今週の魔法少女は事情により変身できません   作:佐藤悪糖

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※ブルーレイ版では規制がなくなります

 ブラスター・スパークこと鮫田緋色は歴戦の戦士である。十五年のヒーロー生活の中で数多の敵と戦い、そのすべてを打倒してきた。世界を救ったことも何度もある。世界を手中に収めようとした巨悪を討ち、神を名乗る破壊者を退け、守護者として影からこの世界を守り続けてきた。

 

 その彼をして、空に浮かぶ王の姿に言葉を失う。

 見ればわかる。あれは違う。存在の土台からしてまるで違う。人の尺度では測れない。あれはもう、神の領域に踏み込んでしまっている。

 これほどの敵と相まみえた経験は数えるほどしかない。その経験も、果たしてどこまで通用するか。

 

 雷光をまとい、ブラスター・スパークは空を駆ける。空を刻むジグザグの軌跡。足跡のように稲光を残しながら王に迫り、雷を纏った拳をまっすぐに打ち込む。

 

 ライトニング・ヴォルト。

 

 天海結城が模したそれとは、速度も出力もまるで違う超人の雷撃。先日灰の獣を一撃で貫いた、スパークの代名詞的必殺技だ。

 銀天の王は、その拳をかざした手のひらで受け止めた。

 

「しね」

 

 王が呟くと、かたわらに光球が二つあらわれる。恒星のようにくるりと巡ったそれは、白熱し、凝集し、続けざまに爆発する。

 こんな反撃もスパークにとっては想定内だ。咄嗟に雷光を放って攻撃を相殺した彼は、吹き飛ばされつつも空中で姿勢を制御し、きっちり足から着地した。攻撃の余波に周囲の地面は割れたが、本人にダメージはない。

 

 王は少し驚いた。死体すら焼き尽くすつもりで放った一撃だ。防がれるどころか、有効打にすらならないことに感嘆の息を漏らす。

 一方でブラスター・スパークの顔も苦々しい。スパークの攻撃とて生半な相手に耐えられるようなものではないのだ。それを、ああも簡単に。

 

 強いとはわかっていた。しかし、これほどとは。

 昨年、世界を煉獄に変えようとした溶融王デスメルトでもここまでの力はなかった。匹敵するとすれば、当時のスパークでは封印することしか叶わなかった冥王神ダイダーンか、あるいは限界を超えた死闘の末に打破した風帝シュラウド・ストームの最終形態か。

 緒戦ですらそのレベル。それもまだ、おそらく相手は本気を出してすらいない。

 

「悪いな、夜空」

 

 苦々しく呟き、ガントレットの甲に埋め込まれた黄金の宝珠に触れる。

 スパークの全身に激しい雷光が巻き付いた。

 

 要所を覆うにとどまっていた武装が、鋭いエッジを帯びた鎧に変わる。腕を覆うガントレットからは稲光が溢れ出し、バイザーは激しい怒りを思わせるマスクとなる。

 スパークの背後には稲光を封じた黒雲が漂い、輪をなした雷太鼓が浮かび上がる。ゴロゴロと雷が轟くたびに、凄まじい電圧が雲の中から漏れ出した。

 

「手加減はできそうにねえ」

 

 雷神覚醒(ライジング・フォーム)。ブラスター・スパークの奥の手だ。

 雷神は空に舞い、銀天の王と相対する。歴戦のヒーロー(ブラスター・スパーク)滅びの魔法少女(アストロバスター)。二人が向かい合うと、降り注ぐ流星と駆け巡る雷光が夜空を彩った。

 

 合図もなく死闘がはじまる。星が爆ぜ、雷光が轟く。威を見せつけるように空を舞うアストロバスターと、雷光のように鋭く駆けるブラスター・スパーク。空を裂いて放たれる拳と、空を砕く爆撃が幾度も交差する。

 一撃一撃が必殺で、一撃一撃が究極だ。足を置けばそこが死線。一つ間違えれば勝敗はおろか生死すら定まってしまう極限に、少女と男は一瞬のためらいもなく身を投じる。

 

 当初、二人の間に優劣はなかった。ぶつかり合う力と力は拮抗していて、針はどちらに振れてもおかしくはなかった。

 幾度かの攻防の後、銀天の王は小さく呟く。

 

「なるほど」

 

 感触を確かめるように、手を握って、開いて。

 

「大体、わかった」

 

 二人に違いがあるとすれば、経験の多寡になる。

 王にとってはこれが初めての戦闘だ。その身に宿る力は理解すれど、扱い方までは心得ていない。自分に何ができるかを一つずつ確かめていたのが、先程までの戦闘だった。

 

 そして今、確認は終わった。最適化は済んだ。

 後はもう、滅ぼすだけだ。

 

「準備運動はもういいか?」

 

 拮抗が崩れつつあることはブラスター・スパークも理解していた。

 すでに戦士として完成している彼にこれ以上の伸び代はない。戦い方なんて体に染み付いているし、奥の手だってとっくに切っている。

 アストロバスターが戦いの中で研ぎ澄まされていくのであれば、ブラスター・スパークにそれを追う術はない。

 しかしそれでも、勝算はある。

 

