死んでも復活して永劫の時を生きる摩耗しかけた女魔王様と死にかけていたところを拾われたTS転生者が互いに互いの脳を焼いた話   作:団結せよ

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探す旅

 魔王様が死んだ。

 

 魔王城の一室、謁見の間にて胸に傷をつけてピクリとも動かない彼女の姿があった。

 復活すると分かってはいても、その姿を実際に見ると少し感じるものがある。

 

 だが不思議と涙は出なかった。

 

 目の前で親しい人が死んでいるというのに、あまりに現実味がなく、モニターを一枚隔てた先で起きている出来事のような実感のなさがあった。

 

 っていうか、こんなにがっつり死体が残るもんなんだ。

 復活するっていうから、てっきり塵になって消えるとか、そういう感じだと思っていたんだけど。

 

 死んでても結構綺麗なんだよな。なんか芸術作品を見てるみたいで悲しさとかそんなに感じないかも。

 

 しかし、この死体に手を出すことはしてはいけない。魔王が殺されたという証明となるためだ。恐らくさっき私と戦った勇者たちが彼女の首を持って帰るのだろう。

 

 なんかそう思うとちょっと複雑な気持ちかもしれない。

 

 愛着がある人の首とか持っていかれたくないし。でもまあ、これが世界平和の第一歩になるかもしれないと考えると、必要な犠牲なのだろう。

 

 さて、魔王様は生まれ変わるという。

 

 彼女から聞いた話によると、どうやら赤ん坊からやり直すわけではなく、この世界のどこかに幼女の姿のままリポップするのだとか。誰かから生まれてくるわけではないというのは、確かに『生まれ変わり』というより『復活』って感じがする。

 

 今まで人間社会に復活することとかあったのだろうか。もしそうだったらどうしてたのだろうか。まあ、魔国に自力で帰ったんだろうけど。

 

 俺は彼女を探して旅に出なければならない。それが魔王様との約束だからだ。

 

 不老の術式を開発する傍ら、魔王様を探す旅に出る。向こうも俺を探してくれるだろうし、見つかるかどうかは運次第だがいつかは再会できるだろう。

 

 お互い寿命という概念からは脱却しているのだ。時間は俺たちを縛ることはない。

 

 なんかかっこいいなこのセリフ。ちょっと決め台詞にしちゃおっかな。

 まあ、俺はまだ寿命から脱却したわけじゃないけどね。

 

 そういうわけで、俺は魔王様を探す旅に出る。

 

 安定した生活が欲しいと言っていた俺が、まさか安定から程遠い行いをするとは思わなかったけど。でもなあ、あの人がいないとつまんないんだよね。

 

 命の恩人でもあるし、結構抜けてるところあるし、割と危なっかしい人だから面倒見てやらないと何しでかすか分からないのよ。

 

 ずっと一緒にいるって言っちゃったし、ここでやっぱやめますなんて言えないワケ。

 それに、あの頃の俺とは違って今の俺は魔王様を凌ぐほど強いんだから。人類の英雄である勇者たちだって俺には勝てなかったわけだからね。

 

 この武力があれば食うに困ることはないでしょ。ないよね?

 

 魔物とか野生動物とか適当に狩って、どこかに売り払えばそれなりの金は貰えるべ。さっさとあの困った魔王様を見つけ出して、余生をぐうたら過ごす時間に当てましょう。

 

 あの人なんでも一人で背負おうとするからなぁ。俺に愛着湧いちゃって戦場に一切出さなかったその融通の利かなさは何だったのだろうか。俺、貴方より強いですよ? 役に立ちますよ?

 

 そんなこと言っても頑なに戦場に出さなかったのだ。

 

 ま、いいけどね。

 

 今も余計なこと考えて自縄自縛してないといいけど。

 

 さーて。じゃああの困った人を探しますか。百年以内に見つかるといいけど、この世界は案外広いしどうなることやら。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 旅を始めて十年近く経った。

 魔人族と人間族の戦争は終わりを迎え、世界情勢は一気に変貌した。これまで力を持っていた魔人族は、かつての栄光を失い、人間との対等な関係を築くことになった。

 

 初めは反発していた過激派もいたらしいが、次第に教育が行き届くようになり、彼らの価値観も徐々に緩やかとなっていった。

 

 魔国も国家としての規模を多少は縮小させることになったが、それでも現在まで続いている。人間国家の植民地になることはなかったようだ。

 

 というか、これは中々扱いが難しく、種族単位での戦争となっていたためあまりに規模が大きすぎた。魔人族の国家も元々はバラバラであったのだが、人間たちとの戦争によって一つの纏まりを有するようになったし、人間たちもそうだ。全ての国家が対魔人族として団結していた。

 

 そのため、戦争が終わった今、次は人間社会で領土問題やら権利問題やらに発展する可能性を孕んでいたのだ。そこで、もうそういうのはやめにして、条約結んで賠償金を払ってもらえばいいよねって感じになったらしい。

