たった1匹で前に出て戦うリザード。敵のコラッタの『たいあたり』に『ひのこ』を浴びせ、アーボの尻尾を掴んでサンドに投げ飛ばす。
シゲルのコラッタは敵の攻撃を『でんこうせっか』で避けながら、『なきごえ』で敵全員の攻撃力を下げて回っている。
ニドランはリザードの後ろで待機し、敵の『どくばり』が飛んで来たら受け止め、ポッポは『かぜおこし』で飛行能力の拙いズバットを揺らして『ちょうおんぱ』を起こさせないように努める。
ロケット団のポケモンたちは連携ということをしない。そもそもこのポケモンたちは支給品でトレーナーとの信頼関係などはないし、訓練もそれぞれで行なっているので、集団で戦っている利点を活かせないのだ。
そしてロケット団員たちも力のない雑魚だった。このお月見山はレベルの高いポケモンが生息していない。そんな場所に派遣されている時点で、彼らは下っ端も下っ端。最下層に位置する連中であることは明白だった。そのためまともな指示などできず、ただ『たいあたり』や『どくばり』、『ひっかく』などの相手にダメージを与える技だけを叫んでいる。
これならば『すなかけ』をしてくる野生のポッポの方が厄介だろう。
つまりこの連中はシゲルとシゲルのポケモンたちにとって野生ポケモンよりやりやすく、そして多く経験値をくれる、まさにカモだった。
コラッタの『なきごえ』によって既に敵全体の直接攻撃は無意味と化している。
余裕が出てきたリザードはまずズバットを『ひのこ』で落として無力化した後、近づいてきたサンドを『ほのおのキバ』で迎え打つ。
ポッポとコラッタは、相手のコラッタに交互に攻撃を繰り返し、すぐに戦闘不能にしていた。
シゲルはコイキングに『おいしいみず』をかけながら、ロケット団員たちに笑いかけた。
「ハハッ! やっぱりこの程度ですか! 弱いなぁ!」
「チッ! お前俺たちが誰か分かっててこんなことしてんだよな? 後悔するぞ!」
「後悔? あなた方こそこんな所でバカなことをしていたことを後悔したらどうです? 何もしなければ僕に見つからなかったのにってね」
「ほざけ! お前は俺たちロケット団のブラックリスト入りだ! その顔覚えたぞ!」
「ふっ、顔を覚えたね。それなら名前も教えてあげますよ。僕の名前はグリーン。あなたたちでは無理かもしれませんがもしそちらのボスに会えたらお伝えください。僕の邪魔をするならオタクの組織を破壊します。覚悟してくださいと」
シゲルはそんなことを言いながら、脳裏では「俺じゃなくてレッドがやるんだけどね」と、付け加える。
「覚えてろ! 次は必ずお前のポケモンをいただく! いくぞお前ら!」
そう言ってポケモンを捕まえていた装置を置いたまま去っていくロケット団員たち。シゲルは彼らに手を振りながら「次はせめてもう少しマシな人を連れてきてくださいねー!」と、彼らに追い打ちの煽りをかました。
ロケット団員たちが去ったあと、残されたシゲルとミニスカートの女性の2人は、装置で捕らえられていたポケモンたちを解放した。その中にはミニスカートの女性のピッピが入ったモンスターボールもあったらしく、彼女は涙ぐんで喜んでいた。
「ありがとう。あなたのおかげで大切なピッピが戻ったわ!」
「どういたしまして。ピッピは無事ですか? 他のポケモンたちは僕の『きずぐすり』で回復するつもりですけど、ピッピにも必要ならお渡ししますよ」
「大丈夫。怪我もないし、元気よ!」
ピッピを抱きしめて、もう2度と離すまいとしているミニスカートの女性。シゲルは彼女の返答に『それはよかった』と安堵すると、改めて彼女に向き直って口を開く。
「では、僭越ながら僕と僕のポケモンたちが出口までエスコートしますよ。まだどこかに奴らの仲間が潜んでいるかもしれませんしね」
「ありがとう。だけど良いの? グリーン君はこの洞窟で他にしたいことがあったりしない?」
