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椿が生まれてから十年が経過した。
椿の呪力強化術は更に洗練され、肉体も遥かに強靭に成長している最中である。
椿は日課の鍛錬を終えて自室で適当にアニメを見ていると直毘人から呼び出しが掛かる。
当主の部屋へと足を運んだ椿は部屋の最奥に座る直毘人の前に座った。
「それで話とは?」
「お前も今日で十歳だ。そろそろ任務に当たっても良い頃合いだろう。試しに甚一の任務に同行しろ」
「分かりました」
椿は素直に了承する。
話は終わったのか直毘人は瓢箪に入った酒を呷り始める。
椿は立ち上がって部屋を出る。
自室に戻った椿は様々な武具が置かれた棚から一つのシンプルな装飾の剣を手に取る。
それは浴の実験の結果生まれた最高傑作。
魔剣【死剋】。椿の血液に十日十晩漬け込んだことで搾生呪法が刻み込まれている、切った相手の生命を奪う特級呪具。
その剣を鞘から引き抜いて軽く振るう。
剣の扱いは散々修行したので充分。
後は実戦で使用するだけである。
椿は興奮を抑えられずにいた。
遂に自身の最高傑作を試すことができるという高揚感。
早く試したくて仕方がない。
椿はその日が来るまでソワソワしながら過ごしたのだった。
◇
「今回の任務は廃病院に発生した一級呪霊の祓除だ。当然お前なら問題なく祓えるが、一級といきなり戦うのはリスクが高い。だから今回の主戦力はあくまで俺だ」
「分かった」
椿は甚一から任務の説明を受ける。
二人は現在、新宿の廃病院にいた。
時刻は夕方。学生達が帰路に就く時間帯である。
今回は住宅地が近い為帳が下ろされている。
「では、入るぞ」
甚一の後に続いて椿が帳の内側へと入る。
椿は帳の内側を漂う蝿頭を見て背負っている死剋を抜き放つ。
「僕が祓う」
甚一は何も言わずに首肯して答える。
椿は死剋を振るって蝿頭を切り裂く。
蝿頭の生命が奪われ椿に還元される。
蝿頭一匹分では大したことはないが、塵も積もればである。
三十も殺せば人間一人分には相当する。
「早く終わらせよう。今日は僕の好きなアニメ戦国料理人が放映される日だから」
「そうか……」
甚一は何とも言えない気持ちで返事をした。
甚一を先頭に廃病院の中へと入る。
建物の硝子は割れており、内装はボロボロ。長い間放置されているのが見て取れる。
椿は恐れることもなく病院を進んでいく。
四級の低級呪霊がワラワラと現れる。
甚一は術式を使うこともなくそれらを一撃で祓っていく。
椿も死剋を使用して呪霊を切り裂いていく。
禪院家が誇る柄筆頭椿とそれに次ぐ甚一のタッグは並の一級呪霊など瞬殺する戦力である。
「呪具の調子はどうだ?」
「良い感じ。生命力も溜まって来た」
椿は試しに溜め込んだ生命力を自身の肉体に流し込む。
すると生命力の分椿の呪力が増幅した。
(生きてる者に使うと呪力総量と出力が増えるのか…肉体の若さは関係あるか?)
搾生呪法について考察しながら呪霊を祓って奥へと進む。
順調に廃病院内の呪霊が消えていく。
そして暫く歩くと最奥へと辿り着く。
手術室の扉に甚一が手を掛け、開く。
「これは…!」
中に入ると景色が一変した。
そこに手術室はなく、壁や床、天井に至るまで肉で構成された気色の悪い部屋があった。
そしてその中央には巨大な膨れた赤子の呪霊。
甚一が焦りを見せる。
「生得領域…!未完成の領域か!!」
「それにあの呪力量。特級相当だね。恐らく、甚一君よりも強い」
呪霊が口を開ける。
そして大地を揺らす程の大声で泣いた。
「おんぎゃああああああ!!!」
椿は咄嗟に呪力で脳を守る。
甚一は間に合わず、声に乗った呪力をまともに受ける。
脳を揺さぶられた甚一は意識を失う。
(呪力を音に乗せて直接脳を攻撃する術式か。勘で脳を守ったのは正解だったな。甚一君は……使い物にならないか。僕一人でこいつを祓う。しかし……なんて良いインスピレーション!)
