『俺』と『悪魔』と   作:三流二式

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day1 クソ人生におけるクソ転換期③

この地点から大体300メートル先が駅だ。息を整え終えた俺は不審者のように周囲をしきりに見回しながらゆっくりと歩を進めた。しかし、やはりある地点まで行けば元の看板前まで戻される。

 

 

「おいどうなってんだ。チュートリアルが終わったんなら先に進めるようになってるはずだろ?バグってんぞクソ運営」

『は?あんなので終わる訳ないだろお前馬鹿?よくある規定数討伐しないと先に進めない的なあの、それ的な、そう、あれよあれ!』

 

 

どれだよ。吐き捨てる気力もなくなり、足元に目をやる。ふとへし折れた看板が目に入る。

 

 

よう、イイざまだな。看板を見下ろし胸中で語り掛ける。こんなことで僕を打倒しただなんて思うなよ!風にあおられた看板が負け惜しみのように揺れた。君の人生なんかお先真っ暗さ。今に見てろよ!

 

 

頭を振って雑念を払い、『悪魔』のチュートリアルを終わらせるべく歩き出した。

 

 

一歩二歩、歩を進めた時である。唐突に視界がぐにゃりとゆがみ、気が付けば俺はうっすらと立ち上る白い霧に丸く囲まれていた。反対側には変わらぬ住宅街がおぼろに見える。

 

 

「「チューッ!」」

 

 

そして俺の目の前には二体のチュー・チューが後ろ足二本で立ち上がって威嚇していた。

 

 

『お、エンカウントしたな』

「なあ、こりゃなんだ?ゲームのランダムエンカじゃねえんだぞ」

『そうしたほうが頭の悪いお前には分かりやすいだろ?俺からのプレゼントのうちの一つさ。ありがたく思いな!』

「…このチュートリアルのループもか?」

『うん』

「ファイア!」

 

 

放たれた火球は、しかし直撃したかと思えばそのまま『悪魔』を素通りし、霧の中へと吸い込まれるように消えていった。

 

 

『ぷっ!』

「……」

 

 

分かってはいたが、俺は『悪魔』に害を与えることはできないようだ。改めて出方を伺って攻めてこない敵二体へと目を向ける。

 

 

どうやら先程までの攻防はこの世界での戦い方を学ばせる為の演習だったようだ。普通の人間相手ならこんな無茶苦茶な教育法は問題視されるが、今回に限って言えば実際に戦わなければ何も分からなかった。

 

 

命を奪ったのは当然初めてだが、そのことの罪悪感よりも徒労感や疲労感のほうがよほど強かった。これがヒト型だったら、また違ったのだろうか?

 

 

「……」

 

 

考えたところで詮無きことだ。仕方なく再び構える。右手のひらを開き、魔力を集める。先の戦闘でどうすればいいのかはなんとなく感覚はつかめた。

 

 

「チューッ!」

 

 

 威嚇する二体のチュー・チューへ向けてファイアを放つ。しかし今度は避けられず直撃した。一体は火だるまになり、もう一体も大きく跳ね飛んだ後地面に落下した。その隙を狙ってもう一度ファイアを放ち、戦闘は終了だ。

 

 

 勝った。しかし、達成感よりも次なる疑問が頭を支配していた。

 

 

『お、中々やるじゃん主人公様。その調子で頑張って倒せばいいよ』

「……何が目的なんだお前は」

『目的?決まってるでしょ。魂の回収さ。この世界の人間共はみんな生気があって美味しそうなんだよね~。それを集める為に俺が呼び出されたんだぜ?』

「………」

 

 

嘘であることはこれまでのやり取りですぐに看破できた。半目で睨む俺の視線に気づいた『悪魔』はにやりと笑った。

 

 

『あ、嘘だって、やっぱりわかる?じゃあじゃあ俺は太古の怨霊で、この世界で苦しむ者たちの無念の集合体なの。で、君の嘆きや怒りに呼応して呼び寄せられた。あ、これもダメ?なかなか焦らし上手だな君は』

「……」

 

 

悪魔の戯言を無視し、エロ本を取り出して開く。俺の魔力量や使用魔法が書かれてあるページの隣に、目当てのものはあった。

 

 

 

☆チュートリアルを突破しよう!☆

 

概要:ウスノロでどうしようもなく哀れな君に分かりやすいチュートリアルを設けてやった。これで戦闘の概要を知り、この新たなる日常を楽しもうじゃないか!

