時を渡って世界を救うだってさ   作:トロントロン

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プロローグその2 生き返るんだってさ

 白い、果てしなく白い空間に声が響く。その声は壮年の男の声であり、幼い子供の声であり、老婆の声であり、威厳に満ちた老人の声と老若男女問わないものだった。

 

 声の発生源は白い塊であり、一人の少年を中心に集まっていた。

 

「新入りだ」

「壊れてる」

「可哀想に」

「まだ若いのに」

「絶望してる」

「だが力がある」

「でも気付いてない」

「気がつかせねば」

「光を見せなくては」

「この世が」

「この星が」

「闇に潰れる前に」

「黒く染まるまでに」

「止めてもらおう」

「侵食を」

「やってくれる」

「異常だから」

「決定事項」

「光を見せよう」

 

 白い塊は少年の下に潜り込み、少年の身体を持ち上げる。

 持ち上げられた少年とはーーーーーー

 

「・・・・・・ゥウ」

 

 トラオムであった。魔物に斬り落とされた筈の頭と両腕は元通りの位置に戻ってはいるが、彼は心が壊れてしまっていた。見えている筈の目は何も映しておらず虚ろで、聞こえている筈の声は右から左へと聞き流しており、だらしなく口を開けていた。

 クラージュとアウローラの手を引き、明るく振舞っていた少年とは似ても似つかない、最早別人のようである。

 

 そんなトラオムをえっさほいさと運ぶ白い塊達。

 

「着いた」

「着いた」

「ここだ」

「光を灯せ」

「集めろ」

「作り出せ」

 

 ポイッとゴミを捨てるかのようにトラオムを放り出し、白い塊達は円になってクルクルと回り出す。

 

「古代」

「未来」

「崩壊の日」

「この子の日」

「決戦の時」

 

 白い塊達それぞれが好き勝手に呟き、回転はどんどん加速していく。

 

「集めろ」

「集まれ」

「集合」

「8時だヨ」

 

 白い塊の内、一つがふざけるが、無視られたまま回転していく。やがて光が回転する白い塊達の中心に現れ、白い塊達を飲み込んでいく。

 

「光よ」

「光だ」

「フレッツ」

「光」

 

 光が白い塊達を飲み込み、回転の様子が見えなくなると光は一際強く輝く。

 やがて光が収まるとそこには・・・・

 

「トラオム・フライハイト、目を覚ますのです」

 

 ・・・・そこには、未だ光があった。

 そこだけ白く塗り潰した様な球体の光が佇み、トラオムに声をかける。

 

「・・・」

 

 トラオムの返事はない。彼の心は既に絶望で塗り潰されているから。返事をする余裕もなければ、彼には聞こえてもいない。

 

「ならば光を見せましょう。心暖まる光を。安らぎの光を。」

 

 そう言うと光の球体から小さな光が飛び出す。先程から光ばかりで非常にややこしいものだ。

 

 光(球体)から現れた光(小)はトラオムの胸の上までふわふわと浮かんで行ったかと思うと、トラオムの胸に向かっていきなり飛び込んだ。

 

 飛び込まれたトラオムはビクンと全身を震わせ、しばらく経ってからムクリと上体を起こす。

 

「ここは・・・?俺は生きてる・・・?」

 

 トラオムは目の前の光の球体など目に入っていないようで、先ず両腕の存在を目で確認し、その両手で頭部の存在を確認する。

 

「ある・・・あるよ・・・両腕も頭部も・・・!」

 

 失った筈の存在が然るべき場所にあるのを確認すると、トラオムの両眼からは自然と涙が溢れていた。

 両腕を切り落とされ、首を切られた自分は死んだのだと、絶望に暮れていた彼から涙が溢れるのは当然といっても過言ではない。

 が、空気を読まない存在がそこへ声をかける。

 

「トラオム・フライハイト。私の力を借りてですが復活したようで何よりです。」

「お前が・・・いや、貴方が私を五体満足にしてくれたんだ・・・くださったんですね。感謝します。」

 

 おそらく目の前の光が自分を助けてくれたのだと考え、トラオムは明らかに慣れていない口調で礼を述べる。

 

「ここは死後の世界。貴方は魂としてここに存在しているので魂の形として五体満足なのは当たり前です。」

「・・・やっぱり、俺は死んだのか。・・・クラっち、ローラ、母さん、ゴメン・・・!」

 

 顔を曇らせて自分と関係の深かった人々に謝るトラオムはやはり死んだのかと思うも、実際に殺された時とは違い、トラオムの心は妙に落ち着いたままで、現実を受け入れていたことに内心で首を傾げた。

