夢想少女ノ魔女裁判   作:タイホくん

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囚人プロフィール・短編集「夢想少女ノ特別法廷」

 

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【短編集:夢想少女ノ特別法廷】

作者が思いついた小ネタをまとめた短編集です。色々とムジュンを抱えるお話ばかりですが、本編の内容とは異なるので、深く考えないでください。

 

・目次

◆日常の一幕編◆

1.日常の一幕(早瀬アキラの場合)

 

◆都合の良い魔法編◆

1.都合のいい魔法(真壁リクアの場合)

 

 

 

 

 

 

 

◆日常の一幕編◆

 

1.日常の一幕(早瀬アキラの場合)

 

─某日 某時刻 牢屋敷内 地下階廊下─

 

キラ

 「‥‥眠ィ‥‥」

 

 嫌に大きなあくびが出た。自分が想定していたよりも大きなあくびだったものだから、思わず周囲を見渡して目撃者がいないか探してしまった。‥‥情けない。

 

 この奇天烈な牢屋敷に誘拐されてきて数日が経過した。

 俺の他に集められたのは同じ年頃の少女が十数名。周りは当然ながら俺よりも背の小さな奴らばかりで、少し居心地が悪いと思ったのは内緒だ。

 

クア

 「やあ、早瀬クン」

 

キラ

 「‥‥ん」

 

クア

 「挨拶はきちんと返したまえ。大事なコミュニケーションだぞ」

 

キラ

 「‥‥悪ィ。ちょっと眠いんだ」

 

 廊下の突き当たりで真壁と遭遇した。初日以降、俺達の中で真壁はリーダーシップを取ろうと精力的に動き回っている。

 実際、リーダーとしての素養はあるようで、ここまで俺達は彼女の指示に従って行動を取ってきた。俺がこうして早起きすることになったのも、真壁の提案が原因だったりする。

 

クア

 「連日食事作りに協力してもらっているからな。キミ1人に負担をかけてしまっている。他の人たちにも協力を仰ぐことにするよ」

 

 1階へ向かう階段を真壁は先行して昇っていく。わざわざ後ろ向きで歩きながら、後を追いかける俺を見下ろす格好だ。その表情は誇らしげで嫌に生き生きしている。

 どういう訳かは分からんが、真壁はこうやって時折物理的に上から目線で話をしようと試みることが多い。今みたいに階段で移動している時なんかがそうだ。可能な限り、少しでも高いところに立って喋ろうとするクセがあると見て取れる。

 ‥‥普段の尊大な態度といい、彼女にも色々とあるのだろう。

 

 

 

──

 

 

 

 食堂についた俺たちは、早速昼食作りに取り掛かった。真壁いわく、今日はハンバーガーを作るとのことらしい。倉庫から見つけ出してきたじゃがいもを蒸してすりつぶしたものに、コーンビーフを混ぜ合わせるらしい。

 

 食いしん坊の朝雛の為に人数分よりも少し多めに作る作業にも、少しずつ慣れてきた。真壁と2人でテキパキと調理をこなしていく。

 

クア

 「ああ、早瀬クン。日頃のお礼にということで、キミの分は少し大きめに作っておいた」

 

 そう言って真壁が俺に示したハンバーグは他と比べて1.5倍ほど大きなものだった。

 ‥‥食べる時にアゴが外れないといいのだが。

 

 

 

──

 

 

 

 12時30分。通知しておいた食事の時間となった。案の定扉を蹴破って突入してきた朝雛に真っ先に料理を提供し、その後やってきた連中にも必要な分を配って回る。‥‥こうしないと、誰かさんが横入りして奪いかねないからだ。

 その他にも簡易的な片付けやら、夜に向けた仕込みやらで調理担当は毎度食事にありつくまでに時間がかかる。

 大方のやるべきことを終えた頃には、真壁と俺以外は食事を摂り終えて、ほとんど退散してしまっていた。

 

 冷めかけたハンバーガーと共に、俺は適当な席につく。‥‥改めて見てもものすごい大きさだ。

 普通のロールパンを少し薄く切ってバンズの代わりにしたものの間に、ひときわ大きなパティが挟まっている。‥‥縦方向にやたらにデカいな。

 

