死んでも復活して永劫の時を生きる摩耗しかけた女魔王様と死にかけていたところを拾われたTS転生者が互いに互いの脳を焼いた話 作:団結せよ
日本語独自の表現に関しては異世界語を日本語訳してる感じで大目に見てちょ
魔王様を探して三千里。
人間の国、ファンユヒへとやってきていた俺は偶然にも格上のモンスターに襲われていた女の子ハンター二人組を発見した。
どうにも彼女たちはモンスター相手に防戦一方といった様子で、命の危険も感じるほどにピンチだったので助太刀することにした。
すると彼女たちがお礼がしたいと申し出てくれたので、謙虚な俺は遠慮しようと思ったのだが、どうやら彼女たちも助けてもらうだけでは色々と気持ちの整理ができない様子だった。
一方的な善意というのは時に蟠りを生んでしまうのかもしれない。彼女たちの表情を見てそんなことを学んだ俺は、互いに思う所のない対等な関係を目指し、彼女たちの善意を受け取ることにした。
「僕の名前はレイナ。一応、狩猟ギルドにハンター登録はしているけど、どちらかというと旅人かな」
「私はリネットです。駆け出しハンターです!」
「わたしはリリアスです! よろしくお願いします、レイナさん!」
前衛で戦っていた小柄で赤毛の、活発そうな子がリネットちゃん。後衛の魔法使いで、リネットちゃんのフォローをしていたのがブロンド髪のゆるふわ系、リリアスちゃん。
彼女たちのような若い女の子二人がハンターをやっているのは何故なのかというのが少し気になる。魔力という概念があり、男女の身体能力の差は前世ほど重要視されるものではないが、やはり出産できるのは女性だけだ。
子供を産むことができるというのはそれだけで貴重。
だから、女性がハンターになるのは珍しいんだけど。
俺は子供を産む気はない。
魔王様を探すという至上命題があるし、何より恋愛対象が男性ではない。今世は女の子に生まれたが、やっぱり恋愛対象も女の子。まあ、魔王様に拾われちゃったのが運の尽きって感じかね。
「うん。よろしくね、リネットちゃんにリリアスちゃん」
「……ッ。リ、リネットでいいですよ!」
「わ、わたしもリリアスで!」
「はは。そう? だったら僕のこともレイナでいいよ。それから、あんまり自分を安売りしちゃダメだよ。君たち可愛いんだからさ」
周辺の警戒を怠らないように、魔法で気配を察知して山を下りる。
この子たちはびっくりするほどかわいい。なんでこんな子たちがハンターをやっているのか、そこが本当に気になってしまう。
「……あれ? どうしたの?」
何やら呆気にとられたような表情を浮かべる二人の姿が横目に見えたので、俺はどうかしたのかと尋ねる。
「な、何でもないです!」
「そう?」
リネットの返事に……。やっぱり初対面の呼び捨ては慣れないね。
彼女の返事に俺はそれ以上の追及をやめる。何でもないと言われたのだから、まあ何でもないのだろう。
「……あ、あの。レイナさんは」
「レイナ」
「レ、レイナはなんでこんなところに?」
リリアスちゃんが俺のことをさん付けで呼んだので訂正しておいた。自分だけ呼び捨てはちょっとね。
「それは追々話すけど、ちょっと探している人がいるんだ。どこにいるのかも分からないから、結構難航してるところ」
「探してる人……ですか」
「うん。僕の大切な人なんだ」
「た、大切な……。こ、恋人ですか?」
そんな質問に、今度はこちらが呆気にとられる。
恋人……。恋人かぁ。そうだなぁ、魔王様と俺の関係ってどう形容するのが正しいんだろう。
「……うーん。どうだろう、でも少なくとも恋人ではないかな」
「そうですか……」
「そう感じた?」
「えっ?」
「大切な人って、何も恋人だけじゃないでしょ? 家族とか友人とか。だけど、リリアスは僕を見て恋人かって聞いたじゃない? だから、そう見えたかなって」
やっぱり呼び捨ては慣れないなと思いながら、俺はそんなことを聞いた。
俺は大切な人としか形容していないにも関わらず、彼女は俺の探し人が恋人かどうかと尋ねてきた。つまり、彼女の中で俺が今言った『大切な人』が恋人なのかもしれないという疑問が湧き出たわけだ。
「……はい。レイナさんが大切な人と言った時、恋人に向けるような情愛を感じたので……」
「またさん付けしてる」
「や、やっぱり無理ですよ! 恩人を呼び捨てなんて……」
「なら、無理にとは言わない。僕も呼び捨ては少し冷たい気がしていてね」
なんかね、口馴染みがないというか。
