後書きにて補足します。
KASSEN1戦目はテンポの都合上カットしています。
KASSEN。
3対3で行われる対戦型ゲームで、わかりやすく言えばMOBA系ゲーム、と言われているものをツクヨミに落とし込んだもの。
これを2本先取で行うのがKASSENの多人数モード、SENGOKU。
「──ゔぉら帝! 勝負じゃい!」
ブラックオニキスとかぐやの対決。
SENGOKUルールで行われたこの勝負。
幸先は決していいとは言えない。
1戦目から思い知らされるのは相手の実力。やはりプロゲーマー、各ラインに1人ずつ人員を配置する攻撃的フォーメーションのトライデントを実行され、結果で言えば彩葉さんとかぐやの2人がかりでも帝は止められず、俺もブラックオニキスメンバーの乃依に足止めを喰らって両方のやぐらを占拠されてしまった。
両方のやぐらを占拠されての負けはコールド、いわば最も屈辱的なものである。
「てか実力差ありすぎだよ、無理無理」
「んー...... 手札の多さも全然違うね。いろいろ考えて来たけれど、残機全部使って2人止められればいい方かな」
こちらのチーム、残り残機は全員2機。
そして自分のスキル構成を十全に発揮するため、必要なピースはあとふたつ。
これでも挑戦状を受けてからの数日は練習とブラックオニキスの試合を見ての対策に励んだものだが、実践ともなれば記憶と現実の帳尻合わせに時間がかかる。
たとえば、自分が見た膨大な量の試合から予想した動きを全部止めることができて帝以外の2人を足止め。その間に彩葉さん、かぐやに帝を突破してもらって天守を取ってもらうという形が取れればまあ勝てない事もない。しかし2人よりもずっと強い帝アキラ── 酒寄朝日。
その人を前にして理想の展開に進むのは難しいだろうし、もし予想を超えた戦法を取られたら1引く形の俗に『荒らし』と呼ばれる戦法すら取れるかどうか。それこそ
場合によっては持って来た手札の全てを捨て、がむしゃらにやるしかないかとも思い始めた時、手で目に入る日光を遮りながら空を見上げるかぐやが純粋な疑問を放った。
「帝ってさあ、勝ってる時に作戦変えるかなぁ?」
「──無いね」
質問に対し、キッパリと断言する。
ブラックオニキスは初対戦の相手であろうと、何度もやり合っている相手であろうと、初見殺しを使ってエンターテイメント性を損なってでも勝とうとするチームではない。
一度作戦が通れば、それを対策されるまでは擦り倒す。スマホに齧り付いて見続けた帝の試合はその多くがその勝ち方で積み重なっている。
だからこその断言だ。
その答えを聞くと、かぐやが要求したのはツクヨミの中で購入できる食べ物。もちろんツクヨミに味覚は実装されていない、無味無臭のヤツ。
「そんなん持ってないって......」
「俺持ってるよ?」
帝に対抗するため、これまで身につけていた着ぐるみのスキンを外した彩葉さんが呆れ気味に言う。
しかしこれ幸い。以前かぐやがツクヨミの急上昇ライバーとしてピックアップされていた時に発売していたまんじゅうを購入していた。
着ぐるみを来たままの自分が背中から取り出して渡すと、かぐやはそれを手のひらに乗せて空に掲げる。
視線の先には、空を飛ぶ巨大魚。
「上手くいく気がしないんだけど......」
「信じてみましょうよ。だって俺たち──」
「はいはい、三位一体ね」
「はい!」
そして2回戦目が開始。
この勝負を取ってしまえばブラックオニキスの勝利で終わる。となれば通用している戦法を変える必要は当然無く、読み通りに
ラインごとの人員配分も変わらず、今自分が行く右ライン、ボトムレーンの方には黒鬼の可愛い担当、乃依が迫って来ていた。
「......キツイかな」
思わず言葉が漏れる。
自分の武器はシンプルな日本刀。彩葉さんやかぐや、他の5人が持つ武器のように遠距離攻撃というものが搭載されていないこの刀では、少々矢の雨を受け切るのは厳しいところだ。
とはいえ、一度見た限りでは射撃の精度は高いものの、そこに釣り球はない。全てが直撃を狙ってくるのなら、逆に弾き落とすのは簡単という結論に至る。
「ふっ、ん゛っ!」
「ありゃ〜、普通に狙撃は出来ないかな〜?」
猶予1フレーム、スタン効果のある矢の連射。
技量、経験によって積み重ねられたモノが生み出すエイムと技術の全てを受け切り、1戦目よりも遥かな精度で弥の脇差が切り落とす。
