全自動怪人製造マシーンin異世界   作:あなたちゃん

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1:転移事故①

 

「……ま、間に合ったぁ。」

 

 

そう言いながら、その場に崩れ落ちてしまう。

 

極度の緊張がゆるんだせいか、保っていた人間形態が薄れていき節々の細胞が粘性を帯びていくが……、けれどそれも仕方のないこと。なにせ土壇場で発動させた『亜空間緊急脱出装置』は未だ未完成品なのだ。実験ですら成功しておらず、失敗すれば全身が細切れになって弾け飛ぶような代物。本来ならば技術者の一人として使用すべきではないのだろうが……。

 

アレはもう、縋るしかない。

 

何せついほんの数瞬前まで“ヤツの足裏”が目の前に合ったのだから。

 

 

(ぴ、ピレスジェットめ……ッ!!!)

 

 

自身が所属する組織は、『新生デスカンパニー』。所謂悪の秘密結社だ。

 

前身である『デスカンパニー』は世界の約9割を手中に収めていた超巨大組織。多種多様な秘密結社とヒーローたちが鎬を削っていたこの地球に覇を唱え、そのすべてを征服していった最強の存在。政界や経済に強い影響力を持ち、多種多様な怪人。特に昆虫と人間を組み合わせたソレで業界を圧巻させた我ら。まさに敵なし、このまま地球そのものをこの手に収める予定だったのだが……。

 

とある離反者が一人の怪人を作成。

 

“ピレスジェット”を名乗るソレは我らに反旗を翻した。

 

当初は単なる毒の怪人として事を大きく捉える者はいなかったそうだが、離反者は即刻抹殺するのが悪の組織の定め。刺客たちをどんどんと送り出したのだが……、ことごとく全滅。そんな状況を危険視し認識を改めた本部は、彼奴を敵対するヒーローと認め本腰を入れて対ピレスジェットに乗り出した。

 

 

けれど。

 

 

その1年後に本部が壊滅。

 

並み居る大幹部の皆様ですらことごとく討ち死に。

 

最強にして最悪な誉れ高き我らが総統閣下すら敗北し、爆発四散。

 

自身がまだ幹部候補生として『アカデミー』に所属していたころに、デスカンパニーは終焉を迎えた。

 

 

(しかし本部がやられたとはいえ、世界の9割を押さえていたのが我らだ。総統閣下や大幹部の皆様がお隠れになった以上、分裂は仕方ないとしても……。その影響力は衰え知らず。)

 

 

すぐに元通りになると思っていたのだが……。

 

本部を潰したピレスジェットが、弱いはずがない。

 

当初は本部が置かれていた日本でしか活動していなかったのだが、どんどんと世界進出。奴のせいで南米にあったほとんどの拠点が壊滅し、ヨーロッパ戦線も崩壊。無論私が通っていたアカデミーも爆破され、更地になってしまった。自身はなんとか命辛々逃げ延びることが出来たが、ゆく当てもない。

 

既に改造手術は受けており、幹部候補生としての教育も大半は終了済み。エリートとして恥じない成績を残していたが、所属組織が吹き飛ばされればこの身など何でもない小娘でしかない。結果として路頭に迷うことになってしまったのだ。

 

……まぁピレスジェットが意味不明なほどに強すぎて路地裏の隅っこで震えることしかできなかったんだけど。だって同級生がアイツの毒で溶かされて絶叫すら上げられずに気化してたし。ワンパンで教官が弾け飛んでたし。死ぬほど怖い。

 

 

「けれど我らデスカンパニー不滅! 何度滅びようとも蘇るのだ!」

 

 

私だってデスカンパニーと総統閣下に仕えるためアカデミーの門を叩いたのだ。恐怖に震えるだけでは何も為せぬと一念発起し、ピレスジェットに基地を破壊されるも何とか生き残った残党の先輩方の誘いを受け『新生デスカンパニー』に参加。

 

対ピレスジェットを掲げこの欲望の渦巻く国アメリカで再起を計ったのである!

 

そして何より、新しい主人にして大総統閣下はなんとあの“怪人クモ女”様。我らの祖にして人類史最高の怪人博士、“デス博士”が最後に生み出したとされる最高傑作であり、総統閣下が死する直前に後継者としてご指名為されたという素晴らしきお方!

