グリーンなシゲルくん   作:煮干し銀

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崩壊

 ディグダの穴。そこはポケモンのディグダとダグトリオが作り上げたと言われている地下洞窟だ。

 

 クチバシティからニビシティ近郊まで続いている穴の中に生息しているポケモンはディグダとダグトリオのみで、ゲームでは最大31レベルのダグトリオが出現することもあった。

 

 ディグダとダグトリオの特性の一つである『ありじごく』は、地に足をつけている相手のポケモンを逃げられなくする効果があるため、飛行タイプかもしくは弱点をつける水タイプか草タイプを連れて入ることが推奨されている。

 

 シゲルとキョウコはそんなディグダの穴の中で、時に野生のディグダとバトルしたり、トレーナーのポケモン同士でバトルしたりして、少ない時間でポケモンたちの経験値を稼いでいく。

 

 おかげで短時間にも関わらず、お互いのポケモンのレベルは平均3ほど上がった。だが、これだけでマチスに勝てるとは2人とも思っていない。

 

「キョウコ、ダグトリオが出たら捕獲するよ」

 

「うん。電気タイプには地面タイプだもんね」

 

 シゲルとしては予想外だったが、キョウコはディグダの穴の存在を知らなかった。ゲームをしていた時はマチス対策にダグトリオを使用するというのは鉄板だったので、ディグダの穴の存在は知っていて当たり前だった。けれどこの世界ではディグダの穴なんて行く必要のない場所。むしろ知っている方がおかしいぐらいのマイナーな場所だったのだ。

 

 キョウコもタイプ相性についてはある程度わかっている。近場にこんなに都合の良いポケモンが生息しているのなら、そのポケモンを使わない手はない。キョウコがここまでの道中でポケモンを増やさなかったのは、単に多くのポケモンを育てることに慣れていないからだった。普通の新人トレーナーであれば、この時点で6匹連れているのはアホか天才かどちらかしかないのだ。キョウコの3匹は普通なのである。

 

 この場所に出てくるダグトリオのレベルは、低くても26レベル。現在のキョウコの手持ちのレベルと比較しても遜色ない。ポケモンを増やす際の1番の問題である、育てる必要がないのは魅力的だ。

 

「出た! ダグトリオ!」

 

「よし。じゃあまずは君がゲットするんだ」

 

「オッケー!」

 

 キョウコはクサイハナの攻撃で一気にダグトリオの体力を削る。ダグトリオのレベルは29、クサイハナの攻撃は抜群でも耐えられる。

 

 ギリギリ残ったHPで、ぐったりした様子を見せるダグトリオに、クサイハナの『ねむりごな』が命中。眠っているところに買っておいたスーパーボールで一発捕獲が成功した。

 

 お次はシゲルの番だ。特訓の合間に出現したダグトリオ。レベルは26。シゲルの手持ちには眠り状態にできるポケモンがいないため、ニドクインの毒で弱らせる。毒は調整が難しく、瀕死で逃げられることもあるため慎重にことにあたった。結果は見事に捕獲成功。時間的な問題から特訓はここで終了となった。

 

 特訓が終わり、ポケモンの回復のためにポケモンセンターに寄ったあと、まず最初にクチバジムに挑戦したのはキョウコだった。オニドリルをダグトリオに変えてカメール、ダグトリオ、クサイハナの3匹で戦い、ダグトリオの活躍によってあっさりクチバジムを攻略。シゲルはフェアプレーの精神からジムバトルを見ていなかったが、ダグトリオがいるなら当然だなと結果に驚きはしなかった。

 

 次はいよいよシゲルがクチバジムに挑戦する。キョウコとのバトルの直後にもかかわらず、ジムへの挑戦を受け入れたあたり、ジムバトル用のポケモンはちゃんと複数用意しているのだなとシゲルは感心した。

 

「お次はボーイか。さっきのガールに知恵を貸したのはボーイかな?」

 

「そうです」

 

「ほーう、そうなのか。これは楽しいバトルになりそうだ」

 

 サングラスの奥に隠れた視線。ダグトリオの存在を確信していそうなのに、弧を描く口元。

 

「GO! コイル!」

 

「いけっ! ニドクイン!」

 

 マチスの最初のポケモンはコイル。ふよふよと浮かぶ電気・鋼タイプのポケモン。シゲルはコイルを見た瞬間に、なるほど『でんじふゆう』かとマチスの笑みに納得した。

 

 コイルの使う『でんじふゆう』は、その名の通り電気で磁力を発生させて体を浮遊させることで、地面技が当たらないようになると言うもの。ダグトリオの攻撃も怖くないわけだ。

 

 対してシゲルのニドクイン。こちらは地面技はそもそも持っていないが、メインの毒もコイルが鋼タイプを併せ持つことで封じられている。相性的には不利に見えた。しかし、コイルのパワーは進化前のポケモンというだけあって弱い。それは防御力に関しても同じだ。

 

「ニドクイン! にどげり!」

 

「ニド!」

 

 浮いているとはいえ、それが自由に素早く動けるということではない。体が成長してまだ不慣れな遅い動きのニドクインでも余裕で攻撃を当てることができる。

 