 

 そこらへんは俺も良く知らん。

 

 だって、そういう世界情勢とは無縁の生活を送ってきたわけだし。こちとら住所不定無職の旅人なんでね。

 

 人伝で聞いた話しか分からないし、何ならそれだってボヤっとしているのだ。それに、世界情勢は俺にはあんまり関係ないし。

 

 とはいえ、この十年でかなり様変わりしたとは感じる。

 

 平和が訪れた。というと、少し違うかもしれないが。どこもかしこも小競り合いは続いているし、種族としての戦闘というより内輪揉めがひどくなった印象だ。

 

 やっぱり共通の敵を失うと次は仲間内で争うことになるのかね。

 

 

 さて、不老の術式は案外すぐに完成させることができた。

 

 旅をしている最中に、片手間に研究していたら意外とあっさり完成してしまったのでちょっと拍子抜けだ。

 頭の中で理論を捏ね捏ねしながら、旅の暇つぶしに煮詰めていた理論も十年もしないうちに完成し、俺は晴れて老いという概念から脱却することになった。

 

 今の肉体年齢は多分二十五とかなので、今後俺は全盛期を保ったまま生きることができる。まあ、そんなことにこだわらなくてもいずれ若返りの魔法とか開発すればいいだけなんだけど。

 

 十年の歳月を費やし、魔国を探し回ったがそれでも魔王様は見当たらなかった。確か、復活と共に容姿も変化するのだと言っていたが、そうなると俺から見つけることは難しいかもしれない。

 

 とはいえ、魔王様曰くそれほど劇的な変化ではないという。

 

 一目見れば既視感くらいは抱くだろうと言っていた。

 

 ということで、俺は今かつての故郷であり魔国と隣接している人間の国。『ファンユヒ』へとやってきていた。

 俺が安定した生活を求めるきっかけとなった故郷であり、鉱山から採れる鉱石類が主な財源となっている国らしい。

 

 かつてはそんなこと考えている暇もなかったから知らなかったが、この国にやってきて地元の人たちに特産品を聞いたときに答えてくれた。

 

 まあ、俺も昔は鉱山で採掘させられていたから、なんとなくそうなんじゃないかと思っていたけど……。なんか複雑な気持ちである。

 

 その特徴からやはり山が多い地帯であるようで、都市部であってもかなり坂が多い。ここで暮らしている人たちは足腰が鍛えられているのではなかろうか。

 

 そんなことを考えながら、俺は歩く。

 

 目的は魔王様を見つけることだ。だから、この国に長く居座る気はない。下手をするともっと遠くに魔王様がいる可能性もあるからだ。

 

 ……いや、でも魔王様って九度生まれ変わっているらしいけど、九回とも魔国にいたみたいな話し方をしてたよな。

 でも十年探したんだよな。十年だよ、十年。もしかしたら見落としている可能性はあるけど、でも効率を考えると、あまり同じ場所に長居しすぎてもダメだろうし。

 

 え、てか今思ったけど復活のスパンってどれくらいなんだ……?

 そういえば、死んだらその瞬間から復活するなんて一言も言われてないな。もし死んでから十年後に復活するタイプだった場合、どうなる?

 

 あ、なんか急に不安になってきた。

 

 今から戻るか? いや、でもそうと決まったわけじゃないし……。

 もし俺が変な見当違いを発動していたとしたら、それこそ戻っていたら本当に時間の無駄だ。

 

 あ、いやいいんだ時間なんて無駄にしても。だって死なないし。

 いや、でも一度探した場所にもう一度戻るっていうのもなんか癪というか、だったらまだ探してない場所の方に行った方がよくね?

 

 もういいや。あんまり深く考えないようにしよう。

 

 色々な可能性が考えられるかもしれないけど、ありとあらゆる不確定要素を考慮していたらキリがない。なら、自分が今できることに専念した方が良い。

 

 俺はそう考えて、旅を続ける。

 

 人間の文化圏にやってきたのは久しぶりだが、あまり感慨深くはなかった。

 

 というのも、魔王様と一緒に過ごしていたあの時は、魔法やらなんやらを使いまくって部屋を自分好みに改造しまくって快適な生活を送れるようにしていたからだ。

 

 だからまあ、旅の生活とかその日暮らしの宿とか、ぶっちゃけ俺にとってそんなにいいもんじゃない。流石に十年も続けてきたら慣れてきたけどね。

 

 あと、一人の生活がちょっと寂しい。一人暮らしだと思えば楽なのだが、帰る家もなければ、帰ったところで出迎えてくれる人もいないんじゃ流石に味気ないというものだ。

 

 訓練で俺がかすり傷を負った程度で狼狽えていた、心配性の魔王様を思い出す。

 

 あの時のあの人は、死んだような目をしていた時期からようやく脱却し、人としての情緒を取り戻してきたような時期だったのだ。あの時期の魔王様は親から離れられない雛鳥みたいな感じで、鬱陶しくなるくらいくっついてきた。