クア

 「ぐががが‥‥。‥‥うム。ナイフとフォークを取ってこよう」

 

 調子に乗ったのか、真壁のパティも俺と同じくらいの大きさをしていた。かぶりつこうとしたようだが、不可能と判断した真壁は早々に諦めてナイフとフォークを取りに席を立ったようだ。

 

 改めて目の前のそれに対峙する。確かに大きいが‥‥俺ならいけなくも、ない‥‥はずだ。

 両手で鷲掴みにしてハンバーガーを口元に運ぶ。そうして、目一杯口を開けると‥‥。

 開ける、と‥‥。

 

 ハンバーガーに覆われた視界の端に、小さな影が現れたのを見た。こちらに注がれる、熱烈な視線を感じる。そっとその正体を確かめてみると‥‥。

 

キラ

 「‥‥んだよ」

 

 

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 机の反対側でアイツがニヤニヤと笑っていやがった。頬杖をついて、見上げるようにしてこちらを見ている。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「ふふ。とても大きくお口を開けていらしたので‥‥つい見入ってしまいました」

 

 ‥‥はしたないところを見られた。口元にアイツの視線が注がれているのを感じる。

クソッ。食い辛い‥‥。

 

 しばしの膠着状態。ためらう俺に対して、アイツはびくとも動きやしない。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「あら。食べないのかしら? ただでさえ冷めているのに、もっと冷めてしまいますわよ?」

 

キラ

 「ぐぎぎ‥‥」

 

 ‥‥せっかく作ったのに、食べないわけにもいかない。俺は意を決すると、ハンバーガーを口に半ば押し込むようにして、咀嚼する。‥‥味が分からない。

 つい頬張ってしまったせいで、咀嚼に時間がかかる。その様子すらも、アイツはジッと見つめてきやがる。

 周囲に聞こえるのは、背後で真壁がナイフとフォークでハンバーガーを切っている音と、俺がハンバーガーを咀嚼する音。‥‥ダメだ。羞恥心が抑えられねえ。

 

 まだ大きな塊が残っていたが、俺は無理やり口の中のものを全部飲み込んだ。みぞおちの少し上あたりで、塊が詰まりかけて痛みが生じた。うぐ、と絞り出すような声がほんの少し漏れる。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「あら。そんなに急いで食べなくてもいいのに」

 

キラ

 「‥‥うるせえ。というより、なんでずっとこっちを見てるんだよ」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「あなたが食事を取っているところ。わたくしまともに見たことがありませんでしたから。それに‥‥可愛いお顔のあなたが、お口を大きく開けて頬張る姿‥‥かわいいですもの」

 

キラ

 「‥‥はしたないとでもいいたいのか?」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「いいえ。本心ですわ」

 

 眉一つ動かさず、アイツはそう言い切った。コイツめ‥‥。

 

 怒りか恥ずかしさか。何が何だか分からんが、食事を取る気が失せた俺は、残りのハンバーガーを皿に置く。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「あら。どうされたのかしら?」

 

キラ

 「‥‥食う気が失せた。冷蔵庫にしまって、あとで食べる」

 

 まだ少し残っていたが、このままだとコイツの目の前で食べ続けることになってしまう。本音を言えば、まだ腹は空いているが‥‥やむを得ん。

 残りを冷蔵庫にしまいに行こうと思った次の瞬間、アイツは立ち上がるとこちら側に周って来やがった。座っている俺よりも小柄な体格を見て、自分のデカさを改めて感じさせられる。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「‥‥わたくし、今日は珍しくまだお腹が空いていますの。もし今食べられないというのならば‥‥ひとくち、分けてくださらない?」

 

 アイツはそう言うと‥‥目を閉じてこちらに口を開けてみせた。実に無防備な状態でだ。

 

キラ

 「‥‥なんのつもりだ」

 

 答えは帰ってこない。無言で鳥の雛みてえに口を開きっぱなしにしていやがる。小さな口の中に整然と並んだ白い歯がチラリと見えて、こっちが小っ恥ずかしくなってきた。

 

キラ

 「おい、やめろ‥‥」

 

 返事は来ない。

 

キラ

 「何が望みだ‥‥」

 

 返事は来ない。

 

キラ

 「はしたねえぞ‥‥」

 

ヴィア・ーゼンタール

 「あなたの前でなら、別に構いませんわ」

 

 ようやく返事が帰ってきたが、それっきりまた黙って口を開きっぱなしにしていやがる。

 どうやら俺が残りのハンバーガーを与えない限り、これをやめるつもりはないようだ。

 

 噛りかけの残りをゆっくりと手に取る。このサイズなら、ギリギリこいつの口に入りそうだ。‥‥やるしかない、っていうのか‥‥?

