死んでも復活して永劫の時を生きる摩耗しかけた女魔王様と死にかけていたところを拾われたTS転生者が互いに互いの脳を焼いた話   作:団結せよ

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ジャンルが迷子


覚悟ガンギマリ系TS転生者

 人々を恐怖に陥れ、支配を目論んでいた魔王が討伐された。勇者と称えられた人魔戦争における大英雄とその一行が、ついに人類共通であり不倶戴天の仇である魔王を退けたのだ。

 

 これは歴史的快挙であり、千年続く戦争に終止符を打つことになった。

 

 そんな生きる大英雄である勇者一行が、今、地に伏している。

 

 彼らは、たった一人の取るに足らない人間によって制圧されていた。

 最早指の一つも動かせない。魔力は完全に枯渇し、体力も残っていない。

 

 勇者一行を戦闘不能へと追いやった人間は、やや細身で平均的な身長の女性だった。

 

 特筆すべき特徴はなく、強いて挙げるのであればやや鍛えられていそうな体つきと、年齢にそぐわない幼げな顔つきが特徴と言えるくらいの、ただの淑女であった。

 

 きっかけは、魔王を討伐した勇者一行が、魔王城の中を散策していた時に発見した一つの隠し部屋だった。

 その部屋は、まるで外部から絶対に見つけられないようにするという意思を体現したかの如く隠蔽の結界が幾重にも張り巡らされていた部屋だった。

 

 それを、勇者一行の魔法使いが発見したことで、一応調査を開始した。

 

 何が出てくるのか。

 

 あの魔王が何としてでも隠し通したかったものとは何か。

 それを探るべく、一行はその結界を破り、隠された部屋の中へと入る。

 

 そこは、何の変哲もない部屋だった。

 

 人が一人暮らせるくらいの一室。

 机と椅子、それから明かりが用意されたシンプルな部屋。

 

 そして、椅子に座って本を読む一人の女性。

 

 魔王城の一室、それも隠された部屋にしてはあまりにそぐわない光景に、勇者たちは呆気にとられる。

 

『こんにちは。わざわざこんな所まで来るなんて物好きだね』

 

『僕? 僕はまあ、魔王様の家族みたいなものかな』

 

『ああ、魔王様を倒したんだ。……へぇ。なら、ちょっと八つ当たりに付き合ってよ』

 

 そうして始まった戦闘は、一方的な物だった。

 

 人間であるはずの彼女が、まるで赤子の手をひねるように勇者一行を追い詰める。

 決着は一瞬にして訪れた。魔王が使用してきた最終奥義をさも通常攻撃くらいのテンションで使用した彼女によって、勇者一行は無視できないダメージを負ってしまった。

 

「……魔王様を倒したというから戦ってみれば、案外呆気なかったな」

 

 ──まあ、魔王様より僕の方が強いからそりゃそうか。

 

 なんて、明日の天気を占うくらいのテンションで女性は言う。

 彼女にとって、それは紛れもない事実であり、それ以上もそれ以下も意味を含ませる必要のないただの確認作業に過ぎなかった。

 

 薄れゆく意識の中、勇者の耳はそんな彼女の発言を拾った。

 

 そこにあったのは、嘲笑でもなければ興奮でもない。見下すような傲慢さも、期待が外れたときのような落胆さもない。ただ単に、"呆気なかった"という感情だけが彼女の言葉を支配していた。

 

 魔王という巨悪を倒したはずだったというのに、これほどの存在が隠れていた。

 

 勇者一行は戦慄する。

 魔王なんかよりも遥かに強力な彼女が、人間社会に牙を剥いたとき。果たして人類は太刀打ちできるのか。

 

 そんな不安を残して、彼らは意識を完全に手放した。

 

「……はぁ。どうしよ、これ」

 

 そんな勇者たちとは裏腹に、彼女はただ困っていた。

 

 彼らを殺すつもりはない。かといって、このままこの場に放置することが正解かと問われると、それは首を傾げてしまう。

 

「全く、こんなのにやられるなんて情けないですよー……。

 まあ、魔王様は復活するらしいし、彼女を探して、また一から安定した生活を築きましょうかね」

 

 そう言って、彼女は魔王城から離れる。

 

 呆れたような笑みを浮かべながら、何の変哲もないただの日常を過ごすように。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 転生した。

 

 飢饉に遭った。

 

 口減らしをすることになった。

 

 売られた。

 

 劣悪な労働環境で、道具のように扱われる毎日を過ごすことになった。

 

 睡眠時間はほぼ取れない。野ざらしの中仮眠を取り、肺を痛めながら鉱山で肉体労働。

 

 前世の記憶を保持する俺には全く耐えられず、そこから命からがら逃げだした。

 まともな水も飲めないような生活に嫌気がさして、布一枚で夜中に走り出した。

 

 そして寝ずに何時間もぶっ通しで裸足で走り回った結果、意識を失って気が付いたら、絶賛人類と戦争中の魔人族、それも魔王に拾われた。

 

