【全話挿絵】婚約破棄された悪役令嬢、実は元覇王でした ~小僧、婚約を破棄し国外追放するだと?   作:よっちゃ

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第13話 百合喪女文学女子マーガレット

 

「マーガレット・フォン・アルディス!

 貴様との婚約を破棄する!」

 

 ──っしゃ! 来たわ──ー!! 

 

 私は静かに目を伏せる。

 ……ついさっき思い出した。

 私転生者であったわ。

 そして今まさに婚約破棄の現場に立ち会っておりまする。

 

 これぞ乙女遊戯における悪役令嬢断罪の儀式。

 いと典型的なりけり。

 いと様式美なりけり。

 

 ……いや待て私。

 冷静に分析している場合か。

 

 今世(こんじょう)でも婚約破棄される運命とは何事。

 前世、三十路にして百合をこよなく愛し、男なぞに一ミリの情も抱かず、

 静かに生きし孤高の喪女なりし我が()()()

 徳はどこか……川か、溝かに落とした。

 

 私は前世、文学を愛し、百合(ゆり)(かて)とし孤高を気取っていた女でござる。

 (こじ)らせておった自覚はある。

 いっそ清々しきほどに百合喪女でした。

 はい、本当にありがとうございました。

 

 目の前では元婚約者殿が得意満面で(あご)を上げている。

 あらー若いっていいわねー。

 

「あらゆる証拠は揃っている! お前は国家転覆を企てた悪女だ!」

 

 ハイハイ国家転覆って……

 ふふふ、テンプレね。冤罪でござる。

 

 ……え、国家転覆? 

 さすがにそこまでは──

 

 いや待てよ、我何をやった? 

 

 記憶を辿るに、

 王立図書館の予算を強引に増やし、

 王都中の美少女の名簿を密かに収集し、

 貴族令嬢同士の縁談を意図的に操作し、

 学園内の女子寮を実質“百合自治区”と化し、

 情報網を整備し……。

 

 あなやー。

 結構攻めておったわ。

 いみじくもギリギリではなかったか。

 これは断罪もやむなしやもしれぬ。

 

 だがしかし、我は女子(おなご)にしか興味がない。

 婚約破棄はあるべき帰結であるぞ。

 

 などと理性的に思考していた、その時。

 

 ドガーンと。

 重厚な扉が轟音と共に爆ぜた。

 

 ドレス、ヒール、レース。

 手には薙刀に火炎放射器!? 

 え、なにこの“女性だけで構成された百合精鋭部隊”。

 しかも全員顔面偏差値が高い。

 

 そして中央を割るようにして現れた一人。

 深紅のドレスを(ひるがえ)し、悠然と歩み出る長身の女。

 燭光(しょっこう)を受けた銀髪が淡く縁取(ふちど)り、

 その輪郭を聖画のごとく浮かび上がらせる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 白磁(はくじ)のような肌。

 触れれば砕けそうで、

 しかし決して傷つかぬ(たぐい)の白。

 氷のごとき双眸(そうぼう)が、静かに玉座を射抜く。

 

 

「 ウホッ……よき(おんな)……」

 

 

 あら。

 いま思考が音声化した? 

 

 ウホホッ……いとうつくし。

 ウホホッ……いとまばゆき。

 我の理性、蒸発でござる。

 あれは芸術でござるか? 

 

 その瞬間、空気が沈黙した。

 銀髪が揺れた。

 ただそれだけで。

 我は一時呼吸を、息を忘れたでござる。

 女神がゆるりと片手を掲げる。

 

 あれは──支配する者の所作(しょさ)

 

覇姫(はき)エレクシア……見参」

 

 ぐはぁっ……!! 

 尊死(そんし)!! 

 推死(おし)!! 

 眼福死(がんぷくし)!! 

 魂魄(こんぱく)粉砕死(ふんさいし)!! 

 拙者の精神、いま断崖絶壁より落下中ー!! 

