【全話挿絵】婚約破棄された悪役令嬢、実は元覇王でした ~小僧、婚約を破棄し国外追放するだと? 作:よっちゃ
続き。
「ブス・グロリア! 醜い貴様との婚約を──
今この場で破棄する!」
王城大広間に、王太子の高笑いが響き渡った。
「そうよそうよー! あんたみたいな
視界に入るだけで気分悪いわ!」
令嬢が扇で口元を隠し、くすくすと嗤う。
ざわめき、
グロリアはうつむいた。
ぽたり、と涙が大理石の床に落ちる。
会場は誰一人として彼女を庇わない。
「……はい。私は
満足げに頷く王太子。
「ようやく自覚したか。
安心しろ、代わりにこの美しいマリアンヌを妃に迎える」
隣のマリアンヌが誇らしげに胸を張る。
そのとき。
──轟音。
大扉が内側へ弾け飛んだ。
砂煙の中から、日輪のように輝く
「ブス・グロリア」
低く、甘く、しかし王の威圧を宿した声。
隣国の若き皇帝にして覇王──エレクシアン。
月光を宿す銀髪。 星を砕いたかのごときルビーの瞳。
見る者すべてを黙らせる、圧倒的な美。
会場が静止する。
「な、なぜ
王太子の声が裏返る。
エレクシアンは歩み寄り、膝をついた。
そして──
グロリアの手を取る。
「やっと見つけた。私の愛しい人よ」
「ブス・グロリア。私と結婚してくれ」
「なにぃぃぃ!?」
王太子の顔が
「私は……見ての通り
あなたに釣り合うわけがございません」
覇帝エレクシアンは微笑んだ。
「外見など関係ない」
その瞳が、じっとブス・グロリアを見つめ揺るがない。
「我は、そなたの愛が欲しい」
──瞬間。
天井から光が降り注ぐ。
ブス・グロリアの身体を
ぱきり、と砕け散った。
光が収まり、そこに立っていたのは──
女神すら
まさしく聖女。
年老いた宰相が叫ぶ。
「おお! まさしく三百年に一度現れる聖女様」
会場が震える。
「う、嘘だ……」
先ほどまで笑っていた貴族たちが、次々と膝をつく。
マリアンヌは顔を引きつらせる。
「私は呪われていました」
聖女は静かに告げる。
「醜い姿に変えられる呪い。
それを解く唯一の方法は──
醜い私を愛してくれる、 真実の愛」
覇帝エレクシアンが聖女を抱きかかえる。
お姫様抱っこ。
「さあ聖女グロリア。我と共に行こう」
王太子は腰を抜かした。
「ま、待て……それは俺の婚約者だぞ!」
「違いますわ」
グロリアは初めて微笑む。
「あなたが先程捨てたでしょ」
言葉が、刃のように刺さる。
マリアンヌが急に覇帝エレクシアンへすり寄る。
「あ、あの……エレクシアン陛下。わたくしも──」
「貴様のような女に興味はない。我が愛する人は聖女グロリアのみ」
冷酷なまでの一刀両断に、会場に忍び笑いが広がる。
「王家は聖女を捨てたのか」
「なんという愚かさだ」
「この国は終わりだ」
「覇天帝国の属国に下ろう」
囁きが刃となる。
王太子の顔は真っ青。
「やめろ……やめろぉ……!」
「行こうか、愛しきブス皇后よ」
ブス聖女は頬を赤らめ、彼の首に腕を回した。
「ふふ……では陛下」
「どうかこの
「我は、前のそなたの顔も愛していたぞ」
「もう……陛下のいじわる」
グロリアはぷくっと頬を膨らませる。
「では今の私は?」
「どちらも我の愛するグロリアだ」
「……そんなこと言われたら、離れられません」
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
王太子の絶叫が響く。
「ま、待て! それは私の──!」
二人は光に包まれ、消えた。
残されたのは、
膝をつきすべてを失った王太子と、
取り巻きすら離れていく新婚約者マリアンヌの姿。
遠くで祝福の鐘が鳴った。
──終劇。
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「ふう、今回は王太子殿は御存命でござるし、
女子の好む甘味の如きTheざまぁでござるな」
マーガレットが額の汗を拭う。
「婚約破棄する者など砕け散ればいいと思うんだがな」
エレクシアが不満げに言う。
「しかし、それぞれの話に良いところがある」
「すべてまとめた話も、面白そうだな」
時計を見たセラフィーナが静かに言った。
「エレクシア様」
「夜も更けてまいりました。そろそろお休みの時間です」
エレクシアがふと窓を見る。
「……もうそんな時間か」
軽く肩をすくめた。
「続きはまた明日だな。今日は良い勉強になった」
マーガレットが伸びをする。
「では拙者も寝るとするでござる!」
醜姫ブス・グロリアが笑う。
「次はマーガレットの話も期待している」
エレクシアが立ち上がる。
「うむ。楽しみにしているぞ」
「……おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
「おやすみなされ」
そして四人はそれぞれ部屋へ戻っていき、物騒な女子会はお開きとなった。
──翌日、新たに哀れな
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電覇書房刊『実在した! 世界滅殺拳法列伝 外伝』より
──日輪滅股殺蹴(にちりんめっこさっしゅう)──
日輪覇滅掌の流れを汲むとされる、失伝した異端の奥義。
その起源は南方光覇宗の修行僧の一派にある。
彼らは日輪覇滅掌の修練において、
掌では耐えきれぬ太陽の闘気が存在することを知った。
そこで彼らが目をつけたのが──
人体で最も強靭な部位、脚である。
伝承によれば、ある高位修行僧が
「掌で受ければ骨が砕けるならば、脚で放てばよいではないか」
と喝破し、日輪の闘気を脚へと巡らせる秘法を編み出した。
こうして誕生したのが、
日輪の灼熱を一点に叩き込む禁断の蹴撃
──日輪滅股殺蹴である。
この技は、敵の下腹部(男にとっては急所)に日輪の闘気を集中させることで
全身の経絡を瞬時に焼き尽くすとされる。
古記録には次のように記されている。
「日輪覇滅掌が太陽そのものならば、
滅股殺蹴は太陽を一点に落とす流星である」
しかし威力があまりにも凄まじかったため、
修行僧たちはこの技を
「武人の誇りを砕く禁脚」
として封印したという。
なお、この技を完全に使いこなせた者は
史書によれば
「三名のみ」
とされている。
③へ続く。