 そしてそこでも馬鹿みたいにこき使われた。しかし、魔王様の所有物ということで思った以上に悪い待遇ではなかった。が、まあ容赦はなかった。

 

 しかし、以前とは比べ物にならないほどに良くなった点がある。それは、自分の部屋が用意された点だ。

 雨風は凌げるし、食事は出るし。魔人族からのいじめこそあるが、それでも以前に比べれば天国のような環境だった。

 

 そして俺は、更に待遇を良くしてもらうために自分の有能さを必死にアピールした。前世の知識をフル活用して、どれほど自分が使える人間なのかをプレゼンし、人間族なんて好きじゃないです! 裏切ったりますよォ! くらいのテンションを貫き通した。

 

 結果、俺は晴れて名誉魔人族となった。

 

 元より魔王様の所有物として、ペットみたいな扱いを受けてきた俺はこれにて他の魔人族の方々にも認められる存在となったのだ。

 

 そこで俺は思った。

 

 安定した生活というのが、如何に素晴らしいものなのかを。

 

 ちゃんと人として扱われて、まともな食事があって、屋根のある部屋で睡眠がとれて、休日もある。

 

 これがどれほど尊いものか理解した。

 

 激しい喜びはいらない。その代わり深い絶望もない。

 

 どこぞの殺人鬼みたいな思想に染まっている気がするが、これは実際真理なのだ。ほどほどの生活とは、実は何物にも代え難い贅沢なのだ。

 

 人権なんて全く存在しない扱いを一度受けてみてほしい。普通に共産主義者になるところだった。実際、前世において八時間労働が主流になったのは社会主義者たちの台頭によるものらしいし。

 

 万国の労働者よ、団結せよ!

 

 まあ戦時下なんでそんなこと考えてる暇ないと思うけどね。

 

 そんなこんなで激動の人生を送ってきた俺だったが、正直前世から性別が変わっていることすら些細なこととして考える暇もないくらいには大変だった。

 

 どうやら俺には才能があったようで、名誉魔人族となった俺は魔王様の手引きで色々と戦う術を身につけさせられた。結果、魔王様よりも強くなってしまった。

 

 ええ……。

 

 魔王様には、「お前がこちらの味方でよかった」なんて言われる始末だ。

 

 魔法においても武術においても、俺の右に出るものはいなかった。

 魔人族において、俺以上の実力を持った人はいなかった。

 

 正直、そんなものあったところでどうしろと。という思いしかない。

 

 確かに、武力があれば我を通すことができるだろう。

 圧倒的な武力というのは、権力と同等になるほど影響力が強い。

 

 人間族と魔人族が長年戦争を続けている世界だが、俺は別に魔人族に対して愛着を持っているわけではない。だって、正直な話こいつらの動機って、猿が歯向かってきたから潰すくらいのテンション感というか。

 

 この世界って魔人族が圧倒的に力を持っていて、人間たちを虐げていたから人間が団結して抗って、千年にも渡る戦争へと発展したっていう流れらしい。

 

 こんなのに情が移ると思う?

 

 少なくとも人間である俺が魔人族バンザイなんて心の底から思うわけないよね。

 

 そして魔王様自身も正直辟易していたというか。

 

 俺の私生活は常に魔王様と二人体制だったのだが、彼女は何というか。先人たちや死んでいった友人たちの意思、使命を果たそうと今の地位に就いているだけの強迫観念だけで種族を統治している感じのお労しい人だったのだ。

 

 だから公務が終わったらマジで赤ちゃんプレイかな? ってくらいおぎゃりだすし、甘えてくる。

 魔人族の王がその体たらくでいいのかよ……。俺は一応人間だぞ? って心の中で思いつつもまあ一応は拾ってもらった恩もあるので面倒を見ていた。

 

 おーよちよち。

 

 ……ほんまにこんなんでいいのか?

 

 前世の記憶をフルで生かして、魔王様に教えてもらった魔法を遺憾なく発揮し、魔王様周辺の生活レベルを格段に向上させた俺に隙は無い。

 

 この時代に存在してはいけない感じの美味しい料理を振舞って、マッサージをして娯楽を与えてふかふかの寝具を用意して、至れり尽くせりの空間を与えたらびっくりするほど地位が向上したのはご愛嬌。

 

 もう俺なしじゃ生きていけないねぇ……。ニチャァ。

 

 そんなことしてたら魔王様は俺に対して情が移ったのか、家族だと言い始めた。

 お前ふざけんなよ。敵対種族を家族にするなよ。ダブスタ極まってんじゃねぇか。

 

 そう思ったがそんなこと馬鹿正直に言えるはずもないので、それとなく質問してみた。

 

 返ってきた答えは、『お前は例外』だった。

 

 やめてね。

 

 普通に失脚の原因になるからね。

 

 そう思っていたのだが、魔王様の圧倒的カリスマと俺の人類嫌いアピールによって難を逃れた。この時ばかりは彼女の政治的手腕にビビった。

 

