黒鬼の動画編集班(個人)兼マネージャー   作:まあまああまあま

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かぐや、彩葉、ヤチヨとの恋愛描写はありません。ご安心ください。


少しでいいので社会性を身に着けてくれ

 Black onyX(ブラックオニキス)、通称"黒鬼"。トップクラスの実力を持つプロゲーマーチームであり、また仮想空間ツクヨミ内でとてつもない人気を誇る。

 俺様系の実力派リーダー"(ミカド)アキラ"、口数の少ない冷静沈着な仕事人"(ライ)"、ダウナー系美少女──ではなく女装男子"乃依(ノイ)"。

 これは、そんな彼らの物語──では、なくて。かといって、全くの無関係というわけでもなく。

 

「アーカイブ長すぎ!! 編集の立場にもなれよ!!」

「雷が喋んなすぎ!! 一人だけ字幕がやけに少ないの気になる!!」

コンプラァ!!!!

 

 そんな彼らを支える、裏方のお話。名を"森宮(モリミヤ) (ミナト)"と言いけり。

 

 

 

第一話 少しでいいので社会性を身に着けてくれ

 

 

 

「はい、それでは時間なので講義を終わります。次回授業までに課題を終わらせるように」

 

 とある大学の講義室。講義室の後方で突っ伏している不良学生がいた。

 

「もりみー起きろー。講義終わったぞ」

 

 もしかしなくとも湊である。Black onyXのたった一人の編集班。先日行われたBlack onyXの配信アーカイブの公式切り抜きを寝ずに編集していたため、講義が始まり出席を取った直後に入眠、そして今の今まで爆睡をかましていた。

 

「ここはおれにまかせてお前らは先に行けぇ……」

「なにふざけたこと抜かしてんの。ほらここ次の講義で使うっぽいからいくよ」

「勘弁してぇ……もうちょい睡眠取らせてぇ蒼空(ソラ)ぁ……」

 

 友人に手を引かれ講義室を後にする湊。寝起きで回らぬ頭のまま食堂へと向かう。引き摺られていく。

 ほぼ連行である。

 

「んで? もりみーはまたバイトでくたばってんの?」

「そうと言えばそうだしそうじゃないと言えばそうじゃない」

「その心は?」

「やらなくてもいい仕事をやってるぅ……的な?」

「自分で仕事増やしてんだ。ばかだねぇ」

 

 うっせ、と返しながらうどんを啜る。実際、動画のストックはあるし少しくらい休んだって問題ない。ではなぜわざわざ睡眠時間を削って編集をしているのか? 

 

 その理由はただ一つ。それが出来る、出来てしまうからだ。

 家に帰り、大学の課題を終わらせ、Black onyXの配信の準備をし、編集をし、案件やらコラボやらのメールを捌き、そしてネットサーフィンやゲームといった趣味の時間も作る。時間が足りないなら寝なきゃいいじゃない。そんなふざけたことをほざいている。

 常人であれば体を壊す、あるいはなにか犠牲にしなきゃいけないだろう。しかしあいにくこの男は優秀、すべてを十二分に熟しているのである。「できるんだったらやれるうちにやっといたほうよくね?」と湊は言うが、それがどれほど優れたーーあるいはイカれたーー所業なのかをいまいち理解していないようだ。

 

()()()()()()って歩合制なの?」

「うーん、半々くらい?」

 

 湊は自身の仕事を編集のバイトと偽っている。実態はバイトではない正式な雇用関係であるし、マネージャー業務も兼任しているのだが、それを知るのは本人とBlack onyXの面々だけである。

 

「じゃあ休みなよ。念のためで倒れたら本末転倒でしょ」

「頭じゃわかってるんだけどな」

「心が追い付かないってか」

「懐かしい曲だなおい……っと失礼、電話きたわ」

 

 ポケットに振動を感じスマホを取り出すと着信。誰からかを確認したところ、画面には「帝アキラ」の文字。

 厄介事か面倒事かの二択を確信し衝動的に切る。即着信。溜息をつき大人しく出る。

 湊は昼間のうちは基本的にチャットでの連絡をしている。大学の時間割も渡しているため、少なくとも大学にいる間は滅多に電話での連絡をしてこない。電話での連絡ということは、即ち面倒事。

 

「はい森宮です。なんの用事ですかまた面倒事ですかお願いですから事前連絡をしてくださいお願いします」

『おっと、すまんとは思ってる。んで、察しのいい我らがマネにお願い事なんだが』

 

