黒鬼の動画編集班(個人)兼マネージャー 作:まあまああまあま
『それでね、この前話したカフェで新作ケーキが出来るらしくて』
イヤホンから聞こえるウィスパーボイスに癒されながらキャンパス内を歩く気持ち悪い顔をした男──そう、
スイミンを取っても先日のライブの疲れが取れていない彼は起きてから今までずっと推しの配信者のアーカイブを見ていた。文字通りずっとである。
朝起きてイヤホンを着け、スマホでアーカイブを再生し、顔を洗っているときも*1朝食を摂っているときも着替えしているときもトイレしているときも通学中もだ。
その甲斐あってかメンタルはかなり回復した。周囲の人間に変な目で見られる代わりに。
「もりみーおは……って顔キモ」
肩をポンと叩かれ振り返ると
イヤホンを外して挨拶を返す。
「キモいとはなんだキモいとは。おれは心労を癒してるだけなのに」
「家でやりなよ」
「今日が1限あるのが悪いだろ」
やんややんやとじゃれあいつつながら講義室に向かう二人。湊は昨夜、ライブが終わった瞬間爆睡したため今日はしっかりと起きて講義を受けられるだろう。そんなことを考えていると、講義前の他の学生のお喋りが耳に入る。
「ねえ昨日の帝様のゲリラライブ見た?!」
「あたしバイト入ってて見れなかったんだけどマジ最悪! もしかして見れたの?」
「そうなの! SNSの通知オンにしといてよかったほんとに! 演出めっちゃすごかったんだよ! ゲリラライブとは思えないくらい!!」
それ、
「なに急にニヤニヤしだして」
「してないが???」
「してそうな気配あったし。帝好きなの?」
「いや別に……俺様キャラあんま好きじゃないし……ゲームはうまいと思うけど。ほら、講義はじまるぞ」
追及してくるような発言を遮る。今まで真面目に講義を受けたことなんてないから話を逸らしたなんてバレバレである。
「乃依くんとか好きなの?」
「いやほんとに勘弁。違うからマジで」
「ま、そうだよね。もりみーが好きなの黒羽カカだもんね」
「いや好きとかそういうんじゃ……ちょくちょく配信みるってだけで……」
オタクだと思われたくないめんどくさいオタクのそれである。
「いいよ別に隠さなくて。工学系の奴らなんて大体オタクなんだし」
「ひでえ言いようだなおい」
あまりの言いように思わず声をあげる。流石に少し大きかったのか教授から咎めるような視線が飛んでくる。次はないぞと言いたげだ。ゲッツーといったところか。
申し訳なさそうに軽く頭を下げ、横を見ると素知らぬ顔をした蒼空。
(こいつほんま……)
湊は激怒した。必ず彼の邪知暴虐なる蒼空を除かねばならぬと決意した。
まあいいか、と切り替えてスマホの電源を着ける。教科書は閉じたままで。平均的な大学生なんてこんなものである。
と、一通のメール。差出人はツクヨミ公式から。ツクヨミトップライバーであるBlack onyXには度々公式から連絡がくるのである。大抵はイベントへの招待。そして今回もその例にもれずイベントへの招待であった。内容としては──
(KASSENの新モード"SENGOKU"先行体験のお誘い、ね)
ツクヨミ内の都市部から少し外れたところ。五重塔のような建造物──黒鬼の拠点にBlack onyXの三人とmitoは集まっていた。
全員が落ち着いたところで集めた張本人、mitoが口を開く。
「はい。というわけでメールで送った通り、KASSENの新モード"SENGOKU"の先行プレイに招待されました。ルールはこれ見てね」
そういって浮遊スクリーンに大まかなルールの要約*2を表示させる。
トップ・ミドル・ボトムの三つのレーンがあり、トップとボットには櫓とそれを守護する牛鬼がいる。この牛鬼を倒すことで櫓を占拠でき、占拠することで敵陣地に大将落としが出現。これを敵陣地の天守閣に打ち込むことで勝利となる。
これが基本的なゲームの流れだ。KASSENのMOBAモードといったところか。
「は~い質問で~す」