 なんでも、俺の存在を人類に対するプロパガンダにしてしまったのだ。

 人類は同族に対しても卑劣な扱いを平然と行える野蛮な種族であり、俺は魔王様の慈悲に陶酔し絶対の忠誠を誓うことになったという。

 

 うーん。

 

 一概に間違っているとは言えない。けど、俺は別に魔人族に対してはそこまで好感抱いていないし、人間に対しては普通に同族意識がある。

 

 あくまでも俺を助けてくれた魔王様個人に対して恩を感じているだけであって、陶酔しているほどではない。絶対の忠誠は誓ってないし。

 

「レイナは、私のことをどう思っているのだ?」

 

 突然、魔王様が言う。

 

 なんか付き合ってそれなりに時間が経って、互いの気持ちを再確認したくなった恋人みたいな質問だが、俺は素直に答える。

 

「魔王様には感謝してますよ。僕はあのままだと死ぬしかなかったものですから」

 

 普通に死ぬところだったのでね。

 

「そうか……」

 

 俺がそう言うと、魔王様は淡々と語り始めた。

 

 まるで、心の底から零れ落ちたみたいに、ぼろぼろと言葉が溢れてくるように。

 

「お前を拾ったのはただの気まぐれだった。だがどうしてだろうな。お前を見ていると、人間も案外、私たちと同じなのではないかと思えてきてしまう」

 

 魔王様は俺が用意した紅茶を嗜みながら、目線を下に向けたまま口を開く。

 

「魔人族の王である"真祖"は、決して死ぬことはない。いや、死んだとしても生まれ変わることができる。私は悠久の時を生きてきた。人間たちとの戦争も、ただかつての友人や家族たちが私に託してきた使命だったから続けていただけだ」

 

 えっ何それは。

 

 そんな情報知らないんだけど。え、もしかして俺が知らないだけ?

 

「私はもう、こんな戦争は終わらせようと思う。私が死ぬことはないが、死を偽装することはできる。ここで一度、私は『魔王』という立場を放り出そうと考えている」

 

 そんな彼女の独白に、俺は心の底から大賛成をした。

 

 俺はぶっちゃけ魔人族に思い入れがあるわけでもないし、戦争が終わるのであればなんでも万々歳なのだ。魔王様には個人的な恩だったり、今まで世話され世話してきた関係でもあるので情は湧いているが。

 

 というか、今までの彼女の生活を見てきた身からすると、彼女が無理していたのは紛れもない事実というか。

 

 正直、俺としては責務を放り投げてでも休んだ方がいいよと思っていたところだった。

 

 なのだが、"真祖"という情報は何なのだろうか。

 

 戦争を終わらせることは賛成したいのだが、死んでも生まれ変わるというのはこれ如何に。そんな事実、俺は知らなかったんだけど?

 

「私が"真祖"であることを明かしたのは、お前が初めてだ。……何故だろうな、人間であるはずのお前に、私の最も大切な秘密を暴露することになるとはな」

 

「……え、もしかして他の人たちも知らないんですか?」

 

「ああ。これは五百年間誰にも話していない。今では魔人族の中でも忘れられた情報だ」

 

「そんな情報を僕に!?」

 

 なんか本当にとんでもないカミングアウトをされて動揺が隠せません。

 俺にどうしろというのでしょうか。

 

「私がこれを隠し通してきたのは、これを明かしたところで何も良いことがなかったからだ。ただ、私という個人をまるで神のような存在だと崇める奴らが台頭するだけ。正直、疲れるだけなんだ」

 

「……なるほど」

 

「これをお前に伝えたのは、せめてもの誠意なのかもしれない。勝手に死に、そして表舞台から姿を消す私をどうか許してほしい」

 

 魔王様は寂し気な瞳のまま、その言葉を口にした。

 

 俺はそれを聞き、色々な感情や考えが過る。

 あらゆる言葉が生まれては消え、彼女に対してどう声をかけようかを必死で考えた末に、出てきた言葉は至極単純な物だった。

 

 

「──なら、僕がずっと一緒にいますよ」

 

「──は?」

 

「ずっと生まれ変わるって、結構寂しいんじゃないですか? 僕の目にはそう映りましたけど」

 

「ま、まあ家族も友人も、出会った者たちとは須らく別れることになるから、寂しいと言えば寂しいかもしれん」

 

「じゃあ、僕は不老になりますよ。決して魔王様を一人にはしないと誓います。貴方は僕の命の恩人ですからね。これくらいは当然ですよ!」

 

「……え? 本気で言ってる?」

 

「はい! 本気も本気です!」

 

 俺は魔王様よりも強い。不死は難しいかもしれないが、自分の肉体を不老にすること自体はたぶんできると思う。

 

「……本当に、私と一緒にいてくれるのか?」

 

「もちろん! ずっと一緒ですよ!」

 

 そうして俺は、この人と長い。それはもうながーい年月を過ごすことになった。




シナリオ本編には全く関係ないのにラスボスより圧倒的に強い隠しボス系TS転生者ちゃん

好評なら続くかも
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