グリーンなシゲルくん   作:煮干し銀

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マサキの灯台とジョウトからやって来たポケモン

 お月見山を抜けてハナダシティへ到着したシゲル。ポケモンセンターでポケモンたちを回復させ、ミニスカートの女性にもらった割引券でランニングシューズを購入すると、ゲームで見たものより随分と派手なハナダジムは一旦スルーして、マサキの灯台がある25番道路へと歩みを進めていた。

 

 ハナダシティから続く大きな橋、通称『ゴールデンボールブリッジ』。この橋はゲームでは渡ろうとすると待ち構えていたトレーナーたちに勝負を挑まれてしまう橋だった。見たところどうもここはゲーム基準のようで、橋を渡る前からずらりと並んだトレーナーたちの姿が見えている。

 

 しかし、シゲルにはここでトレーナーと戦っている時間的余裕がなかった。そのため、シゲルはある作戦を決行する。

 

「ここは通称ゴールデンボールブリッジ! 5人のトレーナーを倒すと、豪華な景品がもらえるよ!」

 

 そう元気よく説明してくれる短パン小僧君に対して、シゲルは酷く焦った様子で言い放つ。

 

「す、すみません! この先の灯台にいる身内が大変なんです! 通してください!」

 

 もちろん嘘だ。全くもって嘘である。だけど演技力がそれなりにあれば信じさせることは簡単なのだ。特に子供は。

 

 シゲルのその様子に、短パン小僧君はあっさり騙された。それは大変だとそのまま彼によって他のメンバーにも事情を説明されていき、最後のロケット団員が変装しているであろう男も「それなら仕方がないか」と通してくれた。

 

 その後は走って去っていけば演出は完璧である。

 

 近くの森の林道へと入り、ゴールデンボールブリッジが見えなくなったところで、シゲルは走るのをやめて一息ついた。

 

「ふぅ。なんとか上手くいったな。もう出て来てもいいぞ、リザード」

 

 腰のボールから独特の音と共に赤い光が飛び出す。

 

「リザァ!」

 

 リザードは出て来て早々にシゲルに抗議するように詰め寄った。

 

「悪かったって。仕方ないだろ。あいつらと戦う時間はなかったんだ。君が外に出ていたら、前の5人はともかく最後のロケット団員には止められたかもしれないんだからさ」

 

「リザァ……リザ、リザリザ!」

 

「わかってるよ。ここからは一緒に歩こう」

 

 ハナダシティからマサキの灯台までは少し距離がある。ゲームではトレーナーたちが所狭しと待ち構えていたものだが、アニメも混ざっているせいかゲームでは描写のなかった森が広がっていた。ただ、森といってもトキワの森のように深くはない。海が近いため潮風で草木が育ちにくいのだろうか。

 

 森ということもあって道中はキャタピーやビードルの姿もあった。ケーシィの姿もあったものの、シゲルが少し近づいただけでテレポートして逃げてしまうため、捕獲は諦めた。代わりにここではナゾノクサをゲット。オーキド研究所に即転送する。

 

 道中野生のポケモンと何度かバトルし、1時間もするとマサキの灯台へと辿り着いた。林道が整備されていたこととランニングシューズのおかげで大幅な時間短縮になった。

 

「ようやく辿り着いた。しかし灯台か。やっぱりこの世界はどちらかというとアニメ基準なんだな」

 

 ゲームでのマサキの家は普通の民家のような見た目だった。それが崖の上に立つ灯台になっているのはかなりの変化だ。アニメ制作陣は何を思ってマサキの家を灯台に変えたのだろうか。

 

 あまり時間もないため考えるのはやめて、シゲルは躊躇なく灯台のインターホンを押す。するとすぐにインターホンのスピーカーから家主の声が聞こえて来た。

 

「そろそろ来る頃やと思ってたで。シゲルくん」

 

 そう親し気にシゲルに話しかけたのはポケモンマニアのマサキ。ポケモン預かりシステムという画期的なシステムを構築したことで有名な人物だ。マサキはいちポケモンマニアの枠を超えたポケモン研究に対する多大な貢献とその情熱からシゲルの祖父であるオーキド博士とも親しくしており、シゲルも何度かオーキド研究所でマサキに会っていた。

 

「お久しぶりですマサキさん。事前に伝えてたとおりこの辺りの水場を使わせてもらいたいのですが、大丈夫でしょうか」

 

「ええけど、せっかく来たんやからコーヒーの1杯ぐらいは飲んで行ってや。君に見せたいポケモンもおるし」

 

 シゲルはこの灯台にくる前ハナダシティのポケモンセンターからマサキに連絡を取って事前に訪問することを伝えていた。ハナダジムを攻略するための特訓としてマサキの灯台付近の海岸を使わせてもらいたかったからだ。

 

 シゲルとしてはいつレッドが来るかわからないので、できるだけ早く目的の場所に行きたいところだ。しかし、ここで断るのは頼み事をした手前難しい。それにあのマサキが見せたいポケモンというのも気になってしまって、結局シゲルは申し出を受けて鍵が開けられた玄関扉を開いて中に入って行った。

 

 薄暗い廊下に最低限の灯りが等間隔で灯っている。広すぎるから節電でもしているのだろうか。

 

 そのままリザードと共に先へと歩みを進めると、どこかに設置されているらしいスピーカーからマサキが指示を出してくる。

 

「その先の突き当たり左に行ったら右側に扉があるから、そこ開けて入って来て。ホントは僕が出ていきたいところなんやけど、今ちょっと手が離せないんや。ごめんなシゲルくん」

