全自動怪人製造マシーンin異世界 作:あなたちゃん
「残り数分かな?」
基地内部に存在する病室。その一つの部屋の椅子に腰かけながら、“対象”を見つめる。
既に必要な“処置”は終わっており、後は彼女が目を覚ますのを待つだけとなっている。早急に熟すべき業務は既に終了しており、現地従業員ことゴブリンたちにも新たな掃除の指示を出している。
自身が動くべき仕事は特になく、明確な目標と方針が決まったのもあるのだろう。余裕が出来たため考えに耽っているわけだ。
「……掃除ちゃんと出来てるのかな?」
思い浮かべるのは、ゴブリン。
出会った当初からそうかと思っていたが、実際に使ってみて『人』ではなく『物』として扱うのを決めた存在である。
これは地球における法解釈になのだが……、犬猫といった“ある程度の知性”を持つ存在であっても、分類上は『物』となる。無論友人やパートナーとして扱う存在がいることは知識として知っているが、これはそういう話ではない。
一定の知性があり感情はあるが、そこに“人格”はない。法的にはそう考えられているという話だ。
(国や地域、思想によって少々変化していくだろうが……。法は人間の“常識”の線引きになりうる。つまり“善悪”の判断基準にもなるのだろう。)
先程少しゴブリンをテストしてみたのだが、やはりその知能は犬未満であった。
まだボーダーコリーの方が上手く答えるだろうというレベル。比較的人に近い口を持つおかげか意思疎通が犬よりもやりやすいという利点は合ったが、その程度だ。確かに人型に近い体つきをしているが……、やはり種族は別種。その知性からも彼らは人として判断されず、また保護されるような存在でもないだろう。
(つまり彼らは“人”とみなされない“モノ”だ。人であればある程度の保証はすべきだろうが、モノならば問題はない。)
まぁ早い話、ゴブリンでは『ピレスジェット善悪チェック』に引っかからないというわけだ。とても安心である。
あと備品なので、組織の従業員として賃金などを払う必要もない。
壊滅しかけている支部長としても安心である。
「……にしても、何で言葉が通じてるんだろうね。」
思考を回していると、こぼれ出る疑問。
先程まで自身は母国語である英語で彼らとコミュニケーションを取っていたのだが、特に何かしら問題が発生することは無かった。余りにも興味深い新天地と、先ほどまで怨敵に殺されかけていたというストレス。それゆえに蔑ろにしていたが、かなり興味深い事項と言えるだろう。
無論ゴブリンという種族が同族と意思疎通を図るために高い共感能力を持っているため、実際は言語など通じていないが雰囲気で理解している。という可能性もあるのだが……。正直に言って彼らに共感能力があるとは思えない。十中八九“言語が通じている”と考えるべきだろう。
「彼女にも通じるのならば、もっと面白いんだけど。」
「……っん」
そう呟けば、彼女のバイタルが徐々に上昇。薄っすらと開き始めた瞳を見る限り、ようやく起きてくれるようだ。……時間は問題なし、調整は上手く行ったみたいだね。
「ここ、は……。」
「ふふ、“解る”ねぇ? とても面白い。」
「……ぇ? ……え!? どこここ!? なんで、え!? え!?」
ついそう小さく零してしまうが、それどころではなのだろう。矢継ぎ早に言葉を紡ぎ始める彼女。自身の身体を撫でまわしたり、来ている服に驚いたり、今いる全く知らない場所に驚いたりと非常にせわしない様子。
正直に言えば彼女を放置し、互いの言語が“ほぼ同じ”ことに関してより思案を深めたいところだが……。少なくとも彼女から信頼を得ることが重要なのだ。声色を意識しながら口を開くことにしよう。
「ここは安全ですよ? 安心してください。」
「え!? ……あ、あの。どなた……?」
「貴女を救出、そして治療させて頂いた者です。そうですね……、『アオ』とでも名乗りましょうか。お好きに呼んで頂いて構いませんよ?」
柔らかな笑みを顔に貼り付けながら、そう名乗る。
幾つかある自身の名の一つで、組織から新しい名を貰うまで使用していたもの。流石にいきなり『怪人スライム女です』と名乗るわけにはいかない故に、此方で名乗った形だ。
簡単なものではあるが此方で“薬品処置”を施したため彼女の精神状態は平常に近いモノへと戻っていることだろう。しかしながら備品であるゴブリンたちに捕まっていた事実は消えない。勿論記憶部分を薬品などで消し飛ばしてもよかったのだが……。アレ少々副作用が強い上に、“恩を売る”ことが出来ない。
「助けて……、ッ!」
「大丈夫ですよ。安心してください、ね?」
過去の自身に何が起きたのかを理解したのだろう、一気にその顔を曇らせる彼女だったが……。彼女の傍まで近寄り、その肩に腕を回す。少々自身の体温を高めに設定しながら、その記憶を薄れさすように。
正直に言えば面倒極まりなく、あまり意義を見出せない行為だが……。彼女にはコレが最適なのだろうということは理解できぬわけではない。同種同性、人のぬくもりという“安心”が一番必要なのだろう。
「全てこちらで処理させて頂きました。体も綺麗な状態に戻していますし、いつでも元の生活に戻ることが出来ますよ。」
「な、治し……、た?」
「えぇ、見てみますか?」
自然と彼女の視線は、その胎へ。
あまり触りたくなかったが、自身の粘体を中に入れ洗浄をさせてもらっている。自前の酸で処分と洗浄を行った形だ。そして基地に残っていた薬品で該当箇所の“修繕”を行った形になる。彼女が産んだという事実は変わらないが、傍から見れば以前と変わりない姿がそこにある事だろう。
