希望に潜む死神達   作:マロニエ19号

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悪霊だらけの実技試験(前編)

希望ヶ峰学園本科には、予備学科や他の高校のような定期試験がない。その代わりに、実技試験というものが年に一度行われる。本科の生徒は、そこで学園の経営陣相手に自分の能力を示す必要がある。この実技試験で結果を残せないと退学もあり得るという、非常に厳しい試験だ。スカウトされて入学出来たから卒業まで安泰……という訳では決してないのだ。

 

その実技試験の時期が来週に迫り、七海のクラスではどこかソワソワした空気になっていた。担任教師の雪染ちさが試験の概要について説明する。

 

「試験の概要は以上になります。どのように能力を示せば良いのか分からないという人もいると思うので、今配布した封筒に入っているプリントを確認してください。そのプリントに、あなた達の試験内容や合格条件が書かれています。もちろん、他に自分の才能を示す方法があるという人は、その方法で自分の能力を証明しても構いませんよ。でも、その場合は試験前日までに私の方まで連絡してくださいね」

 

本科の生徒の才能はピンキリだ。『超高校級の写真家』や『超高校級の料理人』とかであれば自分の作品を、『超高校級の体操部』や『超高校級の剣道家』とかであれば自分の技を披露することで才能を示すことが出来る。だがその一方で、『超高校級の王女』や『超高校級の保健委員』といった、どのように才能を示せば良いのか分かりにくい者も中にはいる。試験内容や合格条件を学園側が定めているのは、そういった者への配慮なのだ。

 

七海は、自分の封筒からプリントを取り出してその内容を確認する。また、封筒には何か別のものも入っているようだったので、それも封筒から取り出すと、中に入っていたのはゲームのカセットのようだ。カセットに記載されているゲームタイトルを見て、七海は目を見開いた。

 

――――――――――

「それで、このゲームで戦うことが七海の試験なのか?」

「うん。『マーフォーク・ファイターズ』。かなりのレトロゲー。私も実物は初めて見た」

 

この『マーフォーク・ファイターズ』というゲームは、半魚人のキャラを使って戦う格ゲーで、ギャラオメガ以上にマイナーなゲームだ。創もゲーム機の画面を覗き込んだが、すぐに顔を顰めた。

 

人を選ぶビジュアルのキャラに、キャラごとの操作も極めて特殊で難易度が高い。七海曰く、発売後の売上は芳しくなかったらしく、すぐに市場から姿を消したそうだが、消えた理由も分かる。その特殊な操作性は、七海ですら少し手こずっているようだった。だが、彼女は楽しそうに笑っている。

 

「でも俄然やる気が出てきた。ゲーマーとして絶対にものにしてみせる」

 

創は、彼女が『超高校級のゲーマー』と呼ばれている所以が少し分かったような気がした。ただゲームが上手いのではなく、ただひたすらゲームが好きでどんな壁でも楽しんで乗り越えようとする。創はそんな彼女がとても眩しく感じた。

 

「そっか。じゃあ、試験までの間はそのゲームに集中する感じか。しばらく一緒にゲームするのは控えた方が良いか?」

「ううん、それとこれとは別。息抜きは必要だから」

「ゲームの息抜きがゲームなのか……」

 

創が呆れた様子で呟いた。

 

 

――――――――――

その日の晩、創が明日の準備を進めていると、枝垂がある知らせを持ってきた。

 

「そういえば、創様。近いうちにA-1グランプリがあるそうですよ」

 

A-1グランプリとは、大量の悪霊達が呪い・祟りの技を競い合うという、人間にとっても死神にとっても迷惑な祭典のことである。ちなみに、「A-1」のAは悪霊のAだ。

 

創は顔を顰めた。

 

「……もうそんな季節か。それで、場所は?」

「えっと……希望ヶ峰学園がある街全域らしいです」

「マジか……」

 

創はますます顔を顰めた。枝垂は知らせに描かれた木箱の写真を指した。

 

「この木箱がA-1グランプリに参加する悪霊達の集合場所になっているらしいです。急いで見つけて回収しましょう」

「そうだな。でもこの木箱……どこかで見たことがあるんだよな……」

 

