全自動怪人製造マシーンin異世界 作:あなたちゃん
「ん~、アレがこの辺りで一番大きい町。 『アラーラ』かぁ。」
そんなことを考えながら、高台から見下ろす一つの城塞都市。
ようやく我らは、この世界における初めての文明。人類の生活圏へと足を踏み入れることが出来た。まぁ今日は中に入らず外から様子を見るわけだが……。地球では早々お目にかかれない“古い”ものを見ていると、専門は違えどムクムクと興味が沸いてくる。
(思ったより近くて安心安心。バイク飛ばして2時間くらいかな?)
怪人ホルンハーゼことハゼちゃんから教わった、大まかな周辺地理。その情報に合わせマイクロドローンを走らせることでようやく見つけたのが、この大きな町だ。
我らの拠点との位置関係を考えると、人の足では結構な距離だが……。進んだ文明を持つ我らからすればどうとでも成る距離。基地に保管されていたバイクに燃料を入れ、数時間走らせればすぐに到着できるレベル。それに我ら怪人の足は、機械の足より各段に早い。この程度であればスタミナも持つし、より早く到着することも出来るだろう。
もしこれよりも距離が離れていた場合、利便性から基地機能を移転する。もしくは新たな支部を設立することも視野に入れていたのだが……。余計な手間が無くなりそうで何よりである。
「……にしても、ちょっと圧倒されるよねぇ。これ全部人の手で作ったんでしょ? 頑張るなぁ。」
自身の目の前に広がる都市。先程計測したが、直径は約1km。つまり町全体をぐるっと囲む3km程度の石壁が存在することになる。
壁の高さは約5mほどで、そのすべての石が不ぞろい。積み上げ形にするのにかなりの労力を要したと考えられるが……。思い出すのは、この周辺。まだ完全に調査しきったわけではないが、この都市の周りには幾つかの魔物の生存圏が重なっているように見える。実際ここに来る途中に何匹かのゴブリンを面倒ゆえに轢き殺したし、バイクにビビッて逃げていく幾つかの動物の姿を確認している。
(つまり未発展な技術、ほぼ人力だけでこの危険地帯に町を築いたわけだ。)
当時は生活圏が重なっていなかった可能性もあるにはあるが、もしこちらの想定が合っていれば“そういう”ことになる。此方との技術格差が大きすぎるためこの建造物に対して特に感情を抱くことはないが、これを築くまでに投じた努力の総量は評価せねばならないだろう。
まぁ作戦上必要になれば迷わず破壊するのだが。
「っと、じゃぁそろそろどんな生活してるか見させてもらいましょうかねぇ?」
そう言いながら起動するのは、此方に持ち込んだマイクロドローン。
先日まで基地周辺地理の把握に使用していたドローンをメンテナンスに回したため、倉庫で眠っていた残りの一部を持ってきた形だ。ハゼちゃん相手には流石に『なんか見られてねぇか?』と気が付かれ注目すれば発見されてしまう程度のモノでしかないが……。基地内に放ち“素体候補者”の前を通らせるなどしてみたのだが、やはり反応はナシ。
現住人類では認識できないと再確認できたため、安心して野に放てるわけだ。
「生活もそうだけど、ハゼちゃんだけじゃ解らなかった言語まわり。後は統治体制とかの情報も欲しいよねぇ? 中央の方に簡素だけどお城っぽいのあるし、市中みたらそこ行こ。」
空中に散布しながらそう呟き、バイクの座席に腰かけながらお気に入りのタブレットを起動する。
正直に言えば、この辺りもハゼちゃんに任せたいところだったのだが……。少し前にタブレットを触らせたところ、秒で液晶を握りつぶしていた。力加減が出来ないわけではないのだろうが、目を離した隙にバキバキにぶっ壊していたのだ。まだ在庫はあるし修理も可能、本人にも悪気はなかったため不問としているが……。彼女にドローンの操作が出来るとはとても思わなかった。
一応スマホも用意し、通話などの最低限の使い方を教え。字がまだ読めない彼女のためにも解りやすい絵を用いたマニュアルも用意してはいるのだが……。
(義務教育の時間に“精密機械の触り方”みたいな講義開いた方が良さそうですよねぇ。)
そんなことを考えていると、ドローンたちの移動が終わり町内部の情報がどんどんと画面に映し出されていく。音声も拾ってみれば、見られているのも知らず好き勝手話す人間たち。懐に入れてあったイヤホンを取り出しながら、その全てに耳を通していく。
『おい、通行料』
『あいやすいません旦那。あっしは冒険者でして……』
『だったらさっさとカードを出せ』
『そういやアイツ最近見ないな』
