【全話挿絵】婚約破棄された悪役令嬢、実は元覇王でした ~小僧、婚約を破棄し国外追放するだと?   作:よっちゃ

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第2話 我が学園生活に一片の悔いなし!

 続き

 

 

 床に転がる無胤(むいん)騎士(かばね)(うめ)きが、ようやく静まった頃。

 

 王太子は顔面を引きつらせ、喉を鳴らしながら一歩後ずさった。

 

「……エ、エレクシア──きさま、いったい……」

 

 エレクシアの視線が氷のように鋭く突き刺さる。

 まるで道端に転がる犬の(ふん)を見るかのような冷たい瞳。

 

「──毛も生えぬ青二才(あおにさい)(ひよこ)よ」

 

 低く、しかしよく通る声。

 

「婚約は、先ほどうぬが一方的に破棄したはずだ」

「エルドレイン公爵令嬢と、お呼びいただけますかしら? ……この阿呆」

 

 ふわりと、花が綻ぶように微笑む。

 

 

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 こんな笑顔を王太子は一度も見たことがない。

 一瞬心を奪われかけ、

 それは屈辱へと変わった。

 王太子が、顔を真っ赤にして口を開く。

 

「……エレクシア、こんな事をして、ただで済む──」

 

 ── パァンッ!!  

 

「ぶふぇええ」

 

 

 乾いた音と無様な声が大講堂に響き渡った。

 白く美しい手のひらが王太子の頬を正確に打ち抜いたのだ。

 

 勢いよくよろめいた拍子に彼の懐から、

 

 ── ひらり。

 

 レース付きの女性物の下着が床に舞い落ちた。

 

 一瞬の静寂。

 次いで会場中の視線がその一点に吸い寄せられる。

 

 エレクシアはそれを見下ろし、誰もが見惚れるような妖精のような笑顔で小首をかしげた。

 

「うぬは……まだ、おなごの肌着に執着しておったか。

 メイドの、香りの残る腰布(ぱんてぃー)など集めおって」

「ふむ……確かめねばならぬ」

 

 

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「スキル──秘戯(ひぎ)暴映(ぼうえい)

 

 虚空に巨大な幻影のスクリーンが浮かび上がった。

 

「な、何だこれは──!?」

 

 映し出されたのは、

 

 ──女性の下着の数々。

 ショーツ、レース、フリル。

 それらを並べて眺め、匂いを嗅ぎ、(よだれ)を垂らして

 恍惚(こうこつ)とする王太子の秘め事。

 

 広間が、凍りついた。

 

「……この助平(すけべえ)が、俺様(わたくし)はそれとなく、止めるように注意したはずだが?」

 

 エレクシアは腕を組み、汚物を見るような目で告げた。

 

「や、やめろおおおお!!」

 

 王太子は床に崩れ落ち、みっともなくのたうち回る。

 

「えええ、ハロルド様、そんな趣味が……け、汚らわしい」

 

 男爵令嬢リリアーナが、引き気味に(つぶや)いた。

 

「ほう? 小娘よ、この矮小(わいしょう)下衆(げす)が汚らわしいだと? 

 では……次は貴様の番だ」

 

 エレクシアの視線が男爵令嬢リリアーナへ移る。

 

「貴様は“純潔”を誇っておるようだが……」

 

 幻影が切り替わる。

 夜の街、仮面、甘い言葉。

 そして怪しげな館の一室。

 複数の男と、尻を出し、振り乱しながら

 快楽にふけるリリアーナの姿があった。

 

「純潔は守っているようだが、その貴様の不浄の穴は、

 欲望に(まみ)れているようだな」

 

「ち、違う! これは、違──!

 て、てめえ! ち、ちくしょう、やめろお!」

「キィィエエエ!!」

 

「笑わせるな! 阿婆擦(あばず)れが」

 

 エレクシアは襲いかかってきたリリアーナの、無駄に豊満な片乳(かたちち)を手で鷲掴(わしづか)みにすると、そのまま腕で抱え、尻を露出させる。

 

バシーン!  

 

「この愚か者め!」

「ぎゃああああ」

 

バシーン!! 

