警備員のお仕事〜国営企業を円満退職したのにお人好し両親が連帯保証人になっていたせいで借金返済の為に船に乗り込む武装警備員となった件について〜   作:一般指揮官

1 / 3
第1話

 

 

 

 海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法

 

 

第一章 総則

(趣旨)

 

第一条 この法律は、海賊多発海域において、原油その他の国民生活に不可欠な物資であって輸入に依存するものの輸送の用に供する日本船舶の航行に危険が生じていることに鑑み、その航行の安全を確保するため、国土交通大臣の認定を受けた計画に係る日本船舶において、特定警備を実施することができる等の特別の措置について定めるものとする。

(定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一 海賊行為 船舶(軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶を除く。)に乗り組み又は乗船した者が、私的目的で、公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。)において行う海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律(平成二十一年法律第五十五号。第十五条第四項において「海賊処罰対処法」という。)第二条各号のいずれかの行為をいう。

二 海賊多発海域 海賊行為が多発している海域のうち、海賊行為による日本船舶の被害の防止を図ることが特に必要なものとして政令で定める海域をいう。

三 日本船舶 船舶法(明治三十二年法律第四十六号)第一条に規定する日本船舶をいう。

四 特定日本船舶 原油その他の国民生活に不可欠であり、かつ、輸入に依存する物資として政令で定めるものの輸送の用に供する日本船舶であって、当該船舶の速力、船舷の高さその他の当該船舶に関する事項が海賊行為の対象となるおそれが大きいものとして国土交通省令で定める要件に適合し、かつ、当該船舶において乗組員及び乗船している者が避難するための設備の設置その他の国土交通省令で定める海賊行為による被害を低減するために必要な措置を講じているものをいう。

五 特定警備 海賊多発海域において、海賊行為による被害を防止するために特定日本船舶において小銃を用いて実施される警備をいう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燦々と照り付ける強い陽射し、冷涼な空気に潮の香りが混ざった風が駆け抜ける──贅沢は言わない。冷えたビールを片手に水着姿の目が覚めるような美女を侍らせ、ビーチで悠々自適にバカンス気分を楽しめたなら何も文句はない。

 

 だが、生憎とここにそんなものはありはしない。

 

 ここは北緯4度44分22秒、東経52度24分51秒──ソマリア沖の洋上である。

 

 その洋上を走る一隻の貨物船から警笛が轟き渡っていた。

 

 ありったけの全速で駆ける貨物船の船尾後方から2隻の小型船が高速で接近を続けている。

 

 貨物船の指揮を執る船長の命令で何度か舵を切り、針路を変えてみたが──2隻の小型船は、やはり追ってくる。

 

「──船長(キャプテン)。接近中の2隻に4名ずつの武装した男達を確認」

 

「──了解した。……警備主任、規定通りに頼む」

 

「──あぁ。勿論、契約分の仕事はするさ。──野郎共、仕事だぞ」

 

 船橋(ブリッジ)の内部には船長以下の航海士や船員達の姿がある。いずれも緊張の面持ちのまま生唾を飲み込んでいるが、その彼等を置き去りに船橋を抜け出る5名の人影。

 

 ボディアーマーを纏い、自動小銃や狙撃銃を握った男達だ。

 

 服装は各々で異なるが、防弾のセラミックプレートが詰め込まれたボディアーマーへ貼り付けられた揃いのワッペンの存在が、彼等を一種の統制された集団であると認識させる。

 

「──配置に就け。ゴードン、マイクを連れてけ。俺が合図したら撃て」

 

「あいよ、チーフ」

 

「──()()()。良く狙えよ」

 

 人種は様々だ。白人に黒人、ヒスパニック──その中へ黄色人種がいると妙に目立つ。

 

 ()()()──と、この集団を統制する白人のリーダーが呼んだ黄色人種はドラグノフ(SVD)を握っていた。

 

 リーダー格の白人から声を掛けられた彼は小さく頷きつつ、位置へ就いた。

 

 船橋の左右へ張り出した部分であるウイングと呼ばれる場所の右舷側だ。

 

 彼は安全装置を外したSVDをウィングへ設けられた手摺りに依託しながら槓桿を引く。

 

 初弾である7.62x54mmR弾が薬室に送り込まれた。

 

 取り付けたPSO-1M2照準器(スコープ)を覗き込み、レティクルへ急速に接近を続ける2隻の小型船を捉える。

 

 次いで──海賊船の船上で振り落とされないよう船縁にしがみつく黒い肌の男へ狙いを定めた。

 

 引き金へ指先が乗る。

 

 規定通りなら──射撃の許可が出るのは間もなくだ。

 

 呼吸を整える。深呼吸を何度か繰り返し、波を乗り越える度に動揺する小型船へ乗り込んだ男の胴体をレティクルへ捉え続ける。

 

〈──カラシニコフを目視で確認。RPGもあるぞ〉

 

〈──随分、気合の入った奴等だな。放水開始を確認。尚も接近中〉

 

 貨物船の両舷、船首と船尾から放水が始まった。これで小型船の接近を阻止することを期待したいところだが──やはり気合の入った海賊らしい。たちまち沈没の危険性が増すのだが、怯む気配がない。

 

 であれば──仕方ない。

 

〈──ヨイチ、挨拶してやれ。──威嚇射撃だ〉

 

 ヘッドセットのハウジング越しにチーフの指示が飛ぶ。

 

 指示を聞き取った彼は、男を捉え続けていたレティクルを僅かに逸らし、小型船の船外機に狙いを定める。

 

 引き金へ乗せられた指先が()()を引き絞り──紺碧の海へ1発の銃声が響き渡った。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。