ここはエスポワール王国。過去に魔王率いる魔王軍と戦うために人類が結束した結果、生まれた国。魔王軍を退け、平和な日々を人々は送っている。
魔王軍残党もほぼ討ち果たし、残る脅威は野生の魔物だけ。王国の人々は今も手を取り合い、平和を脅かすかもしれぬ魔物との戦いの日々を送る。
そんな王国も建国1500周年を迎え、今日は建国記念日である。
王は記念祭を催し、その会場である王国北東部は祭りによって人々の熱気に包まれていた。
北東部で、人々が祭りを楽しみ始めた頃、王国の北西部の民間に住む少年は未だ夢の中にいた。
少年は幸せそうな夢を見ているようで、だらけきった表情をしていたが、少年の母親が見かねて起こしに来たために夢から覚める事となった。
「トラ、起きなさい。……ほら、起きなさい。………トラオム!」
「ウェップ!?はいはい起きてます起きてます、おはようございます、母さん。」
母親が大きめの声を出すと、慌てて起きた少年は着替え始める。母親はその間に少年の部屋のカーテンを開け、外の日差しを部屋に招き入れる。
「全く…。もうクラージュ君とアウローラちゃんが玄関で待ってるわよ?フェリーの出航時間も迫ってきているから急ぎなさい。」
「え…うわっ、もうこんな時間かよ!起こしてくれてありがとう、母さん。」
少年は腕時計を装着し、時間を確認して更に慌てて部屋を飛び出して階段を下りていく。その後ろを慣れたように母親が続いていく。
「もうこんな時間だから食事は向こうで取りなさい。それとほら、お小遣いを忘れてるわよ。」
「おっとこれがなくちゃ何もできないや。何から何までありがとう。いってきます!」
「いってらっしゃい。もぅ、なんでこんな慌ただしい子に育っちゃったのかしら?」
少年は今度は玄関を飛び出し、二人の少年少女を認めるとそれぞれの手を掴んで走り出す。
掴まれた少年は躓くことなく走り出し、少女はアワアワ言いながらも必死に着いていく。
「二人ともゴメン!寝坊しちゃった!」
二人を掴んだ少年は謝罪の言葉を口にするも、足は止めない。
「それは良いからもう少しゆっくり走ってぇ〜!?」
若干どんくさげな雰囲気を持つこの少女の名はアウローラ・パッサート。ふさふさと長い水色の髪を揺らしながら必死に走っている。
「お前が寝坊するのは予想はしていたぞ。…経験則からな。」
呆れた様に言いながらも慣れた足取りで走る少年はクラージュ・ヴォロンテ。短いクリーム色の髪は風になびいて、ユラユラと揺れている。
「俺ってそんなに寝坊したことあったっけ?」
そしてこの寝坊したはた迷惑な少年はトラオム・フライハイト。起きてから着替えて直ぐに家を飛び出した彼の黒髪には寝癖が付きっぱなしである。情けない。
「お前は楽しみなことがあると無駄に興奮するからな。大方、昨夜中々寝付けなかったんだろう?」
「流石は俺の親友!その通りだ!」
「開き直るな」
「そんなことより二人とも、もう少しゆっくり走ってってばぁ〜!」
彼らは幼い頃からの友人で、当然か仲良しだ。
ワイワイガヤガヤと騒ぎながらも無事に王国北東部行きのフェリーに乗り込み、一息をつく。
「いや〜、北東部に行くのは初めてだよ。どんなところなんだろ?…おっとクラっちは何も言うなよ?楽しみは取っておきたいんだ。」
「そうか。ついでにクラっちと言うのを止めてくれ」
「おい、クラっち!あっちで出来立てのフランクフルト売ってるってよ!丁度冷え込んできたし、暖かいのでも食おうぜ!」
「・・・」
「落ち込まないで〜?」
クラっち、とはトラオムがクラージュを呼ぶときのあだ名である。トラオム以外の人はクラージュを『クラ』と呼んでいる。クラージュはトラオムにその呼び方を止めるよう何度も頼んではいるが、結果はご覧の有様で、にそのやり取りも彼らの中では恒例行事となってきている。
また、トラオムにもあだ名があり、彼の母親が呼んでいたように『トラ』と呼ばれている。
ちなみにアウローラには『ローラ』というあだ名がある。
トラオムがアツアツのフランクフルトを頬張り、クラージュが呆れた様にその様を眺め、アウローラはニコニコと笑う。
そんな平和なひと時を甲板で過ごす。
仲良し三人組以外の人々も綿菓子を食べるなどして、これから行き着く建国記念祭を心待ちにしている。
この世界は科学や技術が発展している。船はその科学力のお蔭かグイグイと目的地に向かい、出航して一時間程で目的地に到着する。