 目の前のお嬢様は、目を閉じて微動だにしない。このままだと、近くにいる真壁に変に思われるかもしれないし‥‥いや、既に手遅れかもしれんが。

 

 やむを得まいと思った俺は、そっとハンバーガーの欠片をアイツの口元へと運んでいく。

ゆっくり、ゆっくり‥‥。距離が近くなるにつれて、手が震えてきた。アイツの鼻息が軽く指先にかかって、こそばゆいのを感じる。

 じれったくなったのか、アイツは片目だけ開けてこちらを見てきやがる。それでも催促はせず、あくまでも俺に食べさせようとする腹づもりのようだ。

 

 ぐぎぎぎ、と喉からへんな音が漏れ出そうになっていた。こいつの口にこの欠片を突っ込むだけ。それだけなのに‥‥何をためらっているんだ、俺は!

 

 「あ! リヴィア、ハンバーガー分けてもらってる! ずるい!」

 

 沈黙を破ったのは、朝雛の大声。俺の視線が一瞬そちらに向いた次の瞬間。指先に柔らかい感覚がして、代わりに持っていたハンバーガーがなくなったのを感知した。

 視線を戻すと、アイツがもぐもぐと口を動かしている。朝雛に邪魔されるのを嫌がったのか、とうとう俺が動くのを待たずに自ら動いたようだ。

 

 ゆっくりと咀嚼して、ハンバーガーを飲み込むとアイツはニヤリと笑って見せる。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「あら。アキラ、ケチャップがついていますわよ」

 

 人差し指の先にケチャップが残っていた。何かの拍子についてしまったのだろう。

 何を思ったのか、アイツは俺の手を取ると‥‥これまた躊躇なく人差し指を咥えてペロリとケチャップを‥‥舐めやがった!

 

 ゾワリ、とアイツの舌が指先を這うように撫でやがる。チュポン、とわざとらしく音を立てると、アイツは俺の指を解放した。

 

ヴィア・ーゼンタール

 「‥‥ごちそうさま。アキラ」

 

 それが最後の一言だった。アイツは時間停止の魔法を発動すると、そのままどこかへ消えてしまった。

 「ずるいぞ!」と駆け寄ってきた朝雛が、突然の出来事に目を白黒とさせてその場に立ち尽くす。

 

キラ

 (アイツめ‥‥!)

 

 軽く湿った指先のやり場に、俺はすっかり困り果ててしまった。

 

クア

 (‥‥何をしているのだ。あの2人‥‥)

 

─終─

 

 

 

 

◆都合のいい魔法編◆

 

1.都合のいい魔法(真壁リクアの場合)

 

──某日 某時刻 牢屋敷内

   マコト・ヒナタの監房──

 

 とある日の明朝。いえ、そもそも監房が地下にあるので日が昇っているかどうかも判断がつかないのですが‥‥。

 ともあれ、私は唐突に鳴り響いたスマホの通知音に叩き起こされました。私以外の人のスマホの通知音も鳴り出したようで、地下にはフクロウの鳴き声がけたたましく響き渡ります。

 

ナタ

 「な、何事だ‥‥?」

 

 同じく叩き起こされたであろうヒナタさん。毛布から抜け出す布の擦れた音と共に、二段ベッドの上段が僅かに揺れます。

 ビカビカと光るスマホを手に取ると、ゴクチョーさんからの通知が来ているのが分かりました。内容は一言『面倒事が起こってしまいました。皆さん10分以内にラウンジに集合してください』と非常に簡素なものでした。

 め、面倒事‥‥? この牢屋敷では、いずれ殺人事件が起こりうると初日に話がありましたが‥‥まさか殺人が!?

