黒鬼の動画編集班(個人)兼マネージャー   作:まあまああまあま

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過去は消えない(任意のダビダンスの画像)

禁断の二日連続投稿です。もう二度とないでしょう。


過去を消すこと能わず

『トップレーン・ボトムレーンそれぞれで勝利を収め、初戦をコールドで勝ち抜いたのは帝チーム*1だぁ!!!』

 

 実況の忠犬ハチ公の声が響き渡る。その実況に合わせて観客も盛り上がる。どうやらトップレーンでも帝・ヤチヨペアが勝利を収めたようだ。

 勝利の余韻に浸っているmitoの元へ表情を崩した乙事照(おっこてる)が近づいてくる。

 

GG(グッドゲーム)でした」

「いやぁGG。ちょ、ミトさんなんですかあれ。ロケットパンチ飛んできたかと思いきや二刀流になるし、二刀流かと思えば槍に戻るし」

「まあとっておきってやつっすね。とはいえまさかあれが初戦で使わされるとは思いませんでしたよ。乙事照さんの戦法やらしすぎて使わざるを得ませんでしたよ」

 

 険悪な雰囲気になるはずもない穏やかな感想戦。あそこでああしていればこうだった、こうされていたらきつかったといったものだ。

 SENGOKUではあまり行われないがSETSUNAではよく行われていたそれ。素行が悪かったためあまりそれを経験していないmitoは少しの感動を覚えていた。

 

「ミトさんなんか楽しそうっすね」

「いやぁ、こういう感想戦みたいなのやるの新鮮で」

「あれ? これって元々SETSUNAのノリじゃなかったっけ?」

「いやぁ~ハハハ……」

 

 微妙な笑みを浮かべるmitoと、それを見て何か察し話を変える乙事照。「じゃ、帝さんたちも来たみたいなんで俺はここらで解説席に」などいってその場を離れる。

 気を使われたな、など思いながら振り返るとタイミングのいい男(ミカド)アキラと助っ人管理人月見(ルナミ)ヤチヨがこちらに向かって歩いてきていた。

 

「よう、無事勝ったようで何より。……で、なに話してたんだ?」

「いやまあ感想戦というか? まあそんな感じ」

「なんでしどろもどろなんだよ」

「ヤッチョがログ覗いてみる?」

「権力の行使やめろぉ!!」

 

 

 

第六話 過去を消すこと能わず

 

 

 

 その後も大勝したり綱渡りだったりしながら勝ち進んでいく帝チーム。ベスト4まで無事進出し、そして一日目が終わった。明日、すべてが決まる。帝チームは対戦相手の試合のリプレイを見ながら対策を練っていた。画面に映されているのは次の対戦相手の試合映像だった。

 

「……こいつ、やべえな」

 

 使用しているのはKASSENで一番オーソドックスな刀。それも特殊な機能などついていないようなもの。変形だったり、銃撃だったり。そういった機構はついていない、シンプルな刀だ。

 ワイヤーなどの高い機動力を持つスキルや、隠密といった脳のリソースを裂くようなスキルを持っている様子はない。使用したスキルは納刀モーションを挟むことで抜刀攻撃の火力が上がる"居合"のみ。あとはシンプルな火力アップのパッシブスキルなどを積んでいるのだろう。

 

 それだけなのに、強い。

 この大会は元プロ、現プロ、トップストリーマーといった実力者たちが集う大会である。にも拘らず、対戦相手を一刀のもとに斬り伏せている。それも真正面から。

 シンプルなプレイスキル。身体(キャラクター)操作、駆け引き、心理戦。そのどれもが超一流であり、一流であるはずの対戦相手をいともたやすく転がしている。

 

「プレイヤーネーム"トワ"……聞いたことねぇな。配信とかもしてない感じか。W1nny*2とどういう繋がりだよマジで」

「ヤッチョがDM覗き見しちゃおうか? なんちゃって」

 

 じゃれつつも目線は画面から離れない。弱点らしい弱点は見当たらない。搦め手などではなく真っ当に強い。それでいて、搦め手相手にも難なく勝利している。勝つためには純粋にPS(プレイスキル)で勝るか人数をかけるかしかない。

 帝とヤチヨで一人をがっつりタンクにしてる間に二人でシバくか、逆に須臾の対面を遅延戦法にして、須臾のいないほうから攻めるか、などと作戦を出し合っていると

 

「……SETSUNAの、ランキング1位の奴だ。今はどうか知らんが」

 

 mitoが徐に口を開いた。

 

「知り合いか?」

「いや、知り合いというか、うーん……」

 

 やけに歯切れが悪い。関係はあるものの、といった感じだろうか。知り合いと呼ぶのは憚られるようだ。

 SETSUNA時代を知っている帝は──恐らくヤチヨも──深くは追求しない。聞きたいことは一つだけ。

 

 ──勝てるか? 