初対面の人を呼び捨てするのって、意外とハードルが高いんだ。
すると、リネットちゃんが提案する。
「なら、愛称はどうでしょうか! 私のことをリネ、リリアスのことをリリーと呼ぶのは」
それもそれでまた別方向にハードルが上がったような気がするが、まあ呼び捨てよりはマシか。どうにも彼女たちは俺と距離を詰めたいと思っているようだし、ここは素直に提案を受け入れよう。
「うん。分かった、リネとリリーだね」
そういえば二人ともリという音が名前に入っているのか。
とはいえ、俺が愛称を受け入れると二人とも何とも嬉しそうな顔をする。
そんなにいいのだろうか。
俺も魔王様に愛称で呼ばれるところを想像してみよう。
レイナだから、レイとか? レナ、レニ。うん、意外と嬉しいかも。
『……ッ! はい!』
そんなこんなで、親交を深めつつ俺たちは山を下りた。検問を通り、活気あふれる街中へと戻ってきた俺たちは、どこか適当な食事処を探し歩く。
彼女たちを助けたお礼として、俺は美味しいご飯を奢ってもらうことになっているのだ。
年下に飯を奢られるとはこれ如何に。そう思ったが、彼女たちが納得できる対価なのだからここは素直に受け取っておくべきかもしれない。
あとは、魔王様についての情報を収集するという目的もある。
あの人がどこに復活したのか、というか目撃情報はあるのか。
とはいえ、そこら辺の情報は望むだけ無駄だとは思う。彼女は復活後、多少見た目が変わると言っていたし、年齢も幼児のそれに逆戻りすると。
中身は千年生きた魔人族だけども。
だから、魔王様について馬鹿正直に聞いたところであんまり情報は出てこないと思う。今世の彼女の特徴だって分からないのだ。まあ、魔王様を幼くした感じの似顔絵でも見せて、『こんな感じの人知らない?』と捜索願でも出せばまた話は変わるかもしれないが。
あっ。それいいな。
魔王様の似顔絵だとまだ終戦から十年しか経ってないからこれ魔王じゃんと追及されることになるかもしれないけど、彼女を幼くした似顔絵を書けば、第三者は兎も角魔王様自身が気づくはず。
捜索者はレイナだと明言しておけば、万が一魔王様が捜索掲示板でも見た時にすぐに俺だと気づく。
俺が内心でそんな革新的な捜索手段を見つけていると、リネとリリーの一押し食事処が見えてきたようだ。
「ここです。私たちがよく使っている場所なんですが……。お口に合うといいんですけど」
「大丈夫。二人がおすすめするところなら絶対美味しいでしょ」
俺は別に偏食という訳ではない。
割となんでも食べられるし、美味しいと感じる基準も割と緩いと思っている。
元々、俺は魔王様の専属メイドみたいなことをしていたわけだし。料理は毎日行っていた。魔法を活用して前世の料理を再現しようと躍起になってた時期もあったが、それでもこの世界の料理も好きだ。
そもそも、自分で作った料理より人が作った料理の方が美味い。
俺の料理だって負けてはないと思うのだが、自分で作った料理っていうのは『食事』というより『反省会』みたいになってしまい、純粋に味を楽しめないのだ。
これは単なる性格だと思う。
塩気が足りなかったかな、とか。バランス悪いかも、とか。油使いすぎた、味濃いな。とか。そういうことを考えてしまうので、自分の料理より味が劣っていたとしても他人が作ったものの方が気楽に楽しめる。
魔王様が気まぐれに作ってくれた料理の方が、自分で作るより何倍も美味しかったし。
料理は羊肉が入ったスープと大麦のパン、それからビールが出てきた。
鉱脈が有名ということもあって、かなり塩気の強い味付けとなっている。まあ、肉体労働で汗をかくからな。
あとはミートパイ。大きめのを俺たちで分けて食べることになりそうだ。
「わざわざありがとうね。奢ってもらっちゃって」
「いえいえ! 私たちからのお礼ですから遠慮せずに食べてください!」
「はい。レイナさんは命の恩人ですから、これくらいは」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
◇
今、私たちの目の前で食事をしている綺麗な女性。名前をレイナと言うらしい。
空のように輝く蒼い瞳と、癖のない直線的な金髪が、同性であっても目を引いてしまう。
彼女は私たちの命の恩人だ。
今の私たちでは逆立ちしても勝てないベアガントを容易く切り伏せ、返り血ひとつに浴びずに振り返るレイナさんの姿は、信仰心すら芽生えてしまいそうなほどに綺麗だった。
無駄のない一閃。無駄のない動き。