 

 いてもたってもいられなくなった私は毛布を蹴飛ばすと、身支度もそこそこに監房を飛び出しました。

 

 

 

──同日 某時刻 牢屋敷内 ラウンジ──

 

コト

 「な、何があったんですか!?」

 

 ラウンジに駆け込むと私は開口一番、聞き手がいるかもどうかも分からないのに叫んでいました。どうやらまだ誰も到着していないようで、私が一番乗り‥‥のように思われましたが。

 

コト

 (あ、あれは‥‥?)

 

 玄関ホール側の出入り口のすぐ真正面。初日にゴクチョーさんが説明をした時にも淡い光を放っていたモニター。その前に小さな人影がありました。

 私たちの中でも小柄なリヴィアさんよりもさらに小さなその人影は、こちらに背を向けてジッと佇んでいます。

 そうこうしているうちに、入口の方がにわかに騒がしくなってきました。他の人たちも駆けつけてきたようです。ヒナタさんに、ミオリさんに、カナデさんに‥‥あれ。1人足りないような‥‥。

 私が指先でちょいちょいと人数を数えていると‥‥部屋の上部から羽音が聞こえました。見上げると、ダクトからゴクチョーさんが飛んできます。

 

クチョー

 「あー、皆さん。朝早くに申し訳ありませんねぇ。まあ、見ての通りの状況でして」

 

 いつものように気だるげな声色のゴクチョーさんは、何を思ったのか件の小さな人影の上に着地します。

 

??

 「ム。や‥‥やめたまえッ! わたしはとまり木ではない!」

 

クチョー

 「いやー。高さがちょうどいいもので」

 

 頭上に突然飛来したゴクチョーさんを振り払おうと、小さな人影は必死にもがいています。そして‥‥私たちの方にようやく顔を向けてくれました。

 

ヅハ

 「ま‥‥真壁さん!?」

 

 真っ先に人影の正体を看破したのはシヅハさんでした。モニターの逆光でよく見えませんでしたが‥‥よく見ると、人影は白衣を模した囚人服を身に着けています。いつもリクアさんが着ていたそれを、そのまま小さくしたもののようです。

 

クア(幼)

 「は、はなれたまえ!」

 

クチョー

 「‥‥少々、冗談が過ぎましたかね」

 

 ‥‥なんだか、キャラに合わない発言だなと思いました。「冗談」なんて言葉がゴクチョーさんから飛び出すのが、ちょっぴり不思議な感じです。

 ともあれ、リクアさんの希望通りゴクチョーさんはひらりと彼女の頭から飛び立ちました。近くの机に降り立つと、羽先でちょいとリクアさんの方を指さします。

 

クチョー

 「えー‥‥御覧の通りです。真壁リクアさんが小さくなってしまいました」

 

リナ

 「い、一体どういう風の吹き回しなんだよ‥‥?」

 

 セリナさんが困惑の声を上げます。

 

クチョー

 「あー、いやですね‥‥。お伝えするのを忘れていましたが。この牢屋敷には、過去に囚われていた囚人たちの魔法が残っていることがあるのですよ」

 

 残された魔法‥‥図書室の逆さになった木や、床に散らばったあの光の粒も、おそらくそうなのでしょうね。

 

クチョー

 「どこに魔法が残っているのか未だに特定できていないのですが‥‥この監獄島には、“対象者を子供にする魔法”が残ってしまっているのです」

 

オリ

 「そ、そんな薄いほ‥‥都合のいい魔法がぁッ!?」

 

 ミオリさんが朝から大ハッスルのスクリームです。耳に悪い‥‥。

 

ヅハ

 「あ、あの‥‥命に別状はないんですよね? 突然小さくなって、体に不調が出たりとかは‥‥」

 

クチョー

 「ああ、その点はお気になさらず。本当に体が小さくなっただけですし。過去の事例通りならば、1日で元に戻るはずです」

 

 ゴクチョーさんの説明にシヅハさんは安堵のため息を漏らします。が、ゴクチョーさんの続く言葉がその安堵を吹き飛ばします。

 

