カコと見る世界   作:星月

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四話 入隊

 入隊日までの仮入隊期間の間、吉良は加古や烏丸とトリガーを使った戦闘訓練を実施しつつ、最終的に攻撃手(アタッカー)射手(シューター)のどちらをメインに据えるかを議論していた。

 

「最初のうち、私のメイントリガーはどれにすべきでしょうか?」

 

 というのもB級以上の正規隊員は合計で8つのトリガーを組み込めるのに対し、訓練生は主に扱う一つの攻撃用トリガーしか装備できないのだ。二つの距離適正がある吉良も例外ではなかった。(遠距離相当の狙撃手というポジションもあるが、そちらは二つほどの適正が見られなかったため該当せず)

 よって仮入隊中に正規入隊後のトリガーを一つ、攻撃用の弧月か。あるいは射手用のトリガーのいずれかに絞ることを強いられる。

 適正があるからこその贅沢な悩み。こればかりは経験のない吉良は答えを見いだせず、師匠である加古や烏丸たちに助言を求める。

 

「私のおすすめはハウンドね」

「……そっすね。俺もどれにするかで悩むなら射手(シューター)トリガーのどれかにすべきだと思います」

「えっ? 烏丸先輩も弧月より射手(シューター)トリガー派なんですか? てっきり反対かと思ってました」

 

 すると意外にも二人の意見は一致した。

 自身も射手(シューター)である加古はわかるが、弧月の使い方を教えた烏丸はそのまま弧月を薦めるものだと思っていた吉良は想定外の言葉に首をかしげる。

 

「ああ。なりたてのC級なら特にな。C級にも個人ランク戦があるが、射程持ちというだけで上手く立ち振る舞えばシールドがない攻撃手(アタッカー)を完封できる」

「特にあなたのようなトリオン量が多い人なら尚更ね」

 

 C級は防御用のトリガーであるシールドも持つことができなかった。だからこそトリオン強者である吉良が距離を保ちながら射撃戦に持ち込めば、そもそも射程持ちでない敵などは近づくことさえできないだろう。二人の師は冷静に分析する。

 

「……スカウトの時にも加古さんたちに聞きましたけど、私ってそんなに多いんですか?」

「多いな。少なくともC級ではまず並ぶものはいないと断言できる」

「はぇ~。ビックリですよ」

 

 師匠から太鼓判を貰い、吉良は改めて自身のトリオン量に感嘆した。

 なにせ仮入隊期間中、彼女が主に出くわした隊員たちは加古、二宮、烏丸など皆正隊員の中でもトリオン量に長けた者たちばかり。そのため彼らと比べて「あまり変わらないのでは?」と実感が沸かなかった。

 本来ならば彼ら彼女らと比較できる時点で既に化物と呼ばれてもおかしくないのだが、それは彼女が知る由もない。

 

「それに。あなたの攻撃手(アタッカー)の必殺の武器をいきなり晒したくないもの。大丈夫、もう一つの武器だけで十分戦えるように仕上げるから。私を信じて着いてきて」

「……はい!」

「ん。良い子ね」

 

 力強い返事を耳にして加古が妖艶に微笑んだ。

 

★☆★☆★☆

 

追尾弾(ハウンド)!」

 

 猟犬の名を冠する弾が吉良の手から現れ、目標の大型近界民(ネイバー)に向けて放たれた。

 アステロイドに威力こそ劣るものの、トリオン量に優れた吉良が放ったそれは左右から大きな弧を描き、近界民(ネイバー)の装甲を確実に削っていく。

 動かなければこのまま防御を崩されてしまう事を悟ったのだろう、近界民(ネイバー)追尾弾(ハウンド)の嵐を潜り抜け、吉良へと向けて突撃した。

 

「……シッ!」

 

 それを見た吉良は大きくバックステップを踏む。

 距離を詰めることを許さずに、再び追尾弾(ハウンド)を展開。そして今度は追尾性能を完全にオフにしたハウンドを一直線に射ちだした。

 真っ向からハウンドを全弾撃ち抜かれた近界民(ネイバー)はその場で機能を停止し、大きな音を立てて崩れ落ちる。

 最初の追尾弾(ハウンド)で相手を動かし、再度展開した追尾弾(ハウンド)でトドメを刺す、これこそ吉良が加古より授かった、彼女の必勝の技だった。これだけでも吉良が訓練生として輝くには十分すぎるもの。

 対近界民(ネイバー)戦闘訓練、ボーダー隊員正式入隊式直後に行われた初めての訓練で吉良が残した記録は12秒。当時の記録としては驚異的な数字を叩きだし、同期入隊者や他の隊員達に衝撃を与えたのだった。

 

★☆★☆★☆

 

「あった」

 

 探知追跡訓練。

 本来ならばレーダーからトリオン体の反応を追う訓練なのだが、吉良の場合はそれだけではなかった。

 トリオン兵の残した大きな足跡を見つけると、その地面を手で触れ、静かに目を瞑る。

 

「……見つけた」

 

 数秒後、目を見開いた吉良は瞬時に駆け出した。

 トリオン兵が動いた方角を彼女の能力で瞬時に読み取ったのである。

 レーダーの範囲外にまで逃げていたトリオン兵を瞬く間に捉え、満点の成績を修めたのだった。

 

★☆★☆★☆

 

 戦闘訓練や探知追跡訓練だけではない。地形踏破訓練、隠密行動訓練といった週2回行われるC級隊員の合同訓練で優秀な成績を残した吉良の腕の甲には3100という彼女の個人ポイントが記されていた。

 

「へへっ。もう少しですよ加古さん……!」

 

