風車がある白い家、日が登って1時間ほど経った早朝の午前7時ごろ。2階の窓の閉められていたカーテンが開くと、そこには茶髪でツンツンした髪の10歳の少年の姿が現れる。彼の名前はオーキド・シゲル。ポケモン研究の第一人者であるオーキド・ユキナリ博士の孫にして、転生者である。
彼が転生したのだと気づいたのは5歳の頃だった。祖父の手伝いを申し出て、たまたま元気のいいコラッタに体を押された拍子に頭を打ち、前世の記憶を思い出したのだ。
転生したと気づいた当初、彼は盛大に声を上げて驚いた。何せ目の前に架空の存在であった筈のポケモンが確かに存在していたのだ。彼はポケモンが好きだったが、かと言って現実にいたらと思うようなタイプではなかった。だから、目の前にリアルなでかい紫色のネズミポケモンがいると言う衝撃と、それがポケモンであると認識している自分の意識によって、混乱して叫んでしまったのである。
頭を抑えながらコラッタから距離をとるようにして叫んでいるシゲルを見て、オーキド博士とその家族たちはすぐさまシゲルを病院へ連れていった。幸いにも頭に異常はなく、単にポケモンによって被害を受けたことがショックになったのだとされたのだが、今のシゲルにとってもあの時の出来事はみっともなく取り乱した自分が恥ずかしいなと思う黒歴史スレスレの出来事である。
それからのシゲルはそれまでと打って変わっておとなしい少年となっていた。ポケモンを観察して周り、しかし決して近づかない。ポケモンが大好きでいくら危険だと言っても、サイドンにすら突撃しようとしていた少年の変化に家族は戸惑った。しかし、あの出来事によってそうなってしまったのだろうと思い込み、具体的に何かするわけでもなく見守ってくれた。
その時のシゲルは何を思っていたのか。それは、将来のことについてだった。転生したのはいいとして、将来ポケモントレーナーになりたいかと言うと、そうでもない。10歳の少年が旅の荷物を持って一人歩きで旅をする。過酷だ。これをよしとする大人たちは頭がどうかしているとさえ思った。
シゲルの住むマサラタウンでも毎年子供たちがポケモンをもらって旅立っている。シゲルはオーキド博士の孫であるため、そんな旅立っていく子供たちを何度も見送ってきた。転生して1年、2年と経つうちに、旅立った子供たちのうち何人かがボロボロになって帰ってきたのを見たら、ポケモントレーナーになりたいなどと思う心はあっさりと消えていく。
ポケモンについての興味はあるので、将来は祖父のようにポケモン研究者を目指せばいい。シゲルは子供らしく外に遊びに出かけることもしないで、オーキド博士の手伝いとして研究所をうろちょろするコラッタのような存在になっていた。
オーキド研究所で見られるポケモンはカントーのポケモンばかりだ。転生前に最後に遊んだソフトがスイッチ版のファイアレッドだったため、それらのポケモンたちにも馴染み深い。コラッタやポッポをはじめとしたよく見るポケモンもいれば、マサラタウンじゃ見られないガルーラなんかのポケモンもいる。シゲルは性格こそおとなしくなったものの、その心のうちでは前以上にこの環境を楽しんでいた。
だが、そんな中、シゲルはオーキド博士が主催する子供たちを集めたサマーキャンプポケモン教室に参加したことによって、将来ポケモントレーナーにならないと言う選択を180度覆さなければならなくなる。
何の気なしに参加したサマーキャンプ。そこにアニメの主人公だったサトシが来るであろうことは予想していた。しかし、まさかゲームの主人公であるレッドが来るとは思もしていなかったのだ。
シゲルは自身の名前と研究所の見た目からこの世界がアニメの世界だと思っていた。そして、アニメであればサトシのライバルをしてやらなくても他にいくらでもライバルになりそうな奴は出てくるし、シナリオ上何の問題もないと考えていた。だから子供たちと遊んだりしなかったし、ポケモン研究の方が興味もあったしで、どんな子がいるのかすら気にしなかった。まさかレッドが存在しているとは夢にも思っていなかっのである。
レッドがいるということは、すなわちこの世界がゲームシナリオを含んでいる可能性があるということだ。レッドが旅の途中で壊滅させたロケット団もあの凶悪さそのままでカントーに巣食っているかもしれない。となるとレッドには必ずロケット団を壊滅させる存在になってほしい。しかし、現状そのレッドの対となっているライバルのグリーンが存在していない。オーキド博士の孫はシゲルだけなのだ。
シゲルは何度も考えた。果たしてあのゲームの旅でライバルがいない状態でロケット団を壊滅させられたかどうかを。ことあるごとに現れて勝負を仕掛けてくるライバルではあるが、あの厳しい戦いのおかげでポケモンたちはより強くなっていた。もちろん何度も草むらを行き来して野生のポケモンでレベル上げをすれば、ライバルがいなくても大丈夫かもしれない。だけどこの世界は現実だ。バッジ集めにも制限期間がある。急ぎの旅でそんなことをするだろうか?
結論はすぐに出た。自分がグリーン役をやるしかない。
「お爺さま。僕はポケモントレーナーになることを決めました。なのでそれ用の知識を授けてください」
こうしてシゲルは、サトシとレッドのライバルとして、やむなくグリーンなシゲルくんになる事を決めたのだった。
たぶん不定期更新になります。