『どうせどっかでくたばったんだろ』
『ちがいねぇ』
『安いよ安いよ! 海から運んできた魚が銅貨30枚! 大特価だよ!』
『いや高いわよ。手なんか出ないわ。やっぱアンタ商才ないしやめましょうよ……』
『ねぇ聞いた? 領主様の娘さんの話。』
『あぁそろそろって話? 葬式とかでまた税が増えるのかねぇ?』
『迷惑よねぇ。最近魔物増えてるらしいし。かといって引っ越すのもねぇ。』
(……ふ~ん。やっぱり“異世界”だね。)
映像と音声を同時に確認できるため、色々と“見えてくる”ものがあるが……。
やはり最初に思うのは、地球との差異である。城壁の建築技術から中世レベル、それも初期から中期あたりの文明力であるのは見て取れるのだが、それにしてはおかしい個所が幾つか見て取れる。その一つとして挙げられるのが、門番相手に下手に出ていた男の所有物。“カード”と呼ばれていたものだ。
もしここが地球における中世であれば、その存在はありえない。
(金属板に洋紙のようなものが張り付けられたカード、質もかなり良かった。今は違うけど、昔の紙は高級品だったはず。でもあまり身なりが良くないコイツが持っているってことは……。)
何らかの方法で量産が出来ている、ということになる。何かの例外で彼だけという可能性も考えたが、そのまま何度か観察してみれば、武器と防具を持つ者が同じようなカードを提示している。
……この世界特有の技術、『魔法』によるものだろうか。
魔物もいれば魔法もあるだろうということで、ハゼちゃんや素体候補たちに話を振ってみたことがある。そしてその結果は、やはり存在するとのこと。しかしながら彼女たちはあまり高い身分ではなかったようで、一番良くても土地持ちの農民の娘。魔法に触れる機会の無かった人間だった。詳しく話を聞けるハゼちゃんにも色々聞いてみたのだが、『火出せたり水出せたりするみてぇだな。んで魔物とか倒すらしい。』とのこと。
まぁ色々と大雑把であり、信用の薄いモノだったのだが……。
(よくある攻撃系の魔法以外にも、生活を豊かにするものがあるのかも。もしくは攻撃を違う方向に転用したか。……見た目通りの“技術力”と侮り過ぎない方がいいかもね。)
自身のタスクに魔法についての調査を追加しながら、更なる確認を続けていく。
冒険者以外で言うと……、やはり“文字”だろうか。ハゼちゃんの話から『冒険者ギルド』という場所が存在しており、そこでは複数の文字を見る機会があったということから、中を覗いてみたのだが……。やはりこの世界の使用言語は、“英語”に近しいものであった。
ドローンを使い何枚かの依頼書、そしてギルドの奥で上役のような人間が処理している紙を見る限り、一部の単語。そして多くの文法が完全に一致している。
「幾つか解らない単語もあるけど……。大分やりやすくなるよね。」
何せ、教育の手間が減る。
い、いや。ハゼちゃんがね? うん。いやいい生徒ではあるんだよ? 本当に。タダ色々付いて来てないだけで。うん。基地での公用語は“地球の英語”にするつもりだったからさ。ほら現地でも活動することを考えれば最低でも2言語習得する必要があったわけでしょう? それが無くなるわけだから……。とっても気が楽。本当に。
……知識階級の人間でも騙して、さっさと怪人にした方がいいかもしれない。今確保してる子達って全員が読めないし書けないみたいだから教育役が欲し過ぎる。
最優先、とまでは行かないけど……。優先度を上の方に設定しておこう。
「ま、そんな感じかな? 病弱のお嬢様がいるって話だったけど……、まぁ今は良いや。後はドローンたちに屋敷内部の捜索。特に税収周りの書類でも探させよっか。」
一般人から拾える情報はこれまでだろうと考え、本命の領主。一番目立つこの都市の城に極小の金属粒たちを向かわせていくが……。
やはり気に成るのは、この“異世界”という存在。
あまり気にしても仕方のないことかもしれないが……、あまりにも“似すぎている”。都合がよすぎると言ってもいいかもしれない。
(地球における創作の知識、そして英語が使えるの。ちょっと考えた方がいいかもしれないね。)
まだこの世界自体の調査が完了していないため断言することは不可能。そして我らが住んでいた地球以外の並行世界についての知識も研究半ばであるため不明点が多いのだが……。こうも“似ている”ものなのだろうか。
