【全話挿絵】婚約破棄された悪役令嬢、実は元覇王でした ~小僧、婚約を破棄し国外追放するだと? 作:よっちゃ
覇阿メルン書房刊『淑女戦陣概論』より
──
万漢の塔とは、退かぬ、媚びぬの令嬢数百名が己の
垂直方向へ天を侵すために編み出された淑女戦陣術である。
通常の人体では不可能とされる高度二百メートル級すら実現する。
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──
令嬢(
エレクシアに焦がれ、真の
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地上から三百メートル上空に浮かぶ天空城。
その地を治める第ニ王子は、ことさら優雅にワイングラスを揺らしていた。
「──よって、貴様との婚約は破棄する」
場内は静まり返る。
名指しされた伯爵令嬢リシェルは、青ざめた。
「そ、そんな……り、理由を……お聞かせください」
王子は小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「貴様は陰気だ。笑わぬし、華がない。
美しい余の隣に立つ資格はない」
周囲の嘲笑。
そしてさらに追い打ちがかかる。
「加えて、今後はこの余の新たな美しき婚約者、マリリンの侍女として仕えよ。
働けぬと言うなら実家ごと処分もあり得るぞ」
あまりに残酷な仕打ち。
新しい婚約者マリリンがくすりと笑い、周囲も釣られて笑う。
リシェルは膝から崩れ落ちた。
「……っ、どうして……」
指先が震え、涙が床を濡らした。
王子は愉悦に酔いしれ、満足げに頷く。
「ハハハハ、これでよい。
近頃は覇天軍とかいうならず者共が、婚約破棄を荒らし回っているそうだな。
まったく馬鹿馬鹿しい。婚約を破棄される女には、それ相応の欠陥があるものよ」
絶望のどん底にいたリシェルの瞳に熱が宿る。
「は、覇天軍……? まさか、覇姫エレクシア様が……」
「なんだリシェルよ、貴様、覇天軍に期待しているのか?
陰気なだけでなく頭まで阿呆だったか!
見ろ! ここは三百メートル上空の絶対不落の天空城だ!
地上の
その時、兵士が慌てた様子で駆け込んで来る。
「ご、御報告!
地上に──覇姫エレクシア率いる覇天軍が……
王子は心底小馬鹿にしたように失笑する。
「はあ? それがどうした?
三百メートルだぞ?
覇天軍は空を飛べるとでも言うのか?
……それとも、
場内に再び嘲笑が広がる。
しかし兵士の顔色は青い。
唇は震え、言葉を飲み込むように喉が上下している。
「そ、それが……積み上げております」
「積んでいる? 何をだ?」
「……その、しゅ、淑女を……」
場内が一瞬静まり返る。
「……は?」
「令嬢達が……その……重なって……」
王子が眉をひそめる。
「重なって? まさか死体を積んでいるのか?」
「ち、違います! 生きております!」
「ならば何だと言っている!」
兵士は額の汗を拭い、半ば泣きそうな顔で叫ぶ。
「塔です!」
「……塔?」
「令嬢達が人間の塔を──積み上げております!」
場内に失笑が広がる。
「はは……はははは!
貴様、なかなかに冗談が上手いな」
「冗談ではありません!」
「ここは上空三百メートルだぞ?」
「現在、百メートルを突破しました!」
「は?」
「なお増加中であります!」
王子の笑みがわずかに引きつる。
「ば、馬鹿な……令嬢がいくら重なったところで百メートルになるものか」
兵士の顔が歪む。
「下から次々と参加してきております! 淑女が! 令嬢が!
貴族の娘が! 市井の乙女まで!」
「意味が分からん!」
「だから言っているでしょうが!!」
兵士の理性がぷつりと切れた。
「令嬢達が人間の塔を作ってるんだよ馬鹿野郎!
バカ王子! 俺たちはもう終わりだあ!」
地上。
覇天軍の令嬢たちはなぜか楽しげだった。
「もう少し右ですわ」
「肩、失礼しますわね」
優雅に、整然と、
一人、また一人と重なっていく。
令嬢たちのドレスが、垂直に伸びていく。
百二十メートル。
百三十メートル。
百四十メートル。
天空城の城内がざわめく。
「ば、ばかな……信じられん」
次々と、うら若き乙女たちが重なる。
美しく整然と築かれて往く万漢の塔。
ついに王子の笑みが消える。
「あり得ぬ……奴らは常識というものを知らんのか!?」
「……ヒヒヒ、そうか……今日であったか」
王子が振り向く。
「どうした? とうとう狂ったか、
老人は不気味な笑いを止めない。
「ヒヒ、数世紀もの間……不落を誇ったこの天空城…… 今日が、この天空城が──
場内が凍りつく。
たまらず王子が怒鳴る。
「狂人が! 何を
老人が突如、何かに取り憑かれたように語り出す。
「その者、
塔がまた一段伸びる。
「千の
歓声があがる。
「絹は風に揺れ、笑みは刃となり、
王子の顔から血の気が引く。
「女を
ついに天を
老人が窓の外を
その瞳は涙とも狂気ともつかぬ光を宿している。
「
天空の城はその役目を終え、地に
塔が、さらに伸びる。
宰相が、天を
── くわっと血走った
「……伝説が、来る!」
地上から一陣の風が駆けた。
覇姫エレクシアが凄まじいスピードで塔を駆け上がる。
踏むたびに、塔が
そして、
「
着地の衝撃はなかった。
続く