カコと見る世界   作:星月

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二話 ボーダー

 加古と小早川、吉良の出会いからおよそ二週間が経過した。

 あれから吉良は両親とも話し、直前に迫る小学校の卒業後、落ち着いた5月の入隊式をもってボーダーに入ることを決めていた。

 年下とは思っていたが、まさか小学生だったとは。予想以上に幼かったという事実に驚かされたのも今となっては懐かしい。

 ボーダーに入るに当たり、三門市の寮のある中学に通い、そこからボーダーまで向かうということまで相談済みであった。

 卒業式も無事に終えて、ようやく自由に動けるようになった吉良は――

 

「――ようこそ。待っていたわよ、吉良」

「お久しぶりです。まずは卒業、おめでとうございます」

「ありがとうございます、お二人とも」

 

 ボーダー本部、加古隊の作戦室にて加古と小早川の二人に出迎えられていた。

 久しぶりの再会に皆自然と頬が緩む。

 特に吉良は今回は幼さがよくわかる白を基調とした私服での来訪とあって、よけいに可愛らしさが際立っていた。

 

「それじゃあ、今日はボーダー本部を案内するわね。まずは当然だけど、ここ。加古隊の作戦室よ」

「もしも吉良さんが正隊員になって、そして希望して貰えれば、自由にここを使えるようになります」

「私達はいつでも待ってるわよ。勿論、あなたが他に行きたいところがあるなら、話は別だけど」 

「いえ、そんな。お二人に誘っていただいたんですから。もしも本当に入れるのならば、その方が心強いですし」

 

 知らない環境とあって、誘って貰えるのはむしろありがたい話だ。

 吉良は視線を物珍しげに視線を右往左往させ、予想よりも広い部屋に目を輝かせた。

 

「……本当に作戦室なんですね。パソコンとかモニターも置いてあって。しかもとても綺麗です」

「うちは杏が整頓上手なの。とても助かってるわ」

「いえいえ。そう言っていただけると嬉しいですが」

 

 手前の会議部屋は勿論、奥の部屋にはソファのある部屋や食器棚などが置かれた部屋が見えるが、いずれも清掃が行き渡っている。それでいて必要なものは揃っていて、まさに作戦室というような環境に胸が踊った。

 

「あと本当はもう一人いるんだけど、今日は不在なの。今度タイミングが合えば紹介するわね」

「そうなんですね。楽しみにしています」

 

 ――もっとも、彼女の場合は少し特殊なのだが。

 とにかくまずは出会ってからだろう。加古は下手なことは告げず、話を続ける。

 

「あとは本部の施設を私達が案内するわね。一人で来ようとすると迷子になっちゃうだろうから、もしわからなかったら私達をいつでも呼んで構わないけど」

「でも入隊したら一人で動くこともあるでしょうから、特に使うと思われる場所を教えますね」

「よろしくお願いします!」

 

 説明すると、元気な声が帰ってきた。

 落ち着いた物腰で人の相談に載る姿も吉良の一面だが、やはりこの元気な姿も彼女の本質なのだろう。

 二人は笑みを浮かべてボーダー本部の廊下を先導しはじめた。

 各隊の作戦室を抜け、ラウンジや訓練室、ランク戦室を案内したところで。

 

「――加古か。個人ランク戦に出ている様子でもないのに、こんなところで何をしている?」

「あら、二宮くん」

 

 三人はナンバーワン射手と呼ばれる実力者、二宮と遭遇した。

 

「久しぶりね。今日はこの子を案内してたのよ。今度ボーダーに入る予定なの」

「吉良さんです」

「は、はじめまして。吉良葵です。二宮さんですよね? 加古さんから噂はかねがね」

 

 加古と小早川に促され、吉良が会釈する。

 幼い見た目と大人しそうな見た目に興味を惹かれなかったのか、二宮は「そうか」と短く返すに留まった。

 スーツに身を包み、険しい表情を崩さない長身の男性を目にしたためなのだろうか、吉良は怯えたようにそっと後ろに下がり、加古の袖を引っ張る。

 

「あの、加古さん。私のこと、二宮さんに話しましたか? 警戒されてるみたいですけど」

「えっ? いえ、別に話したりはしてないけど。どうして?」

「いや、だって……」

 

 吉良は恐る恐る二宮の腕を指差して話を切り出す。

 

「ずっと両手をポケットの中に入れたまま動きませんし……」

 

 訂正。

 どうやら吉良は二宮が両手をポケットの中から微動だにしないことに戸惑っていたらしい。手を触れることにより、内面を探られることを二宮は嫌っていると判断したのだろう。

 思わぬ指摘を前に、加古は笑いを耐えるのに必死だった。

 

