全自動怪人製造マシーンin異世界 作:あなたちゃん
「へぇ! 筆算ってこうやるのか! 案外面白いんだな!」
「ぎ、義務教育って偉大だったんですね……!」
おそらく傍から見れば体色が白に変化しているであろう自身。アカデミー時代の既に死した友人たちが見れば大声で笑われそうなありさまだが……。それも仕方ない。
なにせハゼちゃん、想像以上のアホの子だったからだ。
いや確かに、彼女の所属していた文明レベルでは義務教育など施す余裕などないだろう。先程彼女から聞き出した“この地域における価値観”を照らし合わせるに、かなり魔物と言う種族に苦しめられているのが推測できる。地球における同時代の人類よりも過酷な世界なのだ、よりそんな余裕など更にない。故に彼女が教育を受けておらず、一桁の足し算引き算ですら苦悩すると言っても、仕方のない話だ。
そう、仕方のない話なのだが……。
(で、でも足し算の筆算でウキウキしてるこの子見ると頭が痛くなりますよ……!)
改造人間はどんなモチーフ素材を使ったとしても、常人をはるかにしのぐ能力を保有することが出来る。それは頭脳も同じで、一部の例外を除き改造前よりも高い知能を示すのだ。無論彼女も同様で能力の向上が見られたが……。我らの改造は科学技術が浸透した“現代”という文明を前提にしているモノである。足し算とか引き算のやり方を埋め込む改造ではない。
ま、まぁ本人の学習意欲が高いため、通常の義務教育よりも時間はかからないだろうが……。
(げ、現状が壊滅的すぎるというか……。)
文字の読み書きは自分の元の名前すら怪しく、四則演算は全滅。
理科は皆目見当もつかず、社会として聞いた現在我々がいる国家の名前すら『王様がいるからたぶん王国』ということしか知らない。
論理的な思考が出来ないわけではないので、ゴブリンよりは死ぬほどマシなのだが……。
「と、とりあえず業務の傍らに勉強会開きますんで。計算と英語だけは出来る様に成ろうね、うん。怪人だったら報告書書けなくちゃ何もできないから。うん。……頑張ろ?」
「おう!!!」
「良いお返事で結構……。」
ちなみに彼女たちの使用言語だが、やはり英語の可能性が非常に高い。
先程手元にあったデバイスで簡単な童話、英語表記のそれを見せてみたのだが、『見たことのある文字』という反応が返ってきた。つまりアルファベット、もしくはそれに類似する言語を使用することに他ならない。彼女の口から聞き取れる言語も少々訛ってはいるが英語であるし、この推測はそこまでズレていないだろう。少なくとも現住人類とコミュニケーション手段に困ることはないはずだ。
(独自の単語などあるでしょうが、一度見てしまえば覚えられる。私も嗜みとして20言語位なら納めてるし、英語じゃなくても流石にどれか掠るでしょ。)
そう考えながら、解答が記入されたプリント。
何故か基地のコンピューターに入っていた小学校低学年用の教材を使用し、此方でコピーアウトした算数プリントをハゼちゃんから受け取りながら、採点を行う。自身はいつの間に教員になったのだろうかと出そうになったため息を噛み殺しながら、現実逃避として思考を他のモノへと割いて行く。
(彼女からようやく聞き出せた、周辺地理。不確定な要素が多く現在位置の判別がまだなのでそのまま使うことはできませんが……。少なくとも“町の方角”という大きな手掛かりを入手することが出来ました。)
まだ改造していない他の“候補”からも断片を聞き出せていたが、未だ彼女たちは完全な身内ではない。
あちらが勘違いしている彼女たちの『私』へのイメージを損なわず、同時に不信感を取られないようにふるまう必要があるため、自身は『周辺地理を知らない』という情報を開示することが出来なかった。確かに話を合わせ彼女達の住んでいた場所などの情報を小出しさせることは出来たが、深堀することが出来なかった形だ。
