クチバシティに到着したシゲルは、ポケモンセンターにてオーキド博士と通信していた。さっそく育て屋の言っていたことを試すために、オーキド博士とポケモン交換をして親の違うポケモンをパーティに入れてみようと思ったのだ。
「すまんがシゲルの要望は叶えられんのぅ。わしはすでにポケモントレーナーを引退しておるし、わし自身のポケモンももうだいぶ歳をとっておるから、旅なんぞ連れて行かせられん」
「そんな……で、では1番道路でポッポか何かを捕まえてもらうのはどうでしょう」
「それはできん。研究のためでもなく、ただシゲルと交換するためだけに捕まえるというのはわしのポリシーに反する。第一シゲルから送られたポケモンはどうするのだ? わしはトレーナーとしてその子に向き合うことはできんぞ」
「な、なら姉さんなら良いですよね? 姉さんを呼んでもらえますか?」
「残念じゃがナナミは今はおらん。コンテスト関連の何某かでホウエンに行っとる」
「そ、そんなぁ……」
オーキド博士も姉のナナミもポケモン交換ができないとなると、シゲルが交換を持ちかけられる相手は、あとレッドとサトシぐらいになる。シゲルは友達が少ないのだ。しかし、ライバル相手にポケモン交換を持ち掛けるなんて気分が乗らないので、結局現状は育て屋の育成方法を試すことは出来なさそうである。
パソコン通信を終えて、ポケモンセンターに設置された椅子に座って考える。こうなったらゲームの道中で出てきた、ポケモンを交換してくれる人たちを片っ端から訪ねてみるしかないか。いたとしてレッドも全員とは交換しないはずなので、『そらをとぶ』が解放されてから順番にまわって確認していけばいい。ただ、この世界はゲームの世界そのままではないので、同じ場所に交換してくれる人たちがいるかはわからない。最悪の場合、無駄足を続けるだけなんてことあり得る。
そんな風に少し休憩がてら考え事をしていると、ポケモンセンターの扉が開いて見覚えのある少女が青い顔で入ってきた。彼女はそのまま回復カウンターへ駆け寄っていく。
「あれは僕たちと同じ日に旅立った……確か名前はキョウコだったか。一体どうしたんだ?」
一応知り合いではあるし、気になったシゲルはポケモンたちを預けて今にも泣きそうな顔でそばに座っているキョウコへと近づく。
「キョウコ、久しぶり」
「えっ? ああ、シゲル君か。うん、久しぶりだね」
「さっきは何か急いでるようだったけど、何かあった?」
「うん……ちょっと、ジム戦でやられちゃって」
クチバシティでジム戦と言えば、電気タイプのクチバジムになる。シゲルがヒトカゲ、レッドがフシギダネを選んだということは、キョウコはゼニガメを貰っているはず。ゼニガメは水タイプ、電気タイプとは相性最悪だ。
しかし、それにしてもここまでの旅でゼニガメ1匹しか持っていないということはないだろう。それが全滅した挙句、ここまで思いつめた顔を彼女にさせているとなると、クチバジムは相当苛烈なようだ。
シゲルはキョウコに許可をとり、向かいのソファに腰を下ろした。
「クチバジムはそんなに容赦ないのか」
「容赦がないというか、多分これが本当のジム戦なんだと思う」
「ああ、なるほど」
シゲルたちが通ったルートではトキワジムが最初のジムになる予定だったところを、トキワジムの一時的な営業停止を受けて、最初のジムがニビジム、その次がハナダジムとなっていた。
ニビジムのタケシは真面目ではあるものの、バッジを所持していない初心者相手の手心は多少加えてくれていた。ハナダシティはそもそもジムリーダーのやる気がないので、ジム戦としてはあってないようなものだ。
クチバジムのマチスは元軍人。彼は厳しい訓練を受けてきた人だ。ポケモンジムのトレーナーへの試練と成長の場という性質を考えると、厳しさこそが最大の成長につながるという、そうした思想を持っているであろうことは想像に難くない。