一般的に使われる武器種の太刀よりもひと回りふた回り小さな、小刀にも見えるその武器での遠距離戦は、本来無理に等しい。
乃依にとって、当てるつもりで放った矢というのは大なり小なり、何かしらの役目を果たすものだ。
しかし、真正面からやぐらに向かうソレは不気味なほどに止まらない。刀による防御、高速で飛んでくる矢に対してエイムを合わせ、攻撃ボタンを入力するという行為をミスなく繰り返すその相手に、先日のミーティングで朝日が漏らした言葉を思い出していた。
「ワタPと同じレーンに行ったら、出来るだけ手札は見せないほうがいい。
雷も乃依もそれだけは覚えていてくれ」
「なんで? 知り合いだって言っても初心者なんでしょ?」
「......昔に手の内を全部見せた結果、次の試合には全部対応されて負けたって言ったら笑うか?」
やぐらに向かいながらも目を絶対に離さないその着ぐるみを見て納得し、そして安堵した。
隠していた手札、それは強烈な破壊力と拘束力、そして閉じ込められた相手を削るスリップダメージが積まれた氷の矢。
他の矢とは違い、直撃ではなく着弾が発動条件のソレを弓につがえた時、不意に目標が空を見てぐっ、と親指を立てた。
そこにあるのはKASSENフィールドを周遊している、リュウグウノツカイを思わせる魚。
その頭部から煙が吹き出したかと思えば、ミサイルのように岩肌を砕いて鳥居地帯に着弾する。土煙の中から現れたのは、かぐや。
その地点は更地。狙撃を遮る物は何もなく、着地の後隙からたとえ反応できても回避は不可能。
目の前に吊り下げられた特上の餌。
やぐら近くと自分との距離を確認し、乃依の視線、および狙いがかぐやに移ったその瞬間、逆袈裟の一閃がその体を両断する。
「──こうやるんだね」
本来なら間に合わない間隔の高速移動。
それを可能にしたのは、移動スキルをリロードと同時に連打する猶予1フレームの妙技。
1試合目の時点で乃依によるスタンの嵐を受けていた弥はやぐらの確保を諦め、その手元に視線を集めた。
ソレはどうやっている? リズム感なのか、それとも入力を簡単にするテクニックがあるのか? そしてたどり着いたのは、格闘ゲームで使われる辻式と呼ばれた目押しテクニックの派生系。
「ぴえ〜ん」
ポリゴンとなって消えていく乃依を尻目に、ガラ空きとなったやぐらヘ向かうかぐやと弥。その中で、弥の手に持っている武器が変容したことに気づいたかぐやは小さく首を傾げた。
「なんかデッカくなってね?」
「ああ、そういう武器...... っていうか、スキルを使うと変わるんだ」
1試合目、初期状態では
かぐやはそれ以上聞かず『おもしれー!』と終わらせ、その単純さに弥は苦笑いを浮かべた。
その流れでやぐらを占領し、天守閣へと攻め込む。
「あっちは彩葉さんが見てる、押し切るよ!」
「おっ...... けー!」
かぐやの持ったハンマーが火を吹き、ロケットのような加速を見せた。
遅れて帝がやぐらを占領した音がフィールドに鳴り響くものの、すでに2人は勝利条件である大将落としへと手を伸ばしている。
すかさず帝がカバーに入る、が。
「どぉりぁっ!」
「くっ...... 直線的だな、解釈一致!」
振り下ろされたハンマーを鉄棒で受け止めれば、大地に足首まで埋まるほどの破壊力。その隙を見逃さなかった弥が脇を通り過ぎると大将落としが天守に打ち込まれ、スコアシートに奇跡的な一点が記される。
──2Dマップに上下情報が無いことを逆手に取った、上空からのかぐやの奇策。そしてエンジンの温まって来た弥の記憶力に裏打ちされた対策の厚さ、そして備えていた反射神経と学習能力。
それらが噛み合い、KASSENを見物しに来た会場のボルテージがさらに上がる。
「いぇーい!」
「いぇ〜い。ほら彩葉さんも」
「......ん」
大金星。
2人に差し出された手のひらに彩葉も自分の手を重ねていると、黒鬼側からの通話が空中に浮かび上がる。中心にどっしりと座った帝の余裕は消えることなく、自分たちが格上であるという矜持は保ったまま。
「やられたよかぐやちゃん。
でも、もし俺が配置を変えてたら? 雷を弥にぶつけてたら、対策出来なくてやられてたかもよ?」
「帝って勝ってるうちは作戦変えないっしょ? 私だって変えないだろうし、弥もそう言ってたから!
