雷の話書きたいのにキャラを深掘りできねえ!
「やあ」
メンダコが、座っている。
──ブラックオニキスとの試合に負けて、少し。
1ヶ月の期間を終えたヤチヨカップの結果発表は、かぐやを優勝に選んだ。
試合内容、彩葉さんの顔出し。その辺合わせてインパクトがあったから、試合の結果はともかくファンの増加って意味ではいつのまにかブラックオニキスのことを抜いていたらしい。
「ま、身内が求婚されて嫌なら、お前が守ってやれよ」
朝日さんはかぐやとの勝負に勝ったら結婚、という言葉をすぐに撤回して潔く身を引いた。あれで妹が好きなだけの兄であり、俺にとっては優しい幼馴染のお兄ちゃん。
負け越しという決着にはなったけど、それ以上の爽快感があったから受け入れるのはそう難しくない。
ちなみに、聞いてくれるらしいお願いには極めて個人的なことを頼んだ。
「──ぶっ?!」
「あぁ、思ってたよりスッキリしないですね。
ありがとうございました」
「おーう、じゃあなー」
単純、兄だったものを呼び出してもらい、思いっきり殴っただけ。
アレでメンタルは弱い。反抗されたからには、しばらく手を出そうとはしてこないだろう。
彩葉さんとかぐやはと言えば、ヤチヨカップの優勝景品として手に入れたコラボライブのため日夜練習に励んでいる。
その場所は今までのアパートではなく、俺が倒れた日に見ていた広告の見上げるようなタワマンだ。
「はは、本当に2人でここに引っ越しちゃうとは......」
「弥は住まないの? 今なら玄関横の部屋が空いてますぜ?」
「俺は...... やめとく。いつも通り、日通いの家政夫さんみたいな感じでいいかな」
「えー...... にしてはずーっと泊まってた時もあったじゃん? 変わんないんじゃな〜い?」
「こういうのは気持ちだからねぇ」
一緒に住む、と言うところだけは遠慮させていただいた。
とはいえ、結局は夜遅くまでいるのだから今まで通りでしかないけれど。
そんなこんなで数日後に控えるのはヤチヨとのコラボライブ。見栄えの問題から俺は観客席で見させてもらう事になるが、曲のミックスには参加させてもらっている。とは言ってもヤチヨから送られてきたものの時点でほぼ完成だ。
で、本来なら休みたいところだが。
「まずは優勝おめでとう。戦いには負けたけれどね」
「はあ......」
低い声で、メンダコが喋る。
ツクヨミの中、共用スペースのソファ。対面に座るのは、ヤチヨが胸に抱えているメンダコ。
低い合成音声で喋る彼? 彼女? は、その足でグラスを掴んでいる。
思えばこのメンダコ、チュートリアルの時から気になっていた。自分じゃない自分の記憶のような、そんなものがあの時はデジャヴの様に頭の中を流れていて。
その中で唯一『何かあるのに、何もわからない』という気持ちになったのが、目の前にいるメンダコ。
「どうかしたの? ずいぶんとテンションが低い」
「いや、ヤチヨのメンダコってカバンみたいなものだと思ってたから、こうやって話せるなんて......」
「ああ、ヤチヨの傘とかは今も入っているよ?
ただ吐き出すのは大変だね、色々一緒に出そうになる。まあ今回はそう言う話をしに来たわけじゃない、君の未来の話をしたい」
「......マルチの勧誘ですか?」
「すげー言うね、君は僕のことが嫌いなの?」
何故だろう、このメンダコを前にしていると頭の裏がチクチクする。
何が理由、って言うわけではないが、どうしても。
まあいい、とメンダコはグラスをテーブルに置くと、一方的に語り始めた。
「君はかぐやのことが好きだろう。彩葉のことも。守ってあげたいと思う、違うかな?」
「......まあ、そうですね。
傷ついて欲しくないです。いつか自分が傷つけてしまいそうで、怖いなって思ってます」
「立派だよ。守りたいと思う気持ちは素敵だ、僕もヤチヨのことはずっと守ってあげたいと思っている。
8000年も付き合っているからね」
8000年。
まあ、やっぱり設定として聞いてもなかなかな年月だ。ヤチヨは8000年生きてると言う設定のAIライバー、ともすればこのメンダコも8000年生きてるメンダコになるんだろうか?
