【全話挿絵】婚約破棄された悪役令嬢、実は元覇王でした ~小僧、婚約を破棄し国外追放するだと?   作:よっちゃ

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第8話 一輪の百合の花が咲いていた

 続き

 

 

 王子は喉を鳴らす。

 だが、すぐに笑みを作った。

 

「……見事だ」

 

 ゆっくりと拍手する。

 

「余の城へ、空を越えて現れるとは」

 

 視線がエレクシアの全身をなぞる。

 

「なんと言う美しさだ……素晴らしい。

 余の隣に立つに相応しいのは、むしろ貴様のような女だ」

 

 周囲が息を呑み、王子は腕を広げた。

 

「公爵令嬢エレクシア、余の(きさき)となれ」

 勝ち誇ったように笑う。

 

「貴様のような美の女神には、地を()う軍勢の長よりも天に座す王の隣のほうが似合う」

「余と共に、世界を治めようではないか」

 

 沈黙。

 王子は勝利を確信した顔をしている。

 

 エレクシアはゆっくりと瞬きをした。

 それだけで空気が変わる。

 

 静かに歩き出し王子の前に立つ。

 白く、細く美しい指が、王子の(あご)を持ち上げた。

 

「……お前のものになれと、言ったな?」

 

 王子の喉が鳴る。

 

「そ、そうだ。お前を王妃にしてやろう」

 

「ふっ、そうか」

 

 甘い香りが近づく。

 エレクシアの美しい顔がすぐ目の前に迫る。

 

 

 その瞬間。

 

 ──閃光。

 

 

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「ぶぼべぇええ」

 

 乾いた音と無様な声が響いた。

 

 王子の身体が横に弾け飛ぶ。

 石床に叩きつけられ無様に転がる。

 整った顔は頬が赤く腫れ上がり、体はピクピクと小刻みに痙攣していた。

 

 ただの頬打ち(ビンタ)

 

 エレクシアは、冷ややかに見下ろした。

 

「貴様のような地位と顔しか誇れぬ小童(こわっぱ)に、(おんな)は惹かれぬよ」

 

 王子は(うめ)き立てない。

 誰も動けない。天空城の兵士たちも、貴族たちも、ただ凍りついていた。

 

 

「キャアアア♡エレクシア様ぁああっ!!」

 

 甲高い、しかし心の底からの歓喜。

 婚約を破棄されたばかりの伯爵令嬢リシェルが、瞳をきらきらと輝かせていた。

 

「夢にまで見たお姿……やはり本物……!」

 

 エレクシアがちらりと視線を向けると、リシェルは黄色い悲鳴を上げる。

 

 無様に鼻血を垂らした王子が声を張り上げる。

 

「う、討て! その女を討ち取れ!」

 

 しかし兵は動かない。

 いや、エレクシアのあまりの圧に動けない。

 

 リシェルはゆっくりと王子へ歩み寄る。

 もう怯える令嬢の目ではない。

 凍てつくような、道端の(ふん)を見るような目。

 

「ひい、く、来るな……」

 

 リシェルの手が王子の胸元へ沈む。

 脈打つ光、この天空城を制御するコアを探る。

 そして鼓動のように明滅する結晶をリシェルは、強く引き抜いた。

 淡い光が揺らぎ、城が低く(きし)む。

 

 王子が息を詰まらせる。

 

「や、やめろ……それは──」

 

 リシェルは嫌悪を隠さず王子を見下ろす。

 

「……情けない男」

 

 (てのひら)の中で脈打つ結晶を掲げる。

 

「こんな借り物の力で天を気取っていたなんて。

 私はどうしてこんな男を好きだったのかしら」

「本日をもって、私のこの心も身体も、覇姫エレクシア様のもの」

「お前は、もう用済みです(しんでいる)

 

 ぺっ。

 唾が王子の頬を伝う。

 

 そして、鋭利なヒールがゆっくりと振り上がり……

 鋭く、男のソレを踏み抜いた。

 

「ひょびぃいい!」

 

 鈍く不快な音がした。

 王子の身体が折れ曲がり、次に海老のように仰け反り、肺から発したような地獄のような悲鳴をあげた。

 

「ああん♡エレクシア様ぁあああ!」

 

 黄色い歓声が、天空城に響き渡った。

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 天空城が低く軋む。

 砕けたコアの光が消え、城はゆっくりと高度を落とし始める。

 

 貴族たちの悲鳴が響く。

 

「案ずるな。このままゆっくり高度を落とし、地に着くだけだ」

 

 エレクシアの一言で空気が(しず)まる。

 

 その揺れの中。

 リシェルはエレクシアを見上げる。

 頬がわずかに紅潮している。

 

「……私を、連れて行ってくださいますか?」

 

 エレクシアはほんの少しだけ目を細める。

 

「最初からそのつもりだ」

 

 エレクシアは、リシェルをひょい、と軽々と抱き上げる。

 

「きゃっ……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

俺様(わたくし)についてこい」

「はい……離しませんわ」

 

 風が裂ける。

 リシェルは目を閉じるが、そこに恐怖はない。

 あるのは、かつて感じた事のない胸を打つ鼓動だけ。

 

 エレクシアはリシェルをお姫様抱っこしたまま、天空城から飛び降りる。

 

 強く抱き寄せられたまま、重力が意味を失った。

 

 二人は白き万漢塔の頂へ優雅に着地し、エレクシアはリシェルをそっと降ろす。

 しかし、リシェルの手は離れない。

 

「……お離しに、ならないでくださいませ」

 

 懇願するような小さな声。

 エレクシアが微笑む。

 

「好きに生きよ、と言ったはずだ」

 

「はい」

 

 顔を上げる。

 

「覇姫様の隣で生きます」

 

 その声音は、柔らかかった。

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 不落の天空城は陥落した。

 覇天軍の歓声が響き、紅の旗が風を裂く。

 

 その光景を、ひとり見上げる老宰相。

 白い眉が震える。

 

「……ふぉふぉふぉ」

 

 杖を握る手がわずかに震える。

 

「古き言い伝えは、まことであったか」

 

 遠い空を見上げ、鼻歌を口ずさむ。

 

「ふん……ふんふふ……ふんふんふん♪」

 

 足元に、いつの間にか白百合(ゆり)が一輪、風に揺れていた。

 

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「ママ! きょうは、いいてんきだね! 

 ランラン……ランララ……ラン♪」

 

「そうね、ララララ・ラン・ラン・ラン♪」

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 ── 万漢(ばんかん)踏破(とうは)

 塔頂より放たれる超跳躍術。

 塔構成員の矜持を一点集中させ、跳躍者に“擬似重力逆転”を発生させる。

 理論上、到達高度は塔高の三倍。ゆえに百メートル塔であれば、

 三百メートル天空城への侵入も十分に可能とされる。

 

(『淑女機動戦術論』電覇大学出版局)

 

 ※現代における扱い。

 現在は安全上の理由により、学校教育現場での実施は禁止されている。

 ただし一部地域では 文化財指定を求める声もあるとのこと。

 

 

 




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