全自動怪人製造マシーンin異世界 作:あなたちゃん
「うんうん、じゃあ早速ハゼちゃんにはお仕事お願いしようか。」
「あ~、ハゼって、オレ?」
「それ以外ある?」
怪人ホルンハーゼ、その下部分だけを切り取ることで通称“ハゼちゃん”。
先程決めたあだ名でそう呼ぶが、帰って来るのは少々不服そうな顔。確かに魚類の名前であることは確かだが、たった二文字で響きも良くとても呼びやすい。本人が本気で嫌がるのであれば撤回するが、個人的にはこのまま使わせてほしい所だ。
「いや折角カッコいい名前つけたんだからさ、ソレ使おうぜ? 別に何でもいいがそう呼ぶんだったら最初から“ハゼ”にしたらよかったじゃねぇか。」
「それとこれとは話が違うんですよ。お約束と言うか、まぁそんな奴。」
「ん? ……まぁいい。んで? なんて意味の名前なんだ? すげぇ響きだし、イイ感じなんだろ?」
何故かキラキラとした視線を向けてくる彼女。
確かにドイツ語は、お亡くなりになられた総統閣下も愛した素敵な言語だ。琴線に触れるということは新生デスカンパニーの怪人として非常に正しい価値観だろう。ただまぁその意味を解っていない時点で、『全自動怪人製造機』は地球における常識などの埋め込みは行ってくれないようだ。先程見せたクモ女様のお写真に対しても“絵”と反応していたし、間違いないだろう。
まぁ異世界に飛ばされるなど誰も予想していないだろうし、仕方のないことかもしれないが……。
っと、意味だったか。
「角兎。」
「……もしかして。」
「うん、そのまま。」
「えぇ……。」
何故か酷く落ち込むハゼちゃん。……もう少し捻った方が良かったのだろうか?
かといって彼女の元の名前はどうせ怪人化するのだから覚える必要はないと思い聞き流していたし、そも我らデスカンパニー系列の怪人は必ずモチーフ素材から名前を取るようになっている。まぁ全世界を支配しかけていた組織故、同じモチーフ素材を使った怪人はかなりの数が存在していた。有名どころだと全く同種のセミで軍のような部隊を作り上げたところもあるという。
まぁそんな場合は適当な名前が与えられていたそうだが……。
「こういったモチーフ素材の名前を頂けるというのはつまり、“そのモチーフで初めて作られた怪人”ってやつなんです。まぁ前任者が殉職して引継ぎ、ってパターンもありますが“初”なんです。とっても名誉なことなんですよ? 私もそうですし。」
「……まぁ主サマがそういうなら信じるけどさ。安直すぎねぇか?」
「解り易くていいのでは?」
額から伸びる長い角を触りながら不満げの顔を露わにする彼女だったが、私がそう返せばとりあえずは納得したのであろう。ゆっくりとだがその佇まいを気が抜けたものから、荒々しいものへと変化させていく。
確実に、改造前の彼女とは違う点だ。
少し“彼女”に付いて気になったこととして、『性格の大幅な変化』というのがある。改造前の彼女はどこか大人しいというか、環境に呑まれそうせざるを得なかったような雰囲気を醸し出していた。昔はやんちゃしていたが今は社会人として真面に過ごしている、という感じ。少なくとも一人称にオレなど使わず、言葉遣いも丁寧なものだった。
しかし“ホルンハーゼ”になってみれば、荒々しい口調に。
彼女なりの筋を通しているのは節々から感じられるため、私と相対する時には注意の必要を感じられないが……。もしここにクモ女様がいらっしゃれば身内の不始末として彼女を処分し、自分も自死する様な態度といえるだろう。
(……モチーフ素材のホーンラビット。その要素にあった『狂暴』が機能したのかな?)