 そう問いかける直前、mitoが頭を下げる。

 

「頼む、須臾とタイマンでやらせてくれ」

 

 帝は思わず目を見開いた。頭を下げたことにではない。mitoが我儘を言ったことにだ。

 mitoが、湊が人を頼ることは滅多にない。稀にあったとしても、それは自分では到底不可能な内容の時だけだ。もしくは手を差し伸べられたとき。

 自分から人を頼ることなんて帝の記憶の中にはないし、自分のやりたいことを言ってきたことなんて今までの湊からは想像もつかない。それほどまでに人に頼ることをしてこなかった男が、いまこうして我儘を言っている。

 

 帝の口角が自然と上がる。

 

「やるからには勝てるんだろうな?」

「確約はできない。でも──ガチでやる」

「……いいぜ、ボトムはミトに任せる。トップは俺とヤチヨちゃんで落とす。今まで通りな」

「かしこまり~」

「……ありがとう」

 

 そして、すべてが決まる二日目が始まる。

 準決勝。今まで通りトップレーンを走る帝・ヤチヨペアとボトムレーンを進むmito。

 先にボトムレーンの櫓付近にたどり着いたのはmitoだった。トワの姿はどこにも見えない。が、ミニマップを見る限り近くにいるのは間違いないはずだ。

 

「いるんだろ。出て来いよ」

 

 声を張り上げる。声に反応しミニオンが攻撃を仕掛けてくるが回避し、ノールックで仕留める。

 そのミニオンの攻撃の中に紛れ、とてつもない速度で苦無(クナイ)が飛んできた。辛うじて避けるも体制を崩される。追撃を警戒するが、なぜかそれは来なかった。

 

「ずいぶんな挨拶だな、トワさんよ。不意打ちなんてらしくもない」

「ここはSENGOKUでしょ? それに、この程度なんてことないと思ったんだけど……衰えたね、mito」

 

 竹藪の向こうから人影が現れる。腰に刀を携えている。抜刀どころか、柄に手をかけてすらいない。舐めプのようにも見えるが、あれがトワのデフォルトであるとmitoはよく知っている。

 あれに苛立ちを覚え、無理に突っ込むとあり得ない反応速度で抜刀、攻撃モーション中の未防備な体を切り裂かれそのままゲームセットというのは、SETSUNAでよく見た光景だった。

 では待てばいいのかと聞かれれば、それも悪手だ。もし受けに回ろうものなら、フルチャージの居合スキルが飛んでくる。受けきるのは到底不可能、回避しようにもトワのエイムが良すぎて現実的じゃない。

 そんなトワの理不尽初動に対応するためにSETSUNA上位勢の間で考えられた策が『居合のチャージ中に攻める』というもの。

 

 居合スキルはチャージが中断されると不発に終わる。そのため、チャージ中に攻めてチャージを中断、そこからをスタートラインにしようというムーブが生まれた。

 尤もその程度で対策できればトワはSETSUNA1位になどいるはずもない。それを逆手に取り途中で解放したり、居合スキルを使わずにシンプルな斬りあいを制したり。開幕居合を防ぐのは、正しくスタートラインでしかないのだ。

 

 トワが刀に手をかける。居合のモーション。それを見た瞬間、mitoは槍の上半分を射出した。

 フルチャージとはいかない、比較的威力の低い居合が放たれる。距離も取れており回避は容易だ。

 

「いきなりそれ切っちゃうの? 必殺技じゃない感じ?」

「手札の一つに決まってんだろ」

 

 mitoが得意とするプレイスタイルは極端に選択肢を増やし相手の思考リソースを裂くスタイル。相手が対応できなくなったところでとどめの一撃を加える。

 しかし、トワにそれは通用しない。悉くを対処される。今は受けに回らせているからいいものの、攻めに転じられれば素直な技量差で敗れるだろう。

 

(疑似二刀流半分以上パリィとか理論値すぎだろマジで!!)