確かにこういったファンタジーな異世界は創作物の典型であるが、世界が違えば何もかも違う。そう言った可能性の方が高い筈である。人間以外の種族が地上の覇者になった世界線、そもそも地球が存在しない世界線、我らより高度な技術を持つ世界線。それこそ無限の可能性があるはずである。
しかし私が飛んできたのは、比較的地球の中世と近しく、そして魔物や魔法が存在する世界。まるで物語の中に入り込んだかのような状況。まぁ何らかの方法でこの世界の情報が、地球側の創作者たちに伝わり物語になった可能性もあるのだが……。
(もしかするとピレスジェット以上の厄介ごとが潜んでいるかもしれない。警戒は必要以上に。戦力増強も早めた方がいいかも。)
ないとは思いたいが、こうも都合がいいと“他者の介入”も考えられることである。
私としては転移事故、『亜空間緊急脱出装置』の事故によってこちらに来たと考えていたが、何物かに“引っ張られた”可能性もあるわけだ。この世界の人間が『空間』に対する知識を持っているとは思えないが、魔法と言う未知の存在もある。
(そちらの調査。後魔法使いの怪人ってのも考えた方が良さそうだね。)
考えねばならぬことが多く、少々憂鬱な気分になって来るが……。
やはりそれ以上に湧き上がる、強い興味。
色々考えてはいるが、そのすべてが“未知”なのだ。一人の探究者としてその謎を解き明かし、科学に落とし込んでいくと考えれば、これ以上に心躍る瞬間はないだろう。
我らの王にして支配者である大総統、怪人クモ様にこの世界を捧げるために奔走する。その過程で未知を既知へと叩き落しながら、組織の拡大に励む。まさに趣味と仕事が両立した素晴らしい仕事。これで心躍らぬというのであれば……。そいつはデスカンパニーの人間では、そして科学者でもないだろう。
「ふふ! 楽しくなって……。おや電話。誰から……、ってハゼちゃんしかいないか。」
久しぶりの着信音を聞きスマホを開いてみれば、怪人ホルンハーゼの名が。
色々と不安が残る彼女が無事に通話出来たことに強い安堵を抱きながら、通話ボタンを押す。
『え~、あ~、う~。……これオレの声聞こえてんのか?』
「聞こえてますよハゼちゃん。」
『うわしゃべッ! いや喋るか、うん。というかコレすげぇな! ……うわなんかミシって言った。』
「ハゼちゃん……ッ!」
そう答えを返してみれば、電話越しに響く酷く驚いた声と、楽しそうな声。
おそらく液晶に入ったのだろう罅を無視すれば、まるでタイムスリップした人間が初めて見るテレビや電話に驚くような状景。別にそれは良い、いや良くないがとりあえず良いとすれば……。スマホなどよりも、彼女を改造した『全自動怪人製造機』の方が科学の粋を集めているというか、ずっと最先端である。
ハゼちゃんの改造後にメンテナンスとしてマニュアル片手に中を開いてみたのだが、専門外の私でも途轍もない技術力の塊だということが理解できるトンデモ装置なのだ。一応そのスマホもデスカンパニー製ではあるが、驚くのならもっといいものに驚いて欲しいものである。
「とりあえず指から力抜いて? 帰ったら直してあげますから必要以上に触らないように。……んで、何かあったんですか? 基地ですることは絵にしてお渡ししたはずだけど、何か問題でも?」
『いーや、そっちは大丈夫だ。ただ報告した方がいいんじゃないかな、って思ったのがあってな? ……マーサが主サマに話したいことがあるんだってよ。』
「マーサ……。誰ですソレ?」
『私の同室だった奴。』
「あぁ!」
『……マジで覚えてないんだなこの人。』
うんうん、そう言えばハゼちゃんの元同室。“最初の素体候補”である3人のうちの1人がそんな名前をしていましたね。してそんな彼女が私との面会を望んでいる、と。
「確か戦力増強のためにハゼちゃんには勧誘をお願いしてたよね?」
『あぁ、だいっ嫌いな前のナヨナヨ話に戻してな? んでちょっと話してたんだが、ベスの方はともかくマーサの方は違和感を取られちまったらしい。若干こっちを警戒してるっぽいぞ。』
成程成程。
えぇえぇ、私も賢しい子は大好きです。
何に気が付いたのかは知りませんが……。
「町の調査はドローンに任せておけばいいですし、すぐに戻ることにします。彼女にはそう伝えておいてください。」
『りょーかい、言っとくわ。』
「それと……、また仲間が一人増えるかもしれません。楽しみにしておいてくださいね?」
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してくれなかった人はハゼちゃんのスマホ液晶張り替えておいてね♡