私は罠で確保された姿しか知らないが、備品のゴブリンたちが言うには少々危険な魔物だという。
おつむが弱く力も弱い彼らの言うことなのであまり真に受けてはいなかったが……。どうやら定期的に腹を角によって貫かれる強敵。片手で簡単に持ち上げられるサイズ故に食料としてもあまり嬉しくなく、その危険度から見つけたとしてもその場から離れるのが定石だったようだ。
ここから解る事とすれば、ゴブリンがやはり貧弱と言う事。そして彼らが“危険”と判断するのであれば、ホーンラビットと言う存在は自身よりも大きな敵に対して突っ込んでいくという高い攻撃性を持っていたことが推察できる。
故に要素『狂暴』。あらかじめ施される脳改造、洗脳によって抑えられてはいるが、その中では視界に映るすべてに噛みつくような暴力性が隠されている、ということだろうか。
まぁとにかくコレが口調や性格の変化に影響しているのは確実だろう。
「んで、主サマよ? 仕事って言ってたが……。何するんだ? そこでなんかビビってるゴブリンでも消し飛ばすのか? 折角こんなすげぇ体貰ったんだ。試させてもらっても……、バチは当たらねぇよなァ?」
「ギャ!?!?」
「貴女の“元”を運んできた子達ですよ? あと備品なんで壊さないでね、うん。」
ハゼちゃんがそう言いながら若干腰を下げると、その闘気に滅茶苦茶ビビり始めるゴブリンたち。
洗脳改造によって、デスカンパニー構成員に対する絶対の忠誠を誓っているのが彼らである。加入順で言えば確かにハゼちゃんの方が後輩ではあるのだが、ゴブリンたちの身分は『備品』であり、ハゼちゃんは『怪人』。抵抗すら許されない差がそこに存在している。
けれどまぁゴブリンの貧弱さを考えるとサンドバックにもならないだろう。その『狂暴』さを考えると1体2体破壊したところで気が納まるとは思えない。わざわざ増やすのも面倒なことだし、ここは抑えてもらうとしよう。
そう考え口を開こうとしたのだが……。
「備品? おい主サマよ、こいつら魔物だぞ? 消しとかねぇと色々問題だろうが。あとオレら犯して孕ませた相手だぞ? 仕返しぐらいさせてくれよ。昔はなんも出来なかったが、今は……。だぁいぶ、楽しめそうだからよォ?」
「あ~、そうなる感じ。」
「ギャ!? ギャギャギャ!?!?!?!?」
甲高く目障りな鳴き声、悲鳴か命乞いを上げるゴブリン。
その声が気に障ったのか、更にその身に怒気を纏わせるハゼちゃん。
おそらく沸点があまり高くないのだろう。耐えきれなかったようで、ノータイムで戦闘態勢へと移り“前”への跳躍。常人では決して視認できない速度でその距離を詰め、一瞬にしてゴブリンたちの眼前へ。大きく足を振り上げながらウサギとしての脚力をその脳天に叩き込もうとするが……。
踵と脳の間に納まる、水色の粘体。
「なッ!?」
怪人として強化されている彼女の肉眼。
その強化適性率から、目の前で飛び回る音速の存在すら余裕で認識できるだろう彼女の目だが……。その反応を見るに、此方の動きを把握することは出来なかったようだ。彼女からすれば目の間に突然私の肉体が現れたように見えただろう。
この指先から伸びる、幾重にも重なった粘体の触手。確かに自身は研究職向きの怪人であるためその出力は低めだが、工夫次第で幾らでも補うことが出来る。すべての衝撃を粘体で吸収し、足全体に這わせることで拘束完了。同胞ゆえに一切の害意は発しておらず、それはあちらも理解しているだろうが……。
少々こちらを“嘗めている”のだろうか?
声色をより上位者、彼女らの長として恥じぬものに切り替えながら、口を開く。
「控えろ、怪人ホルンハーゼ。」
「ッ! も、申し訳ありませんッ!」
「……うん、わかったのならよし! 気持ちは解るけどね、今は我慢しようね、うんうん!」
ちょっと怒れば、すぐに足を引きこちらに頭を下げてくる彼女。
少々気性の問題があるようだが、しっかりと上下関係は理解できているようで何よりである。折角この世界初めての怪人なのだ。組織の人間として恥じぬ振る舞いをしてもらいたい。
「ほら今さ。基地がちょっと崩壊済でしょう? もう少し設備を整えればクローン系の機器も復旧できるだろうからさ。それまで待ってよ。ね?」
「は、はい……。」
彼女に言ったように、この基地にもクローン生産設備は整っている。
未だその寿命などの問題が解決されておらず、怪人のクローンはどうしても出力が低下するため基本的に使用することはないのだが……。ゴブリンのような“備品”程度であれば、幾らでも生み出すことが出来るだろう。といってもピレスジェットに念入りに破壊されてしまったため、当分動かすことは出来ない。修理マニュアルや作成マニュアルが我が手元に残っているため、時間をかければ復旧させることは可能だが、優先度が低かったため後回しにしていた。
(本部の方々が怨敵であるピレスジェットの恋人。そいつのクローンを大量生産して襲い掛からせ、目の前で自爆させた位なのに……。よっぽどクローンが嫌いなんだろうねぇ。ヘイトヤバい。直すのにどれだけ時間かかるんだろ。)