クチョー

 「ただ、その‥‥どうやら、この方。記憶が無くなる‥‥というか、子どもの時まで記憶が遡ってしまったようでしてねぇ。貴方がたの事を全く覚えていないようなのですよ」

 

ヅハ

 「え、ええ‥‥?」

 

オリ

 「だから都合が良すぎますってぇ!?」

 

 ‥‥少し空気を読んでほしいです、ミオリさん。

 

クチョー

 「故に緊急事態として皆さんを招集したのです。流石に我々も‥‥子守は業務の対象外ですので」

 

クア(幼)

 「子もり‥‥? わたしはそんなにおさなくない! なめるなッ!」

 

 幼い事をバカにされたことが癪だったのか、リクアさんはゴクチョーさんを睨みつけました。そして何を思ったのか、ゴクチョーさんがとまっている机の上に彼女も登りだしました。手足が短くなっているので、少し登るのに苦戦しているようです。

 

クア(幼)

 「安心したまえ、しょくん。キミたちのことは、さっきスマホのアプリで名前をかくにんしている。そして、わたしになにが起きたのかということについても、すでにこのフクロウから聞きおよんでいる」

 

 やや舌っ足らずですが、リクアさんは初日に見せたような調子で私たちに語りかけます。姿こそ小さくなっていますが、彼女の根っこの部分はやはり変わっていないようです。

 

クア(幼)

 「わたしのことだ。小さくなる前から、きっとキミたちを教えみちびいていたのだろう。なら、わたしのすることはかわらない。今日もかわらず、キミたちのリーダーとして、このアクシデントものり切ってみせようではないか」

 

 小さく鼻息を漏らす音が聞こえました。私たちの間に困惑の色が広がるなか、当のリクアさんは自信満々の様子です。自分よりも大きな存在‥‥私たちのリーダーになれると思って興奮気味なのでしょう。

 

 誰が呼びかけたわけでもなく、私たちは小さく円を作り即興の作戦会議を始めます。

 結論として‥‥今日一日、リクアさんの好きなようにさせてあげよう、ということになりました。ゴクチョーさんの言うように子守に徹すると‥‥多分、リクアさんは怒るでしょうしね。

 

 こうして、私たちの奇妙な1日が始まるのでした。

 

 

 

──同日 某時刻 牢屋敷内 食堂──

 

クア(幼)

 「どうだ。おいしいだろう」

 

 ひとまず食事を摂らないことには一日は始まらない、ということで私たちは食堂に介していました。

 今日ばかりはリクアさん以外が朝食作りを担当すべきだろうと皆さんで相談していたのですが、なんとリクアさんは先んじて朝食の仕込みを終えていたようです。

 10分とかからないうちに、いつものメニューが運ばれてきて思わず目を丸くしてしまいました。

 

コト

 「はい。とっても美味しいですよ、リクアさん」

 

 焼きたてのパンを一口齧った私は、リクアさんに微笑みかけます。

 

クア(幼)

 「ふふん」

 

 ‥‥心なしか、いつもよりもパンが甘いような‥‥。もしかして、小さくなったことで味覚までもが幼くなったのでしょうか。

 その日の朝食は、全体的に心なし味付けが甘いような、そんな気がしました。

 

 

 

──同日 某時刻 牢屋敷内 医務室──

 

リス

 「め、面目ないでずうううううううう‥‥」

 

クア(幼)

 「気にするな。これもリーダーのやくめだ」

 

 エリスさんの濁音混じりの泣き声が医務室中に響きわたります。掃除の最中、スカートの裾を踏んづけて階段のてっぺんから真下まで見事に転げ落ちたエリスさん。

 中々の大事故ですが、幸いにも膝小僧を擦りむいただけですんだようで、駆けつけたリクアさんが手当をしています。

 

リス

 「あ、あばばばば‥‥ち、血まみれで怖いです‥‥」

 

 エリスさんはどうやら血液恐怖症のようです。自分の膝から流れ出る自分の血さえも嫌がっているようで、目を背け、眉間にシワを寄せ、首を思いっきりねじって直視しないようにしています。

 

クア(幼)

