希望に潜む死神達   作:マロニエ19号

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悪霊だらけの実技試験(後編)

『なんだ!? 入れない!?』

『ぢぐじょー! ごれじゃ、呪えんぞぉ!』

『どうなってるんや!?』

 

創と枝垂が、慌てて悪霊達を追いかけると、悪霊達は本科校舎の周りに集まっていた。だが、本科校舎はなぜか、霊や死神は入れないようになっている。だから、本科校舎にいる限り、本科の生徒達は悪霊に襲われることはない。事実、悪霊達は困惑の声を上げながら、校舎に入ろうともがいているが、一体も入ることが出来ずにいた。

 

「往生しろっ!」

『ぐぎゃぁ!? し、死神!?』

『や、やべぇ、逃げろっ!』

 

悪霊の何体かは除霊させることに成功したが、まだまだ大勢の悪霊が残っている。学園内のそこかしこで、本科の生徒達を呪い、祟り殺そうと気を窺っているのだ。創は大きな溜息を吐いた。

 

「これは、数日は除霊の毎日になりそうだな……」

「仕方ありません。このまま放置すれば、関係のない本科生達は呪い殺されますよ。七海様も含めて」

「……そうだな」

 

一瞬、ほんの一瞬だけ、悪霊によって何人か呪殺されて、この学園が廃校になれば、この計画が片付くのではないかという悪魔的な考えが脳裏を過ったが、流石にそんなことをする訳にはいかないと考えを振り払う。そもそも、まだ生きている人間が悪霊に呪殺されるのを黙って見ていれば、自分も重い処罰を受けることになるのだ。

 

「仕方ない。腹を括るぞ!」

「はいっ!」

 

創と枝垂は同時に駆け出した。

 

 

――――――――――

「日向君……どうしたんだろ……」

 

ピコピコとゲーム機を動かしながら、少し寂しそうにそう呟く七海。彼女はA-1グランプリのことを知らずにいた。大事な試験の前に、余計な心配はかけたくないからと創も枝垂も教えなかったのだ。もっとも、霊が見えるだけの彼女がこのことを知ったところで、出来ることが限られているし、危険に晒される確率も上がってしまうからというのもあるが。

 

「ん? あれ? これは……」

 

ふと何かに突かれたような気がして、ゲーム機から目を離した七海は、隣にポツンと佇む赤色の折り鶴を見つけた。七海が折り鶴に触れると、ひとりでに折り鶴は一枚の紙に戻った。死神道具、式神折り紙の試供品だ。以前、創に見せてもらったことがあったので、七海も見覚えがあったのだ。紙には何か文字が書き込まれており、七海はそれを読み上げた。

 

「えっと……『ここ数日の間、急用ができたので、しばらく会うことができない。ごめん、後で埋め合わせするから。日向』……日向君からの手紙だ」

 

手紙には急いで書いたと思われる乱雑さで、余程切羽詰まった状況なのが見て取れた。七海は小さく溜息を吐くと、ゲーム機をリュックにしまって、中庭を後にした。その背中はどこか寂しげであった。

 

その頃、創は大量の悪霊達の除霊に明け暮れていた。だが、あまりの数の多さに創は絶叫した。

 

「一体どれだけいるんだ!? 多すぎだろ!?」

「今年エントリーした悪霊は、八千体程らしいです」

「は、八千!? いつもは五千体くらいだろ!? なんで今年に限って!」

「なんでも、今年は五十周年記念ということで、エントリーも多くなってるみたいで……」

「嘘だろ、おい……」

 

創は思わず、頭を抱えた。これはひょっとしたら、ほぼ不眠不休で除霊し続ける羽目になると予感したのだ。そして、その予感は現実のものとなった。

 

「なぁ、枝垂。俺……この大会が終わったら温かい布団でぐっすり休むんだ……」

「やめてください、創様。何かのフラグみたいになってますよ」

 

翌週には、創も枝垂もかなり疲れが見えていた。学園側には、病欠ということにしているが、本当に病気になりそうな様相だ。八千体の悪霊達をたった一人と一匹で相手しているのだから、無理もない。だが、その甲斐もあって、八千体もいた悪霊達も、今では五十体程にまで減らすことが出来た。

 

学園では、本科の実技試験が始まったことでかなり騒がしくなっていた。というのも、この実技試験は五日間かけて行われるのだが、最初の二日間はマスコミ取材も兼ねて、体育館で大々的に行われるらしい。もっとも創のいる予備学科には何の関係もないのだが。

 

この二日間の試験で才能を披露する生徒は、合わせて二十人程度。どの生徒も、マスコミ受けしそうな才能を持つ者ばかりだ。悪霊達が中に入っていくのを見かけた創も体育館の中に入る。

