【全話挿絵】婚約破棄された悪役令嬢、実は元覇王でした ~小僧、婚約を破棄し国外追放するだと?   作:よっちゃ

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第9話 顎クイから始まる百合な展開!?

 荒廃した世紀末の世に生まれ、

 世界中の修羅を集めた漢の塾で育った元覇王(享年十八)がTS転生した、

 公爵令嬢のエレクシアは、今だ「愛」というものを知らなかった。

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 醜姫よ、貴様の愛羅武勇をよこせ。

 おなごの顔面の造形など、漢にとって些末な事。

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 王都の灯が遠く滲む丘の上。

 公爵家本邸は今や婚約破棄を狩って回る“覇天(ざまぁ)軍”の根城と化していた。

 庭には見張りが立ち、廊下には武装した兵が控え屋敷そのものが一つの要塞。

 

 本来なら舞踏会の音楽が流れるはずの大広間には、鎧が立てかけられ軍旗が垂れていた。

 

 その奥、暖炉の炎だけが静かに揺れている。

 

 公爵令嬢にして覇姫(はき)──エレクシア。

 月光を浴びながらなお、その横顔は夜に属さぬ光を()びていた。

 銀の髪は聖冠(せいかん)のごとく淡く(ふち)()られ、白磁(はくじ)の横顔は静謐(せいひつ)にして峻烈(しゅんれつ)、触れれば焼け落ちるかのような気配を宿している。

 月は彼女を照らしているのではない。

 ただ、その美を映すことを許されたに過ぎぬ。

 

 それが ──覇姫エレクシアという存在であった。

 

 傍らには男爵令嬢のリリアーナ。

 婚約破棄のあの日、尻に刻まれた覇姫の裁きを境に彼女は影となった。

 

「エレクシア様、どうなされたのですか?」

 

「リリアーナよ、貴様は愛とは何か知っているか?」

 

「愛……ですか」

 

 リリアーナは炎を見つめたまま、静かに答える。

 

「私は貧しい男爵家を支えるため、幾度も男に愛を(ささや)きました。

 あの言葉は、私にとって刃と同じ。相手の心に入り込むための」

 

 小さく首を振る。

 

「ですが……私自身が、誰かを愛したことはございません」

 

 炎が、ぱちりと()ぜた。

 

「かつて俺様の師が言っていた」

 

 エレクシアの声音(こわね)は低い。

 

「愛を知る人間こそ強者(きょうじゃ)

 愛を知らぬ者に天は握れぬと」

 

 前世の最期を思い出す。

 天へと指を掛けながら、その手は誰の手も取らなかった。

 ただ、(いただき)だけを見、孤独のまま倒れた。

 

 ──覇王の敗北。

 

 しばしの沈黙。

 

「それで……愛を(ささや)くとは、どういう言葉だ」

 

 わずかな間ののち、リリアーナは答える。

 

「それは、よく使われるのは

 ──“愛してる”。

 あるいは “I love you” です」

 

 炎が揺れる。

 

「……(あい)()()()か」

 

 エレクシアはその音を反芻(はんすう)する。

 

(あい)死天流(してる)、男を殺す必殺の(ことば)

 

 低く、確かめるように。

 

 リリアーナが小さく頷く。

 

「男の耳元で(ささや)くのです。 あ・い・し・て・る、と」

 

「ふむ、やはりな」

 

 エレクシアは腕を組む。

 

(あい)()()()

 それは一子(いっし)相伝(そうでん)の拳法か?」

 

 わずかに目を細める。

 

「……え? 一子(いっし)相伝(そうでん)、のけんぽう?

 それは、私にはよく分かりませんが、昔から使われている言葉です」

 

「古代から続く……男殺しの暗殺拳か」

 

 リリアーナが困惑したように固まる。

 エレクシアは構わず続ける。

 

「愛を(ささや)き心を奪い、理を狂わせる」

「死とは、それすなわち己を失う事」

「天を掴もうとするのではなく」

「流す……送り出す、か」

「つまり──愛死天流(あいしてる)とは、武ではなく感情で殺す、有情(うじょう)の暗殺拳!」

 

 リリアーナが恐る恐る口を開く。

 

「あの、エレクシア様、それは……」

 

 炎が揺れる。

 エレクシアが力強く叫ぶ。

 

「そして(あい)()()(ゆう)!」

 

 エレクシアはそっと目を閉じ、その音を吟味する。

 

「愛を(つら)ね、武を(いさ)む」

「“愛”とは(なさけ)ではない。己を削り、他者を守る覚悟か!?」

「“羅”とは網。すべてを受け止める器であろう」

「“武”は力」

「“勇”は恐れを踏み越える意志」

 

 瞳が細まる。

 

「つまり(あい)()()(ゆう)とは」

「愛を抱いたまま、戦い、守り抜く覚悟。

 まさに愛死天流の極意がここにある

 

 くわっと(まぶた)を開く。

 その瞳には、光が宿っていた。

 

「我が師の言葉、愛を知らぬ者に天は掴めぬとは、

 愛死天流(あいしてる)の極意、愛羅武勇(あいらぶゆう)を纏うこと! 

 あのクソ爺めが、その奥義を教えぬとは! 

 ならば……俺様自ら、愛を、知らねばなるまい!」

 

 低く(つぶや)く。

 

「あの醜姫(しゅうき)の悲しき瞳の色、やつは愛羅武勇を知っている」

 

 ふ、と唇がわずかに(ゆが)む。

 炎がその横顔を静かに照らしていた 。

 

「ふふ、見きったわ。

 愛死天流(あいしてる)の極意──愛羅武勇(あいらぶゆう)

 愛を(まと)い、天を掴む技……」

 

 そして──

 

「確かに俺様(わたくし)は──あれを、砕けなかった」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 続く。

 

 

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