「じゃ、そろそろ終わらせるぞ」

 

 ブラスター・スパークの拳に激しい雷光が迸る。呼応するように、アストロバスターの手のひらに恒星の輝きが溢れる。

 銀天の空に並び立つ、二つの光輝。短期決戦を望んだのはスパークのほうだ。その挑戦に王が答えた形になる。

 

 最大火力というのは扱いが難しい。決まれば勝負が決まる一撃というのは、外せば負ける一撃でもある。やると決めたならば、文字通り必ず殺すつもりで撃たねばならない技だ。

 互いが有する最大火力同士の直接対決。純粋な力の差で言えば、アストロバスターが上回る。ゆえに王は迎撃を選んだ。攻め込んで相手を切り崩すよりも、受けに回った方が戦いとしては簡単だ。

 

「超光雷電」

 

 一方で、ブラスター・スパークは攻め込んで切り崩すことを得意としている。

 理由は一つ。

 速度だ。

 

「紫電蒼雷――!」

 

 雷光を纏い、戦士が駆ける。速度を活かした最高速の撹乱。銀天に描かれる稲妻の軌跡は、螺旋を描きながら王の周囲を取り囲んだ。

 やはり直接対決は避けてきたか、と王は思う。前か、後ろか、左か右か。周囲をぐるぐる回る敵は、どこから仕掛けてくるかわからない。

 

 王にとっては想定内だ。真っ向勝負で勝てないなら、奇襲を仕掛けるしか道はない。

 そういった戦い方は、王の体が覚えている。

 夜空ほろびが覚えている。

 

「……それは、もう」

 

 しかし王には必要のないものだ。

 小細工や絡め手など、力なき弱者が頼るもの。

 銀天に坐す天上の王は、絶対的な強者であるのだから。

 

「捨てたから」

 

 わずかな空気のゆらぎ。戦いの緩急。首筋を焦がす殺気。それらの情報を手がかりに、まったくの身体性能で王は奇襲に反応する。

 上だ。

 銀天を見上げれば、迸る雷光を身に纏って拳を振り上げるスパークがそこにいた。目が合うと彼は驚いた顔をする。一方で王は眉を潜めた。銀天の王である己の上を取るとは、なんたる不敬か。

 

 不意打ちの失敗を悟り、スパークの顔に迷いが浮かぶ。しかし仕切り直すような余裕もない。この体勢から回避行動に移れば無理が生じ、相手はその無理を確実に突いてくるだろう。

 コンマ数秒の逡巡の後、振り切るようにスパークは攻撃を選ぶ。

 雷を纏った拳を、直上から王にめがけてまっすぐに振り下ろす。空を引きちぎるように落ちる軌跡は蒼い雷となった。

 

 決まれば必殺の一撃も、当たればの話だ。軌跡を読み、雷光に反応した王は、手のひらに籠めた恒星の輝きをもってその一撃を迎え撃つ。

 王の対処は精確だった。雷が届くより先に輝きは爆発に変わる。一際大きく光が爆ぜると、閃光が蒼雷を飲み込んだ。

 

 奇襲を見破り、真っ向勝負で抑え込む。王にとっては理想的な戦型。攻防は王の思う通りに終わる。

 しかし、違和感があった。

 あまりにも手応えがなさすぎるのだ。

 

 満を持してブラスター・スパークが放った蒼い雷には、最大火力と言っていいほどの威力はなかった。王の一撃を相殺する素振りもなく、素直に輝きの中に飲み込まれていった。

 違和感はある。しかし、その感覚を結論に結びつけることはできない。

 それをするには、王には経験が足りていない。

 

「いいか、蒼雷は攻撃のための技じゃねえ」

 

 王の背に、ブラスター・スパークの声が届く。

 二人の間には大きな差がある。経験の多寡だ。

 アストロバスターはこれが初陣の魔法少女で、ブラスター・スパークは歴戦の戦士だった。

 

「本質は敵の反応を振り切る一瞬の超加速にある。つまりは、ただのフェイントだ」

 

 スパークが相手の周囲をぐるぐる巡っていたのは、撹乱のためではない。巡航速度(・・・・)に相手の目を慣れさせるためのブラフだ。

 そうして相手の反応を釣りだしてから、蒼雷の超加速で一気に抜き去る。敵の大技をかいくぐり、本命の一撃を叩き込むための、ただの前座。

 

「これも授業だ。覚えとけ――!」

 

 紫電蒼雷はただ最大火力を叩き込むだけの技ではない。それを必中させるためのセットアップまで含めて一つの技。戦いの中で磨き上げられた、勝つための手段である。

 背後を取ったブラスター・スパークが、王の背に手を当てる。

 

「紫電!」

 

 電光が王の身を刺し貫く。

 いかに王と言えど、元は中学生の少女の体だ。華奢な体を喰らうように雷がほとばしり、王の体はびくりとのけぞった。

 全身が感電するとともに、翼が痺れた王は飛行能力を喪失する。そのまま地表にまっすぐに落ちていった。

 