 

 パリィ。大抵のゲームにあるそれだが、KASSENでのパリィは比較的難易度が高いとされている。理由はその自由度。

 KASSENには多種多様な武器種が存在し、かつ武器の形状も様々、一風変わった機構を持つ武器──ヤチヨの傘やmitoのGungnir*3など──も多々ある。それら一つ一つの攻撃にパリィ判定が個別に存在している。狙ってそれを起こすなど、到底できるはずがないのだ。……本来ならば。

 

 この男は、本来不可能なはずのそれを熟している。mitoは一回戦からここまでずっとこの武器を使ってきた。疑似二刀流もまあまあ使った。その動画を見ればコンボの繋げ方の癖やどう動くかなどある程度対策できるだろう。

 だが、動画を見た程度でできる芸当ではない。帝でも苦虫を噛み潰したような表情で首を横に振るだろう。それをトワは、ありえない反応速度と経験で可能にしている。

 

「やっぱ弱くなったね、mito」

「んだとてめぇ」

 

 その言葉に気を取られて、というのは言い訳にしかならないが、そう言葉を交わすと同時にmitoの体勢が大きく崩れる。

 トワにとっての絶好のチャンス。可笑しな体制で、無理矢理にでも攻撃に対処しようとするmitoだが、それは徒労に終わる。どういう訳か、トワは攻撃を仕掛けずに距離を取った。

 そして、口を開く。

 

 

 

「やめなよ、黒鬼」

 

 

 

「は?」

 

 あまりにも普通のトーンでそう語り掛けてきた。

 友人とくだらない話をするように。あまりにも簡単そうに、そう言った。

 

 脳がその言葉を理解できない。Black onyXをやめろ、とあいつは言ったのか? 

 

「だってさ、昔のmitoはもっと強かったし怖かったよ。ギラギラしてて、何してくるか分かんなくて、首元に噛みついて来そうで。

 そういうのが今のmitoからはなんも感じない。有り体に言えば、つまんないよ」

 

 トワはため息をこぼして言う。目に浮かぶのは失望。mitoが衰えていることへの落胆。

 mitoは何も言わない。何も言えない。血液が沸騰するというのはこういうことを言うんだろうな、とmitoはどこか冷静な部分でそう思った。

 

「武器だってさ、変な槍なんか使っちゃって。強いは強いけど、本気じゃないじゃん。あの時のアレ使いなよ。変な意地張らずにさ。そのほうが強いぜ、きっと」

 

 SETSUNAで暴れていたころに使っていた武器。SETSUNA引退を機に使わなくなった武器。己にとって嫌な記憶を彷彿とさせるそれを、mitoはどうしても使う気になれなかった。使えばあの日に戻ってしまいそうで、使えなかった。それをいとも簡単に使えという。

 

「mitoが変わっちゃったのって全部あの帝とか言うのに会ってからじゃん。黒鬼に入ってからじゃん。SETSUNAのランクから姿消すしSENGOKUに移るわけでもないし。あいつが悪いよ全部。

 だから、さ」

 

 ──黒鬼やめようぜ。

 

 ぷちん、と何かが切れる音がした。自分の大切な場所を土足で踏み躙られるような感覚。mitoはそれを飲み込めるほど大人じゃなかった。

 トワの元へ一直線に走る。ただ、その身を激情に任せ近寄る。

 

 ぶちのめす。

 脳裏にあるのはその感情だけ。その感情を、嫌悪をありったけ乗せた一撃は

 

「動きが直線的すぎ」

 

 容易くパリィされた。

 大きな隙が出来る。アバターの制御ができない。視界の端で、トワが納刀をしたのが見えた。

 

「ま、考えておいてよ」

 

 その言葉一つ残して、mitoの身体は二つに切り裂かれた。

*1
2/3があっけている状態で黒鬼を名乗りたくないというmitoの要望により登録名を帝チームに

*2
須臾と同じチームのプロ

*3
射出できる槍

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