 軽薄そうな──実際電話の向こうで薄っすら笑みを浮かべているであろう帝の声にげんなりする。これは、無茶ぶりが来る時のやつだ。衝撃に備える。

 

「はいなんでしょう」

『いやぁ、乃依がゲリラライブやりてぇとか言い出してさ』

「? 別にやればいいじゃん勝手に。一応見るから開始時間だけ教えてな」

 

 しかし、身構えていたのとは裏腹に要求は簡単なものだった。配信だってLIVE2nDだってツクヨミ内だって他のゲームだって、大抵の配信設定は整っている。

 近いうちに配信されるらしいKASSEN-SENGOKU-に向けてSETSUNAの参加型でもする気なのだろうか。それに出ろとかか? その場合はマネージャー業務の業務範囲外だと主張して断固拒否させてもらうが。

 色々と思考を巡らせる湊。しかしそのどれもが電話をかけてくるほどの非常事態ではないように思える。

 

『あーっと、なんか勘違いしてんな。ゲリラライブってYohTubeで急に配信するってわけじゃなくてな。文字通り()()()()()()()()()()()()。もう会場は抑えてるぜ、ゲリラだから小さめだけど』

 

 湊の思考がフリーズする。こいつは今、何と言った? ライブをする? 今日? 会場は抑えていて? 

 今からキャンセルしてもらおう。関係各所には謝罪巡りすればいい。メールと詫びふじゅ~でも送ればいいだろう。最悪スポンサーの耳にさえ入らなければ……

 

『ちなみに公式SNSでもう告知してる』

「終わった…………。ちなみに何時からです?」

『21時』

「演出は?」

『お前を信頼してる』

「なんもないんすねくそったれ」

 

 顔には疲労と絶望が滲んでいる。なんで事後承諾なんだ。なんで演出がおれ任せなんだ専門の人間を雇えよ。なんで今日なんだ演出考えるのも簡単じゃないんだぞ。そんな表情が浮かんでいる。

 それじゃ! なんていう軽い声で通話が切られる。大まかな動きを確認したいし一回くらいリハはしたい。どれだけ時間がかかっても一時間前には演出を完成させなければならない。タイムリミットは7時間。3限に出ている暇なんてない。

 

「蒼空、急な用事ができた。おれは3限を飛ぶ。それじゃ」

「あっそう。学生証スキャンだけしようか? どうせ大教室だしバレないでしょ」

「マジで助かる今度飯奢るわありがとうじゃあな。いやマジでありがとう」

 

 急いでトートバッグを肩にかけ食堂をあとにする。脳裏に浮かぶのはBlack onyXへの罵詈雑言。頼むから事前に連絡してくれ。少しでいいので社会性を身に着けてくれ。

 

 大学から爆速で帰宅。普段は頼もしいマンションのオートロックが煩わしい。顔認証を突破し階段を駆け上がる。普段であればエレベーターを使うが今はそんな時間すら惜しい。

 玄関をくぐり作業部屋へ。スマコンを着けツクヨミにログインする。

 

 瞬間、世界が塗り替わる。殺風景な部屋が和風SFとでもいうべき世界へと様変わりする。聞き心地の良いBGMが流れる。

 だが今はそんなのに気を取られている暇はない。帝が取ったという会場へとダッシュで向かう。その会場はBlack onyXにしては小さく、しかし事前予告なしのライブにしては大きい。そしてチケットはすでに8割近く売れている。

 これだけでBlack onyXの人気が伝わる。ファンであったら鼻が高いだろう。()()()()()()()()

 

「セトリは貰ってる。半分くらいは過去のライブの流用でいいだろ。あと巨大スクリーンパネルに……ああ暗転とかもしたいからヤチヨにアポとって照明いじる権限貰ってぇ……」

「は~い、ヤッチョを呼んだ~?」

「うおおお呼んだ呼んだマジで神!!」

「AIだけどねぇ。それで照明の権限ね。いいよぉ、使用料は会場の使用料と合わせて貰ってるから気にしないでいいよ~」

 

 急に現れた管理人AIの手助けもありつつ着々と準備を進める湊……否、この世界では

 

「ねぇミト。ミトは今何に悩んでるのかな?」

 

 ゲリラライブということもあり曲数はあまり多くない。ライブの演出は細かい調整を残すのみとなっていた。一曲を除いて。

 それはBlack onyX初のオリジナルソングであり、Black onyXを代表する曲"OnyXXX"。この曲自体はライブで何度かやってきたが……。

 

「あれ? でもこの曲セトリになくない?」

「いや、あいつらならぜっっっったいにやる。アンコールで」

「よくわかるねぇ」

「いや半分以上勘だけどね。もし勘が外れてもどうせどこかで使うし」

 

