術式【搾生呪法】   作:雨曝し

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高専入学

 

 

 

「東京の高専に通いたい?」

 

 直毘人は椿の突拍子もない発言に困惑していた。

 本来、御三家の術師は高専に通う必要もなく特別に等級を与えられ高専のサポートを受けることができる。

 椿も既に領域展開を会得したことにより特級の等級を与えられており、高専に通う必要性は微塵もない。

 故にその意図を測りかねて直毘人は聞き返した。

 

「はい。今年から五条悟が呪術高専に通うという話を聞きまして。五条家と関係を築くという意味で必要かと」

「それは構わんが、五条家と禪院家の関係は知っているだろう。尚更関係が悪化するようなことは避けたい。くれぐれも五条悟と敵対するようなことはないように」

「承知致しました。では僕はこれで失礼します」

 

 話を終えた椿は部屋を出ていく。

 そして廊下を歩いて鍛錬場へと向かう。

 その最中のこと。

 

 丁寧に整えられた中庭で二人の少女が複数の男児に暴行を受けているのを目撃する。

 椿は久しぶりに呪力の内側に抑え込むのをやめて、莫大な呪力の気配を解放する。

 唐突に圧倒的な威圧を受けた男児達は動きを止める。

 椿が男児達へと問い掛ける。

 

「君達。何してるの?」

「え…えと……」

「君達はすぐに答えられる理由もなくその子達を殴っていたのかな?」

「す、すいません!」

「死にたくなければさっさと行け」

「は、はい…!」

 

 男児達は慌ててその場を離れていく。

 椿は呪力を抑えて少女達の元へと歩みを進めた。

 少女達は体を震わせた。

 

 頰や目元は赤く腫れ上がり、長いこと暴行されていたことが分かる。

 椿は少女達の頰に優しく触れると反転術式で生み出した正の力を体に流した。

 傷が癒えていき、あっという間に元の綺麗な顔に戻る。

 

「もう大丈夫だよ」

「あ、ありがとう」

「気にしないで。当たり前のことだから」

 

 椿にとって命とは平等に価値がない。

 だがそれは命を無意味としている訳ではない。

 命自体に価値はなくとも、命が生み出す心は尊ぶべきものだと考えている。

 当たり前に存在する心が人の在り方を、価値を決める。

 だからこそ椿は笑顔が好きだ。

 笑顔とは心の輝きだから。

 

 そんな笑顔を奪う真似は許さない。

 椿は密かにあの男児達、引いては禪院家の教育方針や因習を変える決断をする。

 その為にも先ずは高専に通って立場を強くする。

 五条家との関係を修復したという実績を作れば箔が付く。

 そうなれば禪院家を根本から変えるのも楽になる。

 

(地道だが、確実にこの腐った家を変えてみせる。この子達の為にも)

 

 椿は少女達を見る。

 整った顔立ちの愛らしい子供である。

 そんな子達が理不尽に暴力を受けない家にする。

 

 双子の片方が椿に柔和な笑顔を向けて口を開く。

 

「ねぇ、一緒に遊ぼうよ」

「良いよ。何する?」

 

 椿は優しく問い掛ける。

 双子の片割れは嬉しそうに顔を綻ばせると何で遊ぶか悩み始めた。

 するともう片方が小さく呟いた。

 

「百人一首がしたい」

「良いね。そうしようか」

 

 椿は微笑み掛けるとそういえばと口にする。

 

「君達の名前は?」

「真依」

「私は真希。アンタは?」

「僕は椿。よろしく」

「へぇーアンタが椿か。本当に強いんだな」

「まあ、特級だからね。今のところ僕が最強かな」

「最強かぁ…!かっこいいなぁ…!」

 

 素直に憧れの視線を向ける真希に椿は若干照れ臭くなる。

 畏怖されるばかりで憧れられるのはあんまり慣れていない。

 

 椿はそんな妙な気恥ずかしさを吹き飛ばすように口を開いた。

 

「さ、行こうか」

「うん」

 

 椿は二人を連れて庭から屋敷へと戻るのだった。

 

 

 

 

 そして高専入学の日を迎えた。

 椿の荷物は既に高専の寮へと運ばれている。

 後は教室に向かうだけである。

 

 椿は呪術高専の制服を身に纏い、高専内を歩く。

 高専自体には任務の関係で何度も来ているので慣れたものだ。

 

 そして木造の校舎へと入る。

 木の匂いが鼻腔を擽り、床がキシキシと歩く度に音を立てる。

 床を踏み締めて廊下を歩き、目的の教室を目指す。

 