 「血はこわくないぞ、三条クン。元をたどれば血液は、“血漿”(けっしょう)とよばれるものからできている。‥‥ちなみに、これはなみだと同じせいぶんだ。ちょうどいま、キミがながしているのと同じね」

 

リス

 「え‥‥? な、ななななな涙も、血‥‥? ひえええええええええええええッ!?」

 

 リクアさんの説明にエリスさんはすっかり怯えてしまったようで、余計に収集がつかなくなってしまいました。暴れ狂うエリスさんを私が取り押さえている隙に、リクアさんが何とか治療を施して、事なきを得ました。

 

 

 

──同日 某時刻 監獄島 倉庫前──

 

クア(幼)

 「んしょ‥‥んしょ‥‥」

 

 日が少し傾き始めた頃。リクアさんは生活環境を整える為、必死にその小さな体を酷使して一日中動き回っていました。今は倉庫から食料品を厨房に運んでいるところです。

 

ヅハ

 「だ、大丈夫ですか、真壁さん‥‥? やっぱり、もう少し量を減らして、分けたほうがいいんじゃ‥‥」

 

クア(幼)

 「しんぱいは‥‥むようだ‥‥。体が小さくなったぶん、運ぶりょうをふやさないとならないからね‥‥」

 

オリ

 「だからって限度がありますぞ! 尻ポケットにまで缶詰ねじ込んじゃって‥‥尻ポケットは違法ですぞ、違法!」

 

クア(幼)

 「しりポケットが、いほう‥‥?」

 

 ミオリさんが何を言っているのかは全く持って理解できませんが、指摘していることは最もでした。

 彼女は自分の体と同じくらい大きな段ボールを抱えて歩いています。

 体が大きなときでさえ、小麦粉の袋を運んでいた時に息切れしていたのに‥‥小さくなった今、こんなに動き回っていては、体力がすぐにつきてしまいます。

 

 シヅハさんは念のため影操作で呼び寄せた影をリクアさんのそばにおいて、万が一に備えています。リクアさんは小さな歩幅で一歩ずつ賢明に歩みを進めますが‥‥

 

クア

 「あっ」

 

 段ボールのせいで足元の視界が塞がっていたせいか、リクアさんが小石につまずきました。

 シヅハさんがすぐに影操作の魔法で体を支えようとしますが、少し反応が遅れたのか健闘虚しくリクアさんは転んでしまいました。

 

ヅハ

 「だ、大丈夫ですか!?」

 

 シヅハさんが慌てて駆け寄ります。私とミオリさんも駆け寄ってリクアさんを起こそうと手を取ろうとしましたが‥‥

 

クア(幼)

 「しんぱいは‥‥いらない」

 

 地面にうつ伏せになったリクアさんは、その手を払い除けました。そしてゆっくりと立ち上がります。けれども‥‥

 

クア(幼)

 「‥‥ぐすっ」

 

 ‥‥鼻をすする音が、かすかに聞こえました。リクアさんは背を向けたまま、こちらを見ようとしません。

 そのまま小さくかがむと、散らばってしまった缶詰を段ボールに戻そうとしています。

 

ヅハ

 「ま、真壁さん、膝から血が‥‥」

 

クア(幼)

 「しんぱいはいらないといっている!」

 

 シヅハさんの助けをリクアさんはあくまでも拒みます。それでも、彼女の膝からは血が流れ出ていて‥‥ついでに、瞳から涙が溢れているのも見えます。

 涙を見せまいと、必死に抗っているのは誰の目から見ても明らかでした。大きかった頃からどこか意地を張っているフシがあった彼女ですが‥‥それは小さくなっても同じようです。

 

ヅハ

 「だ、だめです‥‥! ちゃんと治療しないと‥‥」

 

 シヅハさんは背を向けるリクアさんの傷を確認しようとします。

 

クア(幼)

 「や、やめ‥‥!」

 

 小さな体故に抵抗する力は乏しく。怪我をして尚の事力が入らなかったのでしょう。リクアさんの体はあっさりと持ち上げられてしまいました。傷と共にその泣き顔さえも、私たちの前にさらされます。

 

クア(幼)