エスポワール王国の北東部と北西部では、一番距離的に近いところでも40kmはあるため、フェリーとして中々に速いことがわかる。
「ほらほら、二人とも早く行こうぜ!」
「祭りは逃げないからお前は落ち着け。」
「え〜、早く遊びに行こうよ〜!」
「ほら、ローラもそう言ってるしさ。」
「・・・わかったから、わかったから手を引っ張るのは止めてくれ」
船が到着するやいなや、我一番と言わんばかりにトラオムがクラージュとアウローラの手を引いて船から降りようとする。
クラージュはトラオムを落ち着かせようとしたが、アウローラもなにやらそわそわとしてクラージュの手を引っ張るため、クラージュも諦めて二人に合わせて走り出す。
周囲の人々もその光景をにこやかに見つめていた。
「こっちこっち!」
「あぅ、トラちゃん早いよぉ。」
「トラ、そっちは便所だ。」
船を降り、人混みを(無理矢理)駆け抜け、偶に迷いながらも三人は祭りの会場にたどり着く。
「おおぅ・・・凄い熱気だな」
「うわぁ、人がゴミのようだね・・・」
「ローラ、その喩えはどうかと思うぞ?」
会場は所狭しと屋台が建ち並び、通路は人が埋め尽くし、人の熱気や屋台の調理器具から発せられる熱で非常に暑苦しくなっていた。
「だってぇ・・・あ、あっちの方に射的の屋台がありそう!」
「あ、おいローラ!・・・行っちゃった。」
「アイツは射的の変態だから仕方がない。諦めて俺達だけで回ろ・・・おい、トラ!」
「あっちからすんげぇいい匂いがするんだ!先に行ってるぜ!」
「・・・一人で回るか。」
二人から射的の変態と称されるアウローラはその名の通り射的が好きだ。猫にマタタビを与えた時のように飛びついていく。そして射的が好きなだけあって、その腕はプロと言ってもいい。ただ、このような祭りで射的で当てすぎて景品が持ち帰れなくなったり、屋台を潰してしまったりするのが当たり前なのが変態と呼ばれる由縁である。
トラオムは食欲に勝てずに駆け出し、残されたクラージュはフラフラと武具店を探しに歩き始める。
クラージュの祖父は道場を開いており、その祖父からある程度教えを受けたクラージュはそこそこ武具を知ってている。
つまるところ、アウローラが射的の変態ならば、トラオムは暴食の変態で、クラージュは武具の変態である。
彼ら二人の変態度はアウローラに比べて遥かに低いが。
☆
「なんか怪しい空模様だなぁ。」
三人が別々に別れ、早くも三十分が経つ。
右手にはチョコバナナ、左手では指の間に焼き鳥を4本挟んで空を見上げてポツリとトラオムは呟く。
焼き鳥とチョコバナナが合うかどうかは別として、実際に空は黒く染まり、今にも何か起こりそうな雰囲気である。
「ん?何だありゃ?」
パクリと左手にある焼き鳥の内の一本であるレバーを頬張っていると、トラオムは空に何かを見つけたようだ。
「んぐんぐ・・・。ありゃ、なんか増えてきてね?しかも近くなってるし。」
トラオムが今度はチョコバナナに口をつけていると、見つけた“何か”はトラオムのいる祭りの会場に近づき、その数を増やしていた。
ピィィィィィ!!!
「敵襲!中央大陸より魔物の集団の襲来です!一般市民は至急、王城まで避難を!王城待機中の王国軍兵士は、一般市民の避難経路を塞がないように副門より出動。王城外にいる兵士は装備を整え次第、指定の場所に集合してください。A班・・・」
トラオムの持つ食べ物がなくなってきた頃、笛の音が鳴り響き、会場の放送装置を使った緊急放送が入る。
周囲の人々はその放送を聞き、放送が流れる前よりも騒ぎながらも王城へと向かう。
エスポワール王国では過去にこのような魔物の襲来も多々あったため、国民はそこそこ統制の取れた動きで避難を始める。
会場にいた王国軍兵士らしき人々も速やかに行動を取り始めた。
一方、トラオムはというと・・・
「やっべ、逃げなきゃ!・・・誰も見てないし、これ貰っても良いよな?」
そう言いつつ、トラオムは店主が避難して無人となっている屋台から林檎飴を拝借して舐める。犯罪だ。
「さて、逃げるか。」
「キミキミキミィ!待って待って待ってヨォ!」
「!?」
林檎飴を舐め、いざ逃げようとするトラオムの背後から狂気を含んだ声が聞こえてくる。
トラオムは魔物に追いつかれたか、と思い覚悟を決めて振り返る。
「ンヒャヒャ!どぉしたのぉキミィ?ンキキ!怖いの?恐いの?ネェネェネェネェ!」
振り返った先にいたのは頭に2本のグニャグニャと捩れた角を生やした全身紫色の白髪の魔物だった。