しかしハゼちゃんを改造し完全な味方としたことで、気にする必要が0に。
大まかではあるが、ようやく周辺地理情報の入手に成功したのだ。
それによると、北の方に彼女の生まれである小さな村が。そこから西に移動することで付近で唯一の城壁に囲まれた大都市があるとのこと。改造前のハゼちゃんが冒険者として活動していた頃はそこで生活を行っていたようで、町に入ることが出来れば多少の案内ができるという。
まぁともかく、全く白紙の地図に原住民からの情報をようやく追記できた形だ。
(位置関係が解れば、索敵範囲をそちらに絞ることが出来る。)
これまでの周辺索敵はこの基地を中心に円を描くように行っていたが、この数日で半径5kmほどの安全は確保できている。これからは周囲の索敵を一定に抑え、どんどんと新地域に進出。現住人類との積極的な交流を目指していくことになるだろう。
何せハゼちゃんが仲間入りしたことで、マンパワーが2倍になった。そして彼女が怪人化した事実を有効活用できれば、他の候補たちもどんどんと此方へ傾いていってくれるだろう。ハゼちゃん同様教育が必要だろうが、人手は確実に増えるはずだ。
故に次に備えた準備。この世界で初めての影響圏の獲得に向けた行動をとるべき。
(やっぱり悪の組織ならば町の一つは支配しとかないとね! 素体の確保もゴブリンから奪うんじゃなくて、もっと大規模にやりたいし!)
ピレスジェットの来襲を警戒し、奴の『善悪チェック』を通り抜けるような面倒な作業を熟さなければいけないのは確かだが……。やることは変わらない。
我らが最終目標はこの世界をクモ女様に捧げる事。つまり世界全てを手中に納める必要がある。
片っ端からひっ捕まえて怪人とし攻め込めば、このような未発展の文明など簡単に墜とせてしまえるだろう。しかしそれではピレスジェットを呼び寄せる可能性が高く、何より美しくない。我らデスカンパニー、そして新生デスカンパニーは悪の秘密結社。その美学を忘れるわけにはいかない。
現住人類の文明文化を学び、統治体制を学び、隙間を見つけ入り込み、徐々に浸食していく。
我ら無しでは生きる事すら出来ぬほどに“整える”のがベストだ。
「……お? 楽しそうな顔してんな主サマ。なんかあったか?」
「ふふ、まぁ今後のことをちょっと、ね? ……さて、採点が終わったわけだけど。」
「おう!」
「繰り上がりの所が全滅してるね、うん。」
「おぅ……。」
「今日はまだいいけど、明日はちゃんと出来る様に頑張ろ? マジで。いずれ参加するだろう他の子にも教えられるぐらいには上達して欲しいし、バリバリ気合出してこう。」
そういうと、若干しょぼしょぼしていた顔に力を入れ、やる気を見せてくれるハゼちゃん。
かなり丁寧に教えたはずなのだが、全滅しているあたり余り勉学に向いているタイプではないようだ。けれど私からの命令であるためか、意欲だけは高い。それは非常にいいのだが……、脳ミソの性能が上がってコレ。正直“改造手術する前”はどれだけ酷かったのかと少し不安になってしまう。
正直に言って、私は私でやりたい研究があるのだ。この世界をクモ女様に捧げる手前、地球への帰還は必須。つまり亜空間を飛び越えて元の世界に戻る研究をしなければならないのだ。故に頭脳労働は現地人類、現住民を怪人化させた者に任せたいのだが、もしこの世界の知能レベルが彼女レベルだとすると……。
と、とりあえず気にしないことにしておく。何処にでも天才はいるはずだし、どうにかなるはずだ。多分、きっと、メイビー。
「あ、そう言えばよ。マーサとベスの奴はどうすんだ? 私みたいに兎の怪人にする感じ?」
「……誰ですそいつら?」
「同室の奴らだが? ……もしかして主サマ名前覚えてない?」
「必要なくない?」
「えぇ……。」
