【全話挿絵】婚約破棄された悪役令嬢、実は元覇王でした ~小僧、婚約を破棄し国外追放するだと? 作:よっちゃ
続き
床に転がる
王太子は顔面を引きつらせ、喉を鳴らしながら一歩後ずさった。
「……エ、エレクシア──きさま、いったい……」
エレクシアの視線が氷のように鋭く突き刺さる。
まるで道端に転がる犬の
「──毛も生えぬ
低く、しかしよく通る声。
「婚約は、先ほどうぬが一方的に破棄したはずだ」
「エルドレイン公爵令嬢と、お呼びいただけますかしら? ……この阿呆」
ふわりと、花が綻ぶように微笑む。
こんな笑顔を王太子は一度も見たことがない。
一瞬心を奪われかけ、
それは屈辱へと変わった。
王太子が、顔を真っ赤にして口を開く。
「……エレクシア、こんな事をして、ただで済む──」
── パァンッ!!
「ぶふぇええ」
乾いた音と無様な声が大講堂に響き渡った。
白く美しい手のひらが王太子の頬を正確に打ち抜いたのだ。
勢いよくよろめいた拍子に彼の懐から、
── ひらり。
レース付きの女性物の下着が床に舞い落ちた。
一瞬の静寂。
次いで会場中の視線がその一点に吸い寄せられる。
エレクシアはそれを見下ろし、誰もが見惚れるような妖精のような笑顔で小首をかしげた。
「うぬは……まだ、おなごの肌着に執着しておったか。
メイドの、香りの残る
「ふむ……確かめねばならぬ」
「スキル──
虚空に巨大な幻影のスクリーンが浮かび上がった。
「な、何だこれは──!?」
映し出されたのは、
──女性の下着の数々。
ショーツ、レース、フリル。
それらを並べて眺め、匂いを嗅ぎ、
広間が、凍りついた。
「……この
エレクシアは腕を組み、汚物を見るような目で告げた。
「や、やめろおおおお!!」
王太子は床に崩れ落ち、みっともなくのたうち回る。
「えええ、ハロルド様、そんな趣味が……け、汚らわしい」
男爵令嬢リリアーナが、引き気味に
「ほう? 小娘よ、この
では……次は貴様の番だ」
エレクシアの視線が男爵令嬢リリアーナへ移る。
「貴様は“純潔”を誇っておるようだが……」
幻影が切り替わる。
夜の街、仮面、甘い言葉。
そして怪しげな館の一室。
複数の男と、尻を出し、振り乱しながら
快楽にふけるリリアーナの姿があった。
「純潔は守っているようだが、その貴様の不浄の穴は、
欲望に
「ち、違う! これは、違──!
て、てめえ! ち、ちくしょう、やめろお!」
「キィィエエエ!!」
「笑わせるな!
エレクシアは襲いかかってきたリリアーナの、無駄に豊満な
バシーン!
「この愚か者め!」
「ぎゃああああ」
バシーン!!
「おなごが自分を安売りしおって!」
「ひぎいいい」
エレクシアは、氷細工のようなその手で、
リリアーナの尻を容赦なく何度も打ち据えた。
「フム、しかし手段は
「フフフ、男爵令嬢リリアーナ、なかなかの剛の者よ」
王太子はリリアーナの裏切りを目の当たりにし、
頭を抱えてブツブツと
「まったく、情けない
おなごは元来自由な生き物。
誰を愛そうが、
どんなに汚れていようが、
最後に己の横におれば良いのだ」
「
この
エレクシアはそう言うと、すべてに背を向けた。
そして、
── 卒業会場の出口、その前で立ち止まる。
ゆっくりと振り返り、真に高潔なる
「我が三年間の学園生活に、
一片の悔いなし。
我が覇道、付いて来たくば来るが良い。
では者共──ご機嫌よう」
赤いドレスの裾が
その背を、誰も止められなかった。
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☆ 覇阿メルン書房刊『古代宴席武装史概論』より
──陰嚢粉砕脚(いんのう・ふんさいきゃく)
人の肉体には、鍛錬によって鋼と化す部位と、いかなる達人であろうとも守り切れぬ“死角”が存在する。
陰嚢粉砕脚とは、相手の重心移動、呼吸、踏み込みの刹那を見極め、下半身の急所にのみ存在する一瞬の空白へ、
必殺の一撃を放つ技である。
・脚に闘気を
・舞踏の一歩の如く踏み出し
・敵が“女が相手だ”と油断した瞬間に放たれる。
ゆえに、防御不能。
記録によれば、これを受けなお立ち上がった者はいない。
その恐るべき破壊力は、時の皇帝の
そして余談だが、エレクシアが履く
後世においては「装飾靴」「社交用履物」として知られるそれは、本来、靴ですらなかった。
一説に、
などと語られるが、
それは平和な時代に生まれた、あまりにも
あるいは──
それ自体が“牙を隠すための偽装史観”であった可能性も、否定できまい。
真の起源は、古代において用いられた、
対男専用の
男の重装甲が最も脆弱となる“
そこへ正確無比に打ち込むため、踵は刃の如く削がれ、体重、踏み込み、回旋力のすべてを一点に集束させる構造となった。
特に、宮廷・宴席・舞踏会といった「武装を解いた男が油断する場」において、その威力は絶大であったという。
──そして。
なぜ現代においても、女性が“勝負服”としてハイヒールを選ぶのか。
それは単なる流行でも、美脚効果でもない。
言うまでもなく、遠い古代、男を屈服させた戦士の記憶が、血の奥底で微かに呼応するからである。
事実、多少なりとも武の心得を持つ男ほど、
無意識に“間合い”を測る傾向がある。
鋭く削られた踵、硬質な足音、床を打つ乾いた衝撃音。
それらは本能の深層に眠る警鐘を鳴らす。
遺伝子に刻まれた敗北の記憶が、説明のつかぬ緊張として現れるのだ。
ゆえに、達人ほど、女性のハイヒールの音にわずかに身構える。
なお、“ハイヒール”の語源については諸説あるが、
そのひとつに、
古代女帝“Horai Hīria”(ホライ・ヒーリア)の名に由来する、
という説がある。
彼女は対男戦術の完成者と称され、
その専用戦装束“
──秘戯暴映(ひぎ・ぼうえい)
覇姫のみが扱う禁断の秘術。
相手の深層意識へ強制的に侵入し、
誰にも知られたくなかった“秘め事の記憶”を抽出。
それを幻像として、衆目の前に投影する。
記憶そのものを素材とする以上、偽る余地は存在しない。
故に 防ぐ術はない。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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