「吉良、違うのよ。彼は警戒してるんじゃなくて、そういう年頃なの。わかってあげて」

「そ、そうなんですか?」

「……おい、待て。何か温い説明をしていないか?」

 

 二宮に聞こえないよう小声で耳打ちすると、不審に思った二宮が低い声色で問い詰める。

 

「そんなことないわ。この子に二宮くんのこと、しっかり教えているだけよ」

 

 気のせいか、吉良は加古の笑みが悪い笑みを含んでいるような、そんな錯覚を覚えたのだった。

 

「おお加古。おつかれさん。その子が例の新人か?」

 

 加古の新しい一面に戸惑っていると、さらに新しい顔ぶれが姿を現す。

 長い黒髪と眠たげな目をした細身の男性。穏やかな雰囲気を醸し出しているその人物が見えると、加古と二宮は即座に彼へと視線を向けた。

 

「東さん」

「お久しぶりです。ええ、この子が以前スカウトした子、吉良です」

「はじめまして……」

「こちらこそ。東だ、昔二人とは部隊を組んだことがある。何でも相談してくれ」

 

 お辞儀をすると、東と名乗った青年も人当たりの良い笑みを返して吉良の緊張を和らげる。

 

「良かったわね。誰か相談しやすい人に紹介できればと思っていたけど、東さんならわからないこと何でも教えてくれるわ。頼りにすると良いわよ」

「そうなんですね」

 

 隣には同じく隊長の二宮もいるのだが、加古はあえてそれを口にせず、彼からの視線もわざとスルーした。

 

「……ああそうだ。東さんがいたのなら、ちょっとお願いがあるんです」

「ん? なんだ?」

 

 そして加古は名案が思い浮かんだと、東を見てあることを提案する。

 

「吉良とちょっと握手して貰えませんか? 吉良、良いわよね?」

「……なるほど。わかりました」

「握手? それだけで良いのか? 別に構わないが」

 

 加古の意図を察して吉良は即座に頷いた。

 東も特に断る理由はなく、差し出された手を軽く握りしめる。

 二人の手が交わったところで、再び加古が話し始めた。

 

「ありがとうございます。それで東さんに聞きたいことがあったんですけど。東さんは今まで新人を教えるとき、どんなことを考えて教えていますか?」

「ああ。この子の参考にか? そうだな……」

 

 加古は東に有力な人材を発見したとは伝えたが、副作用(サイドエフェクト)のことまでは伝えていない。

 そのため本当にあくまでも参考程度の話を聞きたいのだろうと東は考え、これまでの指導方針を脳裏に思い浮かべ……

 

「……あ゛っ……! う゛、ぁぁっ…………!?」

 

 突如吉良が頭を抑えて苦しみ始め、そしてその場に倒れ込んだ。

 

「んっ? えっ?」

「吉良!? どうしたの!?」

「大丈夫ですか!?」

 

 予想外の事態に東から手が離れ、加古と小早川が彼女の体を支える。

 息も荒く、何度か体を揺すってようやく吉良から言葉が返ってきた。

 

「……っ。すみません。こんなの、初めてで」

「初めて? どういうこと? 東さんが何か良からぬことを考えていたの?」

「加古……? 俺がなにもしていないことはお前も見ていたよな……?」

「大丈夫です。俺も目撃しているので安心してください」

「すみません。後で説明しますけど、違うんです」

 

 元隊長に向けるような台詞とは思えない発言に、東が口を尖らせる。

 小早川が何とか宥めようと説得していると、吉良の口からは驚きの発言が飛び出した。

 

「一瞬で、6個の記憶が同時並行に、全く情報の濃淡の差がないまま溢れだして、情報がパンクしちゃって……」

 

 なんと、東は6つの記憶を完全に同じタイミングに並列させ、同じ密度で情報を処理していたのだと明かす。

 そしてその膨大な情報量に彼女の脳が耐えきれず、ストレスで停止してしまったのだと。 

 

「……東さん。まだこの子、入隊式も済ませていないのに。いくらなんでもこんな洗礼酷すぎます」

「待ってくれ。頼むから説明してくれ」 

「すみません。本当に全部説明しますので」

 

 後に作戦室に戻ってから吉良の副作用(サイドエフェクト)について全て説明するのだが、この事が切欠で吉良は早くも東にトラウマを抱いてしまうとは知る由もなかった。




東さんならおそらく普段からこれくらいするという謎の信頼感。
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