術式【搾生呪法】   作:雨曝し

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軍隊蟻

 

 

 

 椿が高専に入学してから数ヶ月が経過した。

 椿は五条達と順調に仲を深め、友情を築いていた。

 

 椿達は実力が高い為に等級の高い任務を与えられることが多く、単独で任務に当たることが多いが、それでも空き時間や暇な時間に一年生達で交流していた。

 今日は休みなので寮の椿の部屋で皆で材料を持ち込み鍋をしている。

 

 五条が鍋から肉団子を一つ箸で取り、口に運ぶ。

 

「…この肉団子美味えな」

「ん。確かに」

「僕の自信作」

「椿って料理とかするんだ?」

 

 家入の疑問に椿が首肯する。

 

「僕は鍛錬とか任務とかで忙しくて、合間に一人でご飯食べること多かったから自炊できるように女中さんから習ったんだ」

「へぇー真面目」

「悟は包丁とか握ったことなさそうだよね」

「ないな。俺は基本世話係に任せてたから」

「坊ちゃん…」

「あぁ?」

 

 椿の煽りに五条がキレる。

 夏油と家入は気にせずに鍋を食べる。

 椿がキレる五条を無視して話し始める。

 

「そういえば、この前傑達は庵先輩と任務行ったんだよね?どうだった?」

「どうもこうも…弱過ぎて話になんねえよ」

「悟、先輩に対して失礼だよ」

「否定はしないんだ…」

 

 椿は先輩に対して無礼な二人に呆れた視線を向ける。

 そして箸で白菜を取って食べる。

 

「…まあ、二人の評価なんて当てにならないか。自分の目で確かめてみるよ」

「椿って静かに毒吐くよね」

「この前もバカやってる悟に辛辣な言葉呟いてたしね」

「え、俺なんか言われてたの?気になるんですけど」

「何のことかな」

 

 椿は惚けた顔でそう口にした。

 五条は自分が何を言われたのか気になるようである。

 

 そうして時々衝突しながらも仲良く鍋を囲み、平和に時が過ぎていく。

 椿は当たり前に皆と鍋を囲む光景を目に焼き付けるのだった。

 

 

 

 

 それから数日後。椿は二級術師の庵歌姫と共に任務に当たっていた。

 場所は広島県三次市の廃校である。

 補助監督が任務の概要を説明する。

 

「お二人には廃校で発生した準一級呪霊の祓除と、廃校に肝試しに行ったきり行方不明の生徒二名の救助、もしくは遺体の回収をお願いします」

「了解しました」

 

 椿は説明を聞き終えると早速門を潜って校内へと入る。

 補助監督が帳を下ろし、辺りが夜になっていく。

 庵は慌てて椿の後を追う。

 

「庵先輩は二級術師ですから、今回は基本的にサポートをお願いします」

「分かったわ。まあ、特級のアンタがいるならどんな呪霊が出ても大丈夫よね」

「そんなことありませんよ。僕の領域はまだまだ洗練されてませんから、押し合いで負けることは有り得ます。それに僕が勝てるとしても庵先輩を集中狙いされたら守るのは大変ですから」

「うっ…そうよね。気張って行きましょう!」

 

 庵は鋭い指摘にたじろぎながらも何とか空気を切り替えて任務に当たろうとする。

 椿も空気を壊す気はないので特に何も言わずに頷いて答えた。

 

 椿達が校舎に入ると低級の呪霊が物の影に身を潜ませた。

 庵が感心したように呟く。

 

「アンタ程になると呪霊が恐れをなすのね」

「いえ…僕は普段極力気配を抑えています」

「じゃあ…どういう…?」

 

 椿は警戒度を引き上げる。

 

「僕以外に彼らが恐れる何かがいる。準一級なんかじゃ済まないレベルの」

「え…!?それ、ヤバいんじゃ…!?」

「状況によっては庵さんには先に帳を出て貰います。下手打てば死にますよ」

「っ…!分かったわ…」

 

 庵は怯えながらもまだ引くつもりはないようだ。

 その胆力を椿は内心で褒める。

 

(死ぬかもしれないと理解しても行動できる術師は案外少ない……充分素質あるな、この人)

 

 椿は隠れている呪霊を祓いながら校舎の中を進む。

 一階から三階、屋上まで呪霊を片っ端から祓い、違和感に悩む。

 

「呪力の気配がない。強大な呪霊がいるのなら相応の気配があって然るべき。どうにも…今回の呪霊は想定外が多い」

「でも後残ってるのは体育館でしょ。きっとそこにいるわよ」

「だと…良いのですが…」

 