 

まだ私どころか、先輩方すらお会いしたことのないほど高貴な方らしいが……

 

 

「仕える主がいらっしゃることを理解できれば、奮起できるもの。日々邁進しなんとか成果を上げ、今日この日から『ニューヨーク第三支部』を任せて頂けることになった! ……はずだったのに。」

 

 

なんか着任当日にピレスジェットが来やがったのである。

 

というか私が支部長の椅子に座った瞬間に襲撃しに来やがったのである。

 

更に最後の報告を聞く限り他のニューヨークの拠点、ウチ以外全部落とされちゃったみたいなのである。

 

 

『え、私ここで死ぬの?』

 

 

そう零してしまったのも、仕方のないことだろう。

 

なにせ奴のスペックは既に規格外。よくある忌々しいヒーロー物の創作物で登場する最終フォーム、そのスペックが“通常フォーム”になってしまっているレベルの強さと言えば解りやすいだろうか。極めすぎて通常状態が最強みたいな奴だ。しかもその実績は本部壊滅などで実証済み。本当に恐怖しかない。

 

支部に勤めていた怪人や戦闘員が総力をあげて討伐に向かったが……。1分もせずに全滅。すぐに私の目の前に来やがったのである。

 

 

「す、少し前までは隅っこで震えることしかできなかったが、わ、私だってもう支部長なのだ。なんかこう、良い感じの口上を決めてせめて腕一本ぐらいはもいでやろうと意気込んだのに……。あ、アイツっ!」

 

 

問答無用というか、一言もしゃべらずに必殺技を放って来やがったのである。

 

扉を蹴破りこちらを認識した瞬間、ベルトを操作し飛び上がって必殺キック。もう完全に殺しに来てた。サーチ&デストロイ過ぎる。

 

な、何? 新人支部長には前口上すら言わせてくれないの? こういう言葉の応酬ってお約束みたいなものじゃん! 確かに先輩方はニューヨーク住民全員洗脳して指揮下に置いてたし、大統領改造して身内にしてたし、敵対する組織がある都市のダム破壊して水没させたりしたけどこれぐらいよくある事でしょうが!

 

……も、もしかして親類縁者全員誅殺して関わった人間ことごとく処理してきた恨みでバーサクしてる感じ? ん、んなもんそっちが勝手に離反したのが悪いんでしょうが! というかソレ私じゃなくて本部の皆様だし、そもそもその程度で済んでるの滅茶苦茶温情なんだからね! 総統閣下のお優しさがにじみ出てるんだからね!

 

後お前、去年に総統閣下から直々にお年賀とお歳暮貰ったって聞いたのにぶっ殺してるとかどういう神経してるの??? 

 

こ、これだから正義とかいう軟弱野郎は……!

 

 

(まぁでも、あの瞬間本気で死を覚悟したのは確か。)

 

 

戦えないわけではないが、研究タイプの怪人である自身では迎撃は不可能。更に虚を突かれたせいで無論回避も無理。何かできると言えば、手元にある機器を動かすことが出来るぐらい。

 

一抹の望みをかけて『亜空間緊急脱出装置』を使用し、登録済みの構成員と支部基地そのものを転移させる。それぐらいのことしかできなかった。まぁ私以外の構成員は全滅してたので私と基地だけを移動させたのだが……。そもそもこの装置は成功率数%レベルというか、これまで実験に参加した下級戦闘員が爆発四散しかしていないっていう超欠陥品。

 

この支部で研究進めて実用化目指す予定だったせいで、あの場での起動は予想外。

 

正真正銘の賭け、藁にも縋る想いでスイッチを押したのだが……。

 

 

「成功ッ! つまり勝ったのは私! よしっ! よしっ! よーし!」

 

 

完全な逃走ではあるが、生き残った方が勝ちである。

 

まぁ確かに、以前の組織であれば敵前逃亡は死罪。アカデミー生であった私であれば喜んで首を差し出していただろうが……。

 

なにせ今の『新生デスカンパニー』は圧倒的人手不足である。

 

ピレスジェットのせいもあるが、本部が崩壊し世界の9割を押さえていた組織が崩れたのだ。新進気鋭の新しい悪の秘密結社がポコジャガ出てくるのは想像できるだろうし、その対処に我らが追われるのも理解できる話。

 

さらに総統閣下だけでなく大幹部の皆様もピレスジェットにやられてしまったため、指揮系統が壊滅。次のトップに立とうとするものや、誰に指示を仰ぎ忠を尽くすのかでかなりの混乱が起きてしまっている。早い話、派閥争いだ。

 

私達ことアメリカを主な拠点とする『新生デスカンパニー』は“クモ女様命!”で纏まっていたが……

 

