【全話挿絵】婚約破棄された悪役令嬢、実は元覇王でした ~小僧、婚約を破棄し国外追放するだと?   作:よっちゃ

14 / 26
第14話 今こそ倒れめ、いざさらば

 

 どれ、かほり(香り)をば少々(たま)はらん。

 

 ……すんすん。

 ウホッ、よきかほり。

 甘し。されど作り物にあらず。

 

 花の蜜のやうに、やはらかく、

 陽にあたためられし、百合(ゆり)花弁(かべん)のごとく、

 ほのかにぬくもりを()びたる、かぐはしきかほり。

 

 かさねて、すう、と息を吸ひ(たてまつ)る。

 あな、いみじ。

 かぐはしきかな。

 胸の奥まで満ちわたり、

 魂すら浄めらるる心地(ここち)す。

 

 ──現代語訳 (キモオタ)──

(ちょ、ちょっと待ってくださいね……

 その香り、少しだけ拝借してもよろしいでしょうか……? 

 ……すんすん。

 ッッッッッハ!!!!!! 

 や、やば……なにこれ……良い匂いすぎでは……? 

 甘い……だがしかし人工甘味料系ではない……

 これは天然……天然由来……本物……!! 

 花の蜜……? いや違う……

 陽だまりで温められた百合の花弁……それだ……それそれ……! 

 ほのかに体温を帯びている……!? 

 え、なにこれ……生命の香り……? 

 もう一回……もう一回だけ……すうぅぅぅ……

 あ、無理。

 いみじ。いみじすぎる。

 尊い……いや、かぐわしき……語彙が足りない……

 肺を通過して魂に直接入ってきたんですが???? 

 これ浄化では??? 

 今わたくし透明になってません???)

 

 ────────────

 

 

 ──かをり立つ

 

 (ちか)御胸(おむね)の──

 

 ──いみじかな

 

 

 ──現代語訳 (大阪のおばちゃん)──

(あんたな、そんな近づいたらあかんて。

 ……すんすん。

 ちょっ、ええ匂いしすぎやろ! 

 これ市販ちゃうやろ!? 天然やろ!? 

 百合や、百合! ごっつい百合やって! 

 しかも日向ぼっこした百合や! 

 あかんわ、これ。おばちゃん、あかん。

 魂まで洗われるやつやん。

 ほんま罪作りやで、あんた。ポっ……)

 

 ────────────────

 

 推し様が静かに私を降ろす。

 

「下がれ」

 

 え、やだやだ。もっと抱っこ。

 でも命ぜらるるも、心地よく(さふらふ)

 

「哀れな怪物よ──

 一撃で送ってやろう」

 

 空気が沈んだ。

 背後の空間がゆっくりと裂ける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

覇天(はてん)神装(しんそう)終末(しゅうまつ)顕現(けんげん)

 

 厨二病のよふなその(ことば)が落ちた瞬間。

 推し様の背後の空間がぐにゃりと歪んだ。

 

 え、なに。なにが出づるのでござる……。

 

 次の瞬間──見え申したぞ! 

 巨大なる……たぶん女神様にて(さうらう)

 全高数十メートルはあり申す。

 (まばゆ)き白銀の長髪が長髪が天を(おお)ふがごとく揺れ、

 その瞳は冷たく底知れず。

 見上ぐるだけで息詰まり(さうらう)

 立つのみなるに、

 地が、みしと鳴り申した。

 推し様が静かに拳を握り(たま)へば、

 巨大なる女神様もまた、同じく握り(たま)ふ。

 

「滅びを(はい)せ」

 

 我は反射的に目を見開いた。

 

 拳が振り下ろされる。

 ただそれだけなのに轟音があとから追いついてきた。

 

 鋼鉄の光が消え、

 灰色の巨体がまるごと光に呑み込まれる。

 叫び声は最後まで届かなかった。

 

「……」

 

 気づけば巨大な女神様の姿は消えていて、

 そこに立っていたのは、

 ただ推し様の背中だけだった。

 

 ……かっこよすぎる。

 あまりの(たっと)さに、()に戻ってしまったわ。

 

 そして。

 推し様が振り返り給ふ。

 

「……あの男はどうする?」

 

 我を婚約破棄せしモブ男君、いまだ生存にて候。

 なかなかにしぶときこと、いとをかし(笑)

 

 我は一瞥(いちべつ)のみくれて、肩をすくめ申した。

「あの男のことは、本当にどうでもよいのです」

 

 まこと、男など微塵も興味なきものにて候。

 我が推しはただ一人にて候。

 

 推し様、小さくいと静かに息をつき給ふ。

 そして。

 

 そっと、我が頭に御手(みて)を置き(たま)ひぬ。

 

 

 ──撫でられ申した。

 ……ウホッ、いと撫でられ申した。

 

 いや待て我。ここで声に出すでない。

 指先、いとやはらかに髪を()(たま)ふ。

 あな、いといみじ。

 理性、いとあやうく溶け(さうらう)

 

 

「お前は強い(おんな)だな」

 

 

 低く、いとやわらかき御声(みこゑ)

 

 ……無理にて(さうらう)

 我、今日ほど徳をいと回収せし日はあるまじ。

 いや待て我、死ぬるな。まだいと早い。

 だが、意識いと遠のき申す。

 

 そのとき──

 ほんの一瞬。

 推し様の唇、いとやはらかく弧を描き(たま)ふ。

 

 ……笑ひ(たま)ひしや? 

 我に? 

 無理にて(さうらう)

 死ぬる。これはいと尊き尊死(そんし)にて(さうらう)

 意識、いとかすみゆく。

 ああ……いと……うれし……

 

 

 ──薄れゆく意識の中

 尊死(そんし)極致(きょくち)に達せしマーガレットの魂は、

 つひに詠ひ出づ(よみいづ)──

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 (あお)げば 尊死(とうとし)

 

 ()()しの (おん)

 

 御髪(みぐし)のかほり いと気高(けだか)し。

 

 (おも)へば(とうと)(むね)うち(ふる)へば。

 

 (いま)こそ(たお)れめ いざさらば。

 

 

 ────────────────―

 

 ──現代語訳 (ギャル)──

(見上げたらもうダメムリ神。

 尊くて普通に死ねる的な? 

 推しってさ、存在がご利益じゃん? 

 髪の香り、上品すぎない? 無理なんだけど。

 好きすぎ? めっちゃおかわ。

 思い出しただけで胸がぎゅってなるし震えるし? 

 あーもう。

 ここで一回逝きます、からの~。

 それじゃ、また来世で)

 

 

 ────────────────―

 

 覇阿メルン書房刊『超弩級打撃学概論』より

 

 ──覇天神装終末顕現(はてんしんそう・しゅうまつけんげん)

 古来より伝わる顕現型神格投影術の最終奥義。

 術者の背後に神格存在を具現化させ、

 その動作を完全同期させることで、

 “神の質量”そのものを打撃として叩きつける秘技である。

 

 一般に神の力とは光線・裁き・呪詛などの霊的攻撃を指すが、

 本技の本質はそれらとは一線を画す。

 巨大質量による純然たる物理衝撃。

 拳を振るうのみで大気は裂け、

 衝撃波は地鳴りとともに遅れて到達するという。

 

 その威力は城郭一つを更地に変えるとも、

 山を削るとも記されている。

 

 すなわち──

 女神を顕現させて、物理で殴る。

 これ以上の説明は不要であろう。

 

 

 




 ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
『お気に入り登録』や『評価』で応援していただけたら喜びます^^
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。