彼女の一挙手一投足が、今の私たちでは到底たどり着けない領域にあるのだと嫌でも理解させられる。
涼し気な表情を浮かべて、私たちの遥か先を行く実力を持った、私たちと同じ女性。
ベアガントの脅威から助けられた私たちは、しばし呆然としてしまった。
何が起こったのか、現実を咀嚼する時間が必要だった。
『ピンチっぽかったから助太刀したけど……もしかして余計だった?』
この一言で、彼女にとって今の一連の出来事は取るに足らないことなのだと思い知った。
『そっか。ならよかった。じゃあ、僕はもう行くから、これからは気を付けて狩りをするんだよ』
『幸運を祈るよ』
そう言って、彼女は私たちの前から去ろうとする。
それがあまりにも勿体なくて、私たちは咄嗟に呼び止めた。絶対に、この人を逃したら後悔すると直感していた。
助けてもらったお礼がしたいと言えば、お礼なんていらないと言われる。
どうしよう。このままでは彼女はどこかへ行ってしまう。そんな焦りと、お礼もできずに助けられただけというもどかしさに、私はどうしようかと頭を悩ませた。
しかし、そんな悩みもすぐに終わりを迎える。
レイナさんが、私たちの申し出を受け入れてくれたからだ。
その時の私たちは、この上なく安堵した表情を浮かべていたと思う。
それから、レイナさんと一緒に街に出ることになった。
山を下りながら、彼女と少しばかり話をする。レイナさんは狩猟ギルドのハンターとして登録しているらしいけど、どうにもハンターとしてはそんなに活動していないようだった。
そうだろう。
こんなに強い人がいるのなら、今頃ギルドでは話題になっているはずだ。
彼女は自分を旅人だと自称した。
そして、探している人がいるのだという。
探している人、大切な人。
その人を想いながら言葉を紡ぐレイナさんの表情は、とても儚く美しかった。
この人は、形容しがたい雰囲気を纏っている。
どこか達観していて、どこか寂し気で。今にも消えてしまいそうな。そんな感じがするのだ。
年のころは、多分それほど離れていないように感じるのに、レイナさんは大人びている。見た目は私たちよりも少し上くらいだと思うのだけど。
レイナさんにとって大切な人だと言われた時、私の胸の奥で少しばかりざわめきがあった。
多分、レイナさんがその人を思い出す時に浮かべる、嬉しそうな表情に見惚れてしまったのだろう。
リリーが恋人かと聞くのも分かる。
だって、あんなにはにかんだ笑みを浮かべて語る『大切な人』なんて、恋人以外考えられないから。
レイナさんにお礼をすべく、私たちがよく使っている食堂を紹介して、食卓を囲んだ。
「二人はさ、どうしてハンターをやってるの?」
豊富とは言えないメニューの中から、食べたいものを選択し注文。先にエールが出てきたところで、レイナさんが口を開いた。
私たちがハンターをやっている理由。
まあ、気になるだろう。女性二人が戦いの場に身を置いているというのは、今の世の中だと珍しい。女性の中にも好きでハンターをやっているという人もいるだろう。
しかし、私たちはどちらかというと必要に駆られて。
私たちには半分、魔人族の血が巡っている。
先の戦争で占領地とされた私たちの村は、魔人族の兵士たちにとって都合のいい欲求のはけ口だったらしく。
リリーとは、半分だけ血のつながっている腹違いの姉妹。
同じ魔人族の、顔も知らない父親が一緒というだけの関係。でも、村の人たちにとって私たちの存在は、憎悪の対象だった。
魔人族と人間族を区別する身体的特徴は、背中に生えている蝙蝠のような羽。
私たちにはない。生まれた時に、私たちは片翼を捥がれたらしい。
「……色々と、ありまして」
「……そっか。じゃあ、こんな感じの子に見覚えない?」
レイナさんは、持っていた羊皮紙に淀みなく似顔絵を描いていく。あまりに精巧なその絵は感嘆するほどに良くできていた。
幼い少女の似顔絵。しかし、どこかで見覚えのあるような顔だった。
「これが私が探している人なんだけど……」
「この子が……ですか」
「うん。ここだけの話、彼女は魔人族なんだけどね」
『……えっ』
リリーと目を合わせる。
「僕も色々あって、彼女には恩があるんだ。だから探しているし、大切な人」
「……まっ魔人族が……ですか」
「うん。まあ、複雑かもしれないけど、二人には話してもいいかなって」
レイナさんのその言葉を聞いて、私たちはやっぱり呆然としてしまうのであった。
恋する(?)乙女(?)に恋する(?)乙女