 「う、うう‥‥」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 リクアさんはすっかり泣き腫らしてしまっているようで、鼻の先まで真っ赤になってしまっています。

 

クア(幼)

 「か、かんちがいしないでくれたまえッ! わたしは、その‥‥泣いてなどいないッ!」

 

 リクアさんは必死になって袖で涙を拭っていきますが、それでもポロポロと雫が次から次に零れ落ちていきます。本人の意思に逆らうようにその勢いは止まる気配を見せません。

 

クア(幼)

 「こ、これは‥‥そう、“血”だ! わたしの“血”なんだ! わ、わたしの世界に《透明な血漿》など存在しないんだ‥‥!」

 

オリ

 「どこぞのコーヒー仮面じゃないんですからぁ‥‥」

 

 リクアさんの必死の言い訳を、よく分からない理論でいなしながらも、ミオリさんはハンカチを傷跡にあてます。

 リクアさんはそれさえも最初は拒もうとしましたが、止血することこそが、今取れる最善の手段であると頭では理解しているようで、やがてミオリさんの処置を受け入れます。

 

ヅハ

 「目からも血が流れるだなんて、一大事ですよ真壁さん。だから、ほら。まずは医務室に行きましょう。‥‥ね?」

 

 シヅハさんは先ほど強引にリクアさんを抱え上げたのを後悔したのか、今度は優しく丁寧にリクアさんに語りかけます。

 

クア(幼)

 「‥‥わかった」

 

 とうとうリクアさんが折れました。いつもなら「うム」とでも言いそうな場面ですが、返答の声色も少し幼くなっているように聞こえます。

 

ヅハ

 「ほら、歩きにくいでしょうから」

 

 シヅハさんはそう言ってかがむと、リクアさんの方に背中を向けます。おぶってあげようとしているようです。

 その時、リクアさんの視線が散らばった缶詰の方に向かったのを私は見逃しませんでした。素早く拾い集めると、私は段ボールを抱えてみせます。

 

コト

 「こっちは私が運びますから。安心してください。仲間をうまく扱うのもリーダーの素養です」

 

 私の言葉でリクアさんはようやく納得してくれたのか、シヅハさんの方にゆっくりと向かいます。うつむいた顔からのぞく唇はほんの少し尖っていて。彼女の中にいまだ葛藤があるように見て取れました。

 

 リクアさんがそっと背中にもたれかかったのを確認すると、シヅハさんは慎重に彼女をおぶります。

 

ヅハ

 「大丈夫ですよ、真壁さん。大丈夫、大丈夫」

 

クア(幼)

 「‥‥うん」

 

 リクアさんはそれっきり黙り込んでしまいました。シヅハさんの背中に顔をうずめると、私たちと目を合わせようとしません。彼女なりの最後のささやかな抵抗だったのでしょう。

 

 

 

──同日 某時刻 牢屋敷内 医務室──

 

 その後、缶詰を食堂に運び終えた私は、医務室にやってきました。扉を開けるとリクアさんがベッドで眠っていて、側にパイプ椅子に座ったシヅハさんがついています。

 天窓からは月明かりが静かに降りていて、2人のいるあたりをほのかに照らしています。

 

ヅハ

 「あ、篠宮さん‥‥」

 

コト

 「リクアさん、大丈夫ですか‥‥?」

 

 リクアさんはゆっくりと眠っていました。静かにスースーと寝息を立てて、憑き物が落ちたようにその表情はどこか穏やかです。

 

ヅハ

 「はい。傷の治療も自分でするって聞かなかったんですけど‥‥何とか説得して私が処置しました。一日中気を張っていたみたいで、どうやら眠くなっちゃったみたいです」

 

 シヅハさんは愛おしそうにリクアさんの頭を撫でます。リクアさんの表情が一層緩んだように見えました。

 

ヅハ

 「‥‥真壁さんがこんな風に穏やかに眠っているの、私初めてみたかもしれません」

 

コト

 「と、言うと‥‥?」

 

ヅハ

 「‥‥私、真壁さんと同室じゃないですか。夜中にトイレに立ったときなんかに、彼女の寝顔がチラリと見えるんです。リクアさんが上段なんで、少し見づらいんですけど」

 