 

(アカデミー生でまだ卒業していなかった私が支部長になれるくらいだ。怪人や戦闘員は攫ってくれば幾らでも作れるが、それを指揮したり新しい技術を生み出せる人間は酷く貴重。)

 

 

ゆえに技術者に分類される自身は先輩方からは生き残ること最優先しろと言われているし、その命令に文句はない。

 

それに、噂によると我らが新しい主であるクモ女様はピレスジェットの数段上の力をお持ちと聞く。主人に怨敵をお任せするという配下として超絶のハラキリ案件ではあるが、勝ち目がない戦いに身を投じるのは避けるべきなのはクモ女様もご理解して頂けるはず。

 

不満を抱かれたのであれば即刻自害できるよう準備は整えているが……、我らに出来ることはかの方が我らが前に現れてくださるまで耐える事のみ。つまり政治や経済に口出しできる影響力を維持しながら、ピレスジェットの猛追を躱し生き残る。

 

そしてクモ女様がピレスジェットを打ち倒し、この地球の真なる統治者として君臨される。

 

これほど素晴らしきことはないだろう。

 

それに……

 

 

「試作品ですらないレベルの未完成品だったけど、一度成功しまえばデータが取れる! これが実用化できれば敵の侵入と共に撤退! もしくは敵のみを強制排除できるようになるかも!」

 

 

んふふ、これは出世間違いなし。もしかすればこの功績をクモ女様がお認めになって下さり、私の前に現れてお褒めの言葉を投げかけてくれるかもしれない。

 

以前の総統閣下はよく前線に出られ陣頭指揮を自らなさる方と聞いていたが、クモ女様は逆でこれまで我らの元にお姿を見せてくださったという話は聞かない。おそらくピレスジェットごときに敗北し続ける我らに不満を抱いていらっしゃるからなのだろうが……、これで挽回が出来るはず。

 

うんうん、そう考えれば未来はとっても素敵。

 

 

「よし、やる気出てきた。」

 

 

さっきまで奴に殺されかけていたという恐怖は、クモ女様に褒めて貰えるかもしれないという希望で塗り替えられた。切り替えてまた前に進むことにしよう。

 

けれど……、今ある問題が無くなったわけではない。

 

そもそもの話。基地ごと転移出来たのは確かだが、正直何処に飛んだのかは未知数なのだ。

 

計算では何も存在しない“亜空間”に移動するはずだが、転移完了時に『本来想定していない強い衝撃』がこの基地を襲っている。地球最強の科学力を持つ我らデスカンパニーの粋を集めて作られた基地であるため、そう破壊されることはないだろうが……。何かしらの異常があったことは確かだ。

 

もしかすると違う場所。亜空間どころかアメリカではない別の国に移動した可能性がある。まずは自身とこの基地の安全を保つためにも、今回の“実験”のデータを採取しながら地理情報の確保を行うべきだろう。

 

 

「さぁさ私のデバイスちゃん。お仕事の時間……。圏外?」

 

 

タブレットを覗き込むが、何故かアンテナが0本。通信が全く繋がっていない。

 

けれど画面上で流れる様に文字が表示されていることから、データ採取は問題なし。つまりデバイスは壊れておらず、異常があるのは通信、Wi-Fiの方だろう。そう考え色々診断アプリを走らせてみるが……、Wi-Fi。というかルーター関連には問題が無い。中継地点とネットが繋がっていないようだ。

 

 

「ん~? 外のアンテナが潰れたか? でもアレ地中にあっても機能する奴だったんだけどな。どっかの地下に転移したとしても繋がるし、そう簡単には潰れる様なものでもない。とりあえず座標データぐらいは……、あれ?」

 

 

より詳しく調べるため、ピレスジェットに吹き飛ばされたデスク。その残骸の中から画面に罅が入ったパソコンを取り出し更に色々調べてみるが、座標データすら“不明”のままで固まってしまっている。

 

これはかの大天才デス博士がお昼休憩の際に生み出したとされる“対証明プログラム”だ。お一人で地球の技術を十数世紀進めたと語られる程の大天才。そんな方が作ったプログラムが異常を吐くはずがない。

 

ネット環境が整っていないような場所でも地球上にいるのであれば大まかな位置を割り出し教えてくれるコレが動いていないということは。

 

つまり。

 

 

「ここ地球じゃない???」

 

 

 




感想、評価、お気に入り登録いつもありがとうございます。
してくれなかった人は怪人の素体にしますね♡
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