椿は未完成の領域である生得領域を観察する。
結界術の極地である領域展開の下位互換。とは言っても領域は領域。洗練された結界術であることに変わりはない。
それを観察して解析する。
「成程ね。そうすれば良いのか」
椿はそう呟いて両手を合わせて帰命合掌の印を結ぶ。
そして呪詞を紡ぐ。
「領域展開【
生得領域を塗り替えて椿の領域が展開される。
そこは全ての生命が生き絶えた冷たい死の世界。
山も海も大地も死んでいる。
この領域内に引き込まれた時点で術式の発動条件である触れるが満たされ、直接触れるまでもなく生命を奪うことができる。
赤子の呪霊は何が起きたのか知ることもなく生命を奪われ、消失反応を起こして燃えるように消えていく。
領域が解除され、普通の手術室に変わる。
椿は甚一の容体を確認する。
「気絶…してるだけか」
甚一はすやすやと眠っている。
目を覚ますのは暫く先になるだろう。
椿は甚一を背負って病院の外へ向かうのだった。
◇
任務と報告を終えた椿は鍛錬場で日課の筋トレをしていた。
そこに唐突に現れる人物がいた。
黒髪の少年、直毘人の実の息子直哉である。
直哉は椿の元へ行くと興味津々に語り出した。
「なぁなぁ、椿君!領域展開できるようになったって本当なん!?」
「……本当だよ」
「わぁー!やっぱ凄いなぁ!椿君は!」
直哉と椿の関係は一言で表すならばファンと推しである。
常人とは強さの違う甚爾に勝利したとい奪う話を聞いて憧れの対象になったのである。
椿も直毘人に面倒を見られている関係もあって一個下の直哉を弟みたいに可愛がっている。
直哉の性格の悪さを徹底的に叩き直し、素直な良い子へと変えていた。
「俺もできるようになりたいなぁ…!」
「結界術の基礎を習得すると良い」
「それが難しいんや!今一現実の空間に擬似空間を重ねるイメージが付かへんっていうか………」
直哉の言葉に椿は少し考え込む。
そして思い付いたアドバイスを口にする。
「領域はさ、自由なんだよ」
「自由?」
「そう。自分の世界を自由に思い描いてそれを現実に広げる感じ」
「自分の世界を広げる……」
直哉は椿のアドバイスを噛み締める。
「うーん……まだ想像は付かへんなぁ……」
「急ぐ必要はないよ。先ずは黒閃を出すことを考えな」
「黒閃かぁ…椿君は狙って出せるんやろ?」
「うん」
「凄いなぁ…!普通は狙って出せないんやろ?」
「黒閃の発生条件は厳しいからね。僕もタイミングを合わせなきゃ出せないし」
「そうなんか…じゃ、先ずは黒閃から頑張ってみるわ!」
直哉はそう言って鍛錬場を後にした。
「ほんと、嵐みたいな奴…」
嵐の如く去って行った直哉に対してそんな感想を溢す。
いつも直哉は言いたいことを言ってすっきりしたら帰っていくのだ。
そんな元気で素直な部分を椿は気に入っていた。
まあ、禪院家内での評価はまだまだ低いままだが。
椿は鍛錬を終えるとシャワーを浴びて自室に戻る。
そして今日放映の戦国料理人を見て寛ぐ。
内容は戦国時代に転生した料理人が現代の料理で成り上がっていく物語である。
戦国料理人はヒロインが可愛い上に男であるという異例の作品である。
その今の時代には珍しい展開と構成に人気は鰻登りとなっていた。
椿も一話を見てからハマり、好きなアニメランキングにランクインした傑作である。
椿は特にヒロインの笑顔を気に入っている。
そうして今日も夜が更けていく。
椿はアニメを見終わって穏やかな眠りについたのだった。
・オリ主
領域展開を習得した。
呪具【死剋】は持ち主に生命力を還元する。
・直哉
性格を叩き直された。
善院直哉になった。