その木箱が希望ヶ峰学園の敷地内にあるものであることを知ったのは、その翌日のことであった。この木箱は、今年卒業した『超高校級の木工職人』が制作・寄贈したもので、学園で幅広く使われている。しかし、厄介なことに、その木箱は複数作製されたものらしく、その数はおよそ二十箱。悪霊達の集合場所になっている木箱を突き止めるのが困難となっていた。一応、外観に微妙な違いがあるらしいのだが、創の目にはどの木箱も同じにしか見えないので、地道に探すほかなかった。

 

そして、最後の一箱は機材庫にあった。その周りには段ボール箱が山積みになっているので、その木箱は非常に目立つ。創が発見した時、その木箱に近付く生徒がいた。背の高い白髪の男子生徒だ。

 

「あれが先生の言っていた木箱だね。皆の素晴らしい才能を披露する場をボクみたいなゴミカスが手伝えるなんて、本当にボクは幸運だよ」

 

そんなことを言いながら、その生徒は箱を持ち上げる。かなり大きめのサイズなのだが、重さを全く感じられない。箱を持ち上げた生徒は感動した様子で呟いた。

 

「……素晴らしい。これだけの大きさの木箱であれば、空であっても重たいはずなのにすごく軽い。まるで手に吸い付くようだ! それなのに非常に頑丈ときている。先生がこの木箱を指定したのも分かるね。いやぁ、この箱を作った人はもう卒業してしまっていて、会うことが出来ないのが本当に残念だよ!」

 

どこか恍惚とした表情でそんなことを言う生徒はそのまま、木箱を抱えたまま去って行ってしまった。創が彼を追いかけようとしたその時だった。周囲に放置されていた段ボール箱の山から無数の気配を感じたのだ。

 

「しまった! 集合場所はあの木箱じゃなくて……!」

 

情報が間違っていたことに気付いた時には、もう遅かった。無数の悪霊達が姿を現し、その衝撃で創は段ボール箱の山に吹き飛ばされてしまった。姿を現した悪霊達は、通常の悪霊と違い、全員が番号付きのゼッケンを身に着けている。司会と思われる悪霊がマイクを片手に声を張り上げた。

 

『よっしゃー! お前ら! 只今より、A-1グランプリを始めるぞ!!』

『おおぉぉーーーー!!!』

 

A-1グランプリが始まってしまった。

 

『今年のA-1グランプリはここ、才能ある者が通う希望ヶ峰学園! 超高校級と持て囃されている高校生共を呪い殺していくぞ!』

『おおぉぉーーーー!!』

『茶色い制服を着た奴らがその超高校級だ! そいつらを一番多く呪い殺したやつが優勝だ! さぁ、どんな才能があろうが、俺達には無力だってことを教えてやろうぜ!』

『うおおぉぉーーーー!!!』

「させるか!」

 

創が死神の鎌を振り回す。数体の悪霊は強制的に除霊出来たが、他の悪霊達は無傷だ。創の除霊を逃れた悪霊達は次々と姿を消していった。司会の悪霊も声を張り上げながら姿を消していく。

 

『制限時間は二週間! それではお前ら、健闘を祈るぜ! ハーーハッハ!』

 

残された創が歯噛みする。遅れて枝垂が姿を現した。

 

「創様、今すごい数の悪霊達が……」

「……ああ、遅かった」

 

創は今起きた出来事を端的に説明した。話を聞いた枝垂も、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 

「この学園の本科生徒が対象……ですか。厄介ですね」

「ああ。予備学科の連中が対象に入っていないのは不幸中の幸いかもな」

 

本科生徒よりずっと数が多い予備学科の生徒まで対象になってくると、手に負えなくなってくる。そうならなかったのはせめてもの救いだろう。だが、枝垂があることに気が付いた。

 

「あれ? でも二週間ってことは来週の実技試験は……」

「あ……」

 

創は顔を蒼褪めた。今年の本科の実技試験は波乱の展開になるだろう。そう予感せざるを得なかった。




今後登場することのない、オリキャラ紹介

木織 幹夫
希望ヶ峰学園74期生で、元『超高校級の木工職人』。七海のクラス担任の雪染と同期で、元クラスメイト。木材を使って、家具や雑貨など様々なものを作り出すことが出来る。彼が作る製品は、非常に使いやすいと評判。卒業時には、クラスメイトには食器を、学園には木箱をプレゼントした。
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