【全話挿絵】婚約破棄された悪役令嬢、実は元覇王でした ~小僧、婚約を破棄し国外追放するだと?   作:よっちゃ

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第25話 女愚連隊系女子キャサリン①

 豪奢な部屋の中──

 一人の男が、グラスを傾けながら笑っていた。

 隣には派手なドレスを着た、新たな婚約者となる女。

 

「今日であの陰気な眼鏡女、キャサリンとも終わりだ。ガツンと婚約破棄してやろう」

「やっと、やっとですわね、クズーオ様♡」

 

 女はくすくすと笑いながら、扇子で口元を隠す。

 

「いつも下を向いてボソボソ喋るだけ……あんな女が婚約者だなんて、クズーオ様が可哀想だったわ」

「ああ。何を言っても『……はい……』ばっかりだ。

 感情もなければ色気もねえ、まるで眼鏡人形だ」

「あの古臭いデザインの眼鏡……ふふっ、地味女にも程がありますわ」

「まあいいさ。今日は俺がガツンと婚約破棄を“下してやる”

 泣いて縋ってきたところで、少しは楽しませてもらってから、最後に切り捨ててやるさ」

「きっと床に這いつくばって謝りますわよ? 『捨てないでください』って♡」

 

 クズーオは時計をちらりと見た。

 

「……それにしても遅いな」

「クズーオ様が呼び出してあげたのに遅刻だなんて、本当に鈍くさい女ですわね」

「まあいい。どうせオドオドしながら来る──」

 

 その時だった。

 ──ドォン!! 

 扉が、内側から蹴り破られた。

 木片が吹き飛び、部屋に突風が吹き込む。

 

「……遅くなったな、茶坊主(ちゃぼうず)

 

 低く、ドスの利いた声。

 そこに立っていたのは──

 キャサリンだった。

 

 

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 だが、その姿は明らかに異様だった。

 ドレスは着ているが、上半身は大胆に開けられ、胸には晒し(サラシ)が巻かれている。

 裾は裂け、筋肉ムキムキの脚が露出。

 髪は逆立つように固められ、まるで獣の(たてがみ)のように跳ねている(リーゼント)。

 その眼光は、もはや貴族令嬢のそれではない──“覇を往く強者(つわもの)”の目だった。

 

 クズーオが目を見開いた。

 

「え……えええ? 

 きゃ、きゃ、キャサリン……さん?」

 

 キャサリンはゆっくりと首を鳴らす。

 ゴキッ。

 そして──鋭い眼光で睨みつけた。

 

「おい茶坊主よ、なぜアタイを呼び出した。返答次第じゃてめえ、今日ここで死ぬぜ?」

 

 キャサリンが一歩を踏み出すと、空気が震えた。

 

「ちゃ、ちゃぼうず? あ、あの……本当に、きゃ、キャサリンさん、でお間違いないでしょうか? あの、いつもの、め、眼鏡は、どうしたんでしょうか?」

 

 キャサリンがテーブルを叩き壊す。

 

「おいコラァ茶坊主! さっきからてめえ何抜かしていやがる! 浮気ばっかりしくさりやがって婚約者の顔も忘れたのか!? で、その女はまた新しい女か? いい加減にしねえと、てめえがぶら下げてるその粗末な一物を叩き潰すぞコラ!」

「あと、眼鏡はやめた。目が悪かったんだけどよ、気合い入れたら見えるようになったぜ」

 

 クズーオは思わず後ずさった。

 

「うひいい、ち、違う、お前はあの陰気なキャサリンではない……!」

 

 キャサリンは大股を開いてソファに座ると、胸に巻いてある晒し(サラシ)をきつく締め直した。鍛え上げられた鋼鉄のような脚が露になる。

 

「昨日の夜、突然思い出したんだよ」

「“前世”ってやつだな」

 ギラリ、と目が光る。

 

「ぜ、前世、ですか?」

 

「アタイはよォ……生前、白百合愚連隊(レディース)(あたま)、張ってたんだよ」

「もちろん恋愛禁止の、ガチモンの愚連隊(レディース)よ」

 

 空気が、凍りついた。

 

 キャサリンは(あご)をしゃくった。

 

「……で、要件はなんだ茶坊主。オメエつまらねえ事だったらわかってんだろうな?」

 

 クズーオはビクリと肩を震わせる。

 

「い、いや、その……あの、わ、わたしたちの……ですね、こ、婚約を……ですね」

 

 隣の女にチラチラ視線を送りながら、しどろもどろに続ける。

 

「そ、その……婚約をですね、は、はき……いや、これからも、末永く、続けられたら、う、うれしいなーなんて……」

 

 隣の女が心底軽蔑したような目で男を睨みつける。

 

「ああ!? 婚約を破棄!? 

 てめえ、なるほどな。上等じゃねえか。その女と一緒になりたくて、アタイとの婚約を破棄しようって魂胆だろ?」

 

 キャサリンは一瞬だけ沈黙し──

 

 格好に似合わぬ笑顔で笑った。

 

「……小僧、いいぜ、その話乗ったぜ」

 

 あまりの呆気なさにクズーオは目を見開く。

 

「え……ええ?」

 

「どうせアタイはな、ぶっちゃけちまうと、強い女にしか興味がねえんだ。てめえみてえな気色の悪いフニャチンなんて、微塵も興味がねえ」

 

 キャサリンは肩を回しながら言う。

 

「ふ、ふにゃちん?」

 

「おうシャバ僧、話はわかった。

 一応てめえも男らしく、その可愛いオネーチャンの前で気合い見せてみろや。ほれ、怒らないからもう一度しっかり言ってみろ」

 

 クズーオ(ふにゃちん)が唾を飲み込み、意を決したように口を開いた。

 

「きゃ、キャサリンさん、あの、わ、わたくしとの婚約を……は、破棄、して、ください、ますか?」

 

 その時、

 ──ドカーンッ!! 

 扉が吹き飛び覇天軍が乗り込んでくる。

 

「婚約破棄あるところに覇天軍あり!」

 

 覇姫エレクシアが、そこに立っていた。

 その背後には、四天王と武装した淑女の軍勢。

 

 だが──

 今回はいつもと様子が違うので、少し困惑気味の覇天軍とエレクシア。

 

 キャサリンがゆっくりと振り向き、エレクシアの顔を見てニヤリと笑う。

 

「……へぇ」

 

 視線が、エレクシアの顔を、身体を、舐めるように上下する。

 

「とんでもねえべっぴんなスケバンじゃねえか、めっちゃアタイの好みだぜ。あんたたちが噂の覇天軍とかいう女愚連隊(レディース)か」

 

 キャサリンが一歩踏み出す。

 

「そんで、そこのえらいべっぴんさんが(ヘッド)だな? 

 いいタイミングだぜ、あんたに会ってみたかったんだ。まさかそっちから来てくれるなんてよ。この茶坊主も、ちったあ役に立つじゃねえか」

「なあ、エレクシアさんよ、アタイと()()()()張ってくれよ。もしアンタが買ったら、アタイはアンタのもんだ。そんでアタイが勝ったら……」

 

「アタイの女になれ」

 

 

 

 ②へ続く

 

 ──────────

 

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