「なんですか乃依くん」
「……教師ヅラうざぁ。まあいいや、これ櫓がトップとボトムにしかないんだったらミドル行く意味なくない?」
「うん、それはおれも思った。まあ意味なくはないと思うぞ。トップかボットの櫓を取れたらミッド進行してたやつが最速で天守閣向かえるだろうし」
「それでは、各レーンに一人ずつ向かわせるのが定石になるのか?」
雷が呟く。チームの方針や何の配信をするかの話し合いではほとんど口を開かないが、ゲームとなれば別らしい。……mitoとしては普段からそれくらい発言してほしいが。
「うーん、それもアリだとは思うけどよっぽど相手との戦力差がある場合だけかな。どっちかの櫓に二人で攻めてこられたら櫓をほぼ確定で落とすことになるしもう一方のレーンで勝つのが最低条件になる」
「それじゃ、トップとボトムで2-1に分かれるのが安パイになりそうか?」
「うん、多分そうなるだろうね。おれ的にはトップ2ボット1な気がするなぁ。トップの牛鬼のがちょっと強いらしいし」
もちろんそれを見越してボトム2とかで来ることもあるだろうし、そこも含めて読みあいとなるだろう、とmitoは予想する。
まあ正式にサービス開始するまでメタは回らないだろう。先行プレイに呼ばれている人数なんて数えられるほどだ。メタというのはプレイ人数が増えてからできるものだ。
「ま、大体のルールは把握したぜ。丁度ひと月後ね、それまでSETSUNAで腕あっためとくか。雷、乃依、SETSUNAしようぜ」
「めんどくさ~」
「……付き合おう。行くぞ乃依」
「え~。あ、じゃあミトもやるならいいよ」
「じゃあ決まりだな。SETSUNA会場に行くぞ」
「…………は? ちょっとまて、誰もやるなんて言ってな」
言い終える前に無理やり引き摺られていくmito。しばらくジタバタ抵抗していたが、抵抗が無駄だと察したのか大人しく引き摺られていく。
その背中は見る人に哀愁を感じさせた。引き摺られてるから背中は見えないが。
「乃依ローラースケート履かせろ。引き摺りにくいったらありゃしねえ」
「りょうか~い」
「……ころしてくれ」
そしてやってきた先行体験当日。集められたのは5チーム。
我らが"Black onyX"、実力派ストリーマーチーム"RaisingCanon"、女子のみのプロゲーミングチーム"白百合姫"、何かと不憫な"LuckLack"、黒羽カカ、神北林檎、マル=マリー・真珠ら人気配信者三名からなる"配信者連合(仮)"。
全チーム全メンバーがそろったところでヤチヨが姿を現す。
「やおよろー! みんな、今日は来てくれてありがとうね。今日は新モードのSENGOKUをみんなに一足先に体験してもらって、みんなのリスナーさんに『どんな感じなのかな』っていうのを体感させてあげてほしいんだ!」
それじゃ、簡単なルール説明をするね、とスクリーンを浮かべる。目線をあげるとメールに添付されていたスライドが表示されている。ルールの勘違いなどは特になさそうだ。
また、今回の先行体験では5チームの総当たり戦となる。正式版と違う点で言えば、本来
以下ダイジェストで戦闘の様子をお届けしよう。
初戦、白百合姫戦。
お互いトップレーン2人ボトムレーン1人で進行していく。ボトムレーンでは雷と敵のリーダーの一騎打ちが行われる。雷は奮闘したものの惜しくも敗北、しかしトップレーンで帝&乃依が危なげなく撃破。そのまま相手の天守閣に向かい勝利。
mitoは満足げに頷いている。
二戦目、LuckLack戦。
Black onyXは各レーンに一人ずつ送り込む形に。それに対しLuckLackはトップレーン2人ボトムレーン1人で進行。トップの帝は1vs2を強いられる形になった。互角の勝負をしていた二人だが相手のペアの片方が盛大に転倒。その隙を見逃さずにそのまま勝ち切りコールド。
mitoは「まあ、試してみただけだろ」と自分に言い聞かせるように言葉をこぼしている。