そんな奴の話は置いておいて。
新入りであるハゼちゃんが私の仕事を肩代わりしてくれ、より効率的に業務を回せるように成れば……。そんなクローン生産設備も再稼働も可能である。私は大量の備品が手に入って幸せ、ハゼちゃんはサンドバックが沢山仕えて幸せ。そう考えれば、復旧優先度を上げるのも一つの手だろう。
(……となると、こっちの案は不採用で行く感じね。)
そもそもゴブリンは繁殖スピードがかなり速い生物ということが判明している。
これをそのまま利用すれば確かにクローンなど用意せずとも済むのだが……。それには適当な雌を用意する必要があった。私も女であるため可能ならば実行したくはないが、自身は女である前に支部長である。頭脳労働は不可能だが、単純労働の人手として見れば一定の価値がある。必要であればそれ専用の職員を“雇用”するのも手段の一つだと考えていた。
しかし先程のやり取りから彼女に少々のトラウマが残っているのが見て取れる。
構成員に必要以上のストレスを与えるのは基地の長として避けるべきだし、クローンという代替手段があるのであればわざわざ嫌なやり方を採用する必要はない。勿論ゴブリン如きが我ら怪人に勝てるわけがなく、洗脳改造という不可逆な処置が施されている故にトラウマが再発する様な事項は起き得ないのだが……。我らデスカンパニーは構成員に優しいことで有名なのだ。ピレスジェットのような裏切り者は地獄に落ちてもらうが、味方には最上の職場を用意する義務がある。
まぁウチは絶賛人手不足だし、配慮するにも限界がある。
ちょっとぐらいの思考誘導ならば許して頂きたい。
「……あぁ、そもそもクローンがちょっと解らないか。早い話、無限にこいつらを生み出せるような日が来るってこと。こちらで調節できるし、洗脳済みだから危害も加えない。ハゼちゃんも1体2体消しただけじゃ気が済まないでしょう? お仕事頑張ってくれれば好きなだけ鬱憤を晴らす場と“的”を上げる、って言ってるの。」
「そ、そりゃありがたいですが……。ま、マジでこいつら使役してんのですか?」
「そうだよ? あ、話し方戻していいからね。怒ってナイナイ。」
そう言いながら、ちょいちょいと彼女を此方に呼び寄せ、少しかがませることでその大きな耳に告げ口をしてやる。
「今から貴女にこいつらの指揮頼もうと思ってたんだけど……。どう? 自分を酷い目に合わせた奴らがセコセコと自分に隷属して働きまわっているのを見るのは。“壊さなければ”何してもいいし……、仕返しするのにはちょうどいいんじゃない?」
「……へぇ?」
今後のお仕事と、その報酬。
ソレをちらつかせてみれば、とても“良い”笑みを浮かべる彼女。
私の場合であれば、ピレスジェットが私に下手に出ながらびくびくして言うことを聞いているような状況である。そんなの面白くて仕方がないだろう。『狂暴』さからくる加虐性も少しはソレで収まるだろうし、此方としては備品が幾らダメージを受けようとも、仕事さえしてくれれば何の問題もない。耐用年数などが少々気になるが……。その時までにクローン設備を復旧させるか、適当な巣を探させて彼女に新入りを捕まえてきてもらえば問題はないだろう。
「さっすが主サマ! オレらのこと騙してただけあって悪だねェ!」
「騙してませんよ? 嘘を言ってないだけです。」
「……そうなのか? まぁいい! ともかく気に入った!」
いい返事を返してくれる彼女。
まだまだ新入り故に色々と面倒を見てやらねばならないだろうが、やる気があるのは大歓迎だ。ゴブリンとは違い彼女は正規の構成員。衣食住の補助は勿論、報酬もしっかり払わねばならない。無論それは現金だけでなく、個人の趣味嗜好の実現も含まれる。
支部長の仕事はその手助けをすること。無事業務を熟せそうで何よりだ。
「さて、では早速業務説明に移っていきますが、質問があればすぐに教えてください。あぁそれと、必要ならメモもお渡しするので使用すること。」
「文字書けねぇから頑張って覚えるぜ! あ、あと先に一ついいか?」
「……か、書けないの? あ、うん。それでなんです?」
「そもそもなんで魔物をビヒン? にしてんだ? 普通に駄目じゃね? オレよりも強い主サマなら危ないってことはないだろうが、なんかこう駄目な気がする。法律とか違反して……。あ、悪いことだからそれでいいのか? あれ、駄目だからいいのか? 駄目だから駄目なのか? うん???」
頭を傾げながらよく解らないことを言い始める彼女。
も、元からそこまでおつむの弱い方だと思ってはいましたが……。
あ~、うん。ちょっと仕事の前にお勉強と前提の擦り合わせしましょうか、うん。改造での埋め込み知識だけでは解らないこともあるでしょうし、色々と教えてあげます。
あと文字書けるようになりましょうね、マジで。
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してくれなかった人はクローン爆弾にしますね♡