 

 

討伐対象

 

チュー・チュー:3/10

スーラ・スーラ:1/5

 

 

チュー・チューが残り7匹。スーラ・スーラは残り4匹。計11匹も倒さなければならない。

 

 

戦闘という行為を行って分かったことだが、戦闘は心身ともにとてつもない消耗が伴う。単純な体力から死ぬかもしれないというストレスなど、負荷が強い。仕事でも心身が削られるが戦闘はその比ではない。

 

 

仕事は真綿で首を絞められるような遅効性のものだが、戦闘は根こそぎに持ってかれる感じだ。

 

 

だが仕事とは決定的に違うものがある。それはそれはおそらく非日常に足を踏み入れたことの興奮。そして、戦いの高揚感や達成感とでもいうのか。仕事ではすり減らすばかりであった。じわじわと摩耗していく感覚。

 

 

しかしここでは違う。ここは何もかもが鮮烈に悍ましい。 今までの人生で出会ったことのない世界。現実離れした存在達。そんな場所で自分がどこまで通用するのか試す機会を与えられた。そのワクワク感たるや言葉で表現できるものではない。まさに未知への挑戦だ!……その興奮が結果的に『悪魔』を喜ばせるものなのだとしても気にならなかった。

 

 

それはそれとして、疲れた。早いところ切り上げなければ倒れてしまうだろう。

 

 

その時隣のページを見ると、自分の魔力量や使用可能魔法の項目に変化があることに気が付いた。

 

 

 

現魔力:6(最大12)

自然回復力:1分に1魔力回復。

 

 

使用可能魔法一覧

・ファイア:炎の塊を相手にぶつける、基本中の基本の魔法(消費魔力2)

・アイス:氷の塊を相手にぶつける、基本中の基本の魔法(消費魔力2)

 

 

 

魔力の最大値が増えており、使用可能魔法に新たな魔法が追加されていた。

 

 

「こりゃどういうことだ?」

『そりゃ敵を倒したんだからレベルアップの一つでもしてしかるべきだろう?』

 

 

といつの間にかエロ本をのぞき込んでいた悪魔がニタニタと底意地悪く笑っていた。

 

 

「ゲームじゃねえんだぞ。というかレベル上がったんならもっとこう、あるだろ?力とか素早さとか。全然実感がないんだが」

『あのサ、そんなゲームじゃないんだからそう上手くいく訳ないじゃん馬鹿キミ?』

 

 

呆れた顔で見下す『悪魔』を睨みつけていると、『悪魔』は鼻を鳴らした。

 

 

『そもそもレベルアップって脳タリンのお前に分かりやすく言っているだけで、実際は全然違うものだから。あの汚い雑魚が死んだときに発生したエネルギーがお前に流れ込んで、それでお前の存在規格が上がったの。それが俺の言うレベルアップってやつね。で、元がカスだから一レベル上がっただけじゃ当然カスに産毛が生えた程度の存在でしかないわけ。ワカル?』

「なるほど、要は俺がカスなだけか」

『良くお分かりで』

 

 

『悪魔』はにこやかに笑った。

 

 

「チッ」

 

 

笑顔の『悪魔』から顔を背け、俺は駅への道を進んだ。とにかくこのクソループを終わらせなければ話にならない。それであの『悪魔』が解放してくれる保証もない。しかし今の俺には選択肢がない。だから、やる。

 

 

なに、いつものことだ。選択肢があったことなんて、今まで一度だってないのだから。

 

 

ふざけた絵面の死の遊戯は続いた。歩き出してから二度目のループでスーラ・スーラ二体とエンカウントした。そういえばと思い新たに覚えたアイスという魔法を試し撃ちしてみたら、なんと一発でスーラ・スーラのゲル体が凍り付いたではないか。

 

 

戦いが終わった後に押っ取り刀で駆け付けた『悪魔』が言うには、属性魔法には相性というものがあるらしい。……というかゲームではないのだから、生き物ならたいていは火に弱いし、低温だって効果的ではないのか。

 

 

