【全話挿絵】婚約破棄された悪役令嬢、実は元覇王でした ~小僧、婚約を破棄し国外追放するだと? 作:よっちゃ
続き
王子は喉を鳴らす。
だが、すぐに笑みを作った。
「……見事だ」
ゆっくりと拍手する。
「余の城へ、空を越えて現れるとは」
視線がエレクシアの全身をなぞる。
「なんと言う美しさだ……素晴らしい。
余の隣に立つに相応しいのは、むしろ貴様のような女だ」
周囲が息を呑み、王子は腕を広げた。
「公爵令嬢エレクシア、余の
勝ち誇ったように笑う。
「貴様のような美の女神には、地を
「余と共に、世界を治めようではないか」
沈黙。
王子は勝利を確信した顔をしている。
エレクシアはゆっくりと瞬きをした。
それだけで空気が変わる。
静かに歩き出し王子の前に立つ。
白く、細く美しい指が、王子の
「……お前のものになれと、言ったな?」
王子の喉が鳴る。
「そ、そうだ。お前を王妃にしてやろう」
「ふっ、そうか」
甘い香りが近づく。
エレクシアの美しい顔がすぐ目の前に迫る。
その瞬間。
──閃光。
「ぶぼべぇええ」
乾いた音と無様な声が響いた。
王子の身体が横に弾け飛ぶ。
石床に叩きつけられ無様に転がる。
整った顔は頬が赤く腫れ上がり、体はピクピクと小刻みに痙攣していた。
ただの
エレクシアは、冷ややかに見下ろした。
「貴様のような地位と顔しか誇れぬ
王子は
誰も動けない。天空城の兵士たちも、貴族たちも、ただ凍りついていた。
「キャアアア♡エレクシア様ぁああっ!!」
甲高い、しかし心の底からの歓喜。
婚約を破棄されたばかりの伯爵令嬢リシェルが、瞳をきらきらと輝かせていた。
「夢にまで見たお姿……やはり本物……!」
エレクシアがちらりと視線を向けると、リシェルは黄色い悲鳴を上げる。
無様に鼻血を垂らした王子が声を張り上げる。
「う、討て! その女を討ち取れ!」
しかし兵は動かない。
いや、エレクシアのあまりの圧に動けない。
リシェルはゆっくりと王子へ歩み寄る。
もう怯える令嬢の目ではない。
凍てつくような、道端の
「ひい、く、来るな……」
リシェルの手が王子の胸元へ沈む。
脈打つ光、この天空城を制御するコアを探る。
そして鼓動のように明滅する結晶をリシェルは、強く引き抜いた。
淡い光が揺らぎ、城が低く
王子が息を詰まらせる。
「や、やめろ……それは──」
リシェルは嫌悪を隠さず王子を見下ろす。
「……情けない男」
「こんな借り物の力で天を気取っていたなんて。
私はどうしてこんな男を好きだったのかしら」
「本日をもって、私のこの心も身体も、覇姫エレクシア様のもの」
「お前は、もう
ぺっ。
唾が王子の頬を伝う。
そして、鋭利なヒールがゆっくりと振り上がり……
鋭く、男のソレを踏み抜いた。
「ひょびぃいい!」
鈍く不快な音がした。
王子の身体が折れ曲がり、次に海老のように仰け反り、肺から発したような地獄のような悲鳴をあげた。
「ああん♡エレクシア様ぁあああ!」
黄色い歓声が、天空城に響き渡った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
天空城が低く軋む。
砕けたコアの光が消え、城はゆっくりと高度を落とし始める。
貴族たちの悲鳴が響く。
「案ずるな。このままゆっくり高度を落とし、地に着くだけだ」
エレクシアの一言で空気が
その揺れの中。
リシェルはエレクシアを見上げる。
頬がわずかに紅潮している。
「……私を、連れて行ってくださいますか?」
エレクシアはほんの少しだけ目を細める。
「最初からそのつもりだ」
エレクシアは、リシェルをひょい、と軽々と抱き上げる。
「きゃっ……」
「
「はい……離しませんわ」
風が裂ける。
リシェルは目を閉じるが、そこに恐怖はない。
あるのは、かつて感じた事のない胸を打つ鼓動だけ。
エレクシアはリシェルをお姫様抱っこしたまま、天空城から飛び降りる。
強く抱き寄せられたまま、重力が意味を失った。
二人は白き万漢塔の頂へ優雅に着地し、エレクシアはリシェルをそっと降ろす。
しかし、リシェルの手は離れない。
「……お離しに、ならないでくださいませ」
懇願するような小さな声。
エレクシアが微笑む。
「好きに生きよ、と言ったはずだ」
「はい」
顔を上げる。
「覇姫様の隣で生きます」
その声音は、柔らかかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
不落の天空城は陥落した。
覇天軍の歓声が響き、紅の旗が風を裂く。
その光景を、ひとり見上げる老宰相。
白い眉が震える。
「……ふぉふぉふぉ」
杖を握る手がわずかに震える。
「古き言い伝えは、まことであったか」
遠い空を見上げ、鼻歌を口ずさむ。
「ふん……ふんふふ……ふんふんふん♪」
足元に、いつの間にか
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ママ! きょうは、いいてんきだね!
ランラン……ランララ……ラン♪」
「そうね、ララララ・ラン・ラン・ラン♪」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
──
塔頂より放たれる超跳躍術。
塔構成員の矜持を一点集中させ、跳躍者に“擬似重力逆転”を発生させる。
理論上、到達高度は塔高の三倍。ゆえに百メートル塔であれば、
三百メートル天空城への侵入も十分に可能とされる。
(『淑女機動戦術論』電覇大学出版局)
※現代における扱い。
現在は安全上の理由により、学校教育現場での実施は禁止されている。
ただし一部地域では 文化財指定を求める声もあるとのこと。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
『いいね』で応援していただけたら喜びます^^