三戦目、RaisingCanon戦。
いくら実力派とはいえストリーマー。彼らに負けるわけがないと判断したのか各レーンに一人ずつ向かう作戦を取る。これに対しRaisingCanonはトップレーン3人という奇策をとる。ボトムレーンは当然櫓を確保。そしてミドルレーンだが、なんとミドルレーン担当の帝が大将落としの手前で足を止める。どうやらトップレーンの乃依の決着を見守ってかららしい。トップレーンでは乃依が狙撃で一人落とし、その流れのまま1vs2を制していた。
mitoは頭を抱えながら「リスペクト……リスペクトの精神を……」と呟いている。
「お前ら、なぜおれがキレているかわかるか?」
試合間、Black onyXの面々はマネージャーであるmitoに呼び出されていた。
「俺様たちの活躍シーンが多すぎて編集が大変だから?」
「そんなんじゃキレねぇよ。あのな? 舐めプをするなって言いたいんだわおれは。お前らマジでいつか炎上するぞマジで」
「そうならないようにするのがマネージャーの腕の見せ所、でしょ?」
VR空間に存在しないはずの青筋が立っている気がする。ツクヨミの技術力がすごいのかそれとも単なる気のせいか。
「お前ピンポイントで炎上させてやろうか乃依てめえおい。おれをなんだと思ってやがるお前ら」
「……優秀なマネージャーだ」
「ありがとう雷。でも今言われると変に勘ぐっちゃうなおれ」
終始振り回されているmito。はあ、とため息をついたmitoに対し、それまでニヤニヤしていた帝が真面目な顔をしてmitoの眼を見つめる。
「まあミトのいうこともわかるぜ? だがな、俺らはBlack onyXだ。ファンに夢見せなきゃならねぇんだよ。それなら、相手の策は真っ向から受けて立たないといけねえ。だろ?」
「……そうだな」
「相手がトップに三人で来たからボトムの櫓取ってそのまま大将落としぶち込めばいい。そんなのは誰だってできる。でもな、何度でも言うが俺たちはBlack onyXだ。賞金がかかってるわけでもない、高々先行プレイでそんな冷めた真似できるかよ」
「……確かにお前らのいうことには一理ある」
そう、Black onyXとはトップクラスの実力を持つプロゲーミングチームであると同時に、
「でも最初から各レーン一人ずつなのは明らかに舐めプだよな?」
「よしそろそろ、四戦目始まるな。お前ら、開始地点に行くぞ」
「ってめえら逃げんなァ!!!」
逃げるようにして向かった会場で、四戦目が始まる。mitoの声はもう聞こえない。
Black onyXは当然のように各レーン一人ずつの陣形で進んでいく。対する配信者連合も各レーン一人ずつで進行する。
「へぇ……」
笑みを深める帝。そこに嘲りの色はない。配信者連合はこれまでボトム2トップ1という進め方をしていたはずだ。それがここにきて各レーン一人ずつ。何か意図があっての事だろう。
(とはいえ、負けることはないだろうな)
ただ、それはあまりにもBlack onyXを
普段の配信・動画ではファン向けにわかりやすく落ちを着けたりしているが、彼らは国内有数のプロゲーマーなのだ。アマ未満のプレイヤーにタイマンで負けるほど、彼らは弱くない。
──強襲。岩陰に潜んでいた影が、帝の背後に迫っていた。
「っと、急に飛び出すと車に轢かれちゃうぜカラスちゃん」
「今の対処されるの? 自信なくしちゃうなぁ」
下手人は黒羽カカであった。背中の翼をはためかせ両手に携えた二本の短刀は、しかし帝の金棒に止められていた。
「音がしたんだよ。風を切る音がな。ミニマップに二人しか映ってなかったから不意打ちは警戒してたしな」
「うへぇ、プロってみんなそんなバケモノじみてるの?」
「そりゃこれで飯食わせてもらってるからね。そんなことよりどういうつもり? そんなに俺らとタイマンしたかった?」
黒羽カカは意味深に目を細めて答える。
「そうだね。プロゲーマーと戦える機会なんてそうそうないし、負けてもデメリットとかもないしね」