 

 推しても良き? 

 

 ……と。

 その時である。

 元婚約者殿が薄く笑った。

 ああ、そういえば斯様(かよう)な者もいたでござるな。

 視界の端のモブ。

 

「覇姫エレクシア……

 そうか、暗殺に向かわせた冒険者共は失敗したか」

 

 モブ(ごと)きが目を細める。

 その余裕が気に食わぬ。

 

「ま、それも想定の内よ」

 

 あ、これ罠でござるな。

 百合喪女の勘が告げておる。

 この男、絶対に(ろく)でもない隠し玉を持っておる。

 我が姫! 絶対こいつ、仕込んでやがりますぞ。

 

「フハハハ、出でよ──デビル・タイラント!」

 

 モブ男殿がそう叫んだ瞬間、天井が爆ぜた。

 轟音が鳴り響き石材が雨のように降り注ぐ。

 

 現れたのは巨大な影。

 10メートルはあろうかという異形の怪物が、広間に降臨した。

 灰色の筋肉がうねり、肥大しきった両腕には血管が縄のごとく浮き上がる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そして──

 その悪魔の下半身。

 そこには鈍く光る鋼鉄のプロテクターが装着されていた。

 

 ……へぇ、あそこだけえらい気合いが入ってござるな? 

 

 

「これぞ我が最終兵器、デビル・タイラント! 

 覇姫エレクシアよ、こいつはな、かつて魔界闘技場で百戦百勝を誇った化け物を改造した、

 貴様を葬るためだけに作り出した改造型魔人よ!」

 

 モブモブのくせにムカつく、

 勝ち誇った顔をしているでござる。

 

「覇姫エレクシア、貴様は卑劣にも、男の急所(こかん)を執拗に狙うそうだな。

 だが、それも既に()()()()よ。

 男たちの屈辱と怨嗟(えんさ)を背負い、地に伏せよ!」

 

「フフフ、貴様は大馬鹿か? 

 この程度の化け物を用意したところで、何だと言うのだ。

 この覇姫(はき)エレクシアを、俺様(わたくし)をどうにかできると思ったのか?」

 

 姫様が薄く笑った。

 

 俺様(わたくし)来た────!! 

 我が推し様は「俺様系女子」でござったか!? 

 麗しき容姿で、俺様系で、股間粉砕系で、()()

 どれだけ属性てんこ盛りでござりやがりますか!! 

 

 ウホッ、ウホホホホッ!!! 

 いと(たっと)し!! 

 いと(おが)(たてまつ)る!! 

 

 ……ん? 

 悪魔のやつ。

 頬を染めて、推し様を凝視しておるでござるな? 

 まさかこやつ。

 

「ウ、ウツク……シイ……オナゴ……」

 

 巨大な顔が、ゆっくりと推し様を見下ろす。

 

「オデノ……モノニ……シタイ」

 

 お前も恋すんの!? 

 しかもストーカー気質!? 

 

「ええい、何をやっているデビル! 早くエレクシアを始末しろ!」

 

「オマエ……ウルサイ──!」

 

 その瞬間、怪物がモブ男殿を薙ぎ払う。

 体が凄まじい勢いで柱に衝突し、柱ごと砕け散る。

 

 元婚約者殿()った──!! 

 すまぬ、合掌。

 

 と思っていたら、天井が完全に崩れ落ち瓦礫が私に迫って来る。

 あ、これ我も死ぬやつだ。

 

 次の瞬間。

 視界が浮いた。

 

 いと細く白い腕。

 いと柔らかな胸板。

 

 私は──推し様に抱き上げられていた。

 近い。いと近すぎるでござるよ。

 ウホホホホ。

 

「動くな」

 

 低く静かな声。

 背後で瓦礫が砕け散る。

 姫様は片腕で我を抱え、 もう片腕で落下物を弾き飛ばしている。

 すごひ……

 

 

 続く。

 

 

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