時崎狂三の逆行恋物語 作:バレット
「あぁ……あぁ……悔しいですわ……せめて……もう少し出会うのが……あの時に行動ができていれば……」
わたくしの行動はいつも遅すぎたのです。
「もしも……やり直せたら……」
胸にしまわなければなりません。
「士道さん……」
今はもう手の届かない……わたくしが恋した愛おしいお方。その名をわたくしは気付けば呟いてしまう……
暗転した意識から覚醒した
「ここは……天宮市……?」
もしわたくしの想像通りの日時ならば私はこの日を識っていますわ。
「確か折紙さん……琴里さん……そして士道さんもいらしてる筈ですわ。でも……もしも叶うならば縋ってみたいものですわ……」
もしもわたくしの仮説の通りなら……もしもわたくしの願った通りならば……
わたくしは彼を探さねばなりませんわ。今度は十香さんにも……琴里さんにも負けませんわ」
わたくしは拳を握りしめながら手掛かりを探す事にしましたわ。まずは……彼処から参りましょう。
「ごきげんようこの時代の
「貴女は……わたくしですのね? でもその口ぶり……
見つけたのは始原の精霊の手掛かりを求めて天宮市に訪れていた
「お断りしますわ。なぜわたくしが姿を現したのかは見当がつきませんが
当然この返答も折込済みですわ。
「始原の精霊に至る手掛かりと言っても?」
「どういう意味ですの?」
「わたくしなぜここにいるのか……何を識っているかは語れませんが確定している事実が有りますわ」
「……気が変わりましたわ。話してくださいまし」
食い付きましたわね。さて……ここからが本腰ですわ。
「まず前提としてわたくしは敗北しましたわ。あの方は規格外とでも言いましょうか。何より邂逅する事さえも困難でした。ですが……その過程で重要な人物がいましたの。わたくしはその人物を探していますの」
「その人物とは……?」
「崇宮……そう呼ばれた男性ですわ」
「容姿は分かりますの?」
「ご安心を。
「……流石は
「そしてここからが重要ですわ。今から探す彼こそが崇宮に最も近い存在ですわ。ですが彼はその事を存じない……彼に強硬な手段で聞き出すなど行っても無駄という事は念を押しますわ。そして最も重要なのは私と貴女は
「と言いますと?」
「わたくしの目的は貴女が手放したもの……恋ですわ。その為にこの時代から目的を果たすのです。しかし貴女の目的は始原の精霊の殺害……最後の目的は明確に違いますが、幸か不幸か至る過程はほぼ同じ。つまり我々は協力をする事が不可欠ですわ」
「ならばするべき取引があるのも明白ですわ」
わたくし達はそれぞれの目的を果たすための取引が不可欠でありそれぞれが条件を提示する。
「この時代の
「……はぁ。明らかに情報を小出しにする宣言されれ、仮に情報を奪えたところで末路が自滅……面白いとは思えませんわね」
「次に今回のターゲットである五河士道に接触するのは原則わたくしでお願いしますわ。そして世界はいずれ気づく筈ですわ……このイレギュラーの
そこでお互いのタブーを決めねばならない。だがそこはさほど重要ではない
「この時代の
「では遡行してきたわたくしはの
「最後の補足は余計ですがそれで契約成立ですわ」
『わたくし……お尋ねの人物が見つかりましたわ。このあたりでしてよ?』
「ありがとうございます
あれから少しの捜索の後目的の人物は発見された。まだ目立つ傷は無い……しかしはぐれた
「……琴里……どこだよ……」
少し離れた場所近づいていき、その声を聞く。琴里さんを必死で、必死で、探している声。ああ、本当に──
「変わりませんのね、あなたは」
五河士道……何度繰り返しても、どれだけ未来を知っていたとしても、きっと貴方の在り方だけは少しも変わらないのでしょう。そしてきっと
「いえ……だからこそそんな貴方が……放っておけないのですけれどね」
小さく、呟く。
視線の先では、彼が足を止めていた。不安と焦燥に押し潰されかけている顔。このままでは、少しだけ遅れるかもしれない。ほんのわずかな差。けれどその“わずか”が、いくつもの未来を狂わせることを
「……そこの貴方……何かをお探しなのではありませんか?」
一歩、踏み出した。物影から、光の中へ。
「お姉さんは……誰……?」
これは、あくまでも“最初の介入”。されど今回だけは少しだけ違う。
「もう1度尋ねますわ。探しもの、ですの?」
