館中に響き渡る。
たった一言。それだけで会場の空気が一気に熱を帯びた。
「さぁ、始まりました! 希望ヶ峰学園音楽祭『ホープ・ザ・ライヴ』! 司会は私、『超高校級の司会者』こと、触沢美雪がお送りしていきます!」
観客席から拍手と歓声が上がる。触沢はそれに満面の笑みで応えながら、まるで長年プロの司会者を務めているかのように淀みなく言葉を紡いでいく。
「今日はソロあり! バンドあり! そして予想外の伏兵あり!? 最高に熱い一日になること間違いなしです!」
会場のあちこちから笑い声が漏れた。
「それでは早速ですが、生徒会長にもご挨拶をいただきましょう! 村雨会長、お願いします!」
「ありがとう、触沢さん」
触沢からマイクを受け取り、軽く会釈をすると村雨は一歩前へ出る。あれだけ騒がしかった会場が自然と静まり返っていた。
「希望ヶ峰学園生徒会長の村雨早春です。本日は、音楽祭『ホープ・ザ・ライヴ』に集まってくれてありがとう。出演者の皆には、これまでたくさん練習してきた成果を思い切り披露してほしい。そして、観客の皆も、ぜひ楽しみながら応援してあげてくれ。以上だ」
「はい! 村雨会長、ありがとうございました! ではこれより『ホープ・ザ・ライヴ』第一部を始めたいと思います!」
拍手や歓声と共に音楽祭が本格的に始まり、様々な超高校級の才能の持ち主達が歌や演奏を披露して場を盛り上げていく。
そんな中、生徒だけでなく、霊も多く集まってきていた。一緒に楽しんでいる霊は特に問題ないのだが、超高校級の才能を目の当たりにして嫉妬に駆られたのか、悪霊化する霊も中にはいる。創達は観客に悟られぬよう、会場内を回りながら密かに除霊を行っていく。
そのため、第一部の間はゆっくり聞く暇もなかった。そして、第一部最後の演奏が終わった。
「『超高校級のバイオリニスト』生田ことみさん、素晴らしい演奏をありがとうございました! ここから十分間の休憩時間を挟んだ後に、第二部を開始いたします!」
それを聞いた創達も自分達の演奏に備えて、急いでステージ裏に移動する。
「いやぁ、思ってた以上に霊が集まってきたな」
「ええ、音楽祭の演奏を聞きつけたのか、次から次へと霊がやってきましたからね」
「一応、幾つか道具を設置しておいたけど、いつまで保つか……」
創、終一、苗木が難しい顔でそう話していると、楓が三人の不安を吹き飛ばすように言った。
「そのために、私達が演奏するんじゃない! 音楽の力ってやつを見せてやろうよ!」
「あはは、そうだね」
苗木が笑う。
「ここまで来たんだし、後はやるだけか」
「ですね」
創と終一も小さく頷いた。
「それでは始まりました! 『ホープ・ザ・ライヴ』第二部!! トップバッターは、今日この日のために結成された、史上初の本科・予備学科の混合バンド『リーパーズ』! さぁ、彼らは一体どんな音楽を魅せてくれるのか!?」
リーパーズ。これが創達のバンド名だ。拍手とざわめきの中、創達はステージへ歩みを進める。
本科生といっても、音楽と特に関係のない『超高校級の幸運』と、予備学科生で構成された即席バンドだ。観客からの期待は低いだろう。実際、前座だと思っている生徒が殆どのはずだ。
ステージに立ち、リハーサルの時とは比べ物にならない人の数に、苗木は思わず吞まれそうになる。そんな苗木の背中を創がバンッと豪快に叩く。
「痛っ!?」
「大丈夫だって。俺達は俺達の演奏をすりゃあ良いんだ」
苗木は振り返って、創や楓、終一の顔を見る。三人とも頷いている。それを見て、苗木も数秒だけ目を瞑り、やがてゆっくりと目を開けた。
「……よし!」
苗木はギターを構えた。楓もキーボードに手を置く。創と終一も楽器を構えて互いに頷いた。苗木が弦を弾いたと同時に、リーパーズの演奏が始まった。
最初は様子見の空気が漂っていた観客席も、少しずつ変わり始めていた。生徒達に混じって見物していた霊達はどこか満足した様子で光の粒子となって消えていく。
気付けば二曲目も終盤を迎えていた。最後の音が消えた瞬間、一瞬の静寂が訪れた。
そして、その次には大きな拍手が起こった。手を振りながら舞台裏に戻ると、色々な人から声を掛けられた。
「よーす、お疲れ」
「思ってたより良かったぞ!」
「予備学科もやるじゃないか」
そのまま観客席に戻る途中で七海達に会った。
「お疲れ様。上手だったよ」
「ああ、ありがとな」
七海の言葉に、創ははにかみつつも礼を言う。
「いやーっ、結構良かったっすね! 特にキーボード!」
「え? 私?」
「そうっす! 唯吹のハートがビリビリと痺れたっすよ!」
澪田は興奮した様子で両手をぶんぶん振る。
「えへへ、ありがとう!」
楓も嬉しそうに笑った。
「まあ、前座としては悪くなかったんじゃない?」
西園寺がそっぽを向きながらぼそりと呟く。
「おっ、日寄子ちゃんが珍しく褒めてるっす!」
「はぁっ!? 褒めてないし!」
「いや、今のは褒めてたよね」
七海が小さく笑う。
「うっさい!」
西園寺は顔を赤くしてそっぽを向いた。その後、七海達の出番も近くなってきたので、一行は別れることにした。
「それじゃあ、私達も行くね」
「おう、そっちも頑張れよ」
「うん!」
舞台裏から観客席に戻り、改めて会場を見回すと、先程と比べて霊の数がずっと少なくなっていた。
「だから言ったでしょ?」
楓が得意げに胸を張る。
「音楽の力は偉大なんだよ!」
「……そうかもな」
創は苦笑した。自分達はただ演奏しただけだった。だが、その演奏で、多くの霊達が成仏していった。
「こういうのも、たまには良いのかもしれないな」
創がそう呟くと、楓は満足そうに笑った。
幸い第二部は、第一部と異なり、霊が少なくなったこともあって、他グループの演奏を楽しむ余裕ができた。流石は超高校級と呼ばれる者達だ。どれも素晴らしい演奏だった。
ちなみに、七海・澪田・西園寺の混合バンドは凄まじいの一言だった。
『超高校級の軽音楽部』だったはずなのだが、澪田が奏でる演奏はかなり個性的な……重音楽といった有様だった。そんな澪田の音楽を西園寺の舞踊と七海のトライアングルが上手く調和しており、和洋折衷の神秘を味わった気分だった。
他にも、舞園は折角のソロライブということで、未発表の新曲『モノクローム・アンサー』を披露していた。新曲発表に、観客席はこれ以上ない盛り上がりを見せた。こういった光景を見ると、「本当に超人気のアイドルなんだな」と苗木は思った。
こうして、大盛況のまま音楽祭『ホープ・ザ・ライヴ』は幕を閉じたのだった。
音楽で霊を救う。
そんな不思議な経験は、創達にとっても忘れられないものとなったのだった。
ちなみに、苗木が歌ったのは『再生-rebuild-』と『出航-departure-』でした。出来ればその描写を出したかったのですが、著作権とかが色々面倒だったので省いてしまいました……