 

体育館では早速、一人目の女子生徒が自分の才能を披露しているところだった。『超高校級のお菓子職人』の肩書を持つ彼女は、学園関係者に自作のお菓子を振舞っている。そんな彼女の後ろに悪霊が出現した。

 

『エントリーナンバー4130番。パティシエ霊でーす。あんなゲテモノなんかより、味噌をふんだんに使ったあたしのお菓子の方が美味しいに決まってるわ』

 

パティシエ霊が見るのもおぞましいケーキを取り出した。そして、それをパイ投げの要領で構え始める。

 

「成仏しろ! ってか食べ物を粗末にしてんじゃねえ!」

『うぎゃあぁぁっ!?』

 

そんなパティシエ霊の後ろに創が不意打ち気味に、死神の鎌で除霊する。パティシエ霊は消える間際に悔しげに呻いた。

 

『お、のれ……三か月で店が潰れた無念……晴らせず……か』

「いや、潰れるのは当たり前だろ」

 

創が真顔で突っ込んだ。あんなのを出していたら間違いなく潰れるだろう。そうこうしている間に、『超高校級のお菓子職人』の実技試験は無事に終わったようで、軒並み高評価を受けていた。ホクホク顔で待機場所に歩みを進める彼女と入れ違いで、別の生徒が学園関係者の前に立つ。

 

『エントリーナンバー5330番。ゴミばら撒き霊。生ゴミをばら撒きます』

「させるかっ!」

『うぎゃああ!!』

 

どこか緊張した様子で試験に臨む生徒を狙って悪霊が姿を現すが、創がことごとく返り討ちにしていく。

 

ちなみに、実技試験の期間中は、予備学科と違って本科では授業がない。そのため、実技試験を受ける本科生以外の多くは寄宿舎で過ごしているか、他の校舎で試験準備をしているかのどちらかだ。本科の校舎には悪霊は入ることが出来ないので心配はない。寄宿舎の方も、色々な死神道具を使って悪霊を防いでいる。流石にずっとは無理だが、数日くらい時間を稼ぐだけなら問題ないだろう。

 

そうなると、当然、悪霊達は実技試験を受けている本科生達を狙おうとするため、創はそんな悪霊達を待ち伏せして除霊していく。一応、枝垂には他に外を出歩く本科生がいないか確認してもらっているが、幸運にもそういった生徒は襲われずに済んでいるようだ。

 

そうした創達の決死の働きにより、二日目、三日目、四日目も悪霊を除霊していき、最終日の五日目には残る悪霊も僅か三体となった。流石にここまでくると、見つけるのも困難になってくる。

 

それでも何とか見つけ出し、二体の悪霊を除霊させ、創と枝垂は一息吐く。

 

「……これで、残り、一体……どこに出てくる……?」

「そうですね……ひとまず試験会場に行ってみましょう」

「そう、だな」

 

そうして創と枝垂は実技試験の会場とされている場所に向かって駆け出した。

 

――――――――――

「77期、七海千秋さん。あなたは『超高校級のゲーマー』……そうですね?」

「はい」

「あなたの試験内容は、このゲームで対戦相手に勝利すること。よろしいですね?」

「はい」

「では、準備が整い次第、試験を開始します」

 

創が最後の悪霊を七海は実技試験に臨む真っ最中だった。マーフォーク・ファイターズ。このゲームは、かなり操作性が難しいが、この一週間の練習を経て大分上達させることが出来た。そんな七海の対戦相手は、学園の職員のようだ。プロゲーマーとかではなかったと拍子抜けしたのはほんの一瞬で、対戦相手の職員が只者でないことは対戦していてすぐに分かった。抜群のテクニック。このゲームを相当やり込んでいるのが窺える。

 

見たこともないコンボを決められ、七海は僅かばかりに動揺する。そんな七海を狙って、彼女の真上から最後の悪霊が姿を現す。

 

『エ、エントリーナンバー1125番……放火魔霊。これから焼きます……』

 

放火魔霊がボソボソと喋りながら、持っていたポリタンクを振り上げようとした。その時だった。

 

創がポリタンクを奪い取る。同時に枝垂が放火魔霊を押さえつける。

 

『ぎぎ、邪魔するのか……オレの芸術を……』

「放火に芸術もへったくれもあるか!」

『ふ、ふざけるなっ! オレの芸術は誰にも……』

 

放火魔霊が最後まで言い切る前に、創が死神の鎌を振り下ろす。それにより、放火魔霊は消滅して、ゼッケンだけが残った。これで全ての悪霊を除霊することが出来た。

 

部屋を出る前に、創は真下で試験内容であるゲームに熱中している七海に一瞬だけ視線を向ける。そして、一言呟いた。

 

