グリーンなシゲルくん   作:煮干し銀

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黒いカモの群れとミニスカート

 コイキングのリセマラは比較的すぐに終わった。

回数にして23回。今回は色違い目的ではなく、性格厳選が目的だった。

 

 狙った性格は『いじっぱり』。攻撃が上がり、特殊攻撃が下がる性格だ。

 コイキングの進化であるギャラドスの得意分野が物理攻撃であることを考えると、最適な性格である。

 

 シゲルとて一期一会で出会ったポケモンを連れて旅をするということの素晴らしさは理解しているつもりだが、本物のシゲルではないことで才能の保証が無いため、出来ることはしておきたかった。

 

「本当に500円でいいんですか?」

 

「ああもちろんだとも。ただしこのことは内緒で頼むよぼっちゃん」

 

 シゲルは500円を手渡し、おじさんはコイキングを渡す。もらったコイキングをすぐさまモンスターボールに仕舞うと、これにてコイキングは完全にシゲルのポケモンとなった。

 

『いじっぱり』な性格のコイキングをゲットだぜ!

 

 なんて心の中でサトシみたいなセリフを言いながら、シゲルはコイキングをもう一度おじさんの水槽に出す。

 

「よろしくな。コイキング」

 

「コッ」

 

 水槽の中から返事を返してくれるコイキング。性格からか元気のいい返事という風ではなかったが、言っていることはちゃんと理解しているようなので、それだけでシゲルは満足だった。

 

 今後はこのコイキングをどうやって育てていくかも考えなければならない。何せ陸に上がったコイキングはその場で跳ねることしかできないのだ。このままではいい的である。

 

 おじさんが去ってポケモンたちの回復も終わると、シゲルはポケモンセンターから出てお月見山の洞窟へと入って行った。

 

 このお月見山の洞窟はニビシティ側からハナダシティ側まで続いており、マサラ、トキワ、ニビ出身の初心者トレーナーは大抵通ることになる洞窟だ。実は山沿いに車道が通っているので車ならほんの1時間でハナダシティに辿り着くことができるのだが、バトルをするトレーナーたちにとってはこちらの洞窟を通る以外選択肢は無い。バスに乗ってハナダシティに向かってもハナダジムで負ける未来が見えるからだ。

 

「中は意外と明るいな。至る所に照明がある。化石堀りが盛んだった頃の名残か……」

 

 かつてこのお月見山は『化石』が出ることで有名だった。しかし、噂にひかれてやってきた人々に次々と掘り出され、今やお月見山で新しい『化石』が発見されたという話はほとんど聞かなくなっている。

 

 ただ『ピッピ』や『つきのいし』を欲して来る人もいるため、それなりに人は見かける。

 

 シゲル自身も手持ちのニドランの最終進化に『つきのいし』が必要ということで、『つきのいし』を探しつつできるだけトレーナーを避けるというのは結構大変だった。 

 

「出来るだけ寄り道せずに『つきのいし』を見つけたいから、そのためにも人の目に映りづらい暗がりを細かく確認していこう。頼んだよリザード」

 

「リザ!」

 

 頼られることが嬉しいのか張り切って尻尾の炎を動かして辺りを照らしてくれるリザード。さみしがりなせいかシゲルに寄り添うように歩いている。だがシゲルはそんな歩きづらい状況でもリザードに離れてくれとは言わず、それどころか自分の目線の位置にあるリザードの頭をときおり撫でながら歩みを進めていた。

 

 

『げんきのかたまり』。『ふしぎなあめ』3つ。『なんでもなおし』。結構希少なものが数々見つかる。

 

「けど、肝心の『つきのいし』が見つからないんだよなぁ」

 

 ゲームでも入手数が限られている『つきのいし』。それ以上に入手したいならピッピの持ち物を狙うしかないという面倒な代物。

 

 固定配置で置かれているものはこの洞窟にもあるのかもしれないが、アニメが混ざっているせいでマップが変わっている部分も多く、ゲームの知識はほとんど役に立っていない。

 

「ピッピを見つけて捕まえるにしても、レッドはニビジムに苦戦しないだろうし、猶予は2時間あるかないかぐらいか」

 