振り向く彼の顔は不安と焦りに包まれている。
──ええそう。その表情。
見慣れていたはずなのに、何度も見てきたその顔が示していたのは。
「……あんた、誰だよ……?」
警戒だった。
「これは申し訳ありませんでしたわね。
「何だよ! 俺は妹を探して忙しいんだ! お姉さんの相手をしてる時間は無いんだよ!」
幼い士道さんは琴里さんを探すためにまた駆け出そうとする。当然ですわね。本来なら、ここで信じていただく理由などありませんもの。けれど。
「街は広いですわよ。本当に妹さんを探したいなら少し準備をいたしましょう?」
私は手を取ると少し歩き出す。この辺りには公園がありある程度は見通しがよい。まずは飲み物と最低限の物資ですわ。
「
そう告げて
「……ありがとうお姉さん」
「どういたしましてですわ」
いつもそうですわ。理由もなく、根拠もなく、自分が例え困ったとしても……それでも“誰かを信じる”ことを選ぶ。それは愚かで、優しくて。どうしようもなく尊いことですわ。そんな士道さんが手を貸してくれた
「妹がいなくなったんだ」
「それは……確かに由々しき事態ですわね。ですが焦りは禁物……とも言いますわ」
言葉がこぼれる。ああ……。
「……そう」
短く返す。余計な言葉は要りませんわ。ここで必要なのは、説明ではなく“導き”。
「少しよろしくて?」
一歩、距離を詰め……そして手を差し出す。
「何の……つもりだよ……」
「貴方に必要になるモノですわ……」
この手を取るかどうかで、わたくしの未来は、ほんの少しだけ変わる……いいえ本当は、もう分かっていますの。
「……本当だろうな?」
あなたは、疑いながらもこの手を必ず取ると。
「でしたら──こちらへ」
彼の手が触れる。そう……この温もり。
「ああ……」
やはり、同じですのね。
「なんかあったかいな……お姉さんの手……」
ほんの一瞬だけ胸の奥が、わずかに軋む。
「わたくしを含め皆様もこの温もりがあったからこそ……ですわね」
正しいルートを最短で辿るために歩きだす為に。
「ふふ……少し意地悪をしましたわ。プレゼント……というよりはおまじないですわ」
視線を下げ……彼の頬にキスをする。
「な……わ……」
本来の未来より、ほんの少しだけ早く。それだけでいい。だがそれ以上はしてはいけない。干渉しすぎれば歪む……いえ
「……なにを……するんだよ……?」
当然の疑問ですわ。
「言った筈ですわ……おまじない……と」
けれど、その答えを教えるわけにはいかない。その時はまだ早い。
「おまじないの意味はさあ……どうしてでしょう?」
仮面のように、いつも通りに微笑むですが本当は……
「“すべて知っている”だなんて、言えるはずもありませんもの」
角を曲がる。タイミングは、完璧。
「……おにいちゃん……?」
声が聞こえた。
「さぁ……愛しい妹を迎えに行きなさい……」
彼の足が駆け出した。えぇ……間に合いましたわね。彼の背中を少しだけ眺める呟いた。
「きっと貴女も見ているのでしょう?」
彼等の抱きしめる姿が示すのは安堵。涙の再会ですわ。
「……よかったですわね」
気付けばわたくしは小さく呟く。
「これで、この日の役目は終わりですわ。」
本来なら、このまま去るだけ。それが“わたくしの正解”。
「けれど……ほんの少しだけ……ほんの少しだけ今回は……違っても……よろしいでしょう?」
彼が振り返る前に闇に乗じて気配を薄くする。距離を取り影の中に潜る。それでも声だけは残しましょう。
「いずれまた会えますわ士道さん」
これは約束でも無ければ保証でもない。
「だからこそわたくしは……」
貴方に出会えると言うのならば何度でもこの時間に戻り、何度でも、あなたに出会いましょう。
「きっと貴方は同じように、手を差し伸べることでしょう」
何度でも──
「……ええ」
誰もいない空間に、微笑む。
「何度でも、お会いしますわ」
たとえあなたがそれを覚えていなくても構いませんわ。
「ですがこの想いが、報われることがあるのならば……」
──最初に、あなたを救ったのが
「わたくしであるという事実だけは、決して、消えませんもの」
今の思い出はわたくしだけの宝物ですわ……
本編入りする前にもう数話書きたい話があるのでそれが書けたら本編入りします!
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