「ほんとにそれだけ? 俺様のファンだったり?」
「どっちかというと乃依くんのほうが好きか、なぁっ!」
会話中の強襲。不意を突くように行われたその攻撃は、果たして容易に受け止められる。背後からの攻撃すら防がれたのだ。正面からなら尚の事。
それでもその殺意には目を見張るものがある。口笛でも吹きたい気分になる。
そのまま近接戦闘に移る。短剣二刀流は火力に乏しく手数に優れる。強襲の勢いそのまま帝を切り刻まんとその刃を振るう。
しかし──当たらない。躱す、逸らす、撃ち落とす。涼しげな表情ですべての攻撃を防いでいる。
一見黒羽カカが優位に見えるだろう。しかし、そうではない。見に徹されているにだ。やろうと思えばいつでも返せるもの。それをしないのは動画のためかはたまた別の意図があっての物か。
悔しい、とは思わない。こうして刃を切り結べているのが奇跡的なまでの実力差。
「そろそろ、反撃と行きますか!」
金棒を大きく跳ね上げる。それだけで体制が崩され、黒羽カカの攻めのターンが終わる。振りかぶった。そう認識した次の瞬間には振り切られていた。小柄な体躯が吹き飛ばされる。
黒羽カカは盗賊職である。隠密スキルを持ち、速度に優れるが耐久面はほぼ紙。今の一撃でHPは大きく削られている。
「……ふふ、つよいね」
「そりゃプロだからな。辞世の句を詠む時間くらいはやるぜ?」
金棒の中に仕込まれている剣を抜きながら歩み寄ってくる帝。HPは誤差レベルでしか削れていない。
「あーあ、一矢報いることすらできないんだ。プロってすごいなぁ。……でも、これで終われないよねっ!!」
最後の強襲。真正面、不意すらついていない正面衝突。最高速度で突っ込むが──
「
すれ違いざまに胴体を両断される。体が結晶になり散ってゆく。そうしてボトムレーンでの戦いは終結した。
他のレーンも何事もなく勝利していたようで、そのまま両櫓を占拠しBlack onyXのコールド勝ちとなった。
──余談だが、この蹂躙っぷりを見ていたmitoは考えるのをやめた。あと帝はボコボコにすると決意した。黒羽カカファンボーイとして。
ツクヨミでの戦闘シーンのテストもかねて。戦闘シーンって難しいですね。
以下別に読まなくてもいいキャラ紹介主人公編。
彩葉がアレだしちょっとくらいスペック盛ってもかまへんやろ……の精神。
・キャラクター紹介
Black onyXの動画編集班(個人)兼マネージャー兼大学生。マネージャーとはいえ大学生なのでスポンサー契約など対企業の交渉は黒鬼の三人が行っている……というわけではなく普通に湊がやっている。とはいえメインは動画編集。黒鬼の三人が対人業務をやることもある。
その際、対企業ならまだしも対ライバーに対しては
ツクヨミ内、というかインターネットではmitoの名前を使っている。ネットでは本名を出すな→名無し→"ミナト"の"ナ無し"→ミト と言った言葉遊びから。割と気に入っている。
元々PvPをメインにしており、ツクヨミのサービス開始してしばらくはsetsunaでブイブイ言わせてたらしいが、その当時のことを本人はあまり話したがらない。帝と知り合ったのもそのとき。本人曰く「おれ史上最大の黒歴史」
日頃の業務のストレスを黒羽カカという正統派黒髪美少女ライバーの配信・動画を見て癒されている。ガチ恋ではないらしい。真偽不明。
これは本当に余談だが、mitoはSENGOKUのボトム・ミドルをよくボット・ミッドと言い間違える。これは過去に某MOBAにドはまりしていた時の癖が抜けていないかららしい。この設定は作者の気分次第で消える可能性がある。
Q.新しいマネージャーなり編集者を雇わないんですか?
乃依「mito一人でできてるのに?」
雷「必要生を感じない」
帝「あいつは"自分より仕事が遅い奴を見てるとイライラして自分でやりたくなる"タイプだから本当に限界になるまでは大丈夫、というか下手したらパフォーマンスが落ちるだろうな」