 お月見山の洞窟探索もそろそろ終盤。看板ではもうすぐ先にある階段を2つ登ればハナダシティ側の出口があるらしい。

 

「ここで寄り道して探索を続けても、『つきのいし』が拾えるかは運次第。でもニドランを使い続けるなら『つきのいし』は必須。さて、どうする……」

 

 『つきのいし』を探して目を凝らしながらも、ここからどうするのがベストなのかと考えるシゲル。そんな時、ふと隣を歩いていたリザードが足を止めた。

 

 リザードはその場で首を回して周囲を確認している。その様子は何かを感じているようだった。

 

「どうした?」

 

「リザ……」

 

 目視できる範囲では異常はない。となると音だろうか。そう考えてシゲルは耳を澄ましてみる。

 聞こえて来るのはズバットの羽音と、ポケモンの鳴き声。不審な音は聞こえない。

 

 本当に一体なんなんだとシゲルが頭をひねったところで突然リザードが走り出した。早くはない。シゲルが追いつける程度の速度だ。

 

 もしやピッピを見つけたのだろうか? 

 少しだけ期待してリザードについていくシゲル。だが先に進むにつれてシゲルはリザードが何に反応していたのかを理解した。

 

「やめて! 私のピッピを返して!」

 

「そうはいかない。ここで捕まえたポケモンは俺たちロケット団のものだ! ここは今、俺たちの狩場なんだからな!」

 

「ここに来ちまった自分を恨みな!」

 

「安心しろよ。お前のピッピも俺たちが有効に活用してやるさ!」

 

 若い女性と複数人の男のやり取り。その内容からわかるのは今まさにロケット団がトレーナーからポケモンを奪っているということ。

 

 岩陰から覗いてみれば、そこにはゲームではミニスカートと呼ばれていたNPCそのままの格好の女性が、5人のロケット団員に壁を背に囲まれていた。

 

 ここは照明の近くだからリザードの尻尾の炎の光もまだ向こうに気づかれていない。今ならまだ引き返せる。

 相手は少なくとも5人。賢明な人間ならさっさと踵を返すだろう。

 

 だが、リザードにはわかっていた。自分の主人がこの好機を逃すはずがないと。

 

「おやおやおや。寄ってたかって女の子1人をいじめる大人の男、それも5人がかりだなんて、これほど醜いものは無いなあ。そう思わないかい、そこのお嬢さん?」

 

「えっ?」

 

 不敵な笑みを浮かべて岩陰から出ていくシゲル。最初に反応したのはロケット団員に囲まれていたミニスカートの女性、その次に煽るような文句に反応したロケット団員たちが一斉に振り返る。

 

「誰だ!」

 

「ただの通りすがりですよ。旅の途中の新人トレーナーです」

 

「ほう。それでそのただの新人トレーナーが俺たちロケット団に何の用かな?」

 

「用なんてありません。ただ、僕の輝かしい旅の途中に大きなゴミが5つも現れたので、掃除しておこうかと思いまして」

 

「なんだと!」

 

 煽るシゲルに、沸点の低いロケット団員たちはミニスカートの女性から離れてシゲルの方に向かって来る。

 

「小僧。俺たちの人数が見えないのか?」

 

「今ゴミが5つと言いましたけど? 聞こえませんでした?」

 

「このっ! 後悔するなよガキ! お前を倒してお前のポケモン全部俺たちの物にしてやる!」

 

 ロケット団員5人が一斉にモンスターボールを投げる。

 

 出てきたのはコラッタ、アーボ、ドガース、サンド、ズバット。意外と被りがない。

 

 それに対してシゲルも4つのボールを投げた。

 

 コラッタ、ポッポ、ニドラン♀、コイキング。そしてリザード。

 

 相手は一人で一匹に指示を出すのに対して、シゲルは一人でコイキングを除いた4匹に指示を出さなければならない。普通は混乱してうまく指示を出せないだろうが、しかしシゲルは余裕の笑みを崩さなかった。

 

「さあ、僕たちの経験値になってもらおうか」

 

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