 

 マジで本当に暑苦しいわってくらいくっつてくるので、悪い気はしないが流石に面倒くさかったことを覚えている。

 

 ベッドの中でまでぴったり張り付くのは勘弁してほしかった。特に夏。

 

 懐かしい思い出に少し笑みを浮かべつつ、俺は歩く。

 狩猟ギルドに登録しているので、道中で出会うモンスターをすれ違いざまに切り捨てたり、戯れに作ってみた魔法をぶっ放したり。

 

 金稼ぎにもなるし、ちょっとした腕試しにもなるのでこれが結構いいのだ。

 

 ちょちょいのちょいって感じで剣を振るうと面白いようにモンスターの体が両断される。どこに刃を通せば効率よく切れるのか、どこをどの程度の力加減で刺せば命を奪えるのか。そういうのが直感的に分かってしまうのが俺の才能らしい。

 

 前世と比べると明らかに生物としての隔絶性を感じるが、これに関しては持って生まれたものなのだという。自分でもちょっと怖いけどね。

 

 そうして森の中を歩いていたら、何やらモンスターに襲われている人たちを発見した。

 

 年の頃は十代半ばだろうか。

 粗末だが悪くはない装備を纏い、陣形を保ちながら必死に熊型のモンスターと戦っている。

 

 体長三メートル近くはあろうかという獰猛なモンスターに対して、前衛の剣使いがヘイトを稼ぎ、後衛の魔法使いが魔力を込めて魔法を発動する。女の子二人組のハンターだろうか。

 

 必死に戦っているようだが、モンスターには傷一つついていない。

 彼女たちとは隔絶した実力差が存在している。

 

 前衛の子は最早息も絶え絶えで、防御に回ってこそいるが少しタイミングがズレたりでもすれば即座にその命を散らすだろう。後衛の魔法使いの子も魔力が底をついている。今はただ、胆力だけで何とか持ちこたえている状態であるらしい。

 

 どうするか。

 

 まあ助けるか。

 

 助けない理由もないし、俺ならすぐに助けられるし。

 

 そう考えたときにはすべてが終わっていた。

 

 俺は鞘から剣を取り出し、モンスターの首筋を撫でる。するとまるで最初から切れていたかのように、綺麗に首と胴が両断され、モンスターはその場に大きな音を立てながら倒れた。

 

「大丈夫?」

 

 俺が声をかけると、二人はハッとしたように意識を取り戻した。

 どうやら、何が起こったのか分からなかったらしい。

 

「ピンチっぽかったから助太刀したけど……もしかして余計だった?」

 

 呆然としたまま何も答えてくれないので、俺は再び声をかける。

 

 すると、彼女たちは首を横に振って応えてくれた。ならばよい。 

 

「い、いえ……。助かりました」

 

「そっか。ならよかった。じゃあ、僕はもう行くから、これからは気を付けて狩りをするんだよ」

 

 運悪く身の丈に合わないモンスターと遭遇してしまったのだろう。

 

 今回のように誰かに助けられることなど早々ない。自分たちより強い相手に出会ってしまったら、どうやって戦うかよりどうやって逃げるかを最重要に考え……まあ、そんなこと彼女たち自身が一番よく分かってるか。

 

「幸運を祈るよ」

 

 そうして、俺は彼女たちと別れる。

 魔王様を探さないといけないし、何よりその熊もそんなにいらない。

 

 俺の収納にはもうそれなりの成果物たちで一杯だし、いや収納上限はないんだけど、助けた手前そこから更に死体まで漁るとなるとカッコ良くないでしょ?

 

 だから、クールに去ろうと思うワケ。

 

「──あ、あのッ! 待ってください!」

 

 と思ったんだけど、なんか引き留められた。

 

 ええ……。なんでなん。

 

「えっと、何かな?」

 

「あ、えーっと……。た、助けてくれてありがとうございます! あの、お礼をしたいのですが……ダメ、でしょうか」

 

 前衛で戦っていた彼女が、息を整えながら精一杯頭を下げてくれる。

 健気だし礼儀もあるし、これは将来良いハンターになるだろうね。

 

 好感持てるよ。

 

 でもまあ、お礼とかは別にいいかな。

 

「お礼なんていいよ。君たちが助かったのならそれで」

 

 俺がそう言うと、彼女は「あっ……」と何やら寂し気な表情を浮かべた。

 うーん……。そんな反応をされるとなぁ。でも確かに、あまり相手からの誠意を無下にするのも良くないことか。

 

「……と、思ったけど、ちょっと聞きたいことがあるんだった。もしよかったら、美味しいご飯でも奢ってくれない?」

 

 ちょっとウィンクとかしてみちゃったりして。

 

 ……痛いか。

 

「……はっ……はい!」

 

 でもまあ、彼女たちは嬉しそうにしている。

 

 ちょっと意地悪な人っぽくなっちゃったけど、この子たちが嫌な顔をしていないのであればまあいいか。




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