【全話挿絵】婚約破棄された悪役令嬢、実は元覇王でした ~小僧、婚約を破棄し国外追放するだと?   作:よっちゃ

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第7話 天空の城での断罪劇(ざまぁ)~積み上げろ(淑女を)

 

 覇阿メルン書房刊『淑女戦陣概論』より

 

 ──万漢(ばんかん)(とう)

 万漢の塔とは、退かぬ、媚びぬの令嬢数百名が己の矜持(きょうじ)を積層し、

 垂直方向へ天を侵すために編み出された淑女戦陣術である。

 通常の人体では不可能とされる高度二百メートル級すら実現する。

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 ──覇天(はてん)

 覇姫(はき)エレクシアに率いられ、婚約破棄被害者のみで構成された、

 令嬢((おんな))の軍勢。婚約破棄の現場を荒らして回る。

 エレクシアに焦がれ、真の(おんな)を目指す乙女たち。

 

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 地上から三百メートル上空に浮かぶ天空城。

 その地を治める第ニ王子は、ことさら優雅にワイングラスを揺らしていた。

 

「──よって、貴様との婚約は破棄する」

 

 場内は静まり返る。

 名指しされた伯爵令嬢リシェルは、青ざめた。

 

「そ、そんな……り、理由を……お聞かせください」

 

 王子は小馬鹿にしたように鼻で笑う。

 

「貴様は陰気だ。笑わぬし、華がない。

 美しい余の隣に立つ資格はない」

 

 周囲の嘲笑。

 そしてさらに追い打ちがかかる。

 

「加えて、今後はこの余の新たな美しき婚約者、マリリンの侍女として仕えよ。

 働けぬと言うなら実家ごと処分もあり得るぞ」

 

 あまりに残酷な仕打ち。

 新しい婚約者マリリンがくすりと笑い、周囲も釣られて笑う。

 

 リシェルは膝から崩れ落ちた。

 

「……っ、どうして……」

 

 指先が震え、涙が床を濡らした。

 王子は愉悦に酔いしれ、満足げに頷く。

 

「ハハハハ、これでよい。

 近頃は覇天軍とかいうならず者共が、婚約破棄を荒らし回っているそうだな。

 まったく馬鹿馬鹿しい。婚約を破棄される女には、それ相応の欠陥があるものよ」

 

 絶望のどん底にいたリシェルの瞳に熱が宿る。

 

「は、覇天軍……? まさか、覇姫エレクシア様が……」

 

「なんだリシェルよ、貴様、覇天軍に期待しているのか? 

 陰気なだけでなく頭まで阿呆だったか! 

 見ろ! ここは三百メートル上空の絶対不落の天空城だ!

 地上の(ねずみ)どもがいくら吠えようと、届くはずもないわ! ハハハハ!」

 

 その時、兵士が慌てた様子で駆け込んで来る。

 

「ご、御報告! 

 地上に──覇姫エレクシア率いる覇天軍が……

 (すで)に“陣を展開”しております!」

 

 王子は心底小馬鹿にしたように失笑する。

 

「はあ? それがどうした? 

 三百メートルだぞ? 

 覇天軍は空を飛べるとでも言うのか?

 ……それとも、梯子(はしご)でも持ってきたか? ハハハハ」

 

 場内に再び嘲笑が広がる。

 しかし兵士の顔色は青い。

 唇は震え、言葉を飲み込むように喉が上下している。

 

「そ、それが……積み上げております」

 

「積んでいる? 何をだ?」

 

「……その、しゅ、淑女を……」

 

 場内が一瞬静まり返る。

 

「……は?」

 

「令嬢達が……その……重なって……」

 

 王子が眉をひそめる。

 

「重なって? まさか死体を積んでいるのか?」

 

「ち、違います! 生きております!」

 

「ならば何だと言っている!」

 

 兵士は額の汗を拭い、半ば泣きそうな顔で叫ぶ。

 

「塔です!」

 

「……塔?」

 

「令嬢達が人間の塔を──積み上げております!」

 

 場内に失笑が広がる。

 

「はは……はははは! 

 貴様、なかなかに冗談が上手いな」

 

「冗談ではありません!」

 

「ここは上空三百メートルだぞ?」

 

「現在、百メートルを突破しました!」

 

「は?」

 

「なお増加中であります!」

 

 王子の笑みがわずかに引きつる。

 

「ば、馬鹿な……令嬢がいくら重なったところで百メートルになるものか」

 

 兵士の顔が歪む。

 

「下から次々と参加してきております! 淑女が! 令嬢が!

 貴族の娘が! 市井の乙女まで!」

 

「意味が分からん!」

 

「だから言っているでしょうが!!」

 

 兵士の理性がぷつりと切れた。

 

「令嬢達が人間の塔を作ってるんだよ馬鹿野郎!

 バカ王子! 俺たちはもう終わりだあ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 地上。

 覇天軍の令嬢たちはなぜか楽しげだった。

 

「もう少し右ですわ」

 

「肩、失礼しますわね」

 

 優雅に、整然と、

 一人、また一人と重なっていく。

 令嬢たちのドレスが、垂直に伸びていく。

 

 百二十メートル。

 百三十メートル。

 百四十メートル。

 

 天空城の城内がざわめく。

 

「ば、ばかな……信じられん」

 

 次々と、うら若き乙女たちが重なる。

 美しく整然と築かれて往く万漢の塔。

 

 ついに王子の笑みが消える。

 

「あり得ぬ……奴らは常識というものを知らんのか!?」

 

 玉座(ぎょくざ)(わき)で、宰相の老人が──くつくつと笑い出した。

 

「……ヒヒヒ、そうか……今日であったか」

 

 王子が振り向く。

 

「どうした? とうとう狂ったか、()いぼれめ」

 

 老人は不気味な笑いを止めない。

 

「ヒヒ、数世紀もの間……不落を誇ったこの天空城…… 今日が、この天空城が──()ちる日」

 

 場内が凍りつく。

 たまらず王子が怒鳴る。

 

「狂人が! 何を戯言(ざれごと)を!」

 

 老人が突如、何かに取り憑かれたように語り出す。

 

「その者、(あか)(ころも)(まと)いて蒼天(そうてん)に立つべし」

 

 塔がまた一段伸びる。

 

「千の淑女(レディー)、心を(たば)ねて塔と成り──」

 

 歓声があがる。

 

「絹は風に揺れ、笑みは刃となり、(おご)れる城を地へ引き寄せん」

 

 王子の顔から血の気が引く。

 

「女を(あざけ)る者あらば、(まん)(おんな)は姿を変え、

 ついに天を穿(うが)たん」

 

 老人が窓の外を見据(みす)える。

 その瞳は涙とも狂気ともつかぬ光を宿している。

 

()()が現れし時、

 天空の城はその役目を終え、地に(かえ)らん──」

 

 塔が、さらに伸びる。

 

 宰相が、天を(あお)ぎ、

 ── くわっと血走った(まなこ)を見開いた。

 

 

「……伝説が、来る!」

 

 

 地上から一陣の風が駆けた。

 覇姫エレクシアが凄まじいスピードで塔を駆け上がる。

 踏むたびに、塔が(きし)むどころかさらに伸びる。

 

 (いただき)へ。

 

 そして、

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

万漢(ばんかん)踏破(とうは)

 

 

 (あか)ドレス()が優雅に、静かに揺れる。

 

 

 着地の衝撃はなかった。

 

 

 

 続く

 

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