 シヅハさんはまぶたにかかったリクアさんの髪をそっとどけてあげると、続けます。

 

ヅハ

 「リクアさん‥‥いつも、苦しそうにしているというか‥‥寝付きが悪そうなんです。眠っているのに、それでもずっと緊張している、みたいな‥‥そんな表情。それにいつも早起きですし‥‥きっと、この牢屋敷に来てから‥‥いえ、来る前からずっとそうだったんじゃないかって。そう思うんです」

 

 同室の彼女だからこそ知っている、リクアさんの秘密の側面。シヅハさんが献身的にリクアさんを支えようとしている理由の1つなのかもしれません。

 

ヅハ

 「真壁さん、いつも1人で動き回って‥‥私からの協力も必要最低限にとどめているように見えます。‥‥だから、私‥‥少し不謹慎かもしれないですけど。今日、とても嬉しかったんです。真壁さんが私を頼ってくれて」

 

 シヅハさんは繰り返し、何度もリクアさんの頭を撫でています。

 

クア(幼)

 「んん‥‥」

 

 リクアさんが小さくシヅハさんの方に寝返りをうちました。

 

クア(幼)

 「‥‥おとうさん‥‥おかあさん‥‥」

 

ヅハ

 「真壁さん‥‥」

 

 リクアさんの口から漏れ出た、小さな寝言‥‥。‥‥彼女もまた、ここにさらわれて、大事な人と離れ離れにされているのです。辛くないわけがありません。

 私は今日、初めて本当のリクアさんの姿を見たような‥‥そんな気がしました。

 

 

 

 シヅハさんは立ち上がると、そっとベッドの前に膝をついてリクアさんの頭を撫でます。

 影が、リクアさんを包み込みます。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

ヅハ

 「大丈夫ですよ、真壁さん。無理して光り続ける必要はないんです。今日は、私が側にいますから‥‥。少しくらい、影で休んでもいいんですよ」

 

クア(幼)

 「‥‥ときわさん」

 

 リクアさんは眠りながらも、シヅハさんの存在をどこかで感じ取ったのか、差し出された手にそっと頭を預けます。

 シヅハさんは愛おしそうにその頭を優しく撫で続けます。

 張り詰めた緊張の糸を少しずつ、ゆっくりと解きほぐすように何度も、何度も。

 

 これ以上2人の邪魔をしてはいけないと思った私は、そっと医務室をあとにします。

 天窓から注ぐ月明かりが、2人を静かに照らしていたのが強く印象に残りました。

 

 

 

──翌日 某時刻 牢屋敷内 食堂──

 

クア

 「ああ、篠宮クン。昨日は、その‥‥見苦しい姿を晒してしまって‥‥申し訳ない」

 

 私が食堂に入ったのを見つけたリクアさんは、駆け寄ってくると小声で私にそう述べました。いつも通りの大きさに無事戻っているようです。

 

ヅハ

 「あ。真壁さん。もう大丈夫ですか‥‥?」

 

 続けてシヅハさんもやってきました。

 

クア

 「あ、ああ。常盤クンには、その‥‥多大な迷惑をかけたというか、その‥‥すまない」

 

ヅハ

 「‥‥ふふっ。いいんですよ、真壁さん」

 

 穏やかに笑いかけるシヅハさんに、すっかりリクアさんは紅潮してしまっています。

 

オリ

 「き、記憶が残るタイプの幼児化だなんて‥‥どこまでベタベタなんですかあああああああッ!?」

 

 見境なく叫んだミオリさんの脳天目掛けて、リクアさんの渾身のチョップが朝の食堂に響き渡るのでした。

 

 ‥‥そういえば、小さいリクアさん用の囚人服はどこから来たんでしょうね‥‥?

 

 

 

───

 

 

 

クチョー

 「はあ‥‥この魔法が発動すると、小さくなった時用の囚人服を用意しないといけないから、ほんと面倒なんですよね‥‥」

 

 「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

─終─

 

 

 

(作者小あとがき:1時間でどれだけ書けるかなチャレンジの産物です。結果は1時間45分でした。1時間でリクアさんが転けるところ辺り(大体4500文字ほど)まで書けた記憶です)

 

 

 

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