 地面タイプに電気技が効かないことから、『ソニックブーム』でちまちまと削られたが、進化したことでHPも増えているので問題はなかった。固定ダメージは痛いものの、まだ半分削られただけだ。

 

 次にマチスが出したのはビリリダマだった。互いに有効打がない中、ビリリダマはコイルと同じ『ソニックブーム』での攻めを展開。ニドクインは『どくばり』で応戦するも、敵を毒状態にするのが精一杯で倒れることとなった。

 

「やはり固定ダメージ技は厄介ですね」

 

「ふっ、ミーも苦手なタイプに対しての対策はしているのさ」

 

「いけっ! ダグトリオ!」

 

「ダグダグダグ!」

 

 次にシゲルが繰り出したのは、ダグトリオ。2体続けて地面タイプのポケモン。しかも今度は地面技である『あなをほる』を覚えている。シゲルはもう試合を決める気だった。

 

「ダグトリオ! 『あなをほる』!」

 

「ダグ!」

 

 ビリリダマも『でんじふゆう』は覚える。だが、覚えるレベルはコイルよりも後の30レベル代だ。3つ目のジムでそのレベルは過剰だろう。そういった点からシゲルはビリリダマに対しての地面技は有効だと見た。

 

 ダグトリオが地中にいる間、ビリリダマは何もしなかった。やはり『でんじふゆう』は無い。そう確信する。そして、その確信はシゲルに油断させた。

 

 ダグトリオが地中から飛び出そうとした瞬間、地面の僅かな振動と隆起を感じたマチスは即座に指示する。

 

「ビリリダマ、『じばく』!」

 

「なっ!?」

 

「ビリ!」

 

 一瞬の閃光。そして爆発。煙が晴れると目を回したビリリダマと、そのそばで負傷して辛そうにしているダグトリオの姿が見える。それはまさに、トレーナーの実力とポケモンとの信頼が成せる戦術だった。

 

「っ! だが、まだダグトリオは負けたわけじゃない!」

 

「その通りだボーイ。そしてこれがミーの最後のポケモンだ。GO! ライチュウ!」

 

「ライラーイ!」

 

 マチスの最後のポケモンは想定通りのライチュウ。このライチュウにはダグトリオに対する有効打は無い。無いはずだ。

 

(なのになんなんだ、あのマチスの余裕の笑みは……!)

 

「ダグトリオ! 『あなをほる』!」

 

 漠然とした不安感と焦り。大丈夫だと指示した『あなをほる』。それを見て一段と深くなるマチスの笑み。

 

 そして、マチスはシゲルが全く予想もしていなかった技をライチュウに指示した。

 

「ライチュウ! 『なみのり』だ!」

 

「なにっ!?」

 

 ライチュウの『なみのり』に驚愕するシゲル。シゲルとてピカチュウが『なみのり』を覚えることは知っている。その進化系のライチュウが使えるのは不思議じゃない。シゲルが驚いたのはライチュウが『なみのり』を使えることではなく、バッジ3個目のジム戦で『なみのり』を使われたことにあった。

 

 普通、ジム戦はバッジの数に応じてジムリーダーが使用する技に制限がかかる。それぞれのジムリーダーによる判断で使用の可否を決めることができる緩い決まりだが、現時点のシゲルに対して『なみのり』を使うとは想定していなかったのだ。

 

「い、いや。でも今ダグトリオは『あなをほる』の最中。『なみのり』なら攻撃を受けることはない」

 

「何を言っているんだボーイ。フィールドをよく見てみろ」

 

 そう言われてマチスが指差した場所を見てみると。『なみのり』で溢れた水が、どんどん1箇所に吸い込まれて消えていくのが見えた。まるでそれはお風呂の栓を外した時に見る光景と同じ。

 

「穴があれば、水はそこに吸い込まれる。当たり前のことをだぞボーイ。そして吸い込まれた水はそのまま穴を通って……あとはボーイでもわかるな?」

 

「ックソ! そんなのありかよ!?」

 

 ポケモン図鑑を取り出して、ダグトリオのHPゲージを見れば、みるみるうちにゲージは減少。そしてあっという間に瀕死になってしまった。

 

 瀕死になったダグトリオは、目を回しながらもなんとか這い出てくる。ダグトリオをボールに戻し、シゲルは最後のポケモンの入ったボールを手に持った。

 

 水に濡れたフィールド、充満する湿気。足元の土は泥に変化し、足場は最悪の状態。勝ち目は限りなく薄い。それでも出すしかない。

 

「いけっ、リザード!」

 

「リザ!」

 

 そして、シゲルはマチスとのジム戦に……敗北した。

 

 ジム戦を見学していたキョウコが気遣うような言葉をかけてくる。その言葉の向こうに、段々と近づいてくる崩壊の足音。

 

 目の前でピタリ止まったその者から発せられる声は、シゲルの顔を蒼白に変えた。

 

「……シゲル」

 

 強張った表情を貼り付けて顔を上げれば、赤い帽子の少年の姿。

 

「……レッド」

 

 レッドがそこに、立っていた。

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