そういった時の『悪魔』の顔ときたら、表情一つでここまで人を馬鹿にできるのかと感心したものだ。

 

 

『こういう霊的な存在には必ず縛りみたいなもんがあるの。だから物理現象はお前が考えている以上に役に立たないのさ!』とは『悪魔』の言である。

 

 

ならば現実とそう大差ないなと思った。俺の知識が現実で碌に役に立たないのとおんなじだ。

 

 

幾度かのループ、幾度かの戦闘、しばしの休憩を挟み、ようやくチュートリアルが終わりを迎えた。はじめはおっかなびっくりに行っていた戦闘行為も、短時間に断続的にやらされれば慣れが生じてくるもの。最後のほうに至っては俺は一歩も動かずに戦闘が終了したほどだ。

 

 

 

現魔力:10(最大20)

自然回復力:1分に2魔力回復。

 

 

使用可能魔法一覧

・ファイア:炎の塊を相手にぶつける、基本中の基本の魔法(消費魔力2)

・アイス:氷の塊を相手にぶつける、基本中の基本の魔法(消費魔力2)

・サンダー:電気の塊を相手にぶつける、基本中の基本の魔法(消費魔力2)

・ヘイスト:一定時間素早さを向上させる、基本中の基本の付与魔法。(消費魔力4)

 

 

 

これが『悪魔』の課したチュートリアル終了時のリザルトだ。正直良いのか悪いのかまるで分らないが、これを見た時の『悪魔』の愕然とした顔を見れば言うまでもないのだろう。

 

 

「じゃあもう進めるんだな?」

『レッツ・ゴー!』

 

 

ふざけた調子で進むよう促す『悪魔』を目尻に、俺はおっかなびっくりに歩を進める。街灯がまばらに照らす夜道を行く。周りには人影はなく、静まり返っていた。耳を澄ましても、聞こえるのは耳鳴りの音と、かすかな風の音だけ。

 

 

あれだけの戦闘音が鳴っていたのにもかかわらず周りは普段と変わりない。魔術的な何かが働いて、おそらくは『悪魔』が何かして時間が固定でもされているのだろう。月は位置を変えず、俺もまた位置を変えず。

 

 

月を眺めながら歩いていたら、気が付けばループの境界線前まで来ていた。思わず足を止めてしまう。

 

 

ドクンと心臓が高鳴る。さっきまでならばここから一歩進めば看板前まで戻された。

 

 

俺は緊張を胸に宿したまま、意を決して一歩進んだ。

 

 

一歩。景色が変わることはない。二歩。なんてことはない。俺は大きくため息を吐いた。

 

 

『何やってんだよ。早くいけ』

「うるせえな」

 

 

ステッキで背中をせっつかれ、俺は感慨にふける間もなく移動を余儀なくされた。『悪魔』の戯言を聞き流しながら歩き続け、ようやく目的地の駅まで到着した。時刻は二十二時五分。いつもより少し遅い程度の時間だった。

 

 

駅の姿が見えた途端、緊張の糸が切れどっと疲労感が押し寄せてきた。もう限界だった。体力も精神力も使い果たし、虚無感に包まれている。仕事でもここまで疲労したことはない。

 

 

駅前の広場に足を踏み入れる。いつもならこんな時間でも人がいたものだが、今は人っ子一人おらず静まり返っていた。

 

 

息を吐き、ふと『悪魔』を見る。『悪魔』はさっきから黙っていて、ただ悪意をはらんだニヤニヤ笑いを浮かべるばかりである。

 

 

「―――」

 

 

全身が総毛立ち、とてつもない嫌な予感に血流が逆流せんばかりであった。何かがある。俺が身構えたその時、フラッシュがたかれたみたいな発光で目がくらんだ。

 

 

『「ウワーッ!?」』

 

 

強烈な発光で目をやられた俺と『悪魔』の悲鳴が静まり返った駅前に響き渡ったた。

 

 

『ハハハハハ!ウェルカム!トゥ!マイ!エデン!』

 

 

拡声器で増幅されたかのような大音声が響き渡った。魂に直接響くようなすさまじい力ある威厳に満ちた声だった。

 

 

「うぅなんだってんだ…!?」

『ウぐあ目が…目が…!』

 

 