どう? 配信のかぐやちゃんとは違った〜?」
「うーん、新解釈の登場だな...... かぐや道は深い」
「なんなんですかこの人、こんなんじゃなかったですよね?」
「はぁ......本当にもう......」
ほんの少しの感想戦。それを終え、次の最終戦が迫る。
それでもなお、未だ彩葉は過去に縛られ、1人での戦いを模索していた。
父親が死に、幼少を過ごす中で感じて苦しみに溺れそうになった母親との関係。その間を取り持っていたのは同じ家族である兄の朝日。
しかしその兄も上京し、幼馴染も東京へ向かい、1人になって母からの鋭い言葉を受け続けて1人で生きて来た。
そして目の前にいる、払いきれない過去。勝てるビジョンは見えない、それでも逃げたくないという意識が、チーム戦でありながらも自身を孤軍としてしまっていた。
──最終戦、お互いやぐらを占拠し、かぐやチーム天守閣付近にて攻防が繰り広げられる。雷、乃依によるコンビネーションは焦りからプレイが雑になっている彩葉と、強い自我で他人に合わせるプレイスタイルでは無いかぐやでは、攻め切ることが出来ない。
「全然ダメだ...... でも、逃げたくない」
染みついた1人での生き方。それを打ち壊したのは、ボットレーンから岩を切り裂いて直進して来た馬の着ぐるみ。
「彩葉さん!」
インパクトのありすぎる光景。その中から現れた弥は『炎上するから』と頑なに脱がなかった着ぐるみを脱ぎ捨て、とん、とおでこに指を置くとそのまま花丸を描いてみせる。
それは弥にとって彩葉が満足するまで付き合うと決めた時と同じ、1人じゃないという意志。
「頼ってください。俺たち、みんなで頑張るんですから!」
「......うん。ここは弥に任せる!」
「任せるっ!」
天守にあるジャンプ台からトップレーンへと向かった2人を見送り、背中を向けていた弓から放たれた矢を見るまでもなく弾き落とす。
自身、乃依、雷ともにやぐら争奪で1機ずつ残機を落とし、ここで仕留められれば完全な無力化。しかし相手はプロゲーマーであり、数多ある動画から対策をして、今回の試合で使っている相手のスキルをほぼ把握した上で言える。
勝ち切るのは難しい。
「ふっ!」
踏み込むと同時に地面へ突き立てられた雷の杖が、大地を隆起させる。
壁にもなり得ないと切り捨てて追撃の2の太刀を加えようとすれば、その隙も誘い込むための罠だと言わんばかりに撃ち込まれた矢。
寸前で受け切り、杖から放たれる光弾も高速移動で回避しきるものの、2対1という数的不利から現状が芳しくないのは火を見るよりも明らかだ。
「乃依、油断するな。何があるかわからない」
「当然っしょ〜? 帝が来るまでチクチクやってるだけでもいいんだから〜」
ふう、と弥の口から息が漏れた。
──自身のスキル構成は、基本的には装備できる武器とジョブで決まる。刀であれば刀の固定されたスキルを数個の中から3つ選び、弓であれば弓のスキルから3つ選ぶ、というふうに。
基本、1人の武器は1本。スキルも1セットのみ。
ひとつの例外を除けば。
ハイランダー。
カードゲームにおいてはデッキ内の全てのカードを1枚のみの採用とし、特定のカードに頼らないことで対策を受けないルートからの勝ちを掴むことのできるプレイタイプ。
それはツクヨミ、KASSENにも実装されている。
しかし、プロシーンにおいてハイランダーを採用したプレイヤーは存在しない。少ない、のではなく存在しない。