 へぇ、と感情の読めない笑みを浮かべるヤチヨ。mitoはその表情に一瞬違和感を覚えるものの、タイムリミットが迫ってきているため作業を進める。

 しかし肝心のOnyXXXの演出だけ思い浮かばない。

 

「あ゛あ゛ああぁまじでどうしよ」

「じゃあさ、こういうのはどうかな?」

 

 そう言ってヤチヨが提案してきたのはBlack onyXが床に沈んで退出した後、その床を切り裂いてアンコールに応えるというものだった。

 

「それ、アリ。流石ヤチヨ。ライブ慣れしてるだけあるな」

「いやぁそれほどでもアルマジロというか~8000年の玉藻前といいますか~」

「いやマジで助かったよ、ありがとう。んじゃおれは細かいとこ詰めてくるからここらでさいなら。マジで助かったよありがとう!」

 

 どういたしまして~と手を振るヤチヨに背を向けライブ会場に行くmito。ヤチヨはその姿を見届けてから飛び去って行った。

 細かい調整やらメンバーを入れての合わせやらをこなしいざ本番。

 

『さあお前ら、俺様のスピードに振り落とされんなよ!!』

「死ねクソアドリブ野郎!!!!」

 

 リハでやっていない召喚獣の呼び出しにmitoはキレた。ドローンカメラの操作、照明の操作、どのモニターにどの角度からのカメラ映像を映すのか。それらすべてを一人でこなしているのだ。いくらAIの補助があるとはいえ多大なる負荷がかかる。それなのにアドリブ? かかる負荷は倍増、どころではない。それでも何とかついていかせる。AIの補助、ツクヨミのアシスト、本人の操作技術。それらでなんとか喰らいついていく。

 裏方の気力と体力を犠牲に突発ライブは歓声に包まれたまま終了する。

 

「ようミト。ずいぶんお疲れじゃねえか」

「アドリブ辞めろマジで。過労死させるつもりかてめえら」

「え~。この程度で死にかけるなんてミトざっこ~」

「乃依も裏方やるか?」

「お断りしま~す」

 

 そして何もしゃべらない雷。せめてねぎらいの言葉くらいかけてくれ。乃依作の雷用セリフ集にねぎらいはないらしい。

 人の心がないやつらを見て肩を落とす。そんなmitoを横目にアンコールに応えようとするBlack onyXの三人。

 

「よし、お前らアンコール行くぞ」

「一応聞くよ。何歌うの?」

「あ? 決まってるだろ、"OnyXXX"だ」

 

 自然と口角があがる。これだけ振り回されたんだ、少しくらい振り回したっていいだろうという気持ちがmitoの胸中に湧いてくる。

 

「はいアキラこれ」

 

 そういって刀を渡す。エフェクトが派手なだけで攻撃力が皆無という実戦で使えないネタ武器。それを手渡されているアキラは困惑していたが、特に告げる言葉はない。

 

「じゃ、いい感じに合わせて。アンコール行ってらっしゃい」

「ちょ、演出の説明を──」

 

 無慈悲にエレベーターが上がっていく。Black onyXの三人が「つぶされる!」そう思った瞬間、天井に亀裂が走る。

 

「そういうことかよっ!!」

 

 刀を振るう。太刀筋に合わせ炎が巻き上がる。切り裂いた天井の耐久値は非常に低く設定されていたため、カスみたいなその刀の攻撃力で簡単に破壊される。

 

『よう子ウサギども! お前らの帝様の声を、もっと聴きたいかぁ!?!?!?』

 

 歓声が控室まで届いてくる。無茶振りとはいえさすがの対応だ。

 OnyXXXのイントロが流れ出し、その歓声はより大きくなり、やがてしぼんでいく。彼らの声を聞き逃さんとするように。

 こうして、ゲリラライブは恙なく終了したのだった。……裏方一人の犠牲とともに。




読まなくてもいい雑設定コーナー


・一口武器解説 坐孤我利之刃(ザコがりのやいば)
製作者:mito

 武器リソースをすべてエフェクトに割いたらどうなるんだろうという思いつきで作られた武器。その結果ミニオン狩りにすら支障が出るほど攻撃力が出なくなった迷武器。かわりに一振りごとにクソデカい炎のエフェクトが巻き散らされる。当然攻撃判定はなく視認性が悪くなるだけなので利敵。
 一通り遊んで大笑いしたのち、(貴重な時間を何に使っているんだろう)と虚無状態になった。
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