小生の名は枝垂。死神創様の契約黒猫を務めております。相棒である創様とは長い付き合いになりますね。そんな創様は訳あって、今年から希望ヶ峰学園という学校に通っています。
この希望ヶ峰学園は現世にある学校で、学園側からスカウトされた才能ある人間が通う名門校らしいです。ですが、この学園は数年前から霊道が複数発生しているため霊が迷い込みやすく、あの世でも問題になっていました。こうなると、早急に死神を送って対処を行うべきなのですが、簡単にいかない事情があります。
具体的に言うと、学園自体が国と密接に関わっていることや、そのため警備が厳重なこと等が原因です。そのため、浄霊や霊道の封鎖が思うように進まず、命数管理局も頭を悩ませていたのですが、そんな折に、去年から一般生徒用の学科も新設されたという報せを聞いて、ある計画が発令されました。「希望ヶ峰学園浄霊計画」。予備学科に死神を入学させて浄霊作業や霊道の封鎖作業を進めるというのが、この計画です。
そして、その計画に参加している死神が、創様なのです。去年は散々な結果だったようですが、創様のおかげで浄霊もある程度進んでおり、命数管理局からも上々の評価を受けています。
ですが、この計画に参加している死神が創様一人だけなのが、不安要素です。去年失敗に終わった原因は悪霊の大量発生です。悪霊は、一瞬の油断が命取りになりかねない危険な相手。そんなのを相手取る創様に万が一のことが起きないよう、契約黒猫としてきっちりサポートしないといけません。
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小生の朝は早い。創様の家で住み込みで働かせてもらっているので、朝ご飯の準備を手伝うためです。創様が起きると、一緒に朝食を食べて、家を出るのを見送る。これが朝のルーティンです。あの世から希望ヶ峰学園へは、霊道を使えばあっという間に着くので、学園系漫画にあるようなドタバタ感がなく、ゆったりと準備を進められます。その間に、今日の予定を確認しておくのを忘れずに。ちょうど念コーティングスプレーと結界ガムテープの在庫が少なくなっており、それらの買い足しを今日はする予定なので、そのための代金を貰います。放課後の時間になれば、小生も希望ヶ峰学園に行くことになるので、それまではお互いに別行動となります。
別行動になったからと言って、自由時間という訳ではありません。その間に、不足していた死神道具の買い出しや整備、家の手伝い等をこなさないといけない。そうしているうちに、午後三時。放課後時間になってくる。
「そろそろですね」
自分も希望ヶ峰学園に赴き、創様と合流すると、ここから死神としての浄霊の時間が始まります。ちょうど、予備学科の校舎に悪霊が姿を現した。
『オレはやってねぇ〜!!』
白衣を身に纏った研究者のような姿をした悪霊だ。
「創様!」
死神の鎌を渡すと、創様は一つ頷き、「行くぞ」とだけ呟く。それが浄霊開始の合図となります。
創様と一緒に浄霊していてわかったことですが、この希望ヶ峰学園、何と言うか……闇が深い。創様が通っている予備学科の異常なまでの学費の高さや、やる気が欠片も見られない授業カリキュラムを取っても、金蔓のための制度というのがひしひしと感じられる。
そのため、校舎内の空気もどこか澱んでおり、それが悪霊化を起こす原因になっているようでした。創様もそのことには気付いていますが、今のところ有効な対処法がないようで、頭を悩ませていました。正直、これを解決させるには予備学科という制度そのものを無くすか、予備学科生全員の意識改革が必要になってくるレベルです。そんなことを創様一人で為し遂げるのは、現時点では不可能なため、悪霊化した霊を片っ端から除霊していくしかありません。
もどかしい状況ではありますが、命数管理局に報告済みなので、近いうちには改善されていくのではないでしょうか。いや、改善には相当時間がかかるでしょうね。希望ヶ峰学園が廃校にならないといいのですが。創様が入学していなかったら、間違いなく大勢の者が悪霊に祟り殺されていたでしょう。そういう意味では、この学園も運が良かったのかもしれません。
ひと通りの悪霊を除霊し終えると、創様は中庭に向かいます。この計画の協力者に会うためです。
その者は、噴水前のベンチでゲームに熱中していました。創様が呼びかけると、彼女はゲーム機から顔を上げ、少し嬉しそうに笑います。
「やっほー、日向君! 枝垂君!」
本科に通う『超高校級のゲーマー』こと、七海千秋様です。彼女は霊が見える特殊な人間なため、協力を要請しているのです。予備学科生である創様では、学園内でも行ける場所に限りがあるため、本科生かつ霊を見ることが出来る七海様は、非常に頼りになる方です。少々ぼんやりしているところがあるのが玉に瑕ですが。
創様は情報交換を兼ねて、七海様とゲームをするのが日課になっております。といっても、七海様との戦績は全戦全敗という結果ですが。今も七海様の勝ちで終わりました。ですが、創様は嬉しそうです。
「よしっ、目標達成!」
「……目標?」
怪訝そうに尋ねる七海様に、創様は少し得意げに説明します。創様曰く、七海と対戦するにあたり、自分の中で勝利条件を設けていたようで、今の対戦では七海様の体力を半分以上削ることが出来れば、創様にとっての勝利だったようです。それを聞いた七海様は少しムッとした表情を浮かべてゲーム機を握り直し、一言。
「それなら、次は完全勝利を目指す。もう一撃も日向君の攻撃を食らわない」
「望むところだ。だったらこっちの勝利条件は、七海相手に一撃食らわせることだ」
「あっ、そうだ。枝垂君もゲームやろ。もう一台ゲーム機あるから」
七海様の提案で、あれよあれよと言う間に、小生までゲームに参加することになりました。といっても、小生にゲームの経験はあまりないのですが。
「小生はそこまでゲームが上手くありませんが……」
「大丈夫だよ。ゲームは皆でやった方が楽しいし」
「そうだな。枝垂、七海の完全勝利を阻止するのを手伝ってくれ」
「了解しました」
「望むところ。二人とも返り討ちにしてくれるわ、フハハハハ」
七海様がノリノリでそんなことを言った。
こうして、創様と七海様と小生のゲーム大会が幕を開けました。勝敗の結果はともかく、楽しい時間になったことは言うまでもありません。
正直、創様がこの計画に参加した際、小生は後悔していました。死神一高の受験に挑むことすら出来ず、絶望のどん底にいた創様を見ていられず、勧めたのがこの計画でしたが、まさかここまで激務かつ危険な仕事になるとは思いもしませんでした。実際、入学してからしばらくの創様は相当張り詰めた表情をすることが多くなっていました。ですが、七海様と出会い、こういった交流の時間を取ることが出来ているのは、創様にとって幸運だったと思います。ある種のガス抜きになっていることで、創様も多少の余裕を持って動くことが出来るようになったみたいです。
そして、七海様もまた、出会ったばかりの頃と比べて、どこか表情が柔らかくなったように感じられます。クラスメイトとの仲も良好らしいですが、創様との時間も彼女にとってはかけがえのないものなようです。
そう考えると、あのお二人は案外お似合いなのかもしれませんね。まぁ、まだまだお二人はその自覚がないようですし、これに関しては言わぬが花というものでしょう。