それはハイランダーで選ぶことの出来るスキルが、旧時代の産物としか思えない古臭いものだから。
それを使うということは本来武器にデフォルトで付いてくる遠距離武器を使用不可にし、移動を高速化できる乗り物を使うことも出来ず、スキルの高速移動を1フレーム猶予のテクニックで回さなければろくにフォローもできない。言ってしまえばランクマッチの味方に来るだけでも利敵行為。
淘汰されたプレイスタイル。
しかし数バージョン前、そのプレイスタイルにテコ入れが入る。
「これでっ」
「させん!」
乃依に向けられた刃。それを庇う形で受け止めた雷の杖を貫通し、エネルギー状の刃がその胸を切り裂く。
しかし火力が低く、決定打とはならない。
──テコ入れの内容は、ハイランダーとして設定された全てのスキルをプレイヤーに命中させた時、全てのスキルの中から事前に設定していたスキルを使用可能にする、という修正。
スキル使用可能な5分間という短い時間はほんの少し全能力にバフが掛かり、代償に装備していた武器が使用不可能になる。
「──完成」
雷に加えた一撃。
それをハイランダーの完成として、砕けた刀を握りつぶした渉の背後に現れたのは、式神職が操る土蜘蛛。
弥のアバターに似た体色のソレは割れた空間から這い出ると、鋭い爪で乃依のことを貫かんと刺突の連打。動きを止めて安全に倒そうとスタン効果の矢を引き絞れば、放たれた矢は吐き出された糸に絡め取られる。
「キモ〜......」
土蜘蛛だけではない。全てのスキルの中から選択をできて、その中から式神の召喚というマイナースキルを選ぶとして。火力も妨害力ももっと優秀な式神がいたはずなのに、土蜘蛛を選んだ。
自分の弓矢を封じるだけの為に。
その事実が、乃依の表情を強張らせ、武装をスキルの使えない近接形態へと変化させる。
式神に片方を任せて1対1。
刃を無くした刀を投げ捨てた弥に対し、雷は近接戦への移行を察知する。自身の周りに展開した光弾を衛星のように高速回転させ、丸腰の弥を削り取ろうとすれば、彼はゆらりと体を前に倒す。
「もう見ました」
「っ!」
高速回転する光弾の隙間。
その隙間を抜け、弥の右拳が雷の頬を掠める。
1人につき武器はひとつ。
その中の例外が素手。火力が低く、リーチも短く、武器が弾かれてどこかに行った時のためにスキルを設定することはできるものの、そのどれもが面白みも強みもない無味無臭の技。
しかしスキルがある。
スキルが有るならばハイランダーに出来る、という訳で。
「クモ!」
弥の声と同時に、彼が踏みつけた雷の足を重ねるようにして一番細い足が諸共足の甲を貫いた。そのまま2人を超至近距離で縛り付ける。
貫手、裏拳、掌底。
3つのスキルを使い終えた、前後合わせて2分の重複。
──最後の手札、ハイランダーの二重バフが輝きを放つ。
足を縛られたまま弥が突き出した両手による掌底を防御するが、その手は雷の身体にも杖にも触れない。
結界職のスキル。
それは両手で触れた空間に衝撃を与え、防御を貫通して直撃させた相手諸共空間を割る一撃。『カッコ良さそうだしつけたほうが良くない?』とかぐやの設定した声紋認証によるスキルの起動を声高らかに宣言する。
「──
ガラスが砕けるような音と同時に加わる衝撃。
強烈なノックバックを受けながら雷が吹き飛ばなかったのは足を諸共地面に縛り付けられていたからであり、土蜘蛛を選んだのは空破りの弱点である強すぎるノックバックを防ぐためでもあった。