 ブラスター・スパークにとっては、これでようやく第一関門突破だ。今回の相手はただ倒せばいいというものではない。教え子は教え子だ、きっちり助ける必要がある。

 どんな困難が立ち塞がろうと、救うべきものは救わなければならない。ヒーローとはそういうものだから。

 

「天海ィッ!」

 

 そのためには、もう一人のヒーローの手を借りる必要がある。

 

「え、はい、私ですか!?」

「天海、今しかねえ! そいつを正気に戻せ!」

「えっ、えっ!? どうやって!?」

「こういう時は愛か絆だ! 大抵そういうのでなんとかなる!」

「アバウトじゃないっすかー!?」

 

 ブラスター・スパークは状況を知らない。彼がこの場に駆けつけたのは流星が降りはじめてからのことだ。夜空ほろびがなぜああなったのか知らない以上、彼にできるのはここまでだ。

 一方で、場を任された天海結城も困惑していた。関係者ではあっても彼女は限りなく傍観者だ。後輩たちのにゃんにゃんを楽しく鑑賞していただけの彼女には少々荷が重い。

 

「任せてください!」

 

 動き出したのは七村菜乃花だ。地面に倒れ痺れる体でもがく王のもとに、菜乃花は真っ先に駆け寄った。

 愛か絆。選択肢は二つ。迷うまでもない。

 七村菜乃花には言いたいことがある。どうしても伝えなければならない言葉がある。胸に秘めた言葉をぶつけるとすれば、今こそその時だ。

 

「ほろびさんは勘違いしてる。菜乃花にとって、ほろびさんは、ずっと。ずっとずっとずっとずっと……!」

 

 動けない彼女を仰向けに引き起こし、菜乃花はその上に馬乗りになる。

 手つきは淀みがなかった。まるで、イメージトレーニングだけは何度も繰り返してきたかのように。

 

「特別な人なんだからーっ!」

 

 そして、菜乃花は顔を近づけて。

 (※自主規制)をした。

 

「!?」

 

 王の目が驚愕に見開かれる。手足を振るって菜乃花を突き飛ばそうとする。しかし痺れた体は言うことを聞かず、どれだけ暴れようとしても指先が震えるだけで、結局はただ瞳に涙をにじませることしかできなかった。

 

 その間も菜乃花は一切容赦しなかった。まずはついばむような(※自主規制)。それから王の(※自主規制)に(※自主規制)を入れ、互いの(※自主規制)と(※自主規制)を丹念に絡み合わせる。そこで一旦顔を離すと、二人の(※自主規制)が粘った糸を引いた。

 

 そして、もう一度。今度はより深く、より(※自主規制)を確かめあうように。確かめているのは菜乃花だけであり、一方はただされるがままではあるのだが、菜乃花にとっては些細な問題だ。息が止まるほどに強く体を寄せ、求めるままに菜乃花は(※自主規制)を繰り返す。

 

 王は混乱していた。どうして私がこんな目に、なんてことを思っていた。相手は所詮は人の子だ。銀天の王がその力を振るえば、指先一つで消し飛ばせるほどに脆弱な。しかし現実はどうか。王は一切の抵抗を許されず、ただされるがままになっている。

 

 戦いの中で蓄積された負担と、今まさに蓄積されている別方向の負担。その二つが頂点に達した時、王の身を包む黒いドレスが淡い光に包まれる。

 蛍が飛ぶように光が散る。王の姿が変化する。変身が解け、銀の長髪が黒く短い普段のそれに戻ると、そこにいるのは制服姿の中学生。夜空ほろびである。

 

 それを見届けた菜乃花は、もう一度(※自主規制)をした。

 

「!?」

 

 これに困惑したのは夜空である。先程まではまだわかる。心の闇に飲まれた自分をもとに戻すためという大義名分があった。しかし今は違う。理由がない。これ以上菜乃花が(※自主規制)をする理由なんてないはずだ。

 少なくとも夜空ほろびはそう思っていた。

 

「なのか、もう、へんしんとけて……っ!」

 

 菜乃花が顔を離した一瞬に、夜空は半泣きで訴える。色々いっぱいいっぱいであるせいか発音も辿々しい。

 しかし菜乃花は止まらない。瞳は恍惚に揺れ、愛しさに口元をゆるませながら、ためらうことなく(※自主規制)を繰り返す。

 

「~~~~~~~~~~っ!」

 

 わけがわからなかった。自分は何をされているのか。このままどうなってしまうのか。夜空ほろびの頭の中はいっぱいいっぱいだ。

 抵抗できるならそうしている。しかし、彼女にできることは何もない。手も足も痺れて動けず、魔法少女の力も失い、ただの中学生である夜空にできることなど一つもない。

 次第に抵抗の意志が消えていく。もうどうにでもなれ、と。諦めの境地に達した夜空は体から力を抜いた。

 

「やりすぎだっち……。こんなの放送できないっちよぉ……!」

 

 一方、れくたは一人頭を抱えた。




R-15タグをつけざるを得なかった理由、これ
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