「……頑張れよ、七海」

 

そう言って、創は部屋から出て行った。枝垂も彼に続く。そんな創の言葉に、七海は集中していたので気付いていなかったが、少しだけ緊張で上がっていた肩がいつも通りに戻っていた。

 

 

「おつ、かれ……」

「お疲れ様です、創様……」

 

中庭に着いた創と枝垂は、疲労困憊な状態になりつつも互いを労った。

 

「はは、ヤバい、な……もう体力が……」

 

そしてそのまま倒れ込んでしまい、創の視界は暗転した。

 

――――――――――

「う、うーーん……」

 

しばらくして、創の意識が戻り始めてきた。何故か背中が柔らかい。確か中庭で意識を失ったはずなのに……と薄ら目を開けて周囲を確認する。すると、自分はどこかの部屋にいることが分かった。目の前の棚には様々な薬品が入っているのが見える。

 

(ここは……保健室か……?)

 

そして、今自分が寝ているのがベッドの上であることに気がつく。ゆっくり身体を起こすと、自分の身体が軽くなっている感覚に驚いた。

 

(あれ? あんなにヘトヘトだったのに、身体が軽い? どんだけ寝てたんだ?)

「あ、き、気が付きましたかぁ?」

 

声のした方に視線を向けると、そこには二人の女子生徒がいた。一人は、どこか気弱でオドオドした雰囲気のした女子で、もう一人は……。

 

「な、七海……」

「…………」

「あの、七海さんのお知り合いですか? 中庭で倒れていたらしくて、七海さんが連れて来てくれたんですよぅ。そこの猫ちゃんも一緒に」

 

足元を見ると、枝垂の姿があった。人間のもとでも怪しまれないように、普通の黒猫の姿になっている。七海は創には何も言わずに、まず女子にお礼を言った。

 

「ありがとう、罪木さん。あなたがいて本当に助かったよ」

「い、いえいえ! とんでもないですぅっ! 過労でしたけど、忌村先輩の疲労回復薬のおかげもあって、ここまで短時間で治すことが出来たんですからぁ!」

 

罪木と呼ばれた女子生徒は激しく謙遜する。それを聞いて自分を治療したのが彼女だと察し、創も改めてお礼を言った。

 

「そ、そうか。えっと、俺からもお礼を言うよ。本当にありがとな」

「いえいえ! 本当、大したことしてませんから! 気にしないでください!」

 

目を覚ましたので、創は枝垂と保健室を出ることにした。罪木から今日一日は激しい運動をしないよう注意を受けた上で、保健室を出る。そんな創達に続いて七海も保健室を後にした。

 

先に霊道を通って枝垂は帰ってしまったので、創は七海と二人きりでしばらく歩くことになった。だが、創と一緒に歩く七海はずっと無言だった。どこか気まずい雰囲気が漂う。そんな空気に耐え切れず、創が話し掛けた。

 

「えっと、七海もありがとな。保健室まで連れて行ってくれて。おかげで助かったよ」

「…………」

「あー、その、試験はどうだったんだ?」

「……日向君」

 

七海はここで初めて口を開いた。創の顔をジッと見る七海はどこか怒っているようだった。

 

「枝垂君から全部聞いた。悪霊が沢山出て、大変だったって」

「あ、ああ。そうなんだ。だから……」

「私には何も言ってくれなかった」

「それは、七海には実技試験があるから、そっちに集中してほしくて……」

「それでもだよ」

 

ポスッと七海の拳が軽く、創の肩に当たる。七海も創を傷付ける意図でやっている訳ではないので、痛みは全くない。

 

「私は霊が見えるだけだし、霊を祓える訳じゃない。それに私の試験を思ってくれたのは分かってる。でも、日向君達が大変な思いしてる時に何も知らないなんてのは嫌、なんだよ……」

「七海……」

「私もこの計画の協力者……だからさ。せめて教えて欲しい」

「その……ごめん、七海」

 

創は素直に謝罪の言葉を口にする。そこでようやく七海は笑顔を浮かべた。

 

「じゃあ、条件だよ」

「条件?」

「これからこのゲームを一緒にやること。試験が終わった後に、もう一台カセットを貰えたから」

「えっ? 今から?」

 

七海が差し出したゲームは、マーフォーク・ファイターズ。七海が実技試験でやったゲームだ。しかも、創用にもう一台貰ったらしい。

 

「俺、格ゲーはそんなに……てか、今からやるのか?」

「もちろん! 埋め合わせ……するんでしょ?」

「うぐっ!」

 

こうして創は、半魚人のゲームでしばらくの間、七海からボコられることになるのであった。

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