雷の右手から杖が離れ、遥か遠方の岩壁に突き刺さる。
「やられてんじゃ〜ん......!」
クールタイムを終え、土蜘蛛の妨害を潜り抜けた乃依が弓につがえたのは一撃必殺、氷の矢。
たとえ蜘蛛による糸が止めたとして、何かにぶつかればすぐに氷の矢は爆発する。氷の矢による拘束、スリップダメージは敵味方関係無く通る以上帝に後を任せる事になるが、ここで弥を残す方がまずいという判断。
警戒するとすれば空破り。
直接触れずに空間を利用してのノックバックは矢に何かが触れたという判定にはならない。結界職の強みはその空破りによる遠近両方に対応した防衛能力。その衝撃は遠距離攻撃すら吹き飛ばす。
しかし乃依の記憶は知っていた。
空破りは、7秒のクールタイムを要すると。
「──っ」
ハイランダーのバフは1つではそこまでの力を得ない。
2つでようやく使用可能スキルが1つ、もしくは2つになることと帳尻が合うと言える。
そのうち、もっとも大きいとされるのが──
「空破り!!」
クールタイムの2秒短縮。
2つ合わせて4秒、経過時間と合わせて7秒。
放たれた切り札は着弾することなく空を舞った。
一瞬の動揺が乃依を襲う。
切り札をお互いに出し切り、残るのは近接戦。武器を持つ乃依と、杖を弾き飛ばされて素手の雷。
土蜘蛛を防御重視に切り替えながらも猛攻を防ぐ弥の技術は、2人の知り合いによって基礎から作られたオリジナル。
「芦花さん真実さん、俺をボコボコにしてもらってもいいですか?」
「やるからにはガチね」
「いくよー?」
勝ちを目指すのでは無く、負けない立ち回り。
そのムーブとここまでの奇策、それを見ていた雷は思考を回す。次は何が来るのか、土蜘蛛の持続時間は? トップレーンの帝はまだか。
そして気づく。
乃依のスキル。クールタイムの始まらない氷の矢の存在。
「乃依!」
「──ここまで」
後ろに回避しようとした2人の肩を掴んだ。その手を固めたのは刀の分のハイランダーバフである5分が経過し、消える直前の土蜘蛛が吐き出した糸。
そして次の瞬間、落ちてきたのは氷の矢。
空破りで空に打ち上げた、まだ着弾していない氷の矢。
着弾と同時に2人の体を包み、直前に手を引き抜いて尻餅をついた弥の口からは絶え絶えの息が漏れる。
スリップダメージ、空破り、土蜘蛛との戦闘。削れていた体力の差によって天守閣付近の戦闘は終結する。防戦に徹して攻撃を多く実行することのできなかった弥を救ったのは、彩葉とかぐやの加えたダメージだった。
2Dマップを確認すれば、トップレーンへ向かった彩葉、かぐやは黒鬼側の天守閣へ。
弥の口から安堵が漏れた。
「......倒せたんだ、2人とも」
その下、ミドルレーンを疾走するのは最後の一角。
土煙をあげて向かってくるそれとハイランダーバフの持続時間を確認すると、弥は立ち上がり、その目で見据える。
虎のバイクから降り、天守閣へ突き進むその姿。
迎え撃つように飛び上がり、空破りの強力なノックバックで吹き飛ばした。
「どうした、なんか言いたげだな?」
「......ミドルから行けば、天守閣は落とせたでしょう? それがどうにも納得いかない」
お互い着地し、語らう。
弥が彩葉、かぐやの救援に来た時、帝はミドルレーンを直行すれば誰にも追い付かれず容易く天守を堕とせたはず。それなのに、と正論じみた疑念をぶつければ、帝は何を今更と笑った。
「ブラックオニキスはな、夢を見させなきゃいけねぇんだよ。