 およそ三ヶ月にわたる仮入隊期間で素質を認められていた彼女は事前に3000という個人ポイントを与えられた状態でスタートしている。このポイントを4000まで上げれば正隊員に昇格することができるのだ。

 こうして数字として現れると、着実に目標へ近づいている事が実感できる。予想以上に早く憧れの師匠たちのステージへと辿り着けるかもしれないという事実に、吉良は静かに喜びを爆発させていた。

 

「すごいのね、吉良ちゃん。戦闘訓練以外も動きがとても正確で、驚いちゃったわ」

「あっ、那須先輩! いえいえ、それほどでも」

 

 ラウンジの一角に腰かけていると、薄い髪色で少しボリュームのあるボブヘアの美少女、那須が飲み物を持って現れた。吉良の許可を取ると、彼女の横にゆっくり腰かける。

 

「私としては、むしろ那須先輩にビックリでしたよ。体が弱いと聞いていましたけど、地形踏破訓練でダントツのトップだったじゃないですか!」

「フフッ。ありがとう。今日は特に調子がいいみたい。普段あまり動けないからこそ、トリオン体の動きをより精密にイメージできるみたいなの」

「そう言うものなんですか……?」

 

 那須は吉良の同期入隊であり、ポジションも同じ射手(シューター)だ。

 聞くところによると、那須は体が弱い人がトリオン体で元気にできるのかどうかという研究に協力するという名目でボーダーに所属したのだと言う。

 

(少なくともあの動きは運動部の中でもエースの人のそれなんだけど……)

 

 そしてその結果、並み居る訓練生を押し退けて身のこなしの軽さを立証していた。何か機動系のトリガーを身に付けなければ追い付けないであろう彼女の敏捷性に、吉良も舌を巻くほど。

 とてもではないが、これだけを見ては本当に病弱なのか疑ってしまうほどの機敏の良さだった。少なくとも隊員間で戦い、ポイントを争うと言う個人ランク戦では絶対に戦いたくはない。加古たち正隊員の強さを知っている吉良ですらそう感じてしまうほどだった。

 

「そうよ。ずっと誰かの姿を観て、イメージしてきたから。ずっと、ね。夢でも考えてしまうくらいに繰り返して」

「……なるほど。ようやく念願の時間を過ごせてるんてすね」

 

 そう語る那須の表情は寂しげで、それでいてどこか誇らしげに映る。きっと満足に動けなかった日々は悔しく、その分今の体が心地よいのだろう。それくらいはサイドエフェクトを使わずとも理解することができた。

 

「私からすれば吉良ちゃんが凄く羨ましいわ。追尾弾(ハウンド)の制御も上手かったし、慣れてる感じだったもの」

「ああ、私は仮入隊の時期に正隊員の方たちに教えて貰ったんですよ。加古さんと言って、とても丁寧に教えて貰いました」

「そうだったんだ。……知り合いがいて良かったわね。私も従兄弟がボーダーで狙撃手(スナイパー)をしてるの。機会があれば紹介するわね」

「是非!」

 

 互いにボーダー内に知人がいるということも相俟って会話が弾む。

 他にも戦闘員の中では少ない方である女性隊員など様々な共通点を持った、二人の射手(シューター)。後に彼女たちが新人王を争う関係となるのだが、このときの彼女たちはまだ知る由もなかった。

 

★☆★☆★☆

 

「あ、いたいた! 玲ー!」

「あっ。くまちゃん。こっちよ」

 

 しばらく吉良と那須が会話に花を咲かせていると、どこからか那須を下の名前で呼ぶ明るい声が響く。

 黒髪ショートボブで抜群のプロボーションの持ち主である彼女は熊谷。那須に愛称で呼ばれた彼女は大きく手を降りながら二人の元へと歩み寄ってきた。

 

「訓練、終わったんだね。顔色も問題なさそうで良かった。……この子は?」

「同期の吉良ちゃんよ。吉良ちゃん、彼女は熊谷。私の親しい友達なの」

「初めてまして、吉良葵です」

「へー、初めまして。熊谷です。……小さいけど、中学生?」

「はい。中1です」

「ってことは、この間まで小学生だったってこと!?」

 

 コクりと頷くと、熊谷は「ひゃーっ」と独特な声を上げる。

 いくらボーダーに若い隊員が多いとは言え、ついこの間まで小学生だった隊員が入るとはやはり衝撃的なのだろう。

 

「さすがにビックリだよ。……まぁ良かった。玲に早速話せる同期の子ができたみたいで。やっぱり一緒に入った子がいると安心感が違うもんね」

「もう、くまちゃんったら。お母さんみたいなことを言って」

「私も那須先輩みたいな人と一緒で良かったですよ。ポジションも同じと聞いて余計に親近感が沸きましたし」

「てことは、二人とも射手(シューター)なんだ」

「そうなんですよ」

 

 ポジションも同じとなれば相談に乗れるし、良き競争相手にもなれる。まさに理想の同期と呼べる存在であった。

 熊谷は病弱な那須を気づかっていたのだが、幼い同期の存在を知ってホッと安堵の息を溢す。

 

「じゃあ、玲の事はお願いね。良ければ今日、この後時間はある? 二人でカフェに行こうと思っていたんだけど、一緒にどう?」

「お誘いありがとうございます。ただ、すみません。折角ですけど、今日はちょっと呼ばれていまして」

「さっき話していた、加古さんって人?」

「いえ、そちらではなく」

 

 吉良はそこまで言うと、一旦言葉を区切り僅かに目を細めて話を続ける。

 

「ボーダーの開発室と言うところに呼ばれてまして。ちょっと検査をする事になってるんです」




吉良の同期入隊者(原作判明済みのみ)…奥寺、小荒井、人見、古寺、笹森、那須、日浦、志岐、武富
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