……以前の状態を知らないためよくある理想体型に寄せたのだが、もしかすると捕まる前より整ってるかもしれない。まぁ見た目が良ければそれでいいだろう。
「……心が落ち着くまで、好きなだけここにいて頂いて大丈夫ですから。」
「は、はい……。あ、あの。ここは。」
想定ではもう少し長引く、自身に起きた出来事にショックを受けるかと思っていたのだが……。まだ現状を受け止め切れていないか、そもそもの精神が強めなのだろう。そう疑問を投げかけて来る彼女。
それに対し、あらかじめ決めておいた“解答”を返していく。
自身の本性同様、いきなり『新生デスカンパニーの支部』と言えるわけがないので、開示するのは彼女の眼に入る品々から推測できる情報のみ。
私達が今いる場所は、この支部の医療部門が統括していた病室の一つだ。運がいいことにピレスジェットに破壊されず残っていた区画であるためそのまま使うことが出来た形になる。まぁ“まだ構成員”ではない彼女に見せるべきではないものが多かったため、少々物品を整理。何処にでもある様な地球の病室として模様替えを済ませている。
「自身が経営する施設の一つで、貴女のような方を治療するための場所です。まぁ病院みたいなものですね。……といっても、人手不足で一杯一杯な所もあるのですが。」
「こ、こんな綺麗な……。」
「……勿論“お金”は頂きませんよ? 私が好きでやっていることですから。」
彼女の言葉から大体の文化レベルを察する。
自身の視界に見えているのは、現代における一般的な病室。彼女が来ているのもよくある入院服であり、寝転がっているベッドもそこまで良いものではない。しかしそれを見た彼女の反応は、委縮。
(ゴブリンたちが持っていた彼女たちの衣服、その破片から理解していましたが、やはり未発展の様で。“恩”が売り易くていいですねぇ?)
そう考えながらも、更に会話を続けていく。
当初の予定ではこちらで処置したとしても精神が安定しきらないだろうと踏み、少し時間を置くつもりだったのだが……。あちらから質問を投げかけてくれるのならば気にする必要はない。彼女の質問に答えながら、その反応と質問内容から情報を得ていく。
そして必ず、“嘘”は口にしない。
(未来の同志になる素体ですし、こんなことで奴に来られては困るからねぇ?)
此方が彼女達に見せるスタンスとしては『元の生活に戻れるようにサポートする』という形だが……、本意ではない。
無論“嘘”ではないためスタンス通りの行動を起こすが、本音は逆。一生自身の懐から出すつもりはないし、確実に同志になってもらう。これは決定事項であり、彼女たちが何をしようとも変わらない未来だ。
そしてソレを実現させるために……、“罪悪感”を煽る。
あのままではゴブリンの巣の中で一生を過ごし死んでいたような状況から助けてもらったのに、お金すら請求されない。常人であれば少なからず申し訳なさを覚え、何かを手伝おうとして来るだろう。そして私は『人手不足で困っている』というあからさまな事を口にしている。怪人化させるまで彼女達にはゴブリンを見せることはないため、『手伝いやすい』状況は幾らでも作れるだろう。
(だが、私は受け入れない。)
そんな小さなことで恩を返されてしまえば困るのだ。こちらとしてはもっと大きく、言わばその人生全てを私に。いや組織とクモ女様の為に捧げてほしい。
故にずっと飼い殺しにし、彼女たちに“何かさせたい”欲を溜めてもらう。あとはタイミングを見て怪人化の話を匂わせ、各々の欲望に合わせながら『合意』を形成してしまえばいい。
もう二度と同じ思いをしないように力を求めるのであればそれに応え。
私への恩を返すために動くのであればそれに応える。
勿論、此方からは一定の警告を行い怪人化を否定するが、本意ではない。私が呼び止めやめさせようとした事実が大事なのだ。自分からソレを望み、私が折れる形で成立させる。少なくとも表面上は“悪”ではないだろう。
(無論、踏み倒そうと考える者もいるかもしれませんが……。)
私は“お金”を頂かないといっただけであり、“お代”を貰わないとは言っていない。
助けてやった恩を仇で返す様な存在であれば、もうそれは“悪”であり“同業者”であるだろう。つまり『ピレスジェット善悪チェック』は確実にスルー出来る。これを考えている自身にイヤな悪寒が来ないことからも確実に大丈夫だろう。
一瞬、逆に踏み倒そうとした側がチェックに引っかかりピレスジェットが出現する可能性も過ったが……。言わばコレは食い逃げ犯のようなものだ、それに対応したという記録は発見できていないため、この程度の小さな悪事には対処しないと推察できる。
まぁ早い話、同業者であれば手っ取り早く『機械』に放り込めばいいのだ。
アレは洗脳改造も同時にやってくれる故に、気楽でいい。
「……っと、すいませんお疲れのところ。辛いでしょうのに色々と喋らせてしまい申し訳ありません。」
「い、いえ! こ、こんなによくして頂いているのに……」
「んふふ、気にしなくてもいいのに。“ずっとここにいて”もいいのですよ? っと、このままではまたずっとおしゃべりしてしまいそうですね。他の方も目を覚ましたかもしれませんし、一度お暇させてもらいます。ゆっくり休んでくださいね?」
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してくれなかった人はデスカンパニーに履歴書送っておきますね♡