 悩む椿の手を庵が引く。

 

「ほら、早く行きましょ。ぐだぐだ悩んでても仕方ないわよ」

「そうですね…体育館に本命がいると信じましょう」

 

 椿は思考を切り替えて体育館へと向かう。

 体育館の扉の前にやって来た二人は慎重に扉を開ける。

 

「これは…!?」

 

 扉を開けた庵が驚愕の声を漏らす。

 扉の先には大量の巨大な卵があった。

 それは体育館を埋め尽くし、天井すらも覆っていた。

 

 そして体育館の中央には倒れる二人の生徒。

 それらを視認し、椿は冷静に二人の生徒の元まで駆けた。

 床を踏み砕いて瞬時に二人の元へと駆け寄った椿は二人の無事を確かめる。

 

(脈拍、体温共に正常。気絶してるだけか…この二人を庵先輩に預けて、僕はこの大量の呪胎の対処が最善─)

 

 思考が終わる前に一つの卵が孵化する。

 殻を割って中から巨大な黒い蟻が姿を現す。

 椿は庵の元まで二人を抱えたまま跳躍し、二人を庵に預ける。

 

「先輩。先に帳を出て下さい。この大量の呪胎は僕が祓います」

「分かった。任せるわよ」

 

 庵が体育館を出る為に扉へ向かう直前、扉近くの卵が孵化して蟻が産まれる。

 

「くっ…!」

「大丈夫…」

 

 椿が瞬時に駆け付け、蟻に触れて術式を発動する。

 生命を奪われた蟻の呪霊は消失反応を起こして消えていく。

 

 椿が庵に逃げるように指示しようとすると、それを感じ取ったように次々と卵が孵化する。

 そしてあっという間に囲まれる。

 

「禪院…!」

「ここから動かないで。僕が守ります」

「私の術式も使うわ!あってもなくてもあんま変わんないと思うけど!」

 

 庵は術式を使って椿にバフを掛ける。

 バフを掛けられたことを理解した椿は呟く。

 

「ありがとうございます。多少楽になる」

 

 大量の蟻が一気に襲い掛かる。

 椿はそれを捌きながら冷静に相手の戦力を推察する。

 

(蟻の呪霊……それも恐らく軍隊蟻。強靭な顎と数が武器。一体一体が一級相当の呪力量、中には特級に匹敵する強さもいる。強さの幅が大きい。成長に比例している可能性?それに親がどこかに潜んでいる筈…)

 

 思考を整理しながら椿は蟻の相手をする。

 触れてしまえば勝ちの戦い。しかし今回は守るべき相手がいる。

 椿の領域は術式対象を選別できる程洗練されていない。加えて圧倒的な物量。

 本来なら楽に戦える筈が、今回は不利な戦いを押し付けられていた。

 

「しまっ…!」

 

 呪霊の消失反応に紛れ、蟻の顎が庵を狙う。

 椿は咄嗟に庇う。

 

「禪院…!!」

 

 椿の両脇腹を蟻の顎が貫く。庵の心配の声が響く。

 肉体に触れたことで術式対象となり傷を負わせた蟻は祓われるが、他の蟻がその隙を逃さない。

 畳み掛けるように椿を狙う。

 

 椿は掌印を結んだ。

 

「領域展開」

 

 蟻達は知らなかった。

 椿にとって死の間際こそが才能を開花させる瞬間であることを。

 

「【死界嶄獄】」

 

 領域が展開され、体育館が塗り替わる。

 死の世界が現実を塗り替え、展開される。

 椿は術式対象を呪霊に絞り、発動させる。

 

 全ての蟻が一斉に消失反応を起こす。

 庵は戦いが決着したことを理解したのだった。

 

 

 

 

 帳を出た椿達は補助監督に報告していた。

 

「では、蟻の呪霊は無事に祓えたということですか?」

「いえ、まだです。肝心の親、女王蟻を祓えていません。多分まだどこかに潜伏していると思われます」

「では、応援を呼んで捜索をしますか?」

「はい。できれば急ぎでお願いします」

「分かりました。高専に待機している二級以上の術師に応援を頼みます」

 

 一通りの報告と対処を終えた椿は一息吐く。

 これから大規模な呪霊の捜索が行われる。

 椿も当然、それに参加する。

 

 まだまだ事態は収束の目処を見せないのであった。

 

 

 





・オリ主
料理が得意。
平和な学生生活を楽しんでいる。
領域展開中に於ける術式対象の選択を覚えた。

・庵歌姫
庇われて大焦りした。
バッファーとしては優秀。
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