 

「構いませんよ」

 

 言われた通りに廊下を曲がり、見えた扉を開ける。すると薄暗い廊下とは対照的な眩い光が目に入り、シゲルとリザードは咄嗟に目を薄める。

 やっと目が慣れて中に入ると、広い室内は思いもよらなかった光景で埋め尽くされていた。

 

「「「はね〜はね〜」」」

 

「あっコラ! そっちはあかん!」

 

 シゲルが開けた扉の方に3匹のハネッコがふわりと飛んでくる。まさかのポケモンに驚くシゲル。ハネッコといえばカントーには生息していない、主に隣接するジョウト地方で見られるポケモンだったからだ。

 

「ああ、シゲルくんが扉開けたから空気の流れが変わって飛び出したんか。君らそんなんで飛んでたら外では一歩も地面に足つけられへんで。よう今まで無事に生きとったもんやな! シゲルくん。すまんけど捕まえてくれるか!」

 

「えっ……? あっ、はい!」

 

 飛んできたハネッコのうち2匹をシゲルがキャッチし、残りの1匹はリザードが捕まえてくれた。

 

 シゲルの腕の中でのほほんとした笑顔を浮かべている2匹のハネッコ。この形をどうすればいいのかとマサキを見ると、マサキはまだ他にもいたハネッコを頑張ってケージに入れていた。数えたところ併せて13匹もいる。

 

「マサキさん。どうしてハネッコがカントーにいるんです? マサキさんが何かの研究用に持って来たんですか?」

 

「いや、ちゃうちゃう。この子らは野生の個体や」

 

「野生って、ハネッコは風向きの関係でジョウトからカントーへ渡って来れないはずでは?」

 

「普通はそうなんやけどな。ほら、この前でかい台風が来たことがあったやろ。あの時の台風、あんま見ん軌道しとったやん? ジョウトを横断した後、シロガネヤマの左側を沿って海に抜けるかと思たらカントーの方に曲がって来よったアレや」

 

 マサキに言われてシゲルはそう言えばそんなこともあったなと台風のことを思い出す。あまり強くない台風で被害もなかったし、カントーに上陸する前に温帯低気圧に変わったから、正直あまり印象がなかった。

 

「台風の話をしたということは、そのハネッコたちは台風に乗ってカントーまで来たんですね」

 

「そゆこと。カントーでは珍しいからせっかくやし見せたろ思てシゲルくんを呼ばせてもろたわ。もちろんコーヒーも出すで!」

 

「はぁ、まあ確かにハネッコをじかに見たことはありませんでしたし、良い経験になりました」

 

「せやろ! まあまあ、座ってな。リザードの椅子もいるか?」

 

 リザードはマサキにそう聞かれて首を横に振る。そんなリザードの横で、シゲルはテーブルに備え付けられた椅子に座った。

 しばらくするとマサキがコーヒーカップを2つ持って戻ってくる。1つはシゲルの前に置いて、もう1つは向かいの席の前に置いた。その席に座るのは当然マサキだ。

 

 シゲルはコーヒーを手に取り一口飲む。子供になってしまったから苦味を強く感じるが、前世では好きだったので思い出補正で美味しく感じる。ミルクがあるとなお良しだが。

 

「さて、シゲルくん。実は僕がシゲルくんを家の中に招いたのは、もう1つ理由がある。というかこれはこれからカントー中を旅する君へのお願いやな」

 

「お願いですか? 僕に出来ることなら構いませんが……」

 

「心配せんでも、そないな難しいことをせえっちゅう訳やない。シゲルくんにやってもらいたいのは、時々でええから旅の途中にこのハネッコを1匹連れて歩いて欲しいんや」

 

「ハネッコを連れ歩くですか。でもなぜ?」

 

「シゲルくんも知っての通り、ハネッコはカントーには生息してないポケモン。やけど今回のことで思たんや、過去にも同じようにカントーに来たハネッコはおった筈やとな。けど、カントーにはハネッコは生息してない。この原因は一体何なのか、僕は気になってカントー各地で検証したいと思った。でも僕は忙しくてカントー中を回ることはできん。そこで絶賛カントーを旅して回っとるシゲルくんにハネッコの観察記録をこのカメラで撮ってもらいたい。どや? 受けてくれるか?」

 

 マサキは真剣に熱くそう語ってくる。シゲルとしては持ち歩くことになればパーティメンバーに空きを作ってやらなければならなくなるので、あまり嬉しくないお願いになる。ただ1つ条件を受け入れてくれるのであれば、引き受けるのも悪くはない。

 

「マサキさんのお願い、条件次第では受けても構わないと思っています。その条件は連れて歩くハネッコを僕のポケモンにするということです。それが許されるのであれば引き受けますよ」

 

「おお! そんなことならもちろんええよ! ハナダジムがまだならこのハネッコは草タイプやし、大活躍するかもな!」

 

 いや、それはない。

 

 その後、シゲルはマサキのお願いと引き換えに近くの砂浜を利用させてもらい、時間が許す限りポケモンを育てた。

 

 一番育てたかったポケモンのレベルは想定より伸びなかったものの、何とかなる範囲ではある。あとはレッドとのバトルでどれだけ成長できるか次第だ。

 

 最初にヒトカゲを選んだトレーナーの鬼門、ハナダジム。必ず一回で突破するぞという気持ちを込めて、シゲルは来た道とは別の道を通ってハナダシティへと戻って行ったのだった。

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