 そんなトラオムに光は声をかける。

 

「トラオム・フライハイト。貴方にお願いがあります。」

「・・・俺は死んでいます。できる事など、ありません。」

「話は最後まで聞いてください。・・・ここは死後の世界です。」

「知ってます。さっき聞きました。だから・・・」

「話を最後まで聞いてください。」

 

 不毛なやり取りである。

 

「・・・続けます。私にはそれなりの力があります。そして、未来のことも知っています。私の知る未来では・・・世界は崩壊します。」

「な、なんだって!?・・・あ、いや、続けてください。」

「これから貴方には力を授けます。戦う力を育てるための才能。現世に舞い戻るための肉体。」

「生き返れるのか・・・・?」

「そして、時空の歪みを開ける力。これで魔法の存在していた古代、魔王との決戦前の中世、貴方がいた現世、崩壊後の未来。そして崩壊の日。要するに時を渡る力です。その力を使い、世界を崩壊から救ってほしいのです。」

「待ってください!なんで俺なんですか!?他にもっと適任の人間がいるでしょう!」

「拒否権はありません。」

 

 時を渡り、世界を崩壊する運命から救え。光が言うお願いのスケールの大きさにトラオムは反論するも、キッパリとした光の物言いに閉口する。

 

「これは貴方でないと成し遂げることはできません。」

「・・・せめて、その理由を教えていただいても?」

「それは、実際に貴方自身で確かめてください。ヒントは過去にあります。」

「・・・そう言われると気になるじゃないですか。わかりました。貴方の願い、俺が叶えてみせます。」

 

 徐々にトラオムの口調は崩れていくが、お互いに気にしていない。気にする必要がないからだ。

 

 兎も角、トラオムは光の願いを聞き入れた。己の好奇心が理由でもあるが、どうせ死んだのに生き返らせてもらえるのならば、お願いを聞いても良いのだという思いがあるからだ。

 

「では、現世に肉体を造り上げます。」

 

 その言葉の後にチカチカと点滅を繰り返す光。

 そして思い出したと言わんばかりに言葉を続ける。

 

「最後に一つ。貴方を送る先は現世の王城、一回の男子トイレの個室です。他の人々もある程度はも王城に避難できていますので、怪しまれる事はないでしょう。」

「場所の指定が細かいな。・・・避難できたのはある程度、か。」

 

 魂として存在していたトラオムの身体が透け始める。現世へと移行しているのだ。

 

「それと、説明し忘れたことがあまりにも多く、時間が足りないので紙に記して渡しておきます。目が覚めたらポケットを見てください。」

「最後の一つじゃなくて、二つじゃねーか!」

 

 最後の最後で締まらないが、ツッコミを最後にトラオムの身体は完全に透明となる。

 

 無事にトラオムが現世に戻れたのを確認し、光はポツリと呟く。「希望の種は蒔いた、そこから希望の実が実りますように。」と。

 

 

 ☆

 

 ●現世 エスポワール王国北東部 王城1階●

 

「ん・・・お?」

 

 無事に現世に戻れたトラオムは王城の男子トイレの個室で目を覚ます。

 そして、光に言われていた事を思い出し、ズボンのポケットに手を突っ込む。

 

「これか・・・?」

 

 ポケットから出てきたのは一枚の丁寧に畳まれた紙。

 トラオムは紙を広げて個室の便器に座って読むことにした。

 

『トラオム・フライハイト。これを読んでいるということは、無事に現世に戻れたということです。私は知っていましたが。』

 

 トラオムは内心で光を少しムカつく奴だと思った。

 

『さて、私が貴方に与えた力ですが、一つはザックリと言うと“戦いの記憶”です。貴方には魔物や未来にある人類の遺物、古代の不思議生物を相手にしてもらうので、不可欠のものです。ただ、私が与えたのはある偉人の記憶の一端です。“建国の王”の戦いの記憶を授けました。』

 

 建国の王とはエスポワール王国を建国した男、エスポワール一世である。彼の記録は建国した以外は剣と失伝したはずの魔法で当時の魔王軍相手に大暴れしたという大まかな記録しか残っていない。

 

 失伝したはずの魔法というのは、古代で魔法が栄えていたのだが、ある出来事をきっかけに誰もが魔法を使えなくなったという伝承が当時あったからだ。ちなみに、現代でも魔法は何故か王族にしか扱えていない。

 

 トラオムが目を閉じて記憶を探れば、建国の王らしき一人の大男が剣を振るい、魔法を放つ姿だった。男の前に敵らしき人型のナニかが次々に倒れていく。

 明らかに第三者視点での記憶だがトラオムは突っ込む事を放棄した。彼は死んで生き返る一連の出来事に疲れていた。心の平穏のためには諦めることも必要だと彼は学んだのだ。

 