かすむ視界を払い、すさまじい光の発生源へと目を向ける。そしてそこにいた者を見て、俺は目を見開いた。

 

 

『彼』は…『ゴッド』だった。

 

 

『彼』は煌々と輝くサッカーボール大の光球の姿かたちを取っており、とても眩しく、鮮烈な光を放ち闇を切り裂き、眼も眩むようであり、鮮烈で、キラキラしており、その威光を直視するのもまかりならないほどにピカピカしていた。

 

 

「あの、もうちょっと光量抑えられません?」

『良いぞ!』

 

 

俺の僭越を『彼』は快く聞き入れて下すった。世界そのものを染め上げるかのような光量が抑えられ、精々が電灯の光程度にまで落ち着いた。

 

 

『と見せかけてフラーッシュ!!!』

『「ウワーッ!?」』

 

 

視界内で光が爆発し、再び目をやられて声をあげる俺と『悪魔』。尊い『彼』は満悦の高笑いを上げてのたうつ俺たちを見下ろす。

 

 

「な、何なんすか、アンタは何なんですか……うぐっ……」

『アババーッ!?』

 

 

結局二十回以上も繰り返されたフラッシュ攻撃(挨拶だそうだ)が終わった頃には、俺たちはへろへろになっていた。夜中だということも忘れるほどの明るさの中で、『彼』は改めて口を開いた。

 

 

『うむ、君の質問に答えようではないか!よぉく耳をかっぽじってよぉく聞くがよい!静聴だぞ!?言っちゃうよ?良いか言っちゃうよ?我が名は!ゴッド!ファッキング!エキサイトメント!メシア!で!ある!!!!!!』

「~~~~~~ッ!」

『ウギャーッ!?』

 

 

尋常ならざる爆音めいた大声が、世界の爆発並みの光量とともに、俺の目を、鼓膜を、魂の芯まで揺らさんばかりに吹き荒れた。涙でかすむ視界の端に、目と耳を抑えて七転八倒する『悪魔』が見えたが、今は気にしている余裕はない。もっとも余裕があったとしても気にしてやるつもりはないが。

 

 

『―――!―――!!―――!!!!!!』

「………」

 

 

長いこと続いた暴力的な自己紹介(ほとんど聞こえていなかった)が終わり、体感では一時間ほど経過しただろうか。未だに俺の耳鳴りは止まず、視界も白いモヤに覆われたままである。

 

 

ようやく耳鳴りも動悸も眼のぼやけも収まり、改めて『ゴッド』を見た。彼は何も言わず俺が落ち着くのを待ってくれていた。それなら連続フラッシュはやめていただけませんかと思ったが、やめた。尊いからだ。

 

 

「自己紹介、ありがとうございました」

『うむ!礼儀正しいな君は!素晴らしい!』

 

 

頭を下げて礼を言えば、『ふっふっふっ…我が威光を前にひれ伏す者には優しき神の御心で答えるのだ!さて、君たちに伝えねばならんことが山程ある!準備は良いか?GO!』とおっしゃる。

 

 

『いや、準備って何の準備ですか』

 

 

と『悪魔』が聞けば『ゴッド』は鮮やかなネオンらいとともに『ライト・オン!』と尊大におこたえになった。宣言したといったほうが正しいかもしれない。俺と『悪魔』は顔を見合わせた。

 

 

その時である。

 

 

「ややや!なんだこれは!」と声がした。

 

 

俺と『悪魔』は同時にその方向を見ると、若い神父が立っていた。その手には物騒な黒光りする筒状の物体。俺は目を丸くした。それは神父が持つにはあまりにも不釣り合いな物騒なもの、拳銃だった。

 

 

「オノレ卑劣なループ空間に私を閉じ込め卑しき魔獣と永遠と闘わせた元凶は、貴様だな!?」

 

 

神父はおかしなめつきで『ゴッド』を指さした。

 

 

『ハッハッハッ!……ちょっと何を言っているか分からんぞ!?』

 

 

『ゴッド』はひとしきり笑い、それから困ったようにそう言った。本気で困惑しているのが良く分かる声音であった。俺は『悪魔』を見た。『悪魔』は強張った顔で終始無言である。

 

 

「なんと!なおも左様な欺瞞を弄するか!ゆ、ゆ、ゆ、ゆるさん~~~!!!」

『あわあわあわ!』

 