グリンと効果音が付きそうな程にまん丸に開かれた光のない目でトラオムを見つめる。
「ぁ・・・う。」
トラオムは恐怖のあまり動けない。
普段の快活さが何処にも見当たらない程に怯え、産まれたての子鹿の如く足を震わせている。
「やはぁ、やはぁ・・・!良いね良いね!うんうん、うんうん!そのまま大人しくしてるんだよォ!直ぐにグチャグチャにしてあげるからァ!」
「や、やめ・・・こっちに来んなよ・・・」
ズルズルと足を引きずりながらも着実に距離を縮める魔物に、トラオムは遂に尻餅を着いてしまう。
それを見て魔物一層笑みを深める。
魔物にとって、人間とは己らの頭を殺した恨みの対象であり、剣を取って挑んでくる敵であり、食料であり、玩具だ。そしてトラオムを見る魔物の目は玩具を見る目であった。
「ンヒャ!ンヒャヒャ!ご対面だよぉ?こんにちはこんにちはぁ!」
「ぅ・・・助けて・・・助けてくれよぉ!誰か!」
「ンヒャンヒャンヒャ!ダァレも来ないねぇ!ざぁーんねぇーん!」
遂に追い詰められ、トラオムは助けを求めるが誰もいないようで助けは来なかった。魔物はトラオムの顔に自分の顔をずいっと近づけ、満足げに、かつウザったくトラオムに声をかける。
「まぁ?もうじき僕ちゃんの部隊も到着するしィ?みィ〜んなキミの後を追うから、元気を出しなよォ!ここでは僕ちゃんがすこーし、ほんの少しだけ先行しちゃったからァ・・・。」
「・・・ヒィッ!?」
魔物が自分の手を見せびらかすかの様にトラオムの顔の前に持ってくると、突然爪が伸びた。
魔物の爪と爪が擦れるたびに金属質な音が響き、偶然風に吹かれて飛んできた落ち葉が伸びた爪に当ると綺麗に真っ二つに分かれたところを見るに、爪の切れ味は抜群なようだ。
そんな物騒な爪をトラオムの肩の上に乗せ、魔物は言葉を続ける。
「な、何を・・・?」
「キミが記念すべき一人目の犠牲者なのさぁ!ンヒャヒャ!おめでとうおめでとぉぉぉ!」
「え・・・あ、腕が、腕がァァァァァ!!!」
魔物が叫びながら鋭利な爪を肩から下にズラせば豆腐を切るかのようにポロリとトラオムの腕が地面に落ちる。切り口からは血が止めどなく溢れ出て、地面を紅く塗り潰す。
トラオムは落ちた腕と腕のあった場所を交互に見て、脳が、理解が現実に追いつく。
遅れてきた痛み、先程まで動かせていたモノが動かせなくなっている喪失感。トラオムは叫びを上げずにはいられなかった。
「ンヒャンヒャンヒャヒャ!そぉれもう一本♪」
「痛い痛いイタイイダイイダイィィィ!!!」
コトリと音がした方を見れば残っていた腕も落ちていた。脳が焼き切れそうな、トラオムが人生で感じた事のない痛みに喉が潰れそうな程叫び声を上げる。
「良いね良いねぇ!これだよこれぇ!この壊れそうな叫び!ヌクヌクと護られて生きてきたせいで痛みに慣れてないからこその絶望した表情!何もできずに死んでしまう無念さと僕ちゃんへの怒りその他諸々数え切れない程の負の感情の篭った目付き!全身で表現してる僕ちゃんへの恐れ!アァ堪らないヨォ!心地いいヨォ!最高だヨォ!」
「ァ・・・・ァヴゥゥ・・・・。」
「ん?何?もう鳴かないのォ?壊れちゃったのォ?情けないつまらない楽しくない面白くない!何より遊び足りないヨォ!!!」
一人で勝手にトラオムを見て興奮し、声が出なくなったトラオムを見て瞬時に興奮が冷め、癇癪を起こす。
魔物は一頻り狂った己の感情、考えを叫び終えると、今度はトラオムの首に爪を添える。
「・・・・ゥア・・・・ァ」
「壊れた玩具はさぁ・・・・」
何も反応を示さなくなったトラオムにつめたい視線を浴びせ、先程とは大きく変わってなんの感情のも篭っていない無機質な声で魔物は呟く。
「処分しろって、言われてるンだヨォ・・・・?」
そう言い、爪をスライドさせ、トラオムに興味を失った魔物は振り返ることなくまた飛んでいった。
空は大量の、トラオムを嬲っていた魔物とは別の羽の生えた魔物が飛び、地上に影を作り出していた。
影を作られている地上の一ヶ所には頭部と両腕のないトラオムだったナニカが置き去りにされていた。
どうも、トロントロンです。
勢いで書きました。後悔してます。反省してます。
ええ、とんでもない駄文ですよね。ごめんなさい。
投稿したからには程々に頑張っていくつもりなんで、生暖かい目で見守っていただけたら嬉しさのあまりに布団に潜り込んで寝ます。冗談です。素直に喜びます。