それに、こうでもしなきゃ2人になれないだろ?」
吹き飛ばされた棍棒を拾いに行くことなく、帝は深く腰を落として構える。
その目に映るのは数年抱えた好敵手との決着。その渇望。
記憶に巡る過去の記憶。
「だぁぁっ、負けたー! もう一回、もう一回やろこんなん! 納得できんわ!」
「何回言ってんの? お兄ちゃんダサいわー」
「えぇ...... じゃあしゃあないし──」
「──これで、最後ですよ?」
その熱が、弥にも伝播する。
一呼吸。一瞬の溜めを作り、お互いの拳がぶつかった。
足を払い、地面に倒れたところへ振り下ろした拳。
それを両手で受け止め、カウンターの要領で空破りが繰り出される。
片方のバフが切れて破壊力の薄いソレは決め手にならず、すかさず飛び上がると地面に向けて両手を突き出した。
「空──」
しかし、ヒビの入った空間が割れない。
その瞬間にハイランダーのバフが切れ、一瞬の隙を見逃さない帝の回し蹴りが逆に弥を叩き落とす。手札は全て燃え尽きた。
「もう終わりか!?」
土煙の中、口に出すまでも無く飛び出した弥の手は黒鬼の名前のとおりに帝の頭へ生えた角を掴むと、力強く自分の体の方へ引っ張って膝蹴りをめり込ませる。
全てを出し切った後の、さらに全力。
ぶつかり合う熱のラリーは終わることなく、その心地よさに弥の口角が緩み始める。その口調は今後彼が口にすることはない、まさにハイが故の叫び。
「終わってねえよ!」
それは綺麗とはいえない戦いだった。
その直前に繰り広げられてオーディエンスを沸かせた帝と彩葉たちの一騎打ちに比べたら、泥臭く、子供の喧嘩のような。
それでも見せつける熱が、周りを焚き付けていく。
鋭い右ストレート。
それをスレスレで回避しカウンターを喰らわせようとした時、終わりは来た。
「──黒鬼の天守閣?!」
遠く、光の柱が天に昇る。それは雷の置き土産である地雷の光。
一瞬の油断。その隙に帝の蹴りが弥の首を襲い、天守閣近くまで吹き飛ばされた。
追撃に高速で近づいてくる帝。腕を十字に組んで防御姿勢を取るが、弥にはその帝が見せた笑みが理解し切れない。
その勝ちを確信した笑みがどこに向けられたものなのか。
そして、気づく。
自分と大将落としの軸が一致している事に。
「──逆転ーっ!! 決まってしまったー!
勝者、ブラックオニキス!!」
体を明かすほどの衝撃。自分の身体諸共天守閣に打ち込まれ、勝敗が決する。
実況をしていたオタ公の声が響き、自分は負けたんだな、と不思議なくらい冷静な頭で理解した。
この試合の後はヤチヨカップの結果発表が待っている。かぐやのチャンネル、その一員として立ち上がらなければいけないのに立ち上がれず、ただ空を見上げていた。
「──弥、大丈夫?!」
戻ってきた彩葉さんに手を引かれ、体を起こす。
いろんな気持ちがあった。昔の決着がついたよ、頑張ったよ、そっちは話せた?
そういう気持ちを全部ひっくるめて、笑って口に出した。
「負けちゃった!」
原作において素手が弱いと言う描写はありません。
小説版を読んでいないのでスキルという概念があるのかもわかりません。
加えてスキルというものがあったとして、それが何個制限なのか、リーグオブレジェンズのような形なのかもわかりませんし、スキルをバラバラにしてハイランダーにすればボーナスのバフが入るなんて事も多分ないと思われます。
総じてほぼオリジナルの内容になっています。
原作のかぐや彩葉vs帝は名シーンなのでみんな見ましょう。