『まぁ、記憶だけあっても意味が無いのですが。』

「だったら授けるなよ!」

 

 思わずトラオムは叫ぶ。そこでハッと気づいて個室から顔を出して他の人が居ないかを探るが、誰もいなかったようで一息ついて個室に戻った。

 もし誰かが居て、トラオムの叫びを聞いてしまったら変人認定されてしまうのではという彼の羞恥心からによる行動であった。

 

 トラオムは再び紙に目を落とす。

 

『と言うのは冗談ですが、記憶については後々役立つ時が来るでしょう。次は時渡りの能力についてです。本題です。ところで問題と本題って声に出すと音が似ていませんか?私は・・・』

 

 トラオムはこれ以上疲れを増やさないために少し先の文章に目を向ける。彼は学んだのだ。面倒な相手は無視するに限ると。

 

『・・・渡れる時代は魔法の全盛期の“古代”。王国軍と魔王軍の決着のつく“中世”。貴方のいる“現代”。全てが破壊される“崩壊の日”。そして崩壊の日の後の“未来”です。崩壊の日にはやることをやり終え、一番最後に向かう事をお勧めします。でないと死にます。』

 

 死にます。その言葉に何も感じなかった自分を不思議に思いながらも続きを読む。

 

『何時でも何処でも好きなように時を渡れる訳ではありません。特定の場所から特定の時代の特定の場所の往復はできますががそれだけでしかありません。一ヶ所から全ての時代の全ての地点に渡れるわけではないのです。何処と何処が繋がっているはご自身で確かめてください。私も知り得ないので。また、それぞれの時代で過ごした時間の分その時代の時は進みます。ですが、後戻りはできません。尚、その時代で何もしなければ本来の歴史通りに事は進みます。出来れば主な出来事には介入してください。さもなければ歴史通り世界は崩壊します。』

 

 ここでトラオムは少し休憩を挟み、少し情報を整理する。つまり時代Aのa地点と時代Bのb地点の往復はできても、時代Cのc地点と時代Aのa地点は行き来できないということだ。

 

 情報を整理しながらも彼はそわそわしていた。歴史の出来事の介入するということは、その時代の英雄に実際に会えるということだ。トラオムの少年心は期待に疼いていた。

 

 紙の表面を全て読み終えたので、今度は裏面に目を通す。

 

『また、貴方が意図しなくても、何かしらの影響で時渡りのための時空の歪みが開いてしまうことがあります。その点は頭に入れておいてください。最後に重要なことをお伝えします。もし貴方に万が一にでも、天文学的な数値で、偶然、運良く、物好きな仲間ができた場合』

「こいつ絶対喧嘩売ってるだろ!ふざけてんだろ!」

 

『その仲間と共に時空の歪みに入り、共に旅をすることも可能です。ここ重要です。仲間がいれば、共に旅ができます。いれば、ですが。』

「しつこいし、ムカつくし、俺が現世に戻って手出しができなくなったからって調子にのってんじゃねぇ!」

 

『PS.私のお願いのことは別に他の方に話していただいても構いません。信じてもらえればいいですね。尚、このメッセージを読み終えると紙はトイレットペッパーに早変わりします。個室にセットしておいてください。』

「最後に、とか言いながら追伸があるし本当にトイレットペッパーに変わるし、無駄に煽ってくるスタイルだし何なんだよ・・・。」

 

 紙に記されていたことを全て読み終え、トイレットペッパーを律儀にも個室にセットする頃にはトラオムの精神は磨り減っていた。流石に狂った魔物に爪で遊び半分で殺された時の精神状態よりかはマシだが、全てがどうでも良くなってくるような気分になってしまうという、殺された時とは違う方向で精神がおかしくなりそうなトラオムであった。

 

 

「・・・そろそろ動くか。・・・俺、なんか泣きそうだぜ。」

 

 

 暫し個室で真っ白に燃え尽きていたが、時間を経て精神を少しばかり回復したトラオムは行動を開始することにする。先ずは幼馴染み達が無事王城に避難できているかどうかを確認するために。

 

 

「いや、あいつらなら大丈夫か。・・・腹減ったから先に食堂にいくか。」

 

 

 射的の変態のアウローラ。祖父から教えを受けたクラージュ。

 あの二人なら何とか生き延びているだろうという希望的観測の下、友情よりも優先すべきこととして結局腹ごしらえに向かうのであった。

 

 

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