その時、またポケモンセンターの扉が開いた。ゲームでいう短パン小僧の格好をした少年が、焦げてぐったりしているコラッタを抱えて入ってくる。あのコラッタの様子からして、激しい電撃を受けたのだろう。
「キョウコ、クチバジムにはどんなポケモンたちで挑んだか聞いてもいいかな? もちろん教えたくなければ言わなくてもいい」
「ううん、いいよ。私のパーティは最初にもらったゼニガメが進化したカメールと、途中で捕まえたオニスズメが進化したオニドリル、それからクサイハナの3匹。だけどクサイハナも含めて3匹ともライチュウの電撃でやられちゃった」
「3匹に絞っているということは、それなりにレベルは高いのか」
シゲルのポケモンのレベルは最高で23レベル。対してキョウコのポケモンは数を絞っていることからおそらく全員が23を超えている。だとすると、現在のシゲルのポケモンで突破できるのか怪しい。
ポッポとギャラドスは出さないとして、パラスもレベルが低いため出せない。よって今回バトルするのはリザード、コラッタ、ニドリーナの3匹になる。その内ニドリーナは『つきのいし』を使用して進化させれば地面タイプを複合タイプとして持つニドクインにできる。ただ地面タイプの技は覚えていないので相手の弱点を突くことはできないし、レベルも20で低い。
「キョウコのポケモンのレベルで負けるなら、ニドクインがいても厳しいか。いや、サントアンヌ号でレベルを上げればライチュウの『たたきつける』はなんとかなるかも……」
「サントアンヌ号? シゲル君、船のチケット持ってるの?」
「ああ、お爺様からチケットをもらったんだ」
「そうなんだ。いいなぁ、私もサントアンヌ号で皆を鍛えられたら次はマチスさんに勝てるかもしれないのに」
「……うん? ちょっと待てよ。君はサントアンヌ号に乗ってないのか?」
「えっ? うん。私はチケット手に入れるつてとか無いし」
「それでどうやってクチバジムに入るんだ?」
「ふ、普通に正面から入ったけど」
シゲルは頭が混乱していた。クチバジムといえば木が邪魔しているため『いあいぎり』の技を使用しなければ入れないジムだと思っていたからだ。
ゲームではクチバジムの前にサントアンヌ号の船長室で『いあいぎり』の秘伝マシンをもらってようやく挑戦できるという面倒な仕様だった。だが、いまキョウコから聞いたところによると、クチバジムへの挑戦に『いあいぎり』は必要ないように思える。
「もしかして、入り口に向かうまでに木が邪魔で通れないとかないのか!?」
「そ、そうだよ。そんな木が生えてたら邪魔だし、もし生えてても普通はジムの人が切っちゃうんじゃないかな」
言われてみれば当たり前のことだった。あんな邪魔な木をそのままにしておくとジムの運営に支障が出る。それはポケモンジムとして体裁が悪い。最悪、ポケモンリーグ公認ジムではなくなってしまう可能性も出てくる。
クチバジムはわざわざサントアンヌ号に向かわなくても挑戦できる。ということは、性格から考えてレッドもそのままクチバジムに挑戦するだろう。
「サントアンヌ号なんて、行ってる暇がないじゃないか」
レッドのパーティにはフシギソウとイシツブテがいる。クチバジムに苦戦はしない。
この瞬間、シゲルの頭の中で次にどうするかの指針が決まった。
「キョウコ、この後すぐ時間あるか?」
「この後は、ポケモンたちの回復が終わったら特訓するつもりだけど」
「そうか。なら僕もその特訓に加わらせてくれ。ただ、特訓する場所は指定させて欲しい」
「いいけど。どこでするつもりなの?」
「ディグダの穴さ」
キョウコはファイアレッド・リーフグリンの女主人公のデフォルトネームの一つです。
つまり、このキョウコの容姿は女主人公そのままになります。