彼はくしゃっとした顔で笑う。そして、すぐに悲しげな表情を見せた。そして、話半分に聞いてくれと続ける。
「──でも、守りたいと言う気持ちは実際に何かを守れるわけじゃない。
......君が、かぐやを守らなくちゃいけない戦いは2回ある。1度目がブラックオニキスとのKASSEN。2度目はそう遠くないうちに来るだろう」
「2度目...... それってどういう?」
「あまり言えないんだ、輪廻が変わってしまったら、僕らも明日に居るかわからない。だから君にね、未来を諦めないでほしいと言いに来たんだよ。
──かぐやを守れず、君たちが負けた後も」
それだけ言って、メンダコは消えた。
頭が冴えない。常に曇った様な感覚が脳を覆っている。
自分はあのメンダコの声を聞いたことがあるのに、それが思い出せなくて、小一時間ソファの上で動けなかった。
ようやっと思い出したのは、昔に彩葉さんの影響でヤッチョGPTに人生相談をしようとした時。
「あきらめないで」
そんな声がしたような。
頭痛は強まって、数時間したあとにはもう、メンダコと話したという事実以外のほとんどが記憶から消えてしまっていた。
「ただいま、FUSHI、ヤチヨ」
「おかえりなさい」
ツクヨミの中にある、中心街を一望できる高さの部屋。ふよふよと空中に浮かんでその畳の上に降り立ったメンダコは、髪を下ろして幾らかラフな服装の、誰にも見せない格好の月見ヤチヨへ笑って声をかける。
手招きされるままにメンダコは彼女の足元へゆっくりと向かうと、その真っ赤な体を両手で拾い上げ、ヤチヨは膝の上に置いて愛おしそうにのっぺりとした頭を撫でた。
「くすぐったいよ〜」
「うりうり、弱いのはこの辺ですかにゃ〜?」
別にお互い感覚は無いが軽口を叩きながら、そうやって戯れ合うヤチヨの手。
そこにはほんの少しの怖さと期待が感じ取れて、メンダコは逆にその小さな触腕を彼女の手のひらに絡ませる。温かさは無い。
初めに口をついたのは、謝罪。
「ごめんね、ヤチヨ。僕の体はもう限界が近い。
ここ最近は休眠の時間のほうが起きている時間より多いし、今日だって貴重な時間を一緒に過ごしてあげられなかった」
「......あなたが謝ることじゃないよ。
私のために8000年も一緒にいてくれた。そのおかげで、いままで頑張ってこれたんだから。
あなたがいなきゃ、私は私のいた未来で月見ヤチヨをやり続けられなかった」
「ヤチヨ......」
メンダコが見上げる先のヤチヨが、その笑顔を曇らせる。
その瞬間だけは皆に尊敬され、いつ何時も誰かを元気付けてきた月見ヤチヨの中身が見えた。メンダコを撫でる手が止まり、不安が表出する。
「──でも、もし彩葉が立ち直れなかったらって。弥が私のことを嫌いになっちゃったらって思うと、この先の未来はちょっと怖いかも」
「大丈夫。
「そうかなぁ。そうだといいな」
メンダコに触れる手は、何年経とうと優しさに溢れている。
それでも年月を重ねるうちに不安と恐怖がその優しさの中にほんの少しだけのイヤな感じを付けて、しかしそれを彼が嫌がることはない。
イヤも好きも、全て等しく彼女なのだと。
その上で自分にできるのは、限界の自分自身に鞭打って、いつまでも隣に居られる様に無理をすること。
「ありがとう、
その名前を呼び、ヤチヨはワタルと呼んだメンダコを抱えたまま、ころんと体を倒して寝転がる。
──それ以上のことは、もう自分にはどうしようもない。輪廻は変わらず巡るし、自分の知る以上のところはもう何が起こるかわからない。
だからメンダコは今に託す。
どうか大切なものを守りきれなくても、諦めず、ハッピーエンドに連れて行ってくれ、と。
「おやすみ、かぐや」
残りの話数で評価バー4本まで持って行きてぇ──と思いながら投稿しています
魅力的な話作りは本当難しい