 教室の前まで辿り着くと緩慢な動きで扉を開けて中に入る。

 教室には既に三人の生徒がいた。

 一人は見知った人物だ。五条悟、五条家に生まれた六眼と無下限呪術の抱き合わせ。他は知らない。

 椿は余っている席に座り、三人に自己紹介する。

 

「僕の名前は椿。仲良くしてね。君達は?」

「私は夏油傑だ。よろしく」

「私は家入硝子。よろしく〜」

 

 五条は挨拶しない。視線を送るだけだ。

 

(仲良くするのって案外難しいな……今まで殆ど家の人間としか関わって来なかったからなぁ……)

 

 椿は先行きに不安を抱きながら担任の先生が来るのを待った。

 暫くすると教室の扉が開いて刈り上げに剃り込みを入れた厳つい顔の教師が入って来る。

 

「集まってるな。担任の夜蛾だ。早速で悪いが、お前達には任務に行って貰う」

「初日から任務〜?ダル」

「そう言うな。私達の大事な役割だ」

「初日だし、そんな大した任務も寄越さないでしょ」

 

 悪態を吐く五条を夏油が嗜める。

 椿は楽観的な考えを口にする。

 夜蛾が話を続ける。

 

「今回の任務は一級案件だ。お前達ならば余程のことがない限り問題ないとは思うが、油断はしないように」

 

 

 

 

「それで、家入とか夏油は何ができるの?」

 

 任務地である村にて畦道を歩きながら椿が疑問を口にした。

 それに先ず夏油が答える。

 

「私の術式は呪霊操術だ」

「へぇ!珍しいね。今手持ちは何体?」

「ざっと四百体だね」

 

 椿はその数に驚愕する。

 

(今の時点で四百…!呪力量から分かってたが相当できるな!五条は言わずもがな。後は家入だが…)

 

 椿は家入に視線を向ける。

 家入は軽く答えた。

 

「私は術式なーし。反転が他人にも使えるくらいかな」

「それだけできれば充分でしょ。呪霊特攻になる」

 

 反転術式で生み出す正の力は肉体が呪力で構成される呪霊には天敵である。

 呪力量にもよるが、特級相手にも充分通用する手札である。

 

 家入が椿に質問する。

 

「禪院は?」

「僕は触れた相手の生命を奪える」

「強っ…」

 

 椿の回答に家入がそう溢す。

 夏油は興味深そうな顔をする。

 五条は不満そうな顔をしている。

 

「なんで五条はそんな不満そうなの…」

「だってよ。お前強えじゃん。なんでそんな気配抑えてんだよ。見てるこっちまで窮屈になる」

「誰彼構わず威圧したくないからね。弱者に合わせるのは嫌い?」

「嫌いだね。なんで態々俺らが弱え奴に合わせんだよ。納得いかねえ」

 

 椿は五条の言動の意味を理解する。

 五条は強者らしく振る舞うべきだと考えているのだ。

 その考え方は椿にも理解できる。

 しかし─。

 

「世の中の大半の人は弱者だ。俺達よりか弱い存在。でもそんな弱い人達に俺らは支えられて生きている。それなのに弱者がこっちに合わせるべきだと主張するのは傲慢じゃないか?」

「でもよぉ…気を遣うのは疲れるよ」

「それが当たり前なんだよ。基本的に人と関わるということは気を遣うということだ」

「そんなもんかね」

 

 話ながら歩いていると前方の田んぼに白い人影が見えた。

 それは手足をくねくねと動かしている。

 

「出たな。くねくね」

「皆直視しないように」

 

 椿の言葉に合わせて三人が目を瞑る。

 今回の任務で祓うのは特級仮想怨霊くねくねである。

 噂から推察した術式は姿を直視した者の正気を奪うというもの。

 なので全員が目を瞑って呪力の気配のみを頼りに動く。

 

 椿が駆け出した。

 死剋を抜くことなく、素手でくねくねをぶん殴る。

 田んぼの端まで吹き飛ばされたくねくねは抵抗しようとするが、全て椿に封殺される。

 

 そしてボコボコにされたところを夏油に取り込まれた。

 

「任務完了っと。初日に向かわせるレベルじゃないでしょ」

「まあまあ、任務も終わったんだし、皆でご飯でも行こう」

「私焼肉が良い」

「私も」

 

 家入の提案に夏油が賛同する。

 そうして四人は畦道を引き返して帰路に就くのだった。

 

 

 





・オリ主
心を尊んでいる。
貴重な特級仮想怨霊を夏油に取り込ませる為に術式も死剋も使わなかった。

・五条悟
弱者に気を遣うのも弱者に態々合わせてるオリ主も苦手。

・夏油傑
闇堕ち前だからオリ主の思想に共感している。

・家入硝子
オリ主の儚げな雰囲気を気に入っている。
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