【全話挿絵】婚約破棄された悪役令嬢、実は元覇王でした ~小僧、婚約を破棄し国外追放するだと? 作:よっちゃ
どれ、
……すんすん。
ウホッ、よきかほり。
甘し。されど作り物にあらず。
花の蜜のやうに、やはらかく、
陽にあたためられし、
ほのかにぬくもりを
かさねて、すう、と息を吸ひ
あな、いみじ。
かぐはしきかな。
胸の奥まで満ちわたり、
魂すら浄めらるる
──現代語訳 (キモオタ)──
(ちょ、ちょっと待ってくださいね……
その香り、少しだけ拝借してもよろしいでしょうか……?
……すんすん。
ッッッッッハ!!!!!!
や、やば……なにこれ……良い匂いすぎでは……?
甘い……だがしかし人工甘味料系ではない……
これは天然……天然由来……本物……!!
花の蜜……? いや違う……
陽だまりで温められた百合の花弁……それだ……それそれ……!
ほのかに体温を帯びている……!?
え、なにこれ……生命の香り……?
もう一回……もう一回だけ……すうぅぅぅ……
あ、無理。
いみじ。いみじすぎる。
尊い……いや、かぐわしき……語彙が足りない……
肺を通過して魂に直接入ってきたんですが????
これ浄化では???
今わたくし透明になってません???)
────────────
──かをり立つ
──いみじかな
──現代語訳 (大阪のおばちゃん)──
(あんたな、そんな近づいたらあかんて。
……すんすん。
ちょっ、ええ匂いしすぎやろ!
これ市販ちゃうやろ!? 天然やろ!?
百合や、百合! ごっつい百合やって!
しかも日向ぼっこした百合や!
あかんわ、これ。おばちゃん、あかん。
魂まで洗われるやつやん。
ほんま罪作りやで、あんた。ポっ……)
────────────────
推し様が静かに私を降ろす。
「下がれ」
え、やだやだ。もっと抱っこ。
でも命ぜらるるも、心地よく
「哀れな怪物よ──
一撃で送ってやろう」
空気が沈んだ。
背後の空間がゆっくりと裂ける。
「
厨二病のよふなその
推し様の背後の空間がぐにゃりと歪んだ。
え、なに。なにが出づるのでござる……。
次の瞬間──見え申したぞ!
巨大なる……たぶん女神様にて
全高数十メートルはあり申す。
その瞳は冷たく底知れず。
見上ぐるだけで息詰まり
立つのみなるに、
地が、みしと鳴り申した。
推し様が静かに拳を握り
巨大なる女神様もまた、同じく握り
「滅びを
我は反射的に目を見開いた。
拳が振り下ろされる。
ただそれだけなのに轟音があとから追いついてきた。
鋼鉄の光が消え、
灰色の巨体がまるごと光に呑み込まれる。
叫び声は最後まで届かなかった。
「……」
気づけば巨大な女神様の姿は消えていて、
そこに立っていたのは、
ただ推し様の背中だけだった。
……かっこよすぎる。
あまりの
そして。
推し様が振り返り給ふ。
「……あの男はどうする?」
我を婚約破棄せしモブ男君、いまだ生存にて候。
なかなかにしぶときこと、いとをかし(笑)
我は
「あの男のことは、本当にどうでもよいのです」
まこと、男など微塵も興味なきものにて候。
我が推しはただ一人にて候。
推し様、小さくいと静かに息をつき給ふ。
そして。
そっと、我が頭に
──撫でられ申した。
……ウホッ、いと撫でられ申した。
いや待て我。ここで声に出すでない。
指先、いとやはらかに髪を
あな、いといみじ。
理性、いとあやうく溶け
「お前は強い
低く、いとやわらかき
……無理にて
我、今日ほど徳をいと回収せし日はあるまじ。
いや待て我、死ぬるな。まだいと早い。
だが、意識いと遠のき申す。
そのとき──
ほんの一瞬。
推し様の唇、いとやはらかく弧を描き
……笑ひ
我に?
無理にて
死ぬる。これはいと尊き
意識、いとかすみゆく。
ああ……いと……うれし……
──薄れゆく意識の中
つひに
────────────────―
──現代語訳 (ギャル)──
(見上げたらもうダメムリ神。
尊くて普通に死ねる的な?
推しってさ、存在がご利益じゃん?
髪の香り、上品すぎない? 無理なんだけど。
好きすぎ? めっちゃおかわ。
思い出しただけで胸がぎゅってなるし震えるし?
あーもう。
ここで一回逝きます、からの~。
それじゃ、また来世で)
────────────────―
覇阿メルン書房刊『超弩級打撃学概論』より
──覇天神装終末顕現(はてんしんそう・しゅうまつけんげん)
古来より伝わる顕現型神格投影術の最終奥義。
術者の背後に神格存在を具現化させ、
その動作を完全同期させることで、
“神の質量”そのものを打撃として叩きつける秘技である。
一般に神の力とは光線・裁き・呪詛などの霊的攻撃を指すが、
本技の本質はそれらとは一線を画す。
巨大質量による純然たる物理衝撃。
拳を振るうのみで大気は裂け、
衝撃波は地鳴りとともに遅れて到達するという。
その威力は城郭一つを更地に変えるとも、
山を削るとも記されている。
すなわち──
女神を顕現させて、物理で殴る。
これ以上の説明は不要であろう。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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