何故か引いている彼女は放っておいて、残りの候補2人ですが特に決まっておりません。まだ適性検査もしておりませんし、マシーンに叩き込んだ後に決める、という感じでしょうね。
まぁゴブリンこと備品たちが毎日外を走り回って魔物をかき集めてますし、地球生物に比較的似ている植物や虫類も着々と集まっています。まだハゼちゃんだけの可能性もありますが、おそらく同じ世界の動植物の方が適性が高そうですしね。地産地消でやっていくつもりです。
「ま、貴女も早く同僚が欲しいだろうし、本人からの申告があれば適宜やっていく感じだね。そのためにもハゼちゃん、貴女もいい感じに宣伝しておいてね?」
「おう! ……ぇ、オレが?」
「勿論。流石に人格が変わり過ぎてるから、怖がらせないよう“以前”の振る舞いでやってもらうことになると思うけど。」
「えぇ、オレ前の奴ナヨナヨしててよわっちくて嫌いなんだけど……。え、ということはこの角も隠さないといけない感じ?」
「当たり前でしょ。私が“スライム”してるの貴女たちに見せた?」
「うぅ、カッコいいのに……」
〇出張拡大! とてもよく解るネオ・デス博士の怪人講座!(クローン爆弾編)
うむうむ、勉強は大事ゆえな! ゆっくりとでも着実に進むのが重要であるぞ! それに、学ぶのに遅いというのは一切ないのだ。やりたいと思ったとき、興味を抱いたときが一番の始め時よ!
っと、失礼した! ごきげんよう諸君! ネオ・デス博士である! 今日もゴブリンと比べれば格段に優秀な貴様らに相応しい講義を“懇切丁寧”に勤めさせて頂く! この人類史上最高の頭脳を持つ私には劣るだろうが、その足元に及ぶ程度には鍛えてやろう! さて今回の議題だが……、むぅ、怪人ではないのか。というか分類的には『備品』ではないか。正直にいえばあまり好きではないので乗り気はないのだが……。まぁクローンも怪人の新しい作成アプローチと見れば、学ぶところもあるか。
うむ、では基本スペックからいこう!
■身長:168.2cm
■体重:25.0kg
■パンチ力:25.0t
■キック力:48.2t
■ジャンプ力:5.2m(ひと跳び)
■走力:5.6秒(100m)
★必殺技:自爆
確かこれは……、あぁそうそう。我らが宿敵であるピレスジェットを罠にかけた時に使用したものだな。当時の作戦担当によって既に奴の恋人は鬼籍に入っていたのだが、その死体を利用してクローンを作成。奴を処定位置に誘い出し誅殺するために作られたものであったはず。
まぁその誅殺担当怪人は逆にピレスジェットの怒りを買って瞬殺され、作戦担当も後にピレスジェットに爆散させられている。大多数用意されていたクローンもピレスジェットに張り付いて自爆したが……。ダメージはゼロ。奴のヘイトを稼ぐだけになってしまった作戦だな、うむ。
……以前から思っていたのだがもっとこう、いい作戦はなかったのか? 折角生前の記憶を全て保有するクローンだぞ? 作り物ゆえに寿命は短いがといっても10年は生きるぞコヤツ? 安易に自爆させるのではなく、生き返った存在として奴の懐に入り込み安寧を得させて弱体化や、傍にいさせることで諜報員として使うとか色々あっただろうに……。
まぁ本部の奴らは既に全員死んだし、終わったようなものだろう。確か新生デスカンパニーとかだったか? 確かこの無能作戦担当の愛弟子とかが現場指揮を執っていた気がするが……。まぁコメントは差し控えておくとしよう。なにせ我が最高傑作であるクモ女の観察で忙しいからな! 組織運営は好きにするといい!
あぁそれと、貴様らは所属する組織をちゃんと選ぶように! 意外と大事だぞ!
では今日の講義は以上! 次までにもう少し真面な頭脳を手に入れておくがいい! さらばだ!
感想、評価、お気に入り登録いつもありがとうございます。
してくれなかった人はハゼちゃんのさんすうプリントの丸付けお願いしますね♡