 

「おなごが自分を安売りしおって!」

「ひぎいいい」

 

 エレクシアは、氷細工のようなその手で、

 リリアーナの尻を容赦なく何度も打ち据えた。

 

 

「フム、しかし手段は()(かく)、天を掴み喰らわんと、なりふり構わず(むさぼ)り尽くすその姿は、このエレクシアも感じ入ったぞ」

「フフフ、男爵令嬢リリアーナ、なかなかの剛の者よ」

 

 王太子はリリアーナの裏切りを目の当たりにし、

 頭を抱えてブツブツと(うめ)いている。

 

「まったく、情けない凡愚(ぼんぐ)だ。

 おなごは元来自由な生き物。

 (おとこ)が真に愛した女なら、

 誰を愛そうが、

 どんなに汚れていようが、

 最後に己の横におれば良いのだ

雌狐(めぎつね)リリアーナよ、強欲な貴様が気に入ったぞ。

 この変態(ごみくず)など捨てて俺様と共に来い」

 

 エレクシアはそう言うと、すべてに背を向けた。

 

 そして、

 ── 卒業会場の出口、その前で立ち止まる。

 

 ゆっくりと振り返り、真に高潔なる淑女(しゅくじょ)のみが成し得る、一点の乱れもない完璧なカーテシーを(ささ)げる。

 

 

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「我が三年間の学園生活に、

 一片の悔いなし。

 我が覇道、付いて来たくば来るが良い。

 では者共──ご機嫌よう」

 

 

 赤いドレスの裾が(ひるがえ)る。

 覇姫(はき)は振り返らない。

 その背を、誰も止められなかった。

 

 

 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 ☆ 覇阿メルン書房刊『古代宴席武装史概論』より

 

 ──陰嚢粉砕脚(いんのう・ふんさいきゃく)

 覇姫(はき)流体術・秘奥義。

 人の肉体には、鍛錬によって鋼と化す部位と、いかなる達人であろうとも守り切れぬ“死角”が存在する。

 陰嚢粉砕脚とは、相手の重心移動、呼吸、踏み込みの刹那を見極め、下半身の急所にのみ存在する一瞬の空白へ、

 必殺の一撃を放つ技である。

 

 ・脚に闘気を(まと)

 ・舞踏の一歩の如く踏み出し

 ・敵が“女が相手だ”と油断した瞬間に放たれる。

 

 ゆえに、防御不能。

 記録によれば、これを受けなお立ち上がった者はいない。

 

 その恐るべき破壊力は、時の皇帝の勅命(ちょくめい)により、男同士の戦いでは禁じられ、肉体的に不利とされた女のみが行使を許された──対男専用の必殺の一撃である。

 

 そして余談だが、エレクシアが履く尖踵(ハイヒール)

 後世においては「装飾靴」「社交用履物」として知られるそれは、本来、靴ですらなかった。

 

 一説に、糞尿(ふんにょう)を避けるために(かかと)を高くした、

 などと語られるが、

 それは平和な時代に生まれた、あまりにも浅薄(せんぱく)な俗説である。

 

 あるいは──

 それ自体が“牙を隠すための偽装史観”であった可能性も、否定できまい。

 

 真の起源は、古代において用いられた、

 対男専用の戦装束(いくさしょうぞく)

 男の重装甲が最も脆弱となる“股間(こかん)装甲の死角”。

 

 そこへ正確無比に打ち込むため、踵は刃の如く削がれ、体重、踏み込み、回旋力のすべてを一点に集束させる構造となった。

 特に、宮廷・宴席・舞踏会といった「武装を解いた男が油断する場」において、その威力は絶大であったという。

 

 ──そして。

 なぜ現代においても、女性が“勝負服”としてハイヒールを選ぶのか。

 それは単なる流行でも、美脚効果でもない。

 言うまでもなく、遠い古代、男を屈服させた戦士の記憶が、血の奥底で微かに呼応するからである。

 

 事実、多少なりとも武の心得を持つ男ほど、

 無意識に“間合い”を測る傾向がある。

 鋭く削られた踵、硬質な足音、床を打つ乾いた衝撃音。

 

 それらは本能の深層に眠る警鐘を鳴らす。

 遺伝子に刻まれた敗北の記憶が、説明のつかぬ緊張として現れるのだ。

 ゆえに、達人ほど、女性のハイヒールの音にわずかに身構える。

 

 なお、“ハイヒール”の語源については諸説あるが、

 そのひとつに、

 古代女帝“Horai Hīria”(ホライ・ヒーリア)の名に由来する、

 という説がある。

 彼女は対男戦術の完成者と称され、

 その専用戦装束“尖踵(せんしょう)”をもって数多の勇将を屈服させたと伝えられる。

 

 

 

 ──秘戯暴映(ひぎ・ぼうえい)

 覇姫のみが扱う禁断の秘術。

 相手の深層意識へ強制的に侵入し、

 誰にも知られたくなかった“秘め事の記憶”を抽出。

 それを幻像として、衆目の前に投影する。

 

 記憶そのものを素材とする以上、偽る余地は存在しない。

 故に 防ぐ術はない。

 

 

 




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