シゲルはロケット団員たちに名乗ったグリーンという名前で呼ばれても特に訂正することはしなかった。この女性とはこの先会うことはないだろうし、それなら別に呼び名ぐらいどうでも良いと思っていた。
「ないことはないですが、襲われたばかりの女性を放っておく程に重要なことでもありませんから問題ないです。それに元々出口までの間に見つかれば良いな程度のものでしたし」
「そう……それなら出口までお願いしようかな」
「お任せください。それでは行きましょうか」
シゲルとリザードが前を歩き、ミニスカートの女性が真ん中、その後ろにシゲルのコラッタとポッポが続く。
道中、一心不乱に穴を掘っている理科系の男がいたが、彼はこちらに欠片も興味を示すことはなかったためそのままスルー。その後は洞窟出口までは野生ポケモンとの遭遇が数回あっただけだった。
途中、シゲルはパラスを1匹ゲットして、ニドラン♀がニドリーナに進化するということもあったが、これは割愛する。
洞窟から出ると空は夕焼けの赤に染まっていた。これまで薄暗い洞窟にいたことで、この沈み行く夕日の光でも酷く眩しく感じてしまう。
そんな夕日を指の隙間から目を細めて見ながら、シゲルは日が落ちるまでにハナダシティに着くことは無理だなと思った。
「どうやらもう日が沈むみたいですね。野宿の道具は持ってきてますか?」
「持ってないわ。でも大丈夫。このランニングシューズで急げば日が沈む前にハナダに辿り着けるから!」
ランニングシューズ。そういえばそんなものあったな、とシゲルがボソリと呟けば、旅をするなら履いていた方が良いわよと、その良さを力説してくれた。
「そうだ! 今回のことのお礼にこの割引券をあげるわ。これがあればランニングシューズが半額で買えるはずよ。それからこれも!」
女性がシゲルに手渡してきたのは有名な靴屋チェーンのランニングシューズ引換券と、まさかの『つきのいし』。驚いてシゲルが彼女を見ると、その顔には欲しかったの分かってました! と言わんばかりの笑みが浮かんでいた。
「……いいんですか?」
「もちろん! 君のニドリーナに使ってあげて」
「でも、ピッピの進化にも『つきのいし』が必要になりますよ」
「いいのよ。元々私はピッピを進化させるつもりなかったし。それに、その『つきのいし』は私がこの子を捕まえた時にたまたま持ってただけの物だから。ピッピもあなたたちにあげたいって言ってるし。ねっ、ピッピ!」
「ピッピー!」
そこまで言うなら遠慮は要らないかと、『つきのいし』を受け取るシゲル。シゲルが受け取ってくれたのを見て満足そうに笑うミニスカートの女性は、急がないと日が沈んでしまうからと駆け出した。
「グリーン君! 君ならきっとチャンピオンになれるよ! テレビで君の姿を見るの楽しみにしとくねー!」
走りながら振り返ってシゲルに手を振る彼女に、シゲルは手を振り返しながら見送る。
そうしてミニスカートの女性の姿が見えなくなると、シゲルはリザードの方を向いて苦笑いしながらこう言った。
「彼女に僕の夢が実家でポケモンたちと一緒にのんびり暮らすことだなんて言ったら、きっと驚いただろうね」
「リザ」
「さ、日が完全に落ちる前に野宿の準備をしないとな。リザードはテントの設営を手伝ってくれ。コラッタとポッポは薪になりそうな木の枝を集めるのと、もしあったら食べられそうなきのみを取ってきて欲しい。ニドリーナは周辺の警戒を。コイキングはご飯になるまで待機かな。みんな、よろしく!」
「リザ!」「ニド」「ポー!」「コッラッ!」「コッコッコッ!」
まだ慣れないながらも、一つ一つ野宿の準備を進めていくシゲルとポケモンたち。ようやく今晩のご飯が出来上がった頃には、辺りは既に真っ暗になっていた。
食事を終え、持ってきていたお茶をタンブラーで飲む。焚き火とリザードの尻尾の炎が暖かなオレンジ色の光で照らしてくれている中、シゲルがふと空を見上げると、そこにはマサラタウンで見たのと同じ、美しい満点の星空が広がっていた。