 

あの神父、自分の言葉で怒りを増幅するタイプの人間だ。『ゴッド』の困惑した様子など眼中にないとばかりに、顔を真っ赤にしてあることないことをまくし立てていた。かわいそうな『ゴッド』。悪いのはこのくそったれ『悪魔』だというのにとんだとばっちりを。

 

 

「滅びよ神敵!」

 

 

血走った目で『ゴッド』を睨み、口角から泡を飛ばしながら、ついに危険人物が発砲した。乾いた音がして、銃弾が夜闇を切り裂いて『ゴッド』へと迫る。俺と『悪魔』は身を乗り出し、固唾をのんで見守っていた。

 

 

パチンという音がした。それと時を同じくして、ツンとする刺激臭があたりに立ち込めた。俺たちは目をしばたたいた。

 

 

『ウワーッ!?』

 

 

無傷の『ゴッド』は悲鳴を上げ、サッカーボール大の体から突如としてクレーン車並みの巨椀を生やし、エクソシストは反応する間もなく光り輝く鉄槌に叩き潰された。

 

 

『「―――」』

 

 

すさまじい振動が足を伝って体を揺らす。俺と『悪魔』はただ眼を点にして、その光景を見つめるばかり。

 

 

『―――なんてこった(オー・マイ・ゴッド)!』

 

 

『ゴッド』の嘆きの声を聴き、ようやく俺は我を取り戻した。結局のところ、神父は何者だったのか分からず終いであったが、そんなことよりも『ゴッド』が心配だ。

 

 

「あの、『ゴッド』?そう気を落とさないでください」

『し、しかしだな!』

「考えてみてください。目の前に気味の悪い虫が現れたなら叩き落してしまうのが反射というものでしょう?」

『う、うむ……うむ?』

 

 

俺は畳みかけた。

 

 

「『ゴッド』は反射的にキモイ虫を叩き潰したにすぎません。そしてそれは罪ではない。だってそれは肉食動物が小さな草食動物を食うとか、雨が降ったら大地に落ちるとか、そういうあまりにも当たり前のことなのですから。『ゴッド』、落ちてくる雨に罪はありますか?」

『な、ないな。うん……う~ん……うむ……』

「ならばあなたのしたことは何のもんだいも有りません」

『そ、そうか……そう…か?』

『そうですとも』

「そうか……なら、いいんだが……うむ……」

『お帰りはあちらです』

 

 

悪魔は頭上を指さした。

 

 

『うむ……で、ではサラバである!友よ!また会おう!』

『「オタッシャデー!」』

 

 

ゆっくりと上昇し、それからあっという間に空へと帰っていった『ゴッド』へ俺たちはその威光が見えなくなるまで手を振り続けていた。

 

 

「これがチュートリアル?」

 

 

手を下ろし、振り向きながら俺が言うと『悪魔』は露骨に目をそらした。

 

 

「~~~……」

 

 

言いたいことは無限にあったが、最早言葉にならなかった。ただ、疲れた。何もかも忘れて眠りたかった。

 

 

崩れ落ちそうな足腰を気合だけで支えがながら歩き出そうとした時だ。足にこつんと何かが当たった。拾い上げてみると、それはあの神父が握っていた拳銃だった。

 

 

「……」

 

 

意識がほとんどもうろうとしていた俺は深く考えずにそれをバックの中に入れ、駅の階段を昇って行った。

 

 

身体が重い。頭がふわふわする。視界がちかちかする。吐き気がする。それでも俺は夢現状態のまま、よろよろと家路についた。

 

 

道中の記憶がない。どうやって電車に乗り、どういう道のりでここまで来たのか、まるで分厚い霧の中のようにおぼろげだった。

 

 

 家に着くなりベッドへ倒れ込む。シャワーを浴びる気力も、服を着替える力もない。目を閉じれば、疲労と睡魔があっという間に意識を闇へと引きずり込んだ。

 

 

闇、黒。

 

 

こうして俺の非日常デビュー一日目が終了した。楽しくなかったと言えばウソになるが、これが毎回は勘弁してほしい。

 

 

そう言っても、あの『悪魔』はきっと聞き入れてはくれないだろうが。

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